コント集15
コント集15
141・・・瞑想
142・・・指パッチン
143・・・覆面調査員
144・・・デッドボール
145・・・長い
146・・・無礼講
147・・・歯科医
148・・・人見知りデスゲーム
149・・・結婚の決め手
P150・・・閉店セール
『瞑想』
・登場人物
北島
藤原
枝村
・舞台
藤原宅
明転。
藤原宅。座布団三つに卓袱台一つ。部屋は散らかっている。
藤原、座禅を組んで瞑想している。
北島「藤原ー?入るぞー?」
枝村「さっき俺が先に入ったから大丈夫だよ」
北島「そうか?じゃあお邪魔しまーす(枝村と共に缶ビールが入ったビニール袋を持って舞台下手から登場)。うわっ。何?」
枝村「あー、迷走してるねぇ」
北島「瞑想?何か精神統一してるの?」
枝村「いや、迷って走る方」
北島「あ、そっちのメイソウ?でも何で座禅組んでんの?」
枝村「何か大学で留年が決まったらしい」
北島「えっ?何で?」
枝村「一回でも休んだらアウトな講義を寝坊して留年が決まったと通告があったらしい」
北島「はぁ」
枝村「で、それが原因で同じ演劇サークルだった彼女さんと別れたらしい」
北島「はぁ」
枝村「で、演劇サークルで居辛くなって退部したんだと」
北島「はぁ」
枝村「で、実家からも散々怒られて、これからは自分でバイトして学費を稼ぐか、実家に戻って家業を継ぐか選べって言われて相当、凹んだらしい」
北島「はぁ」
枝村「で、バイトがなかなか決まらずに路頭に迷ってるらしい」
北島「はぁ」
枝村「で、そのタイミングでこの前、大家さんに家賃を徴収されに来られた際に部屋を覗かれて、この有様を見て怒られて更に落ち込んだらしい」
北島「で、現在に至ると」
枝村「そう」
北島「はぁ。でもそれで座禅を組む意味が分からん」
枝村「もうどうしたら良いか分からずに座禅組んで現実逃避してるんだと」
北島「はぁ。迷走してるなぁ」
枝村「そうなんだよ」
北島「おい、藤原。起きろ」
藤原「……おう……」
北島「とりあえず酒、買ってきたから飲もう」
藤原「酒、飲んで現実逃避するか……」
北島「あー、まぁ、そうなるか。まぁ嫌な事は酒、飲んで忘れよう」
藤原「おう……」
北島「まぁ、何だ。辛い目に遭ったな」
藤原「あぁ……気を付けてはいたんだが、気の緩みかな……」
枝村「そんな気に病むなよ。とりあえずバイト見付ければ良い話だろ?」
藤原「まぁ、そうなんだけど……なかなかな……」
枝村「俺が今やってる漫画喫茶のバイト紹介しようか?」
藤原「マジで!?助かるよ!」
枝村「夜勤なら時給も良いし、週末は更に時給が増すし、良いと思うよ。学費くらいならどうにかなると思う」
藤原「問題は昼間か……眠気に勝てるようにならないとな……」
北島「そこは気合でどうにかするしかないんじゃない?」
藤原「簡単に言うなよ。俺、朝、弱いんだから。それが原因であの講義落としちゃったんだから」
北島「夜型人間か。ならバイトの方は問題無いだろうけど、大学の方は大変になるな」
藤原「そうなんだよ。どうやったら朝に強くなるかな?」
枝村「夜は早めに寝る」
藤原「夜勤のバイトしてたら無理だろ!」
北島「怒るなよ。仕方ない事だろ。だったら昼勤にするか?」
藤原「それで学費賄える?」
北島「いや、知らんけど」
藤原「ハッキリしろ!」
北島「何でお前が怒ってるんだよ……」
藤原「俺は人生の分岐点に立たされてるんだよ!他人事にするな!」
枝村「他人事だろ」
藤原「……そうか。そうだよな……」
北島「実家帰るって案はどうなの?」
藤原「農家の朝は早過ぎてやっていけない」
北島「断言すんな」
枝村「実家出る前まではどうしてたんだよ?」
藤原「無理矢理起こされてたから何とかしてたし、それが普通だと思ってた。でも上京して一人暮らししてからは自分が夜型人間だって気付いてしまって、それからは実家にだけは帰りたくないって思うようになった」
北島「難儀やなぁ」
枝村「とりあえず今は取れる単位だけ取っておいて、来年その講義だけ受ける形にしておけば学費はどうにかなるんじゃないか?」
藤原「そうだな。そうするか」
北島「後、この部屋を片付けるとか」
藤原「怠っ」
北島「怠っ、ってお前……この部屋どうにかしないと彼女も呼べないだろ」
藤原「でもフラれたし……」
北島「あっ、そっかぁ……」
藤原「部屋は片付けない」
北島「だから断言すんな。また大家さんに怒られるぞ」
藤原「俺の部屋なんだからどうしようが俺の勝手だろ。それにプライバシーの侵害だって訴えてやる」
北島「最低だな、お前」
枝村「じゃあまずはバイトだな。店長に言って何とか口利きしてやるよ。丁度人手が足りなかったし」
藤原「ありがとう。助かるよ」
暗転。
明転。
藤原宅。
藤原、座禅を組んで瞑想している。
北島「藤原ー?入るぞー?(枝村と一緒に舞台下手から登場)お邪魔しまーす。うわっ。またかよ」
枝村「迷走してるねぇ」
北島「最近、大学来てなかったけど、枝村、何か知ってる?」
枝村「バイトが決まった後、バイト先の漫画喫茶でバイトの女子高生に手を出して向こうの両親に訴えられた」
北島「はぁ」
枝村「で、慰謝料請求されてバイト代でも払い切れないって事で実家に相談したらしこたま怒られたらしい」
北島「はぁ」
枝村「で、完全に大学辞めて実家に帰って家業を継げと言われたらしい」
枝村「で、バイトもクビになって、これが噂になってここらじゃバイトを探せない状況になったらしい」
北島「はぁ」
枝村「で、家に帰って来なければ縁を切るとまで言われたらしい」
北島「何やってんのマジで」
枝村「ね」
北島「おい、藤原。藤原」
藤原「……あ、いらっしゃい」
北島「また迷走という名の現実逃避してたの?」
藤原「うん」
北島「実家帰るの?」
藤原「うん」
北島「そうか。元気でな」
藤原「うん(横になる)」
北島「寝るの?」
藤原「うん」
北島「現実逃避?」
藤原「嫌な事は寝て忘れる」
北島「こうやって昼間に寝てるから朝起きれないんじゃない?」
藤原「……その発想は無かった」
北島「うん。俺も今、自分の口で言って初めて気が付いた」
藤原「この癖を治していれば俺は今頃……」
北島「そうだな。まぁ……」
藤原「億万長者になってたかもしれないな……」
北島「どうしてそうなった?」
藤原「早起きは三文の徳って言うし」
北島「それはそれだけの価値があるってだけで実際は金は貯まらんぞ?」
枝村「いや、考え方としては間違ってない」
北島「え?」
枝村「中学生の時から早起きしたら五百円貯めるって生活をここ八年程続けたけど、現在で計、約百五十万円貯まったし」
北島「あっそー。何でそんな事してきたの?」
枝村「貯まるのが楽しくて。小学生で夏休みのラジオ体操が無くなって何か自分に対してご褒美でも無いかなと思って貯め始めたのがキッカケ」
藤原「やっぱ金だよなー!早起きしてればそれだけ貯まってたんだと思うとやり切れない思いだよ!」
北島「でもお前バイト代、全部、学費につぎ込んでたんだろ?仕送りも遊びに使っちゃってて。それで金が貯まってたとは到底思えないけどな」
藤原「正論を言うな!」
北島「正論だと思ってるなら生活改善をしろ!」
藤原「いっその事、夜職に就く!酒関係!」
枝村「ホストか?」
北島「お前、酒、弱いんだから止めとけ。死ぬぞ」
藤原「いや、俺はホストになる!大金を得られるだけじゃなくて経費で酒飲んで嫌な事を忘れられてかつ女性からモテる!これ程、天職は無い!」
北島「実家はどうするんだ?縁切られるぞ?」
藤原「そもそもこの発想でこの仕事に就こうとしてる時点で切られるに決まってる!」
北島「あっそう。結構、下積みとか辛いらしいし、先輩からの虐めとかあるみたいだけど大丈夫そう?」
藤原「大丈夫!」
枝村「毎日吐く程飲まされるみたいだけどやっていけそう?」
藤原「いける!多分!」
北島「不規則な生活だけど大丈夫そう?」
藤原「うん!夜更かしは得意!」
枝村「清潔感が大切みたいだけど、この部屋をまず片付ける所から始めた方が良いと思うんだけどやっていけそう?」
藤原「何とかする!ところでさぁ!」
北島「何?」
藤原「何でさっきから面接みたいな質問してくるの!?」
枝村「だって心配だから」
藤原「大きなお世話!でもありがとう!大学、辞めても、たまには飲みに行こうな!」
北島「えっ?嫌だ」
藤原「何で!?」
枝村「俺達、水商売の人とは飲みに行かないって決めてるから」
藤原「だから何で!?」
北島「肝臓が心配だから……」
藤原「また大きなお世話!でもありがとう!俺、何とかホストで成功してみせる!その時はノンアルで飲もうな!」
枝村「それならまぁ……」
暗転。
明転。
藤原宅。
藤原、座禅を組んでいる。
北島「藤原ー?入るぞー?(枝村と共に舞台下手から登場)うわっ。またか」
枝村「迷走してるねぇ」
北島「何か知ってる?」
枝村「いや、アイツが退学してホストになった後はここ三年くらい連絡取ってないから知らない」
北島「この前、突然『助けて』って連絡きたもんな。聞いてみるか」
枝村「そうだな」
北島「藤原?藤原?」
藤原「あ、いらっしゃい」
北島「突然どうした?『助けて』なんて連絡を送ってきて」
藤原「その事なんだけどな……まぁ座れよ」
北島「おう」
藤原「この前、健康診断に行ったら慢性肝炎と言われてな……」
枝村「肝硬変の一個前って事?」
藤原「そう」
北島「酒の飲み過ぎ?」
藤原「それもあるけど、後、不摂生とかウィルスとか」
枝村「大変じゃん。どうすんの?」
藤原「俺もうホスト辞めようかなって……」
北島「そうしな。最初からお前には向いてなかったんだよ」
藤原「でも実家からは縁切られて帰れないし、今から就活しようにもどこも雇ってもらえないだろうし……」
枝村「まぁ、だろうね」
藤原「俺、どうしたら良いと思う?」
枝村「いっその事、起業してみたら?」
藤原「自分で会社作るって事?」
枝村「そう」
藤原「起業か……」
北島「おい、枝村。そんな気軽に言って良い事じゃないぞ」
枝村「でもホストは辞める、就職は出来ない、アルバイト以外で喰っていくにはこれしかなくない?」
北島「でも金が無いんだからどうしようもないだろ」
藤原「いや、金ならある」
北島「えっ?」
藤原「この三年で、自分で言うのも何だが売れっ子ナンバーワンのホストに上り詰めたからな。貯金なら数千万ある」
北島「そんなに儲かってたのか」
藤原「あぁ。だから、これで劇団を作る」
北島「劇団?」
藤原「大学時代は元演劇サークルだったし、社会人経験もある。人生経験も色んな客から話を聞いて色々知った。なら劇団を作るしか無いだろ」
北島「……案外いけるかもしれないな」
藤原「だろ?俺、劇団を創設する。着いて来てくれるか?」
北島「えっ?嫌だけど?」
藤原「は?」
枝村「何で俺達が劇団員になると思ったの?」
藤原「ここまで聞いといて何だよ!?」
北島「だって今、俺達、絶賛サラリーマン中だもの。素人が脱サラして演劇の世界に飛び込むなんてしたくないよ。リスキー過ぎる」
藤原「お前らが企業しろって言ったんだろ!」
枝村「しろとは言ってないし、協力するとも言ってない」
藤原「クソッ!もういい!俺は現実逃避する!(座禅を組む)」
北島「人が本気で勢いよく現実逃避するところ初めて見た」
枝村「どうする?コレ」
北島「ほっとこう」
枝村「そうだな」
暗転。
明転。
藤原宅。
藤原、部屋を片付けた後、座禅を組んでいる。
北島「藤原ー?入るぞー?(枝村と共に舞台下手から登場)。相変わらず座禅組んでるな」
枝村「また迷走してんのかね?」
北島「劇団、失敗したんかな?藤原?藤原?」
藤原「あぁ、いらっしゃい……」
北島「また迷走してたのか」
藤原「うん。心を静めて、この世の心理に到達する為に……」
北島「あ、迷って走ってる方じゃなくてマジで瞑想してたの?」
藤原「俺、出家するから」
枝村「新興宗教?」
藤原「ううん。伝統宗教。仏教。お寺に行って僧侶になるんだ」
北島「へー。じゃあこれから修行なんだ」
藤原「そうだね。全ての欲を払って、立派な住職になって、結婚して、世継ぎを授かって、いずれは最も位が高い大師になるんだ」
北島「欲望だらけやないか」
藤原「当たり前だろ。何の為に辛い修行に耐えなきゃならんのだ」
北島「結局、欲望を丸出しにしてたらその大師?になれないんじゃないか?」
藤原「元も子もない事を言うな!」
北島「そう思ってるなら考え方、変えろ!」
藤原「そもそも住職だけならともかく、出世したいって時点で欲にまみれてるに決まってるだろ!」
北島「本当に元も子もないな!?」
藤原「俺は偉くなるんだ!そして権力を手に入れる!」
北島「やっぱりコイツ迷走してる!」
―――終わり
『指パッチン』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
藤原宅
明転。
藤原宅。卓袱台一つに座布団二つ。
北島、藤原、板付き。
北島「俺さぁ、指パッチン出来ないんだよね」
藤原「あぁ、そういう人いるよね」
北島「藤原、お前、出来る?」
藤原「両手で出来るよ」
北島「凄いね。コツとかある?」
藤原「力任せにやらない事かな」
北島「(指パッチンをやってみる)うーん、出来ないなぁ」
藤原「まぁ指の汗の都合とかもあるしね」
北島「ちょっとやってみて?」
藤原「良いよ。(右手で指パッチンをする。SE、骨が折れる音)」
北島「おー。良い音するねぇ」
藤原「…………(痛がっている)」
北島「どうした?」
藤原「骨が折れた……」
北島「は?指パッチンで?」
藤原「うん……」
北島「大丈夫?」
藤原「大丈夫じゃない……」
北島「救急車、呼ぶか?」
藤原「いや、自力で行く……」
北島「そ、そうか……」
藤原「もう一回鳴らすか……?」
北島「えっ。指、折れてるんだろ?無理すんな」
藤原「まだ左手がある……」
北島「無理しなくて良いから」
藤原「お前にコツを教えたいから……(指パッチンの準備をする)」
北島「おい、無理すんなって!」
藤原「行くぞ……!(指パッチンをする。SE、骨が折れる音)」
北島「どうだ……?大丈夫か……?」
藤原「駄目かもしれない……(痛がる)」
北島「折れた?」
藤原「折れた……」
北島「言わんこっちゃない!病院行くぞ!」
藤原「うん……」
暗転。
明転。
藤原宅。
北島、藤原、舞台上手から登場。藤原、両手の中指に包帯を巻いている。
北島「折れてたな」
藤原「不便になっちまった……」
北島「まぁ、俺がサポートするよ。俺が原因でもあるし」
藤原「すまねぇ……」
北島「何か俺に出来る事ある?」
藤原「そうだな……晩飯作ってくれるか?」
北島「あぁ。分かった」
藤原「後、明日、燃えるゴミの日だから捨ててきてほしい」
北島「おう」
藤原「後、風呂の用意してほしい」
北島「おう」
藤原「後、トイレ掃除してほしい」
北島「おいおい。俺はお前の召使か?」
藤原「お前のせいで俺の指がこうなったんだからその責任は取れよ」
北島「頼んだのは俺だけど、自爆したのはお前だろ」
藤原「じゃあ俺は治るまでどうやって過ごしたら良いんだよ」
北島「……分かったよ。全治、何ヶ月だっけ?」
藤原「二ヶ月」
北島「そんなに?」
藤原「うん」
北島「じゃあ暫くは通い妻のようにお前の家に来るわ」
藤原「助かる」
暗転。
明転。
藤原宅。
北島、藤原、板付き。藤原、包帯が取れている。
北島「あれから二ヶ月経ったけど、指はどう?」
藤原「もう治った」
北島「じゃあもう、お前の身の回りの世話はしなくて良いな」
藤原「楽だったのになぁ」
北島「途中から本当に召使扱いされて気が病みそうだったよ。まさかお前が大した後、ケツを拭く羽目になるとはな」
藤原「力士ってこんな感じかぁって思ったよ」
北島「勘弁してくれよ……二度とあんな目に遭いたくない」
藤原「でも楽しかったろ?俺との生活」
北島「全然?」
藤原「俺は楽しかったけどな」
北島「そりゃ楽出来て楽しかっただろうよ」
藤原「さて、指も治った事だし、改めて指パッチンのコツを教えてあげよう」
北島「今度は大丈夫か?」
藤原「折れた骨は頑丈になるって言うし大丈夫だろ。ほれ、こうやるんだよ(指パッチンをする。SE、骨が折れる音)」
北島「また何か折れた音したけど」
藤原「あばらの骨が折れた……」
北島「は?何で?」
藤原「力み過ぎた……」
北島「前にあまり力入れないでやるのがコツとか言ってなかった?」
藤原「お前の為に少し格好付けてやろうと思って……」
北島「格好付けて失敗してたら意味無いじゃないか」
藤原「返す言葉も御座いません……」
北島「早く病院行け」
藤原「はい……」
北島「後、今回はお前の面倒見ないから」
藤原「何で?」
北島「自爆だからだよ」
藤原「お前の為にやったのに……」
北島「恩着せがましいな。自分のケツは自分で拭きな」
藤原「指の骨折った時は俺のケツも拭いてくれてたのに……」
北島「忌々しい過去を思い出させるんじゃないよ!」
―――終わり
『覆面調査員』
・登場人物
北島
藤原
枝村
・舞台
ラーメン屋
・衣装
藤原・・・覆面
明転。
ラーメン屋。カウンターに椅子が四つ。カウンターのすぐ側に寸胴が見える。
北島、枝村、厨房側に板付き。
枝村「北島君。今日からこのエダムラーメンでバイトとして働いてもらうけど、経験はあるっけ?」
北島「上京する前は地元でラーメン屋でバイトしてました」
枝村「そうか。まぁウチは小さい個人店だから気楽にやってくれて良いから」
北島「でも一生懸命、頑張ります」
枝村「ははは。まぁ肩の力を抜いて、程々にね」
北島「でもこのお店、食べログで五ツ星じゃないですか。結構忙しいんじゃないですか?」
枝村「まぁ忙しいけど、お客さんも身内みたいなものだからね。ゆるーくやってもらって大丈夫だよ」
北島「そうなんですか」
枝村「ちなみにこの店の味は知ってた?」
北島「あぁ、前にここがエダムラーメンじゃなくてラーメン枝村だった時に何度か」
枝村「そっか。どうだった?」
北島「非常に美味しかったです」
枝村「ははは。そうか。それは良かった」
北島「でも何で店名、変えたんですか?」
枝村「前の店が有名になり過ぎちゃって忙し過ぎて大変だったから、いっそ店名を変えて一からやり直そうと思ってね」
北島「何だか勿体無いような気もしますが……」
枝村「まぁ姉妹店も出してるし、知る人ぞ知る美味いラーメン屋としてやっていきたかったんだけど、やっぱりまたこう忙しくなっちゃったね」
北島「そうだったんですか」
枝村「ま、慣れるまではお客さん達も優しく接してくれるだろうから頑張ってね」
北島「はい」
SE、ガラガラと扉が開く音。
枝村「あ、お客さん来たよ。対応して」
北島「はい!いらっしゃいま……!」
藤原、舞台上手から登場。
藤原「あ、一人で」
北島「しょ、少々お待ち下さい……!店長!店長!」
枝村「どうした?」
北島「強盗ですよ強盗!」
枝村「何っ!?……あぁ、あの人は大丈夫だ。接客して」
北島「えっ!?良いんですか!?」
枝村「良いよ。ほら、お待たせしちゃ悪いから早くして」
北島「は、はい……お客様、お一人で?」
藤原「はい」
北島「カウンター席で宜しいですか?」
藤原「はい」
北島「ではお好きな席にお座り下さい」
藤原「(席に着く)醤油ラーメン一つ」
北島「畏まりました……店長、醬油ラーメン一丁」
枝村「はいよー(醤油ラーメンを作る)。はい、醤油ラーメン一丁あがり(北島にラーメンを渡す)」
北島「(藤原の席にラーメンを持って行く)お待たせしました。醤油ラーメンです」
藤原「ありがとう。頂きます(写真を撮ったりメモを取りながらラーメンを食べる)」
北島「店長。あの人、何者なんですか?」
枝村「あぁ、覆面調査員だよ」
北島「ガチの覆面してますけど!?」
枝村「だからあの人が誰なのか誰も知らないんだ」
北島「でも覆面調査って知られたら意味無いんじゃ……?」
枝村「だから俺達はあの人が来たら最新の注意を払って対応するんだ」
北島「覆面の意味が無い……」
枝村「前にこの店がとあるグルメ雑誌に取り上げられた時に覆面調査員の人来ましたよって報告したら、同時期に複数人向かったから誰があの人かわからないって言われたよ」
北島「ある意味、覆面になってる……」
藤原「すみませーん」
北島「あ、はーい!(藤原の席に向かう)お待たせしました」
藤原「餃子と炒飯をお願いします」
北島「餃子と炒飯ですね。畏まりました(厨房に向かう)餃子と炒飯お願いします」
枝村「はいよー(餃子と炒飯を作る)。はい、餃子と炒飯(北島に渡す)」
北島「(藤原の席に向かい、餃子と炒飯を渡す)お待たせしました。餃子と炒飯です」
藤原「ありがとう(写真を撮ったりメモを取りながら餃子と炒飯を食べる)」
北島「店長。どうするんですか?」
枝村「これ持ってけ(ミニ天津飯を北島に渡す)」
北島「これは?」
枝村「ウチの裏メニューのミニ天津飯。これでいつもどうにか評価を上げてもらってる」
北島「不正じゃないですか」
枝村「失敬な。常連さんにはいつもサービスしてるんだよ」
北島「そうなんですか。じゃあ持って行きます(藤原の席に向かい、ミニ天津飯を渡す)。これどうぞ」
藤原「これは?」
北島「サービスです」
藤原「そうですか。いつも悪いですね」
北島「いえいえ。では。店長」
枝村「何?」
北島「あの人の正体、気になりません?」
枝村「まぁ、気になるけど」
北島「あの覆面、脱がしません?」
枝村「でもどうやって?」
北島「北風と太陽って知ってます?」
枝村「知ってるよ?」
北島「客席の室温、上げましょう」
枝村「そんな遠回しなやり方で?」
北島「率直に聞いて答えると思います?」
枝村「一旦、直接聞いてみない?」
北島「はぁ。まぁ一回聞いてみますか(藤原の下へ行く)。お客様」
藤原「はい?」
北島「お名前をお聞きしても宜しいですか?」
藤原「何でですか?」
北島「もっとサービス向上を目指して常連さんにはお名前をお聞きして、感想を頂きたいのです」
藤原「えー?でも個人情報ですし……」
北島「あ、ですよね。申し訳ありません。ところでお客様、覆面調査員の方ですよね?」
藤原「ななな何を言ってるんですか!私はそんな者ではありませんよ!」
北島「あ、そうですか。失礼しました。ではごゆっくり。店長」
枝村「どうだった?」
北島「駄目でした」
枝村「そうか。じゃあ室温を上げよう」
北島「はい(エアコンのリモコンを手に取り、温度を上げる)」
沈黙。
藤原「あっつぅ……(覆面を取る)」
枝村「あっ!」
北島「どうしたんですか?」
枝村「あれ!今、駆け出しの売れっ子俳優の藤原正将だよ!」
北島「駆け出しなんだか売れっ子なんだかどっちなんですか?」
枝村「まだ下積みだからバイトしてるんだよ!まさか覆面調査員してるとは……」
北島「有名人だから逆にイメージダウンにならないように覆面してたんですかね?」
枝村「かもしれない」
藤原「あ、すみません。お会計お願いします」
北島「はーい!えー、醤油ラーメンと餃子と炒飯で合計千五百円になります」
藤原「(財布を取り出し、千五百円を北島に渡す)」
北島「丁度お預かりです」
藤原「領収書お願いします」
北島「宛名はどうしますか?(ポケットから領収書、胸ポケットからボールペンを取り出す)」
藤原「上様で」
北島「畏まりましたー(領収書に『上様』と書く)。こちら領収書です(藤原に領収書を渡す)」
藤原「どうも(覆面を忘れて舞台上手に退場)」
北島「ありがとうございましたー」
枝村「あ、サイン貰っとけば良かったな……」
北島「そこまでファンなんですか?」
枝村「デビュー当時からのファンでね。特撮デビューだったんだよ」
北島「へー」
枝村「それに芸能人のサインを飾っといた方が知名度が上がると思うし」
北島「商売熱心ですね」
枝村「じゃないと商売やってけないよ」
北島「次来たらサイン貰ったらどうです?」
枝村「でもプライベートだし……」
北島「意外と喜ぶかもしれませんよ?」
枝村「そうかな?じゃあ次来たら貰おう」
藤原「(舞台上手から登場)すみません」
北島「あ、さっきの」
藤原「忘れ物がありまして……」
北島「あ、はい。あー、これですか?(覆面を藤原に渡す)」
藤原「あ、それです(覆面を被る)。すみませんでした。では……」
枝村「あの、藤原正将さんですよね?」
藤原「え、あ、え?ななな何でですか?」
枝村「いや、間違ってたら申し訳無いんですが、俳優の藤原正将さんじゃないかなって思いまして」
藤原「ちちち違いますよ!?俺はしがないフリーターです!」
北島「明らかに動揺してますよ」
藤原「第一、こうして顔を隠しているのに何で分かったんですか?」
北島「さっき『あっつぅ……』って言って思いっきり覆面を脱いでたじゃないですか」
藤原「あ、あれ?そうでしたっけ……?」
北島「馬鹿かな?」
枝村「俺、藤原さんのデビュー当時からの大ファンなんです!是非サインをお願いします!」
藤原「……良いでしょう。こちらとしても嬉しいです」
枝村「ありがとうございます!(色紙とペンを取り出して藤原に渡す)これにお願いします!」
藤原「はい(サインを書き、色紙を枝村に返す)。はい、どうぞ」
枝村「ありがとうございます!家宝にします!」
藤原「そこまでしなくても良いですよ。あ、ここにバイトで来たって事は他言無用でお願いします」
枝村「承知しました!」
藤原「ではこれで……また来ます(舞台上手に退場)」
枝村「いつでも待ちしておりまーす!ふぅ……」
北島「良かったですね、店長」
枝村「あぁ。店に飾ろう」
北島「早くバイトしなくても稼げるくらいに売れると良いですね」
枝村「何。喰えなくなったらウチで働けば良いさ」
北島「懐が広いですね」
枝村「ウチも繁盛するまで苦労したからな。気持ちは分かるさ」
暗転。
明転。
ラーメン屋。
北島、藤原、枝村、舞台中央に板付き。藤原、覆面を被っている。
枝村「今日から新しくバイトに入ってくれる藤原正将君だ。宜しく頼むよ」
藤原「藤原正将です!宜しくお願いします!」
北島「北島康介です。宜しくお願いします。何で覆面調査員からここに?」
藤原「顔バレしてしまってクビになりました!」
北島「まぁ、そうなりますよね。でも有名俳優がここで働いてるってなれば商売繁盛に繋がるかもしれないんで、頑張って下さい」
藤原「あ、俺、事務所クビになりました!」
北島「は?何でですか?」
藤原「売れっ子俳優が地味なバイトしてるってバレてイメージダウンになったとかで仕事が激減してクビになりました!」
北島「あ、そうですか……じゃあここで頑張って下さい」
藤原「はい!」
北島「ところで何でまだ覆面を?」
藤原「覆面調査員時代と俳優時代の名残です!被ってないと正体がバレるんじゃないかって落ち着かなくて!」
北島「あっそう」
枝村「あ、そうだ。藤原君がここで働くにあたって、この店の名前変える事にしたから」
北島「また変えるんですか?」
枝村「うん。本店であるこの店を拡大移転しようと思ってね。その資金稼ぎに藤原君の名前を使ってラーメン藤原にして儲けようと思って」
藤原「ちょっと止めて下さい!そんな名前でラーメン屋やるの!」
枝村「フジワラーメンの方が良かったかな!?」
北島「そうじゃないでしょ。勝手に名前と知名度使うのがいけないんですよ」
藤原「そうですよ!元売れっ子有名俳優が凋落してこんなラーメン屋でバイトしてるってバレたら記者に何て書かれるか分からないんで!」
枝村「こんなラーメン屋って何だ。それに凋落て」
藤原「すみません!そんなつもりじゃ!」
枝村「まぁ良いや。とりあえず名前は変えない方向で進めよう」
藤原「そうして頂けると助かります!」
北島「それで良いのか……?」
枝村「あ、そろそろ開店時間だよ。藤原君、対応お願い。北島君、藤原君をサポートしてあげて」
北島藤原「はい!」
枝村「北島君、多分いつものように並んでる人いると思うから様子見て来て?」
北島「分かりましたー(舞台上手に退場)」
枝村「藤原君、まぁ初日だし緩くやってくれて良いから」
藤原「はい!」
枝村「ははは。緊張してるね。気楽に気楽に!常連さんしか基本的に来ないからアットホームな感じになると思うよ」
藤原「そうですか!でも頑張ります!」
北島「(舞台上手から慌てて登場)店長!店長!」
枝村「どうした?そんな慌てて」
北島「列が駅まで続いてます!」
枝村「えぇ!?どうして!?」
北島「お客さんに聞いたら『あの藤原正将が働いてるんでしょ?』と皆、答えてました!」
藤原「えぇ!?俺、誰にも言ってないですよ!?」
枝村「……あっ、俺がSNSで呟いたわ。藤原君が今日から働くって」
藤原「何してくれてるんですか!?」
北島「そうですよ!個人情報ですよ!?」
枝村「わ、悪い……」
藤原「今からじゃあサイン間に合いませんよ!?」
北島「問題はそこじゃねぇ!」
枝村「藤原君。今日は接客は良いから裏でひたすらサインを色紙に書いて来てくれ!」
北島「だから問題はそこじゃないですって!」
枝村「今は藤原君の事を第一に考えよう!藤原君、裏に大量の色紙を用意してあるから書いて来てくれ!」
藤原「はい!(舞台下手に走って退場)」
北島「フロアはどうするんですか!?」
枝村「北島君。期待しているぞ」
北島「ですよねー!」
暗転。
明転。
ラーメン屋。
北島、枝村、板付き。
北島枝村「ありがとうございましたー!」
枝村「何とか乗り切ったな」
北島「お客さん、殆ど藤原さん目当てで、フロアで働いて無い事に対して不満を言ってましたけどね」
枝村「でも色紙は全部配り終えただろ?」
北島「本当に本人か怪しんでましたけどね」
枝村「今日は藤原君に家でサインをいっぱい書いて貰って、明日に備えよう」
北島「業務時間外ですけど」
枝村「その分、給料は出すから良いだろ」
北島「はぁ。まぁ藤原さんが納得するなら良いですけど。でも何で何百枚も色紙があったんですか?」
枝村「藤原君を雇った時点でこういう事態になるだろうと思って」
北島「確信犯じゃないですか!」
枝村「いや!そういう事態になるかもしれないって予想だから!まさかこうなるとは夢にも思ってなかったよ!」
北島「明日からどうなるかなー……」
暗転。
明転。
ラーメン屋。
北島、藤原、枝村、板付き。
北島藤原枝村「ありがとうございましたー!」
枝村「じゃあ今日はもう閉めよう」
北島「はい」
藤原「はい!」
枝村「いやぁ、藤原君のお陰で大盛況だったなぁ」
藤原「それ程でも!」
北島「『あの覆面は藤原正将!』って思いっきりバレてるの笑いそうになったんですけど」
枝村「覆面調査員のバイトも覆面の意味無かったんじゃない?」
藤原「ですね!『何件もお前だってバレてんだよ!意味無ぇじゃねぇか!』って怒られてクビになりました!」
北島「もうバレてるんだから覆面取ったらどうです?」
藤原「もうこれがトレードマークみたいになってるんで!」
枝村「覆面ラーメンって名前のラーメンを出したら売れるかな?」
北島「どういうラーメンですか、それ」
枝村「それを注文したら覆面をプレゼントと一緒に藤原君とチェキが撮れる」
北島「商魂たくましいですね」
藤原「俺が安売りされてるみたいで嫌なんですけど!」
北島「もう割り切れよ。凋落元売れっ子俳優さん」
―――終わり
『デッドボール』
・登場人物
北島
藤原
枝村
・舞台
草野球場
・衣装
北島・・・野球のユニフォーム
藤原・・・北島とは違う野球のユニフォーム
枝村・・・藤原と同じ野球のユニフォーム
明転。
草野球場。
北島、藤原、枝村、板付き。
北島「藤原商店街さん。今日も勝たせて頂きますよ」
藤原「北島商店街さん。それはどうですかね?こっちは今日は強力な助っ人を用意しましたよ」
北島「ほう?その人ですか?」
藤原「はい。メイピッチャーです。元プロ野球選手でね。時速186kmで投げられるんですよ」
北島「えぇ?186kmぉ?大谷選手ですらピッチング163kmなのに、打球と同じじゃないですか」
藤原「まぁ見てて下さいよ。枝村さん」
枝村「はい。(舞台下手に向かってボールを投げる振り)」
選手「(舞台裏から声だけ)スピードメーターじゃ180kmを示してます!」
北島「マジですか!?これは勝てそうにないですね……」
藤原「はっはっは!果たしてこの球を打てますかな?」
北島「枝村さんと仰いましたね?何故その腕を持っていながらプロを辞めてしまわれたんですか?怪我か何かで?」
枝村「ちょっと諸事情で……」
北島「ふぅん……?」
藤原「まぁ、今日こそは勝たせて頂きますよ!」
北島「それでも負けませんよ!いざ勝負!」
暗転。
明転。
草野球場。
北島、藤原、枝村、板付き。藤原、枝村、正座をさせられている。
北島「藤原さん。私が言いたい事は分かりますね?」
藤原「はい……」
北島「まさか二十人中、十二人がデッドボールで病院送りになるとは思いませんでしたよ」
枝村「まさかこんな事態になるなんて……」
北島「まさかプロを辞めた理由って?」
枝村「はい……コントロールが悪過ぎてデッドボールを連発して契約破棄になりました……」
北島「でしょうね。まさかメイ投手のメイって……?」
枝村「迷う方です……」
北島「やっぱりか。そりゃクビにもなるわな」
藤原「でもこの試合は我々の勝ちで良いんですよね……?」
北島「は?」
藤原「だって控えの選手がいない北島さんのチームは試合続行不可能って事になるので、没収試合になって我々の勝ちになりますよね……?」
北島「何言ってるんですか?貴方達のせいでこうなってしまったんですよ?」
藤原「でも故意でデッドボールを当てた訳じゃないですし……ねぇ?」
枝村「はい……事故です……」
北島「事故で片付けられないですよ?」
藤原「でも実際、故意じゃないですし……控えの選手がいないのはそちらの落ち度では……?」
北島「こっちの落ち度!?どの口が言うんだ!?」
藤原「でもそうでしょ?故意だったらこっちが悪いですけど、故意じゃなく事故で起こってしまった悲劇なんですから」
北島「悲劇?それはこちらのセリフなんですけど?」
枝村「でもこちらとしても不本意だったんですよ?まさかここまで自分のコントロールが悪いだなんて思わなかったんですから」
北島「何、被害者面してんの?アンタらのせいでしょ?」
枝村「でも事実だし……」
北島「さっきから『でも』『でも』『でも』『でも』って……言い訳する前に言う事があるでしょ?」
藤原「治療費は私達が負担します……」
北島「当たり前でしょう。他にも言う事あるでしょう?」
藤原「向こう一年間、我々の商店街での飲み食いをタダにします……」
北島「他にも言う事あるでしょ?」
藤原「今後このような事が無いようにチームの練習を徹底します……」
北島「そうじゃねぇだろ!謝れって言ってんだよ!」
藤原「え?」
北島「『え?』じゃねぇ!まだ謝罪の言葉をもらってねぇんだよ!謝れ!いいから!」
藤原枝村「すみませんでした……」
北島「大の大人が謝れって言われないと謝れないのどうかと思いますよ?」
藤原「返す言葉も御座いません……」
北島「そもそもこの問題児をどうしてチームに入れたんですか?」
藤原「剛速球で勝てないかなって……後はコントロールの問題だし……」
北島「本音は?」
藤原「合法的に没収試合で勝てないかなって……」
北島「やっぱり故意でやったんじゃないか!」
藤原「本人に意図は無かったから!」
枝村「至って真剣です!」
北島「余計、質悪いわ!この試合は我々の勝ち!それで良いですね!?」
藤原「ルール的には我々の勝ちです!」
北島「スポーツマンシップ的にアウトだよ!」
枝村「試合に負けて勝負に勝ったって事で手を打ちましょう」
藤原「成程。そういう考え方も出来るな」
北島「勝負以前の問題だよ!もう貴方方のチームとは戦いません!」
―――終わり
『長い』
・登場人物
田中太郎
正親町三条一郎
勘解由小路二郎
阿布都乃比三郎
左衛門三郎四郎
・舞台
会社のオフィス
・衣装
正親町三条、勘解由小路、阿布都乃比、左衛門三郎・・・同じくらいの身長に黒のスーツに青のネクタイ、オールバックに丸眼鏡
明転。
会社のオフィス。長机三つに椅子が五つ。
田中、一郎、二郎、三郎、四郎、板付き。
田中「えー、今年も新入社員が入って来たという事で、これから新人研修を始めていきます。担当の田中太郎です。覚えやすいでしょ?って事で、自己紹介お願いします」
一郎「正親町三条です。趣味はボーリングです。宜しくお願いします」
田中「正親町ね……正親町……名前はサンジョウ……珍しい名前だね」
一郎「あっ、苗字が正親町三条で、名前は一郎です」
田中「……は?あ、あぁ正親町三条さんね。正親町三条さん……よし、長いけど覚えた。次、宜しく」
二郎「勘解由小路です。趣味はボーリングです。宜しくお願いします」
田中「勘解由ね……勘解由……名前はコウジね」
二郎「あっ、苗字が勘解由小路で、名前は二郎です」
田中「えっ?あっ、そう……勘解由小路さんね。勘解由小路……よし、また長いけど覚えた。よし、次」
三郎「阿布都乃比です。趣味はボーリングです。宜しくお願いします」
田中「田中「阿布都さんね……名前はナビ……キラキラネームかな?」
四郎「あっ、苗字が阿布都乃比で、名前は三郎です」
田中「あ、そうなの?まぁいいや。阿布都乃比さんね……阿布都乃比さんさんね……よし、ちょっとキャパオーバーしてきたけど、何とか覚えた。最後、宜しく
四郎「左衛門三郎です。趣味はボーリングです。宜しくお願いします」
田中「左衛門さんね……三郎が名前、と……」
三郎「あっ、三郎は三郎なんですけど、苗字が左衛門三郎で、名前が四郎です」
田中「あっ?えっ?三郎の後に四郎が続くの?」
四郎「はい」
田中「あ、そう……左衛門三郎さんね、左衛門三郎……ちょっと覚えきれないなぁ……」
一郎「大丈夫ですか?」
田中「ちょっと覚えきれない……長すぎる」
二郎「それを言われても、生まれ持ってのものですし……」
田中「それは分かるんだけどね……」
三郎「名前で呼んでみてはどうですか?」
田中「ちょっと馴れ馴れし過ぎないかな?」
四郎「まぁ私は昔から長いって理由で覚えられないから名前で呼ばれる事が多かったですね。なので私は名前呼びで大丈夫です」
一郎「私もです」
二郎「私も」
三郎「私も」
田中「でも内部では良いかもしれないけど、営業先では苗字で呼ばなきゃならないからしっかり覚えないと……」
四郎「大変ですね」
田中「しかも皆、似たような体格と身長で髪型と眼鏡も一緒でスーツも黒だしネクタイの色も同じだし……趣味も皆ボーリングって……覚えられないよ……特徴のストライク出してくれよ、ストライクぅ~!」
一郎「そんな事、言われても……」
二郎「こればっかりはなぁ……」
田中「何か無い?他に趣味とか特技とか?」
三郎「他の趣味は釣りですかね?」
田中「おぉ!そういうのだよ!」
四郎「私も釣りですね」
一郎「私も釣りですね」
二郎「私もです」
田中「おいおいおい!また被ってるよ!今度は大物を釣り上げてくれよ!大物を~!」
三郎「情緒どうなってるんですか……」
四郎「趣味以外で特技と言うと……」
一郎「あ、私、百ピースのミルクパズル解けますよ」
田中「ミルクパズル?」
二郎「無地の白いパズルです。一番難しいとされるやつですね。私も解けます」
三郎「私も出来ます」
四郎「私もです」
田中「またかよ!?今度は最後のピースが足りてないよ!最後のピースがぁ~!」
一郎「もう長いし、取引先の方にも事情を説明して名前で呼びましょう?」
田中「納得してくれるかなぁ?一応、仕事だし苗字呼びじゃないと失礼に当たるような気もするけど……」
二郎「まぁインパクトはありますよね。案外、覚えてもらえるかもしれませんね」
三郎「まだ研修中ですし、仕事を覚えて営業先と良好な関係になったら名前で呼んでもらう事にしてもらいましょう」
田中「それ意味ある?もうその時期には苗字を覚えてもらえてるでしょ」
四郎「じゃあどうするんですか?」
田中「見た目は急には変えられないしなぁ……何か取っ掛かりがあれば良いんだけど……」
一郎「あ、好きな食べ物とかどうですか?それで食事に行って親睦を深めましょう」
田中「それ良いな。皆は何が好き?」
二郎「焼肉です」
三郎「私も焼肉です」
四郎「私も焼肉です」
一郎「私も焼肉です」
田中「駄目だ……詰んだ……」
二郎「逆に嫌いな食べ物は?私は野菜です」
三郎「私も野菜です」
四郎「私も野菜です」
一郎「私も野菜です」
田中「何?君達、一緒に生まれ育ったの?」
一郎二郎三郎四郎「はい」
田中「あっそう……あ、生年月日とか正座とか血液型とかは?」
一郎「2000年四月二日、牡羊座のA型です」
二郎三郎四郎「同じです」
田中「あぁ……本格的に詰んだ……とりあえず、私が覚えるまで名前で呼ぶね?」
一郎二郎三郎四郎「はい」
田中「今の段階で名前は覚えたから後は顔と結び付けられるかが問題だな……試しに三郎君」
三郎四郎「はい」
田中「あー、もう、ほら、やっぱり……苗字に三郎が入ってるとややこしいよ……苗字の略称じゃなくて名前ね?」
三郎四郎「あぁ、はい」
田中「研修期間が終わるまでにどうにか覚えるから時間をくれ」
一郎二郎三郎四郎「はい」
暗転。
明転。
会社のオフィス。
田中、一郎、二郎、三郎、四郎、板付き。
田中「えー、今日から皆、一人立ちになる訳ですが、分からない事があればすぐにいつでも私に声を掛けて下さい」
一郎二郎三郎四郎「はい」
田中「しかし何だな。この一ヶ月で営業先に挨拶に行ったら翌日にはすぐ名前と顔を覚えられてたな」
一郎「苗字にインパクトあり過ぎるので必死になって覚えてもらえたみたいですね」
二郎「取引先様に感謝ですね」
三郎「でも私達は未だにこんがられますね。なぁ?」
四郎「うん。こっちは理解してるけど、向こうは気を使う、みたいな」
田中「まぁそれもそのうち落ち着くだろう。よし、今日は飲みだ!私の奢りだ!行くぞ、一郎君、二郎君、三郎君、四郎君!」
一郎「田中さんは覚えきれてないんですか?」
田中「無理!未だにカンペ見ないと苗字呼べない!」
二郎「いつも手の甲に私達の苗字書いてますもんね」
三郎「いい加減覚えて下さいよ。取引先様は覚えて下さってるんですから」
田中「顔と名前が一致してるだけでも勘弁して!来年までには覚えきるから!」
四郎「多分覚えないだろうな。このパターンは」
―――終わり
『無礼講』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
居酒屋
明転。
居酒屋。長テーブル一つに座布団がいくつか。長テーブルの横に瓶ビール十本くらい置いてある。
北島、藤原、板付き。北島、ジョッキを持って立っている。藤原、正座してジョッキを持っている。
北島「えー、今回のプロジェクト成功には、ひとえに皆様のおかげだと思っております。今回は会社持ちなので存分に自分の体を労って飲んで食べて下さい。では、乾杯!」
藤原「乾杯!(ビールを飲む)」
北島「(座る)」
藤原「北島部長、お疲れ様です」
北島「おぉ、藤原。お疲れ。何だお前?もっと気楽にしろよ」
藤原「そうですか?じゃあ、失礼します(足を崩す)」
北島「藤原もなぁ、今回はよく頑張ってくれたみたいじゃないか」
藤原「そんなそんな……皆に支えられたから最後まで出来ただけです」
北島「そんな謙遜すんなって。お前はよくやってくれたよ」
藤原「ありがとうございます」
北島「あー、もう今日はアレだな。仕事の話は無しだな。無礼講だ。無礼講」
藤原「えっ?ブレイコウですか?」
北島「あぁ。今日はもっと皆と仲良くなる為に無礼講だ」
藤原「そうですか。では失礼して……(ビール瓶を勢いよく割る)フォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
北島「おい!?どうした藤原!?」
藤原「フォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!(次々とビール瓶を三本割っていく)」
北島「止めろ藤原!止めろって!」
藤原「フォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!(ビール瓶を持って北島を殴ろうとする)」
北島「うわぁ!?何すんだ!?止めろ!(藤原を殴って止める)」
藤原「イッタ……!どうして止めるんですか!?」
北島「『どうして』って何でだよ!?どうして瓶を割っていくんだよ!?」
藤原「えっ?だって北島部長が言ったんじゃないですか。今日はブレイクオールだって」
北島「ブレクオールじゃねぇよ!無礼講だよ!」
藤原「無礼講って何ですか?」
北島「身分、地位の差や礼儀作法を無視して行う宴会の事だよ!」
藤原「あ、それかぁ。何だ……折角、日頃の鬱憤を晴らせると思ったのに……」
北島「普段どんだけストレス抱えてるんだよ。皆、違うからな?無礼講はそういうんじゃないからな?俺はもっとみんなの事を知りたいんだよ。今日は無礼講だから思う存分やってくれ」
藤原「フォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!(ビール瓶を持って北島に殴り掛かる)」
北島「ちょっちょっちょ!止めろ!この馬鹿野郎!」
藤原「フォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
北島「(藤原を突き飛ばす)止めろ!ブレイクオールじゃないんだよ!」
藤原「あ、すみません。つい発作が……」
北島「何だ?今までお前は無礼講の度にこうやって全てを破壊しようとしてたのか?」
藤原「はい」
北島「無礼講イコール、ブレイクオールだと思ってたのか?」
藤原「はい」
北島「はぁん……?お前、危ねぇよ。危ねぇよ。よく今まで平穏に暮らせてきたな」
藤原「何故か一度こうやったら二度と呼ばれなくなる事がしばしばありました」
北島「だろうな。お前、何もするな。黙って酒でも飲んどけ」
藤原「はい」
沈黙。
藤原、煙草を取り出して黙々とジンジャエールを飲む。
北島「お前、ブレイクオールにならなかったら全然面白くねぇな?」
藤原「破壊無くして創造は無いというのが僕のポリシーなんで」
北島「神様か何かかお前?宗教にでも入ってるのか?」
藤原「いいえ」
北島「本当か?もう酒が回ってるのか?」
藤原「これジンジャエールです」
北島「素面か!絶対ヤバい宗教に入信してるだろ!」
藤原「俺がそんなヤバい発想をする集団に属してるように見えますか!?」
北島「ヤバい宗教にでも入ってなければそんな発想は出てこないんだよ!」
藤原「そうですかね?」
北島「何お前?いつも破壊してから関係を築いてきたの?」
藤原「そうですね」
北島「よくそれで友達や恋人が出来たな」
藤原「それが不思議と友達も恋人も出来た事無いんですよね」
北島「案の定だよ。それで信頼関係築ける訳が無い」
藤原「どうしたら良いですかね?」
北島「簡単だよ。物壊さなきゃ良いんだよ」
藤原「僕、昔から人付き合いが苦手で、破壊からしか人間関係を築けないんですよね……」
北島「恐ろしいよお前。とりあえずお前だけ無礼講は無しだ」
藤原「そんな!?僕だけ除け者ですか!?」
北島「仕方ないだろ。そうじゃなきゃお前、何するか分からないからな」
藤原「ハブるのだけは止めて下さい!」
北島「だってお前、無礼講って言ったらまた全てを壊そうとするだろ?」
藤原「絶対に全てを壊しません!」
北島「『絶対に全てを壊しません』って当たり前の事だからな!未だかつて無い宣言だよ!」
藤原「絶対に壊しませんから!」
北島「本当だな?」
藤原「はい!」
北島「じゃあお前も無礼講だ」
藤原「はい!フォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!(ビール瓶を持って北島に殴り掛かる)」
北島「ちょっちょっちょ!!!止めろ!止めろこの馬鹿!(藤原を突き飛ばす)言った傍からこれだよ!お前、壊さないって言っただろ!」
藤原「物は壊しません!」
北島「人を殺すのはもっと駄目だろ!」
藤原「殺しじゃありません!人体破壊です!」
北島「どちらにせよ駄目だよ!お前、怖いわ……もう向こうで一人で飲んでろ!」
藤原「そんな!折角、皆と仲良くなれるチャンスなのに!」
北島「そんなんで仲良くなれる訳無いだろ。良いからあっちの隅っこで一人でジンジャエール飲んでろ」
藤原「はぁい……(ジョッキを持って舞台上手に退場)」
北島「まさかマジモンのヤバい奴がこの会社にいるとは思わなかったな。皆、アイツがいなくなったから思う存分、飲んで食ってくれ。この席だけは無礼講だ」
藤原「(舞台上手から空のジョッキを持って走って登場)フォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!(北島にジョッキで殴り掛かる)」
北島「だっだっだ!!!(応戦する。ジョッキを奪い取り、床に投げ捨てる)何すんだ!」
藤原「ブレイクオール!(割れたビール瓶を手に取り、北島の顔に突き付ける)」
北島「割れた瓶はマズいだろ!顔はマズいって!おい西岡!何笑ってんだ!止めろ!枝村!動画を撮るな!」
藤原「フォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
北島「パァ!(割れてないビール瓶で藤原の頭を殴る)」
藤原「うわぁ!(倒れる)」
北島「はぁ……はぁ……はぁ……この腐れ外道が……おい、皆、帰るぞ」
藤原「北島部長!」
北島「何だよ?」
藤原「二次会はどこですか?」
北島「お前を呼ぶ訳無いだろ」
―――終わり
『歯科医』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
歯科医院
子供「うわぁ~!」
SE、ドリルの音。
藤原「はい、もう終わったからね~」
子供「馬鹿野郎~!ふざけんな~!」
明転。
歯科医院。診察用のチェアーユニット。
北島、藤原、板付き、北島、舞台上手に向かって子供を見送っている。藤原、診察台で項垂れている。
北島「じゃあね~。これからは虫歯にならないようにご飯の後しっかり歯を磨くんだよ~(手を振り、藤原の下へ行く)」
藤原「はぁ……」
北島「藤原先生。どうしたんですか?何か元気無いですね」
藤原「北島君……なんか最近、疲れちゃってね……子供を相手にしてると、歯を治療をしてあげてるのに嫌われて帰っていく……そんなのを繰り返している内に、私がしてる事って何の意味があるのかなって思うようになってね……」
北島「先生……しっかりして下さい!初心を思い出して下さい!先生は、そんな気持ちになる為に歯科医になったんじゃないでしょう!?」
藤原「初心……」
北島「そうです!先生は、キチンとした夢を持って歯科医になったんじゃないですか!?」
藤原「そうだ……私は……!」
北島「困ってる子供達を助ける為に歯科医になったんでしょ―――」
藤原「可愛い女の子の助手達に囲まれて仕事をする事だった……!」
北島「は?」
藤原「北島君、初心を思い出させてくれてありがとう!私はこれから夢に向かって突き進むよ!」
北島「そんな下心を持って歯科医を始めたんですか?」
藤原「えっ?それ以外に歯科医になる意味ある?」
北島「あるでしょ。せめてお金になるとか言って下さいよ」
藤原「それもある。二番目にね。一番目は男として健全な夢だろう?」
北島「お金の方が健全なんだよなぁ……」
藤原「って事で北島君。今日限りで君はクビだ」
北島「はっ!?」
藤原「今までご苦労だった」
北島「はぁっ!?何でですか!?」
藤原「言ったろう?私の夢は可愛い女の子達に囲まれながら仕事をする事だって。あわよくば毎日ウハウハなデートに行く為だ」
北島「そんな事の為に私を切り捨てるんですか!?」
藤原「尊い犠牲になってくれ」
北島「嫌ですよ!何が尊い犠牲ですか!」
藤原「私の夢の為だ」
北島「そんな邪な気持ちでクビになってたまるか!」
藤原「退職金は弾むよ?」
北島「せめて就職先を探して下さい!」
藤原「じゃあコネがあるからそこを紹介しよう」
北島「じゃあ良いです」
藤原「御年九十二歳のおじいちゃん先生で最近、手の震えが止まらなくて助手が欲しいって言ってたから」
北島「辞めちまえ!そんな歯科医!」
藤原「でもそこしか紹介先が無い……」
北島「そんな所に紹介しないで下さい!」
藤原「えー?でもなぁ……」
北島「でもじゃない!一方的にクビにするんだからそれなりの所を紹介して下さい!」
藤原「じゃあ私の同期の先生がいる歯科医があるからそこを紹介しよう」
北島「やっとまともな所を紹介してもらえたな……」
藤原「ただその先生、オネェだからお尻に気を付けてね」
北島「怖いよ!後、何その決め付け!?オネェだからって男を誰でも彼でも狙ってる訳じゃないでしょ!?」
藤原「この前、飲みに行った時、北島君の写真を見せたら『めっちゃタイプ!』って興奮してたよ?」
北島「怖っ!?そんな所に放り込まないで!?」
藤原「じゃあおばちゃん先生の歯科医に行く?時給良いし、福利厚生もしっかりしてるし、男性助手を求めてる職場らしいよ?」
北島「おっ、まともそう。そういうのが良いんですよ」
藤原「大抵、一ヶ月で皆、辞めていって人手が足りないらしい」
北島「どういう事ですか?」
藤原「その先生によってパワハラとモラハラが横行してるらしい」
北島「だから怖いって!何でそんな危なっかしい人脈しか無いんですか!?」
藤原「ここら辺じゃそういう人しかいないんだよ」
北島「この歯科医が儲かってる理由ってもしかして……?」
藤原「ここら辺はヤバい歯科医しかいないから必然的にここに来る」
北島「やっぱりか!」
藤原「それじゃあまぁ、この三つから選んでくれ給え」
北島「どれも嫌ですよ!ここで働かせて下さい!」
藤原「でも助手は女の子で形成したいって夢が……」
北島「女の子は雇ってくれて良いんで、私は私で裏で仕事させて下さい!」
藤原「裏でかぁ……仕事内容、変わっちゃうけどそれでも良いの?」
北島「構いません!他で働くくらいならここで裏作業してた方がよっぽどマシです!」
藤原「そっかぁ。じゃあこれからは裏の仕事で」
北島「はい!」
藤原「それかもう一つ案があるんだけど……」
北島「何でしょう?」
暗転。
明転。
歯科医院。
藤原、北島、板付き。藤原、診察台のチェアーユニットで座っている。北島、ロングの髪のカツラを被って舞台上手に立っている。
北島「ちゃんと歯を磨くんだよ~。ばいば~い(藤原の下へ行く)」
藤原「仕事の調子はどうだい?」
北島「問題ありません」
藤原「そうか」
北島「あの、本当にこれで良いんですか?」
藤原「何が?」
北島「女の子の助手を集めたいって事で、とりあえず私を女装させるとは」
藤原「私は構わんよ」
北島「まぁ、先生がそれで良いなら良いですけど。給料も上がりましたし」
藤原「不思議と女装した男の助手ばかりがくるようになってしまったのが難点だが、皆、可愛いから許す」
北島「見境、無くなってませんか?」
藤原「目の保養になるから良い」
北島「他人の歯を治すより、自分の目を治した方が良いですよ?」
―――終わり
『人見知りデスゲーム』
・登場人物
北島
藤原
枝村(声のみ)
・舞台
密室空間
明転。
密室空間。舞台中央にリボルバーと弾が一つ置いてある。
北島、藤原、板付き。倒れている。
北島「うっ……(起き上がる)ここは……?」
藤原「うぅっ……(起き上がる)ここは……?」
北島「うわっ、知らない人だ……知らない人と知らない部屋にいる……気まずい……」
藤原「あっ、知らない人だ……どこかも分からない部屋で二人っきり……緊張するけど何か聞かないとなぁ……あの……」
北島「うわっ、話し掛けてきた……な、何でしょう……?」
藤原「ここがどこか分かりますか……?」
北島「さぁ……」
藤原「あ、あ、そうですよね……すみません……」
北島「あ、いや、全然全然。お互い様ですから」
藤原「ありがとうござます」
沈黙。
北島藤原「気まずぅ……」
SE、ピーガガ、という音。
北島「あ、何かモニターが点きましたよ?」
藤原「あ、本当だ」
枝村「あ、もう入ってる?あ、はい。すみません。何から何まで……この埋め合わせはまた後日に、はい……」
北島「あのー……」
枝村「あ、すみません。私、このゲームの主催者です」
藤原「ゲーム」
枝村「あの、所謂、デスゲーム、って、やつ、なん、です、けどぉ……」
北島藤原「あー!はいはいはい!」
枝村「ご理解頂けましたでしょうか……?」
北島「あのー、密室空間で殺し合いをするってやつですよね?」
枝村「あー!そうですそうです!理解が早くて助かります!」
藤原「あー、漫画とかアニメとかで良く見るやつだ。あれをやろうとしてるんですか?」
枝村「そうです!」
北島「勝利条件は?」
枝村「無事、部屋から出られたら勝ちです」
藤原「どうやって殺し合うんですか?」
枝村「お二人の目の前にリボルバーがあると思うんですけど……」
北島「リボルバー?」
枝村「あの、クルクル回る銃です」
藤原「あ、これかな?(リボルバーと弾を手に取る)」
枝村「あ、それですそれです。それで、ロシアンルーレットっていうのをやってもらいたいんですけど……」
北島「ロシアンルーレット?」
枝村「あのー、あのー……弾をリボルバーに込めて、クルクル回した後に一人ずつ頭にリボルバーを突き付けて撃っていって、弾が出たら負けってやつなんですけどぉ……」
藤原「あー、よく昔の映画とかで見たやつだ。賭け事をする命懸けのゲームですね?」
枝村「そうですそうです!それをやってもらいたいんです!」
北島「でもこれ、使い方、分かりますか?」
藤原「銃は触った事無いから分からないですね……」
枝村「あのー、そこの手で持つ部分の上にスライドする所があると思うんですけど……」
藤原「あ、これかな?あ、カチャってクルクル回る所が開いた」
枝村「そうですそうです!そこの穴に弾を込めて、元に戻して下さい!」
藤原「(弾を込める)やりましたよ」
枝村「じゃあそのクルクル回る所を一人一回ずつ回して下さい」
藤原「(リボルバーを回す)はい(北島にリボルバーを回す)」
北島「あ、はい。どうも(リボルバーを回す)で?」
枝村「後はじゃんけんか何かで先攻後攻を決めて、交互に撃っていって下さい」
藤原「あのー……」
枝村「何でしょう?」
藤原「俺、そもそもこのゲームやりたくないんですけど……」
北島「あ、それ俺も思ってました」
枝村「あー……です、よねぇ……」
藤原「穏便に帰して頂けませんか……?」
枝村「でもこの映像を生中継して世界中の人達が賭博をしてるんですよねぇ……」
北島「あー……ここで中断しちゃうと貴方に損害が出ちゃう、と……」
枝村「そうなんですよ……」
藤原「ちなみにタイムリミットはあるんですか?」
枝村「特に無いです」
北島「じゃあこっちの気持ちの整理が着くまで待ってもらっても宜しいですか?」
枝村「それは勿論!」
藤原「じゃあちょっと待ってもらう方向で」
枝村「あ、はい。ジックリ考えて下さい。私はいモニターで常にそちらを見ているので、何か御座いましたらいつでもお気軽に話し掛けて下さい」
北島藤原「分かりましたー」
枝村「では私は一旦これで……」
SE、ブツッ、と切れる音。
北島「どうします?」
藤原「俺はやりたくないです」
北島「それは俺も同じです。でもどうにかしてここから出ないと……」
藤原「じゃあ、その、ロシアンルーレット?とかいうのやります?」
北島「死にたくないなぁ……」
藤原「ですよねぇ……」
SE、藤原の腹の音。
藤原「あっ……」
北島「あ、お腹空きました?」
藤原「あ、いや、全然全然。こんな時ですし、物を食べてる場合じゃないですよ」
北島「こんな時だからこそ精をつけましょう。あ、すみません、主催者さーん」
SE、モニターが点く音。
枝村「はい?何でしょう?」
北島「何か食事とか出来ませんかね?」
枝村「あー、食事ですかぁ……」
藤原「駄目ですか?」
枝村「前例が無いもので……」
北島「このままじゃ二人共、餓死して終わっちゃいますよ?」
枝村「あっ、それは困りますね。分かりました。良いでしょう。黒服をそちらに送ります。何が食べたいですか?」
藤原「じゃあ……カレーで」
北島「あ、じゃあ俺も」
枝村「あの、レトルトでも構いませんか?」
北島藤原「あ、全然全然!」
枝村「すみません」
北島藤原「あ、全然、大丈夫ですんで!」
枝村「ありがとうございます。ご飯とカレーをレンジで温めてから持って行きますね」
北島藤原「ありがとうございます」
枝村「あ、全然全然!」
暗転。
明転。
密室空間。皿とスプーンが二つずつ置いてある。
北島「さて、腹も膨れた事だし、これからの事を考えましょう」
藤原「その前に良いですか?」
北島「何でしょう?」
藤原「すみませーん。主催者さーん」
SE、モニターが点く音。
枝村「はいはーい」
藤原「今、何時ですか?」
枝村「えーっと……午前二時ですね」
藤原「やっぱり……道理で眠いと思った訳だ」
北島「と言うと?」
藤原「一旦寝ましょう。頭が働かないでデスゲームをしたら向こうの思うツボですよ」
北島「それもそうですね。主催者さん、寝ても良いですか?」
枝村「どうぞどうぞ!おやすみなさい!」
北島藤原「おやすみなさい」
枝村「今、布団と枕を持って行きますね!」
北島藤原「ありがとうございます」
枝村「消灯しますねー」
暗転。
明転。
密室空間。布団と枕が二組あり、その上で北島、藤原が寝ている。
北島「……んっ、朝か……(起き上がる)」
藤原「ふわぁ~。よく寝た……」
北島「おはようございます」
藤原「あ、おはようございます」
北島「さて、どうしましょうか」
藤原「その前にちょっと良いですか?」
北島「何でしょう?」
藤原「ちょっと……(舞台上手に一旦退場し、すぐに戻ってくる)やっぱり駄目か……」
北島「どうしました?」
藤原「ちょっと……あ、そうだ。主催者さーん」
SE、モニターが点く音。
枝村「はーい。おはようございます」
北島藤原「おはようございます」
枝村「どうしましたか?」
藤原「トイレに行きたいんですが、扉が開かなくて……この部屋でしろという事でしょうか?」
枝村「いえ、トイレは部屋を出てすぐ左にあります。今、扉の鍵を開けますねー」
SE、ガチャッ、という音。
藤原「じゃあ行ってきます(舞台上手に退場)」
北島「あ、じゃあ俺も(舞台上手に退場)」
枝村「お気を付けてー」
沈黙。
枝村「あれ?二人、帰って来ないな……あっ!部屋から出たら勝ちって言ったから外に出ちゃったんだ!そんな裏技があるなんて!」
北島藤原「(声のみ)何か知らんが、やったー!!!」
―――終わり
『結婚の決め手』
・登場人物
儀間愛真
小川美幸
・舞台
儀間宅
明転。
儀間宅。テーブル一つに椅子が四つ。
小川、板付き。席に着いている。隣の椅子には結婚祝いの品が入った袋。儀間、舞台下手からお茶を持って登場。
儀間「はい、お茶」
小川「ありがとう。悪いね。いきなりお邪魔して」
儀間「良いよ。美幸と私の仲でしょ?」
小川「ありがとう。あ、コレ遅れたけど結婚祝い(結婚祝いの品が入った袋を儀間に渡す)」
儀間「ありがとう」
小川「大した物じゃないけどね」
儀間「その気持ちが嬉しいよ」
小川「それにしてもごめんねぇ?結婚式出られなくて……」
儀間「海外出張だったんだもの。仕方ないよ」
小川「でも出たかったなぁ。きっと綺麗だったんだろうなぁ。愛真のウェディングドレス姿」
儀間「写真見る?」
小川「えっ?見たい見たい!見せて!」
儀間「(スマートフォンを取り出し、画面を小川に見せる)はい」
小川「わー!めっちゃ素敵!良いなぁ!私もいつかこんなドレス着てみたい!」
儀間「実際は動き辛いだけだよ?」
小川「憧れるもんなの!ところで隣の男性が愛真の旦那さん?」
儀間「そう」
小川「あっ、ふ~ん……良いじゃん。誠実そうで」
儀間「正直に言ってごらん?」
小川「えっ?いや、素敵な人だと思うよ?」
儀間「正直、不細工でしょ?」
小川「あー……まぁ、うん。正直そう思った」
儀間「だよねぇ」
小川「どこで出会ったの?」
儀間「私が働いてる病院。健康診断に来た彼に一目惚れした」
小川「何でこの人と結婚したの?顔?」
儀間「いいや?顔は全く好みじゃない」
小川「じゃあ何で?」
儀間「男はやっぱり中身でしょ」
小川「あー。やっぱりそこかぁ。外面よりも性格が一番だよね」
儀間「いや、内臓」
小川「は?」
儀間「内臓が綺麗だった」
小川「どういう事?」
儀間「健康診断でCTスキャンやらレントゲンやら色々と検査したら凄く健康体でね。そこに惚れた」
小川「そこ!?」
儀間「煙草も酒もやらなくて、視力も2.0あるし、聴力も問題無い。血糖値も血圧も問題無いし、尿酸値も問題無し。歯も一度も虫歯にならなくて歯並びも良い。至って健康体。その結果を見て一目惚れしたね」
小川「それ一目惚れって言うのかなぁ……?」
儀間「親御さんも似たような結果だったから、代々健康な体なんだなって思うともう愛しくて愛しくて」
小川「まぁ、愛真がそれで良いならそれで良いけどさ……」
儀間「これなら精子にも問題無さそうだと思って、丈夫な子供を生めると思ったんだよね」
小川「あっそー。そういえば愛真の健康診断はどうなの?」
儀間「勿論オールAだよ。これでも医者だからね」
小川「あ、そこはしっかりしてるんだ」
儀間「医者の不養生にはなりたくないから昔から健康には気を遣ってる」
小川「ふーん」
儀間「ただ一つ問題を上げるとしたら……」
小川「何?今更、顔、とか言わないよね?」
儀間「顔は整形でどうにでもなる」
小川「クズだなぁ」
儀間「で、一つ問題があって、それが不満なんだよね……」
小川「何?」
儀間「鼻炎持ちなんだよね」
小川「は?」
儀間「だから、鼻炎持ちなんだよね。これが子供に遺伝するかと思うと不安で不安で……」
小川「まぁ最近はアレルギー持ちの人多いから仕方ないとは思うけどね」
儀間「だよねぇ……そこは受け入れるしか無いのかぁ……」
小川「意外だね。不満があるなんて」
儀間「そう?」
小川「うん。だって不細工な顔してるのは受け入れてるのに、そこだけ引っ掛かるなんて」
儀間「まぁ、そこくらいはね?」
小川「旦那さんの事もっと教えてよ」
儀間「うーん、そうだなぁ……勉強嫌いで中卒、四十歳童貞、無職。元、実家暮らし。親の金でパチンコ、競馬、競艇、オートレース、宝くじの日々だった……それくらい?」
小川「そこに不満を持ちなさいよ!心病んでるじゃない!」
儀間「私の稼ぎで養っていけるし大丈夫でしょ」
小川「DVとか無いの?」
儀間「たまにご飯が不味いとかで殴ってきたりはする」
小川「絶対に離婚した方が良いって!」
儀間「何で?」
小川「『何で?』って何で!?絶対に子供が生まれたら手を上げるタイプでしょ!」
儀間「そんなのデキてからじゃないと分からないじゃない」
小川「分かり切ってるわ!悪い事言わないから早く離婚しなさい!」
儀間「美幸も私の両親と同じ事を言うのね」
小川「そらそうでしょ!そんな恐ろしい男と一緒にいられる神経が分からんわ!」
儀間「旦那の両親も同じ事を言ってたわ」
小川「親公認!?よく結婚を許したわね!?」
儀間「『自分の手で殺して刑務所に行くくらいなら誰かに押し付けた方が圧倒的に楽』と言っていたわ」
小川「親もクズか!」
儀間「義両親の事を悪く言わないで!」
小川「事実でしょうが!」
儀間「とりあえず、彼のスペックはこんな感じかな」
小川「持って一ヶ月と私は判断する」
儀間「もっと持つと思うよ」
小川「持ったら祝い金を出してあげるわよ」
儀間「賭け事は彼の専売特許だからね。それはいいわ」
小川「専売特許じゃないでしょ……」
暗転。
明転。
儀間宅。
小川、儀間、板付き。席に着いている。
小川「まさか六年も続くとは思わなかったわ」
儀間「そう?」
小川「うん。お子さん達は?」
儀間「今日は保育園に預けてる」
小川「何人だっけ?」
儀間「三人兄弟。皆、男の子」
小川「年子?」
儀間「そう。皆、彼に似てるわ」
小川「将来が心配ね」
儀間「そんな事無いわよ。彼、今は雀士として生計立ててるから」
小川「賭け麻雀?」
儀間「そう」
小川「心配ね」
儀間「何で?」
小川「ギャンブルで生計立ててる親を見て育つのかと思うと不安過ぎるわよ」
儀間「生活出来てるんだからそれで良いでしょうが」
小川「まぁ、アンタがそれで良いなら良いけどさ」
儀間「今は息子達と旦那で毎日、麻雀やってるわ。将来はプロ雀士にさせるって英才教育してるわ」
小川「あっそー。増々、不安ね」
儀間「ウチの教育方針に口出ししないで」
小川「口出しじゃなくて心配してんの。まともな子に育てなさいよ?」
儀間「これでも健康には気を遣ってるのよ?毎日、私の手作り料理だし、歯磨きもしっかりさせて虫歯も一本も無いし。今の所アレルギーも無いし」
小川「体を気遣ってるなら、子供達は将来ちゃんとした仕事に就かせなさいよ?」
儀間「そりゃ勿論。医者を目指しつつ、プロ雀士になる。これが彼と私の夢よ」
小川「二兎を追う者は一兎をも得ず!絶対失敗する!」
儀間「夢はでっかく持ちたいじゃない!」
小川「子供の人生をギャンブルにするな!健康的な体にする前に健康的な心を育てなさいよ!」
―――終わり
『閉店セール』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
家電量販店
・衣装
藤原・・・スーツに法被。
明転。
家電量販店。洗濯機や冷蔵庫、掃除機が並んでいる。それぞれに「半額」や「70%OFF」と書かれたシールが貼ってある。垂れ幕に「閉店セール実施中」と書かれている。テーブル一つと椅子が二つ。テーブルの上には住所を書く用紙とボールペン。
藤原、板付き。北島、舞台下手から登場。
藤原「いらっしゃいませー!」
北島「こんな所に家電量販店があったんですね」
藤原「はい」
北島「俺つい先日ここに引っ越してきたんですけど、ここに家電量販店があって助かりましたよ」
藤原「それはそれは。でももう閉店しちゃうんですよね……」
北島「え?あ、本当だ。折角、便利になると思ってたのに……辞めちゃうんですか?」
藤原「そうですね」
北島「そっかぁ……残念だなぁ」
藤原「只今、閉店セール実施中なのでお買い得ですよ」
北島「そうだなぁ。冷蔵庫とか洗濯機とか欲しかったし買おうかな」
藤原「最新型も半額になってたりするので、どうぞご覧下さい」
北島「おススメとかありますか?150Lくらいの冷蔵庫と、乾燥機付きの洗濯機なんですけど」
藤原「こちらに御座いますよ!(案内する)」
北島「へー、半額かぁ。サイズも丁度良いし買おうかな」
藤原「ありがとうございます!」
北島「じゃあ会計で。カードで(財布からカードを取り出し、藤原に渡す)」
藤原「畏まりましたー!こちらお預かりします!こちらでお名前とご住所と電話番号を書いてお待ち下さーい!(案内し、舞台上手に退場)」
北島「(席に着き、用紙に書く)」
藤原「(舞台上手から登場)はい、こちらお返しです(カードを北島に返す)もう終わっちゃいますが、他店でも使えるのでポイントカードはお作りになりますか?」
北島「じゃあ折角なんで」
藤原「ありがとうございますー。(懐からポイントカードとスキャナーを取り出し、スラッシュする)こちらにお名前をお書き下さい(ポイントカードとボールペンを北島に渡す)」
北島「はい(名前を書き、ボールペンを返す)」
藤原「そちらのカードはそのままお持ち下さい。今回のお買い上げの分はポイント付きますので」
北島「何%還元なんですか?」
藤原「通常は10%還元ですが、現在は閉店セール中なので20%還元になっております」
北島「そうなんですか。お得になっちゃったなぁ」
藤原「そうですねぇ」
北島「何で閉店しちゃうんですか?」
藤原「単純に不況ですね。他の店舗も閉店セール始めてます」
北島「そうなんですか。いつ閉店しちゃうんですか?」
藤原「それが分からないんですよ」
北島「は?」
藤原「上からの指示で、いつ閉めるかはまだ決まってないんです」
北島「あっそー。これ閉店が決まったのっていつですか?」
藤原「五年前ですね」
北島「は?」
藤原「今日で丁度、閉店セール五周年なんですよ」
北島「えっ?終わらないの?」
藤原「終わりますよ?」
北島「でもこのセール始まって五年も続けてるんでしょ?何で続いてんの?」
藤原「それがこのセールを始めてから売れ行きが良くて。儲かるので続けられるところまで続けようって話です」
北島「でも五年も続けてたら在庫とか」
藤原「毎週、入ってくるんですよ。新しいのが」
北島「何それ?閉店する気、無いじゃん」
藤原「今ある物は全て売り切れって事で」
北島「やっぱり辞める気無いじゃん」
藤原「辞めるつもりですよ?ただ、タイミングが合わないってだけで」
北島「新しい商品を入れるから閉められないんでしょ?」
藤原「そうですね」
北島「じゃあそれ止めたら良いじゃん」
藤原「稼げる時に稼いでおこうって判断らしいです」
北島「何がしたいの?」
藤原「商品を売りたいんです」
北島「そらそうでしょうよ。そうじゃなくて、閉店したいんじゃないの?」
藤原「我々としては閉店したいんですけど、上が『まだいける』と言っていて……」
北島「じゃあ閉店しなきゃ良いじゃん。儲かってるんでしょ?」
藤原「上はいずれ閉店して企業縮小を狙ってるみたいです」
北島「この店、そんなに状況が悪いの?」
藤原「そうですねぇ……物価高でなかなか売れなくて……」
北島「でもこの低価格で売れてるんでしょ?」
藤原「そうですねぇ」
北島「赤字ギリギリなんじゃないの?」
藤原「お陰様で 何とかやっていけてます」
北島「不況なんじゃないの?」
藤原「閉店セールを始めたら今まで売れなかった商品も飛ぶように売れて。元の価格と比べたら大幅に落ちますが、現在は業績が右肩上がりで」
北島「もうその路線で行ったらどう?激安家電量販店って事で」
藤原「その発想はありませんでした!」
北島「少し考えれば辿り着けそうなもんだが」
藤原「早速、上に掛け合ってみますね!」
北島「おう」
暗転。
明転。
家電量販店。
藤原、板付き。北島、舞台上手から登場。
藤原「いらっしゃいませー!あっ!先日の!」
北島「その後どうなったか気になって」
藤原「残念ながら、閉店となりました……」
北島「駄目だったか。で?いつ閉店になんの?」
藤原「それが未定なんですよ」
北島「またぁ?」
藤原「とりあえず今ある在庫70%を売り切ったら終わりらしいです」
北島「売れるの?」
藤原「売るというか、配ってるに近いです」
北島「と言うと?」
藤原「本格的に閉店するので、ポイント還元率を80%に引き上げました」
北島「何それ!?買い物し放題じゃん!?」
藤原「それで在庫ももう少しで無くなるので、このまま行けば年末中には閉店かと」
北島「あっそー。じゃあ今は何%OFFになってるの?」
藤原「90%OFFです」
北島「何だそれ!?増々、買い物し放題じゃん!?」
藤原「ただ一つ問題がありまして……」
北島「何?」
藤原「ポイント還元率は80%何ですけど、ポイント付与は90%OFFの値段で付けられるんですよ」
北島「どういう事?」
藤原「つまり、元値じゃなくて、値下げした金額分しかポイントは付けられないんです」
北島「それ殆どポイント貯まらないんじゃ……?」
藤原「ですねぇ」
北島「増々、何がやりたいのか分からん」
藤原「店長の私としてももうどうしたら良いのか……」
北島「アンタ店長だったの!?」
藤原「はい」
北島「もうこの施策、止めなよ!儲からない上に閉店出来ないよ!?」
藤原「私としては職を失わずに済むのでこれで良いかなって」
北島「一生終わらないぞ、この閉店セール!?」
―――終わり




