コント集14
コント集14
131・・・・癌患者
132・・・・死亡フラグ
133・・・キャバクラ
134・・・覚えてない
135・・・ゴルフ
136・・・良いよ別に
137・・・落ち着け
138・・・指揮者
139・・・当てんな
140・・・名探偵
『癌患者』
・登場人物
北島(医者)
小川(看護師)
藤原正将(患者)
藤原愛真(正将の妻)
・舞台
病室
正将「うわぁ~!」
明転。
病室。ベッド一つに椅子が一つ。
正将、ベッドの上で蹲っている。
小川「(舞台上手から登場)どうしました!?藤原さん!?」
正将「俺はもうすぐ死ぬんだぁ~!癌で死ぬんだぁ~!」
小川「藤原さん!落ち着いて下さい!先生、呼んできますから!(スマホを取り出し電話を掛ける)あ、北島先生ですか!?藤原さん、いつもの発作です!(舞台上手に退場)」
北島「(舞台上手から登場)失礼します。藤原さん、どうされましたか?」
正将「先生!本当の事言って下さい!俺、癌なんですよね!?もうすぐ死ぬんですよね!?」
北島「落ち着いて下さい。死にませんよ。それに、癌じゃありません」
正将「嘘吐かないで下さい!だったら何で三ヶ月も入院してるんですか!?」
北島「それは病気だからです」
正将「やっぱり……!やっぱり俺は病気なんだ!癌なんだ!もう助からないんだ!」
北島「だから落ち着いて下さい。実際、手術とかしてないでしょう?」
正将「末期だからもう手術しても意味が無いってい事なんでしょう!?俺もうすぐ死ぬんだぁ~!」
北島「ここは精神科の病棟だよ!」
正将「え?」
北島「『え?』じゃない!ここは精神科病院だよ!アンタは心の病で入院してるんだよ!」
正将「心の病……?え、じゃあ癌は……?」
北島「至って健康だよ!これが診断書だよ!(診断書を取り出す)」
正将「これは……俺を安心させる為の嘘ですよね!?」
北島「まだ言うか!?こっちがアンタの健康診断の結果だよ!(健康診断の結果報告書を取り出す)」
正将「これは……!?家族から言われたんですね!?」
北島「は?」
正将「家族から、俺を安心させる為に虚偽申告したんですね!?」
北島「違うわ!」
正将「違わない!俺は癌で死ぬんだ~!」
北島「逆に聞きますけど、何癌だと思ってるんですか?」
正将「肺癌!最近、痰が異常に出るし、咳も止まらない!これは肺癌の症状だ!」
北島「確かにそれは肺癌の症状の一つだけども、末期なら血痰が出てるし息苦しさも出てる筈だよ!」
正将「可能性はあるって事ですよね!?」
北島「アンタ、煙草吸うでしょう!?単純に肺が汚れてるだけだよ!」
正将「うわぁ~!やっぱり汚れてるんだぁ~!俺は肺癌で死ぬんだぁ~!」
北島「だったらタバコ止めればいでしょう!?」
正将「あ、それは無理です」
北島「何で!?」
正将「俺の精神安定剤なんで」
北島「だから肺が汚れるんだよ!」
正将「今度はこっちが逆に聞きますけど、俺、何の心の病なんですか?」
北島「妄想癖です」
正将「俺は妄想癖じゃない!れっきとした癌患者だ!俺はもうすぐ死ぬんだぁ~!」
北島「そんな元気な癌患者、見た事ありませんよ」
正将「それは人それぞれでしょぉ~!?うわぁ~!」
北島「……頭痛くなってきた……」
正将「大丈夫ですか!?どこか悪いんじゃないですか!?」
北島「悪いのはアンタですけどね!」
正将「やっぱり俺は悪いんだぁ~!」
北島「とりあえず病気を治しましょう!?ね!?」
正将「精神科の先生に俺の癌が治せる訳無いでしょ!?」
北島「だから癌じゃないって!何遍言ったら分かるんですか!?」
小川「(舞台上手から登場)あの~、北島先生?」
北島「どうしました?小川さん」
小川「他の病室の患者さん達から『五月蠅い』って苦情が来てるんですけど……」
北島「あぁ、それはすみません。すぐに終わらせます(鎮静剤を取り出し、正将に注射する)」
正将「これは?」
北島「心を落ち着かせる薬です。暫く眠って頭を冷やして下さい」
正将「…………(眠る)」
北島「あんまりこういう手は使いたくないんだけどなぁ」
暗転。
明転。
病室。
正将、愛真、板付き。正将、着替えている。愛真、菓子折りを用意しつつ荷物を纏めている。北島、舞台上手から登場。
北島「藤原さん、退院おめでとうございます」
愛真「これはこれは、北島先生。主人がお世話になりました(正将の頭を押さえて下げさせ、自分も頭を下げる)」
正将「お、お世話になりました」
北島「妄想癖が完全に治った訳ではないので、暫くは通院して下さい」
愛真「分かりました。おい(正将に肘打ちをする)」
正将「はい!この度は!大変!ご迷惑をお掛けしました!」
北島「どうしたんですか?急に」
愛真「この度はこの病院の皆様にご迷惑をお掛けしたみたいなので教育したんです」
北島「あぁ、そういう事ですか。良いんですよ。たまにこういった患者さんは来るので慣れてます」
愛真「そう言って頂けると幸いです」
北島「ではお送りいたします」
正将愛真「ありがとうございます」
暗転。
NA「数週間後」
明転。
病室。
小川、板付き。小川、ベッドメイクをしている。北島、舞台上手から登場。
北島「小川さん」
小川「北島先生?どうしました?」
北島「あの藤原さんがまた入院です」
小川「えっ?何でですか?また発作ですか?」
北島「いいや。あ、いや、まぁ発作は発作なんだけど……」
小川「別の病気ですか?」
北島「えぇ……その、『妻に殺される』とか言って……」
小川「奥さんに?」
北島「まぁ、あの怖い奥さんになら、今までこの病院での迷惑で殺されるかもしれないけど、まさかね」
正将「(裏で)妻に殺されるぅ~!」
愛真「(裏で)人聞きの悪い事言わないで!」
小川「またあの五月蠅い日々に戻るんですかぁ……憂鬱ですね」
北島「ああいった患者は一年に一人いるかいないかくらいで良いよ」
―――終わり
『死亡フラグ』
・登場人物
北島
藤原正将
枝村
藤原美幸
・舞台
廃屋
藤原の別荘
藤原宅
NA「世界はゾンビ達で埋め尽くされていた。人間対ゾンビの闘いが続いている」
明転。
廃屋。ソファが二つにテーブル一つ。
北島、藤原、銃を持って板付き。
北島「ゾンビの奴ら、ここまでは追っては来ないみたいだな」
藤原「あぁ。今のうちに英気を養っておこうぜ……痛ててて……」
北島「どうした?藤原」
藤原「さっきちょっとドジッちまってな……ゾンビに噛まれちまった……」
北島「マジかよ!?すぐ解毒薬を……って、丁度切らしちまってる……!」
藤原「大丈夫、ちょっと休めばすぐに元気になるから……!」
北島「おい、それ死亡フラグだぞ」
藤原「死亡フラグ?」
北島「その行動等をとったがために死亡する事だよ。口は禍の元。迂闊な事は言うな」
藤原「それはちょっと意味が違う気がするけど、分かった」
暗転。
NA「その後、奇跡の復活をした藤原」
明転。
北島「まさか自己回復でゾンビ化を免れるとは……」
藤原「耐性があったみたいだ。それに、アイツを残して死ねない(ペンダントを見る)」
北島「それは?」
藤原「あぁ、これ?美幸、小川美幸。俺の婚約者だ」
北島「そうか」
藤原「俺、この戦いが終わったら、彼女と結婚するんだ」
北島「それも死亡フラグだぞ」
藤原「マジで?今回ばかりはヤバいかも」
暗転。
NA「世界からゾンビが駆逐され、平穏な世界が訪れた」
明転。
藤原の別荘。ソファが二つにテーブル一つ。
北島「闘いが終わったな」
藤原「あぁ。お疲れ」
北島「それにしても良かったのか?奥さん置いて別荘なんか来て」
藤原「戦友達と共にゆっくり語らいたいって言ったら快諾してくれたよ」
北島「そうか。じゃあ今日はジックリ飲もう!」
藤原「おう!」
枝村「(舞台上手から登場)大変だ!部屋で西岡が死んでる!」
北島藤原「何だって!?」
北島「自殺か!?」
枝村「いや、体中めった刺しだった!殺しだよ!」
北島「何だって!?ここは陸の孤島……内部犯の犯行か……?」
藤原「何だって!?じゃあ俺は自分の部屋に戻らせてもらう!」
北島「待て!こういう時は一人になっちゃいけない!」
藤原「五月蠅い!殺人犯と同じ部屋になんていられるか!(舞台上手に退場)」
北島「それも死亡フラグ!」
暗転。
NA「その後殺人は起こらず、犯人は捕まり、無事家に帰ってきた北島と藤原」
明転。
藤原宅。ソファが二つにテーブル一つ。
北島「まさかまた生き残るとはな……」
藤原「俺に死亡フラグは通用しない」
北島「みたいだな」
美幸「(紅茶を乗せたトレーを持って舞台上手から登場)何々?何の話?」
藤原「何でもないよ。俺は不死身って話」
美幸「えー?何それー?(トレーを置こうとして躓いてひっくり返し、藤原にぶっかける)あっ!」
藤原「熱っ!?熱い!これは死ぬ!」
北島「大丈夫か藤原!?」
美幸「ごめんね!正将君!」
藤原「俺はもう駄目だぁ……死ぬ、死ぬ~!」
北島「それ生存フラグだぞ。死ぬ死ぬ詐欺」
藤原「生存フラグ?」
北島「立てておく事で死の危機に陥った時に助かる確率の上がる事。大丈夫だから。絶対助かるから」
藤原「本当に……?」
北島「あぁ、本当だとも」
藤原「……そっか!……うっ……!(気絶する)」
北島「藤原!?藤原ー!」
美幸「正将君!」
北島「奥さん!救急車!」
美幸「は、はい!(スマートフォンを取り出す)」
暗転。
NA「一週間後」
明転。
病院。ベッド一つにソファが二つにテーブル一つ。
藤原、ベッドの上で横になっている。美幸、板付き。北島、舞台上手から登場。
北島「失礼します」
美幸「あぁ、北島さん……」
北島「その後、藤原の容態は……?」
美幸「まだ目を覚ましません……」
北島「何でだよ……!」
美幸「火傷によるショックだそうです……でも、もうすぐ目を覚ますだろうってお医者さんが言ってました……」
北島「そうですか……」
藤原「……うっ……」
北島「起きたか!藤原!」
美幸「先生呼んできます!(舞台上手に退場)」
藤原「ここは……?」
北島「病院だ。お前、奥さんが零した紅茶で火傷して、一週間、目を覚まさなかったんだ」
藤原「そうだったのか……情けないなぁ……」
北島「しかしお前、本当に一時は危なかったんだぞ?生存フラグ立てといて死にかけるなよ」
藤原「それはお前が死亡フラグを立てたからじゃないか?」
北島「俺が?何で?」
藤原「『大丈夫だから。絶対助かるから』って言ってたじゃないか。アレだよ」
北島「あれで死ぬんかい!」
藤原「まだ死んでねぇよ!」
北島「そういう意味じゃねぇ!でも、助かって良かったよ。藤原」
藤原「あぁ。ありがとうな、北島」
暗転。
NA「その後、フェニックスという芸名で何度も生き残った男として本を出版した藤原は印税生活で悠々自適に奥さんと暮らしたのだった」
―――終わり
『キャバクラ』
・登場人物
北島(店長)
藤原(客)
枝村
・舞台
キャバクラ
明転。
キャバクラ。ソファが一つにテーブル一つ。
藤原、板付き。
藤原「(虚無に向かって)いや、大丈夫だって!ゴルフなんてコツを掴めば簡単なんだから!何だったら俺が手取り足取り教えてあげるから、今度、同伴してよ。大丈夫!ホテルとか行かないから!そのままこのお店来てあげるから!あ、喉乾かない?何か飲む?すいませーん!」
枝村「(舞台下手から登場)はい」
藤原「ウィスキー二つ!」
枝村「……はい(舞台下手に一旦退場し、すぐにウィスキー二つをトレーに乗せて登場)お待たせしました(ウィスキーを置いて舞台下手に退場)」
藤原「どうもー!じゃあ乾杯!あれ?飲まないの?俺が飲ませてあげようか?はい、あーん……じゃないな、何て言うんだろ、これ?まぁいいや、あーん(ウィスキーを零す)あっ、しまった。すいませーん!」
枝村「(舞台下手から登場)はい」
藤原「おしぼりお願いします!」
枝村「……はい(舞台下手に一旦退場し、おしぼり二つ持って登場)お待たせしました(おしぼりを置いて舞台下手に退場)」
藤原「(座席を拭きながら)もう酔っちゃった?じゃあ代わりに俺が飲んじゃうね!(ウィスキーを二つ飲む)いやー、君みたいな美人さんに会えるなんてこれはもう運命だね!ここの常連になるよ!あ、そうだ、同伴してもらう為にライン教えてよ(スマートフォンを取り出す)……よし、これでアドレスゲット!絶対ゴルフ行こうね!」
北島「(舞台下手から枝村と共に小さいバインダーを持って登場)お客さん、そろそろ時間です」
藤原「えっ、もうそんな時間っ!?君と話していると時間の流れが早いね!また会おうね!ばいばーい!」
北島「こちらお会計です(バインダーを渡す)」
藤原「はいはい。結構飲んじゃったからな……結構いったでしょ……えっ!?コレ嘘でしょ!?」
北島「いや、本当です」
藤原「だってこれ……七千円って安過ぎるでしょ!」
北島「適正価格です」
藤原「だってあんな美人な女の子と一緒で楽しく一時間飲んで食って七千円って!内訳はどうなってるんですか!?」
北島「女の子なんていなかったからだよ!」
藤原「えっ?」
北島「ずっとずーっと一人で飲み食いしてたからだよ!」
藤原「そんな事無いですよ!」
北島「お前がウチの店の女の子、全員フるから『一人で良い』って言ってずっと一人で飲み食いしてただけだよ!」
藤原「でもあんなに可愛い娘を隣りに座らせてくれてたじゃないですか!」
北島「虚無だよ!」
藤原「えっ?」
北島「虚無に向かってずっとお前、話してたよ!」
藤原「そんな……!?だって、あんなに俺好みだったのに!?」
北島「イマジナリーフレンドだよ!」
藤原「イマジナリーフレンド?」
北島「『想像上の仲間』や『空想の遊び友達』ってやつだよ!」
藤原「そうだったの!?」
北島「そうだよ!ずっと一人でペチャクチャ喋ってて周りのお客様、皆、気味悪がって帰ってったよ!」
藤原「マジっすか!?それはすみません!」
北島「本当は慰謝料を取りたいところだけど、今回はお好みの嬢を用意出来なかったって事で、お酒とおつまみの分だけ請求します」
藤原「マジですか~……分かりました……あ、ちなみに延長って出来ます?」
北島「まだ居座る気!?」
藤原「だってこのお店、雰囲気とっても良いし、お酒、美味しいし、おつまみも美味しいし、もう少し居たいんですよねー」
北島「これ以上、居ると営業妨害で警察に通報しますよ?」
藤原「何でですか!?お金は落してるでしょう!?」
北島「女の子に落とす金だよ!本来は!」
藤原「じゃあそのイマジナリーフレンドに対するチャージ料で良いですから!」
北島「そんな規約は無いから!」
藤原「臨機応変に!」
北島「限度がある!」
藤原「じゃあお酒、高いの注文しますから!ドンペリ十本!」
北島「そんなに!?肝臓大丈夫!?」
藤原「至って健康です!」
北島「お金、あるんですか?」
藤原「今日、競馬で買ったんで三百万程あります!」
北島「は、はぁ……じゃあ、せめて嬢を付けさせてもらえませんか?じゃないとお店として成り立たないんで」
藤原「えっ?でも俺のお気に入りの娘がいないのにチャージ料、取るんですよね?だったらいらないです」
北島「いや、嬢達のギャランティにも影響がありますので……」
藤原「それはそっちの都合でしょ?」
北島「こっちの都合って……そういう場所ですからね?」
藤原「客に満足に接客が出来ない嬢が来るくらいならイマジナリーフレンドで構いません」
北島「……そうですか。分かりました。何分延長しますか?」
藤原「九十分で!」
北島「畏まりました。おい」
枝村「はい(北島と共に一旦舞台下手に退場し、ドンペリ十本持ってくる)」
北島「お待たせしました。ドンペリ十本です」
藤原「ありがとうございます!じゃあ後は俺一人で楽しく過ごしますんで!」
北島「……畏まりました。(枝村と共に少し離れて)『本日貸切』の札を店の前に掛けといて」
枝村「分かりました」
暗転。
明転。
キャバクラ。
空けられたドンペリの瓶が散らばっている。
藤原「でさぁ、仕事で上手くいかないんだよぉ……あ、君もそう思ってくれる?嬉しいなぁ。初めて慰めてくれる人に出会えたよぉ」
北島「(舞台下手から枝村と共に小さいバインダー登場)まだやってるよ……お客さん、時間です」
藤原「あ、もうそんな時間?君と出会えて俺は嬉しいよ。またね。うん。また来るからね」
北島「こちらお会計です」
藤原「はいはい。えっ!?三百万!?何でそんなに高いんですか!?」
北島「内訳はウィスキー五杯十五万円、ドンペリ十本七十万円、店の迷惑料二百十五万円です」
藤原「ボッタクリだ!」
北島「そうだよ!」
藤原「えっ?」
北島「俺達はお前をボッタクリしようとしてるんだよ!」
藤原「何でですか!?」
北島「店に多大な迷惑を掛けられたからだよ!お前はこの店を貸し切り状態にした!その迷惑料だよ!」
藤原「俺は貸し切りにしろだなんて言ってない!」
北島「貸し切り状態にしないと他の客に迷惑だったんだよ!」
藤原「それはそっちが勝手にした事でしょう!?」
北島「そう言われるとそうだけど、そうさせたのは誰だ!」
藤原「分かりましたよぉ……払えば良いんでしょ?払えば……(鞄から三百万円の札束を取り出して枝村に渡す)ふー……」
北島「……帰れよ!」
藤原「え?まだ満足してないんで」
北島「こっちはもう疲弊し切ってんだよ!」
藤原「今日は貸し切りなんでしょ?じゃあもう閉店まで居ても良いじゃないですか」
北島「建前だよそれは!もう帰れ!これ以上居たら本当に営業妨害で警察に通報するぞ!?」
藤原「あんなボッタクリ価格払わせといて警察ですかぁ~?良いんですかぁ~?不利になるのはそっちじゃあないんですかぁ~?」
北島「ググッ……!わ、分かりました。じゃあ後、九十分だけですよ。それで手を打ちましょう」
藤原「ありがとうございます!いやぁ~、それにしても本当に良い店だなぁ……今度の同窓会ここにしようかな?」
北島「止めてくれよ。ここはそういう店じゃあ無いんだよ」
藤原「だってここの店の料理、拘ってますよね?比内地鶏のから揚げ。これはここで揚げなきゃ出来ない代物ですし、ポテトフライも出来立てを揚げてますよね?」
北島「レンジでチンだよ!」
藤原「えっ!?」
北島「冷凍食品だよ!」
藤原「冷凍比内地鶏!?」
北島「無ぇよそんなの!バリバリの冷凍食品をレンジでチンしてるよ!」
藤原「えぇ~!?絶対、比内地鶏だと思うんだけどなぁ~!?」
北島「取っちまえ!そんな馬鹿舌!お前アレだよ。酒飲み過ぎて舌が馬鹿になっちまってるんだよ」
藤原「そんな事無いですよ!こうやってドンペリの味だって分かるし!」
北島「水だよそれ!」
藤原「えぇっ!?」
北島「もしやと思って出してみたら案の定だったよ!お前、酒の味も分からないくらい競馬で勝って興奮してんだよ!」
藤原「詐欺じゃないですか!」
北島「お前の肝臓を労わってやったんだよ!」
藤原「余計なお世話だ!」
北島「仰る通りで!でもお前、あの伝票見て納得して金払ったろ!?」
藤原「何の事ですか!?」
北島「枝村ー!」
枝村「(小さいバインダーを持って舞台下手から登場)はい」
北島「これが内訳だよ!」
藤原「えぇっと……?水代、七十万円!?何で水がそんなにするんですか!?」
北島「一応高級ミネラルウォーターだからねぇ」
藤原「そんな……!?」
北島「分かったらもう帰れ!」
藤原「分かりましたぁ……(舞台上手に退場)」
北島「枝村、塩撒いとけ」
枝村「はい」
暗転。
明転。
キャバクラ。
北島、枝村、板付き。
枝村「昨日のアイツ、また来ますかね?」
北島「もう来ないだろ。あれだけ金を取られたんだから」
藤原「(舞台上手から登場)」
北島枝村「いらっしゃいませっ……!?」
藤原「どうも!また来ました!」
北島「もう金は無いんじゃないですか!?」
藤原「競輪で勝ったのでまたたんまり持って来てます!」
北島「でもまた嬢を付けないんでしょう?申し訳ありませんが、そういった方は帰って頂きます」
藤原「昨日、連絡先を交換した女の子からラインが来たんですよ。『今晩来てね』って。ほら(スマホを見せる)」
北島「こんな娘、ウチに居ないですよ?別の店では?」
枝村「あぁ、何か昨日一人で酒飲んでる時に連絡先を交換してましたね。その時の虚無の娘では?」
北島「怖っ!?ホラーやんけ!」
藤原「じゃあ昨日のドンペリ、今度は本物を十本!」
北島「もう嫌だコイツ!出禁だ出禁ー!」
―――終わり
『覚えてない』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
廃屋
・衣装
北島・・・覆面にピストル
明転。
廃屋。監禁場所。椅子が一つ。
藤原、椅子に座らされ、ロープで縛られている。北島、舞台上手から登場。
藤原「うっ……(目覚める)」
北島「目が覚めたようだな」
藤原「お前は……?」
北島「お前が起こした事件の被害者、とでも言っておこう」
藤原「俺が起こした事件……?」
北島「覚えているだろう?十年前のあの事件を」
藤原「覚えてない」
北島「じゃあ詳しく言ってやろう、2014年、三月三日、ひな祭りの日だ」
藤原「覚えてない」
北島「ならもっと詳しく教えてやろう。社長だったお前がその日、横領してトンズラしたせいで会社は倒産。社員は全員、路頭に迷う羽目になった。どうだ?思い出したか?」
藤原「覚えてない」
北島「だったらこの顔を見たら思い出すだろう(覆面を取る)どうだ?これでもまだ覚えてないとは言わせないぞ」
藤原「覚えてない……」
北島「お前の会社で部長をしていた北島だ!覚えてないとは言わせないぞ!」
藤原「覚えてない!」
北島「まだ言うか!藤原産業の元社長、藤原正将!」
藤原「覚えてない!」
北島「自分の名前すら!?もしかして人違いか……?」
藤原「覚えてない!」
北島「覚えてないって事は、心当たりはあるって事だろ?本当に覚えてないのか?」
藤原「覚えてない!」
北島「本当に?本当に覚えてない?」
藤原「実は去年、交通事故に遭って頭を打ったショックで記憶喪失になってしまって……」
北島「マジか……じゃあ復讐は意味が無いな……一旦、帰って良いぞ」
藤原「ありがとうございます!」
北島「(ロープを解く)じゃあまた記憶が戻った頃に」
藤原「はい!」
北島「じゃあ俺、帰るから。自力で帰ってね」
藤原「はい!お疲れ様でした!」
北島「何だコイツ(舞台上手に退場)」
沈黙。
藤原「……助かったぁ~!」
―――終わり
『ゴルフ』
・登場人物
北島
藤原
枝村
・舞台
ゴルフ場
北島「おっし!グリーンに乗った!」
明転。
ゴルフ場。カップが舞台中央に。周りにゴルフボール三個。
北島、藤原、枝村、舞台上手から登場。
藤原「上手いねぇ、北島」
枝村「本当に初心者?」
北島「まだ始めて一ヶ月とかだよ。ビギナーズラックってやつ?」
藤原「成程なぁ。でもここまで出来るのは才能だよ」
枝村「俺達も負けてられないな……(自分のゴルフボールの前でしゃがみ込む)」
藤原「俺も初心者には負けてられないな(自分のゴルフボールの前で寝転がる)」
北島「おぉ……本格的。芝を読んでるの?」
藤原「いいや?小休憩」
北島「は?枝村は?」
枝村「疲れたから横になってる」
北島「は?芝は?」
藤原「そんな高度な技、出来る訳無いじゃん」
枝村「俺も」
北島「えぇ……そこまでベテラン風な感じ出しといて……?」
藤原「言うて俺も枝村も始めて一年くらいだし」
枝村「そうそう。一ヶ月に一回、行くか行かないかくらいだし」
北島「そこまで経験者でも無かったんかい」
―――終わり
『良いよ別に』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
居酒屋
明転。
居酒屋。テーブル一つに椅子二つ。
北島、藤原、ビールを持って板付き。
北島藤原「カンパーイ」
北島「いやぁ、やっと二十歳になれたな」
藤原「キャンパスライフにも慣れてきて後輩も出来て毎日充実してるよな」
北島「去年に引き続き、クラスも一緒で嬉しいよ」
藤原「俺もだよ」
北島「サークルも一緒だし、今思えば高校からの腐れ縁だよな」
藤原「そうだな」
北島「高校三年生だよな?最初に出会ったの」
藤原「いや?高校一年生の時だよ。同じクラスになったの」
北島「あれ?そうだっけ?二年生は違うよな?」
藤原「いいや?二年生も同じクラスだよ」
北島「あれ?そうだっけ?でも部活は違ったよな?」
藤原「いいや?同じ野球部だったよ」
北島「あれ?そうだっけ?どこいた?」
藤原「外野」
北島「あれ~?そうだったっけ……?ごめん。記憶に無い……」
藤原「良いよ別に」
北島「すまんな……あ~、それにしても上京して五年も経つと故郷が懐かしくなってきた」
藤原「故郷?」
北島「言ってなかったっけ?俺、大阪出身なんだよ」
藤原「俺もだよ」
北島「えっ?そうなの?どこ?」
藤原「大阪市」
北島「俺と一緒じゃん!引っ越したの?」
藤原「うん」
北島「どこ中?」
藤原「東中」
北島「あれ?俺と一緒じゃん」
藤原「そうだよ?」
北島「えっ、じゃ、じゃあ俺達って中学からの付き合いなの?」
藤原「そうだよ?」
北島「でもクラス違ったよな?記憶に無いもん」
藤原「いいや?三年間、同じクラスだったよ」
北島「マジで?」
藤原「うん。よく部活でも一緒にトレーニングしていたし」
北島「部活も一緒だったっけ?」
藤原「うん。ずっと野球部だったよ」
北島「マジか……ごめん。記憶に無くて……」
藤原「良いよ別に」
北島「でも同郷がいるって嬉しいな。小学校はどこ?」
藤原「東岡小学校」
北島「マジか!?小学校から一緒だったの!?」
藤原「何だったら六年間ずっと同じクラスで倶楽部も一緒で、少年野球倶楽部も一緒だったし、幼稚園も三年間一緒のクラスだったよ」
北島「えぇ!?マジで!?ごめん!本当に記憶に無いんだ!」
藤原「良いよ別に」
北島「何で引っ越したの?」
藤原「親父がお前の親父さんと同じ会社で、一緒に転勤になった」
北島「えぇ!?そうだったの!?俺の親父とお前の親父さん、同じ会社だったんだ!?」
藤原「だから物心付く前から一緒だったんだよ。所謂、幼馴染だな」
北島「そうだったんだ……ごめん。記憶に無くて……」
藤原「良いよ別に」
北島「でも何で覚えてないんだろう……?そんなに遊んだりしなかったとか?」
藤原「いいや?小学校から高校まで休み時間はトランプしたりドッヂボールしたりしてよく遊んでたよ?」
北島「そんな事してたっけ……ごめん。記憶に無い……」
藤原「良いよ別に」
北島「……さっきから『良いよ別に』って、お前、何とも思ってないのか?」
藤原「何が?」
北島「記憶に無い、ばっかり言ってる俺に対して、怒りとか……」
藤原「無いよ別に」
北島「逆に何で?」
藤原「お前、昔から俺との思い出を覚えてないの知ってるから」
北島「えぇ……?まるで俺が薄情者みたいな言い方……」
藤原「間接的にそう言ってるんだけど?」
北島「酷くない?」
藤原「酷いのはお前だろ」
北島「そうでした。ごめんなさい」
藤原「良いよ別に」
北島「でも少しは怒ってるんだろ?酷いって思ってるんだから」
藤原「いいや?別に?」
北島「幼馴染が一切、自分の事を幼馴染と思ってなかったって、本当は怒ってるんじゃないか?」
藤原「だから怒ってないって。もう諦めてるし」
北島「やっぱり怒ってるじゃないか」
藤原「呆れてんだよ」
北島「やっぱりそう思ってたんじゃないか」
藤原「そりゃそうだろ。でも怒ってはない」
北島「どうしたらそこまで怒らずにいられるんだ?」
藤原「慣れだよ。慣れ」
北島「慣れ?」
藤原「うん。お前、進級や進学する度に人間関係をリセットする癖があるから最初こそ悲しかったけど、その度にまた俺と仲良くしてくれるから嬉しかったんだ」
北島「藤原……無理して付き合わなくても良いんだぞ?」
藤原「無理してないよ」
北島「ありがとう!」
藤原「後お前みたいな頭おかしい奴と友達でいてくれってお前のご両親から言われて、こっそりとお小遣い貰ってたから友達続けてた」
北島「はぁ!?親父とお袋、そんな恥ずかしい事してたのかよ!?」
藤原「今もしてるよ」
北島「マジかよ……」
藤原「で、この事は許してくれる?」
北島「良いよ別に……」
―――終わり
『落ち着け』
・登場人物
北島
藤原
枝村
・舞台
道端
明転。
道端。
北島、藤原、舞台上手から登場。
北島「でさー、その時、西岡が思ったより酔っぱらっちゃってさー」
藤原「えー?介抱、大変だったんじゃない?」
北島「そうだったんだよー。もう本当、アイツは酒飲ませちゃ駄目だって思ってさー」
枝村、舞台下手から登場。北島、枝村、肩がぶつかる。
北島「イテッ。あ、すみません」
枝村「あ、こちらこそすみません」
藤原「(北島を羽交い絞めにする)落ち着け!喧嘩は駄目だ!」
北島「えっ!?何っ!?」
藤原「落ち着け!とりあえず落ち着くんだ!」
北島「何だよ!?離せよ!?」
藤原「いいから落ち着け!貴方!大丈夫ですか!?」
枝村「あ、はい。大丈夫ですけど……」
藤原「ほら!相手もこう言ってる!落ち着け!」
北島「落ち着いてるよ!離せよ!」
藤原「落ち着けー!とにかく落ち着くんだー!」
北島「だから落ち着いてるって!いいから離せよ!」
藤原「駄目だ!興奮してる!離すもんか!いいから落ち着けー!」
北島「興奮してるのはお前だろ!」
枝村「あの、私は大丈夫ですから……」
藤原「ほら!この人もこう言ってる!許してやれ!」
北島「許すも何も、そもそも怒ってねぇよ!」
藤原「怒ってるだろ!?」
北島「怒ってねぇよ!」
藤原「声を荒げてる!やっぱり怒ってるじゃないか!」
北島「強いて言うならお前に対して怒ってるよ!」
枝村「あの、大丈夫ですか……?」
藤原「今のうちに逃げて下さい!こっちは大丈夫なんで!」
北島「大丈夫じゃねぇよ!いや、良いんだけど!こんな格好ですみませんが、どうぞお構いなく!」
枝村「そ、そうですか……?じゃあ、私はこれで……(舞台上手に退場)」
北島「おい!もうあの人行ったぞ!もう離せよ!」
藤原「いいや!お前はきっとあの人を追い掛けて殴りに行くに違いない!離すもんか!」
北島「あの人は殴らねぇよ!殴るとしたらお前だよ!」
藤原「やっぱり殴るんじゃないか!尚更、離さないぞ!」
北島「だから殴るのはお前だよ!」
藤原「暴力は良くない!」
北島「これもある意味、暴力だよ!」
藤原「無害な人に対して暴力を振るうような言い方!」
北島「どこが無害だ!俺の動きを封じてる癖に!」
藤原「それはお前が暴力を振るうからだろ!」
北島「まだ振るってないだろ!」
藤原「『まだ』って事は振るうつもりだったんだろ!?やっぱり離さない!」
北島「言葉の綾ってもんだろ!」
藤原「お前が暴力を振るうって言うなら、俺も暴力でそれを止めるぞ!」
北島「だから振るわねぇって!」
藤原「暴力は止めなさい!暴力すると、暴力するぞ!」
北島「何だその構文!?暴力はしない!だから早く離せ!」
藤原「どこにその根拠がある!?」
北島「離せば分かる!」
藤原「話して解決だな!?でも言葉の暴力という手も……!」
北島「何言っても駄目か!?どうすりゃ離してくれんだよ!?」
藤原「契約書にサインしてくれたら考える!」
北島「契約書?」
藤原「あぁ!(羽交い絞めしながら懐から契約書とペンを取り出して北島の手に渡す)これにサインを書け!決して暴力を振るわないと誓うんだ!」
北島「そこまでして!?書く必要無いだろ!」
藤原「書かないと信用出来ない!」
北島「ってか何でこんなの持ってんだよ?」
藤原「いつでも誰にでも暴力を振るわせない為に常に持ち歩いてるんだ!」
北島「えぇ……?分かったよ、書けば良いんだろ、書けば」
藤原「分かってくれたか!」
北島「書くから一旦、離してくれ」
藤原「離したらすぐ暴力を振るうかもしれないだろ!」
北島「振るわねぇよ!」
藤原「いいからこの姿勢のまま書け!」
北島「えぇ……?書き辛……(契約書にサインを書く)これで良いか?」
藤原「印鑑も!」
北島「持ってるか、そんなもん!」
藤原「無かったら母印でも良い!」
北島「朱肉は?」
藤原「無い!」
北島「じゃあ出来ないじゃん。どうすんの?」
藤原「無いから血判でも良い!」
北島「何時代だよ!?」
藤原「カッター持ってるから!(懐からカッターを取り出す)」
北島「嫌だよ!痛いじゃん!」
藤原「暴力で相手を傷付けるよりはマシだろ!」
北島「俺を傷付けるのは良いのか!?」
藤原「お前が他の人を傷付けるよりは良い!(カッターで北島の親指を切る)」
北島「イッテェ!」
藤原「さぁ!ここに血判を!」
北島「クソイテェ!分かったよ!(契約書に血判を押す)ほら!押したぞ!」
藤原「後はここを読んでくれ!」
北島「何?『私は他者を傷付けません』?」
藤原「三回、復唱してくれ!」
北島「何でそこまで!?」
藤原「信用問題!」
北島「そこまで俺は信用無いのか!?」
藤原「無い!」
北島「断言すんな!傷付くわ!」
藤原「ほら!読め!」
北島「分かったよ!『私は他者を傷付けません』『私は他者を傷付けません』『私は他者を傷付けません』。これで良いか!?」
藤原「承諾した!じゃあ離すぞ!(北島を解放する)」
北島「親指イッテェ……」
藤原「絆創膏貼るか?(懐から絆創膏を取り出して北島に渡す)」
北島「あぁ(絆創膏を親指に貼る)。全く、何でここまでされなきゃいけないんだ……」
藤原「お前が暴力を振るおうとするからだろ」
北島「しようとしてねぇよ。只のお前の思い込みだよ」
藤原「だって今にも喧嘩吹っ掛けようとしてたから……」
北島「お互い謝ってただろ」
藤原「そこから口論になって殴り合いになってかもしれなかっただろ」
北島「どんだけ信用無いの俺?」
藤原「だってお前、昔ヤンチャしてたんだろ?」
北島「は?してないが?」
藤原「え?お前、中学、高校と紅ナイフの北島って呼ばれてなかった?」
北島「それ別の北島!俺は別の中学、高校の普通の北島!」
藤原「あっ!?そうだったの!?勘違いしてた!」
北島「逆に何でそんな奴と友達になろうと思ってたの?」
藤原「いざという時、守ってもらおうと思って……」
北島「そんな理由で!?どんだけ敵がいるんだよ!?」
藤原「昔、俺ヤンチャしてたんだけど、腰巾着だっただけだから敵だけ多くなっちゃって……」
北島「お前の方が暴力的じゃねぇか!」
藤原「暴力には暴力で対抗するしか無いじゃないか!」
北島「一人で解決してくれ!もう絶交!」
―――終わり
『指揮者』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
コンサートホール
明転。
コンサートホール。台が一つ。
北島、板付き。
北島「本日は『大阪区民管弦楽団第十三回定期演奏会』にご来場頂き誠にありがとうございます。関係者の皆様にご支援、ご協力を賜り、ここに記念すべき第一回定期演奏会を開かせていただく運びとなりましたことを、心より感謝申し上げます。本日は若き天才、藤原正将氏による指揮でお送りいたします。本日はベートーヴェン『交響曲第5番【運命】』、クラウス・バデルト『彼こそが海賊』等3曲をお届けします。念願のこのステージに向けて、一生懸命練習を重ねてまいりました。未熟な点もあるかと思いますが、フレッシュな管弦楽団らしく、みずみずしい演奏をみなさまにお届けできればと思います。どうぞ最後までごゆっくりお楽しみください。それでは参りましょう。藤原正将さんです。ベートーヴェンの『運命』(舞台下手に退場)」
藤原「(舞台下手から登場し、一礼して指揮棒を振りかざす)」
BGM、「運命」
藤原「(最初は大人しいが、徐々に暴れていく。そして演奏終了)」
北島「(舞台下手から登場)お見事!流石、天才!」
藤原「そんな事ありませんよ。私は何もしておりません」
北島「またまたそんなご謙遜を。素敵でしたよ」
藤原「全ては楽団の皆の努力の賜物です」
北島「一丸となって頑張ったんですね」
藤原「私は指揮棒を振っただけです」
北島「それで皆さんが着いて来て下さったんですよね?」
藤原「いいえ?彼らは彼らで演奏してただけですよ?」
北島「どういう事ですか?」
藤原「まぁ、次をお聴きになれば分かりますよ」
北島「そうなんですか?では皆様、お聴き下さい。クラウス・バデルトの『彼こそが海賊』(舞台下手に退場)」
BGM、「彼こそが海賊」
藤原「(指揮棒を振りかざし、最初から暴れる。そして演奏終了)」
北島「(舞台下手から登場)お疲れ様でした。激しかったですね~」
藤原「はい。自分でも気持ち良かったです」
北島「まるでパフォーマーのような指揮でしたね」
藤原「私はパフォーマーですからね。指揮者じゃありません」
北島「は?」
藤原「だから、私は指揮者ではありません」
北島「じゃ、じゃあ今まで指揮棒を振ってたのは……?」
藤原「私は暴れてるだけです」
北島「はぁ!?じゃあどうやって演奏してたんですか!?」
藤原「だから言ったでしょう?皆の努力の賜物だって」
北島「じゃあ楽団の皆さんが自力で演奏してただけだったんですか!?」
藤原「そうです」
北島「じゃあ藤原さんの立ち位置は何なんですか?」
藤原「だからさっきも申し上げたでしょう?パフォーマーです」
北島「そう、だったんですか……」
藤原「次、行っていいですか?」
北島「あ、はい。それではお聴き下さい。最後の曲はドヴォルザークの『交響曲第9番第4楽章』。(舞台下手に退場)」
BGM、「交響曲第9番第4楽章」
藤原「(指揮棒を振りかざし、暴れる。暫く演奏した後、フェードアウト)」
暗転。
―――終わり
『当てんな』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
北島宅
明転。
北島宅。卓袱台一つに座布団二つ。卓袱台の上には缶ビール二つ。
北島、藤原、板付き。
北島「そうそう、日本には佐藤って苗字多いじゃん?」
藤原「あぁ、日本一多いんだっけ?」
北島「そうそう。あれ、日本に何人くらいいるか分かる?」
藤原「えー……?百八十四万二千人くらい?」
北島「……うん。そうなんだよ」
藤原「へー。そんなにいるんだぁ」
北島「うん……あ、世界で一番長生きした人って何歳だと思う?」
藤原「えー……?百二十二歳と百六十四日とか?」
北島「……うん。そうなんだよ」
藤原「へー。そんなに長く生きたんだ」
北島「うん……あ、世界で最も大きい南瓜って何kgだと思う?」
藤原「えー……?1246.9kgとか?」
北島「……うん。そうなんだよ」
藤原「へー。そんなに重いんだ。じゃあ相当大きいんだね」
北島「うん……あのさぁ」
藤原「何?」
北島「知ってた?」
藤原「何が?」
北島「今の話題」
藤原「いや?初耳だけど?」
北島「本当に?実は知ってたとか、思い出したとかじゃなくて?」
藤原「全然?」
北島「じゃあ当てるなよ!」
藤原「何?何が?」
北島「当てるなって言ってんの!俺からの問題を!」
藤原「問題は当てる為にあるんじゃないのか?」
北島「これはただの話題作り!当てられたら『そうなんだよ』としか言えないだろ!」
藤原「でも当てちゃったもんは仕方ないだろ」
北島「本当は知ってたんじゃないのか?まさか勘とか言わないだろうな?」
藤原「いや、勘だけど……」
北島「勘な訳無いだろ。数字が具体的過ぎるんだよ」
藤原「だって頭にパッと思い浮かんだ数字を言ってるだけだもん。他に理由なんて無いよ」
北島「根拠は何だよ?その数字を叩きだしたのには勘以外にもあるだろ?」
藤原「えー……?特に無いけど……」
北島「例えば。例えばよ?佐藤って苗字が多いのは知ってたよな?」
藤原「うん」
北島「何でその数字を導き出した?」
藤原「大体、日本の人口が一億二千万人だとして、日本には苗字が約三十万種類あるから、その約六倍くらいかなって思って」
北島「何で六倍だと思ったんだ?」
藤原「何でだろう……まぁいくら一番多い苗字だったとしても、多くても全体の二%くらいだろうと予測してたから、約二百万人くらいと予想して、流石に多いかなと思って少し減らした」
北島「あの一瞬でそこまで考えてたの?」
藤原「うん」
北島「マジか……長生きは?」
藤原「まぁ百歳は越えてるだろうなと思って。金さん銀さんがそうだったし。で、それを持ってくるなら百二十歳くらいは越えてるだろうと思って二歳くらい多目に言ってみた」
北島「南瓜は?」
藤原「これはふざけて一t越えさせて適当に言ってみた」
北島「何で細かい数字を叩き出せたんだよ?」
藤原「いや、別に理由は無いけど。ただ当てに行った」
北島「当てるなよ。話題が広がらないだろ」
藤原「そんな事、俺に言われても……」
北島「こっちはさ、実は○○なんだよね!って言って、ウッソォ~!?マジ~!?みたいな反応を貰って話を盛り上げたかったんだよ!」
藤原「あっそー。でも十分、驚いたけどね」
北島「もっと驚いてほしかった!話を膨らませたかった!」
藤原「話を膨らませたいって、具体的にどんなよ?」
北島「え?」
藤原「例えば佐藤って苗字があれだけいて、そこからどう話を膨らませるつもりだったの?」
北島「それは……まぁ、次に多い苗字は何だ、とか?」
藤原「しょーもな」
北島「何だよその言い方!?」
藤原「鈴木な。はい次」
藤原「年齢は?」
北島「それは……まぁ、自分達はどれだけ生きたいかって話とか?」
藤原「八十歳。はい終わり」
北島「早い!もっと盛り上がろう!?」
藤原「南瓜は?」
北島「好きな南瓜料理とか?」
藤原「天ぷら」
北島「あっさりし過ぎだろ!」
藤原「天ぷらは油を使ってるけど?」
北島「そういう事じゃねぇ!」
藤原「何よ?さっきから何に対して怒ってんの?」
北島「俺はお前と会話して盛り上がりたいの!なのにお前は話題クラッシャーで全然、話が膨らまない!楽しくない!」
藤原「今、盛り上がってるじゃん。俺が話題を膨らませないって話で」
北島「そんな事で盛り上がりたくないわ!」
藤原「お前の話題作りが下手なんじゃない?」
北島「何!?じゃあお前、何か話題作ってみろよ!」
藤原「次のアメリカの大統領選挙、誰が勝つと思う?人によっては日本との関係性が崩れる恐れもあるけど逆に言えばチャンスにもなると思うんだ。中国との関係性も気になるところだし、ここらで友好的な関係をより築けて行けたらと思うんだけど、お前どう思う?」
北島「話題が極端過ぎる!まるで俺が何も考えてないみたいじゃないか!」
藤原「えっ?違うの?」
北島「違うわ!俺だってその気になれば小難しい話の一つや二つ出来るわ!」
藤原「じゃあ話してみろよ」
北島「えっ?あー……えーっと……最近、ナウルって国では肥満者が急増してるみたいなんだけど、何割くらいが肥満者だと思う?」
藤原「ほら、またそういう話題だよ。それくらいしか無いの?」
北島「何だと!?じゃあ答えてみろよ!何割か!」
藤原「八十八.五%。十人中九人が肥満。どうだ?」
北島「やっぱりお前、答え知ってるだろ!」
―――終わり
『名探偵』
・登場人物
北島(名探偵)
藤原
枝村
西岡
小川
儀間
米山
高橋(最後だけ登場する刑事)
・舞台
別荘
明転。
別荘。
北島、藤原、枝村、西岡、小川、儀間、米山、板付き。
北島「犯人はこの中にいる!」
藤原枝村西岡小川儀間米山「何だって!?」
藤原「それで、名探偵さん。犯人は分かったのか?」
北島「これは非常に難しい事件でした。一つ一つ、説明していきましょう」
枝村「早くしてくれよ」
北島「まぁまぁ、そう焦らず。まず高橋さん殺害の際、犯人はアリバイがある状態で、且つ凶器を隠蔽し、大島さんを殺害した部屋から別の場所に移して殺害現場を偽装しました」
西岡「アリバイならこの中の全員にあるだろ」
北島「その通り。しかし、共犯者がいたらどうでしょう?」
小川「共犯者?」
北島「はい。共犯者がいるならこのトリックは簡単です」
儀間「でも二人じゃこの人数を欺けないのでは?」
北島「そこです。私も最初は犯人は二人だと思い込んでいました。犯人は二人以上。グループで殺人を犯したのです」
米山「で、犯人は?」
北島「トリック、凶器、アリバイ、全ての情報を結び付けると、答えは……犯人は貴方方、六人です!」
藤原枝村西岡小川儀間米山「何だって!?」
北島「……あれ?そうなる?そう、なる、か……で、ど、どうでしょう?皆さん?」
藤原枝村西岡小川儀間米山「よく分かったな……」
北島「あ、あれ?これ、四面楚歌……?」
藤原「知られてしまったからには生かしておけないな」
枝村「あぁ。殺すしかない」
北島「あ、あのー、皆さん……?」
西岡「どうやって殺す?」
小川「ロープで絞殺した後、首吊り自殺に見せ掛けるのはどう?」
北島「あ、具体的な殺し方出てきた」
儀間「遺書に今回の殺人の犯人だって書いておけば私達の犯行は全部コイツのせいに出来るし」
米山「確かに。その方が良いね」
北島「あ、もうこれは駄目だ。死んだな」
藤原「さぁ、大人しく殺されろ」
北島「刑事さーん!ここにたまたま居合わせた刑事さーん!助けて下さーい!」
枝村「あの刑事なら早々に帰って行ったよ」
西岡「お前の推理を先に聞いて何か先に帰って行ったよ」
北島「あの野郎ー!絶対に許さんぞー!化けて枕元に立ってやるー!」
小川「さて、覚悟を決めて、大人しく殺されろ」
北島「嫌だー!死にたくなーい!」
儀間「男共、奴を取り押さえろ」
米山「後は私達が首を絞める」
北島「止めろー!止めてくれー!」
暗転。
明転。
別荘。
北島、首にロープを巻き付けられて寝ている。
北島「ブハァッ!あっ!?あれっ!?生きてる!?」
高橋「(舞台上手から登場)気が付きましたか?」
北島「あれ!?刑事さん!?どうしてここに!?逃げたんじゃないんですか!?」
高橋「本部に応援を呼びに行ってたんです。間に合って良かった」
北島「俺、死ぬところだったんですよ!?いきなり俺に何も言わずに消えるなんて酷いじゃないですか!」
高橋「だって分が悪いと思ったんですもん。犯人達の話を聞いて、あの推理で最後まで犯人があの六人だって分からなかったの貴方だけだったらしいじゃないですか。普通、逃げますって」
北島「裏切者!」
高橋「こうやって助けに来たんだからもう良いでしょ。ほら、帰りますよ」
北島「もう探偵業止めようかな……」
高橋「探偵は探偵らしく事件の推理なんかしないで迷子猫探しとか浮気調査でもしておくんですね」
北島「事件を解決しなかった警察が何を言ってんだ!この無能!」
高橋「(手錠を北島に掛ける)」
北島「は?何?」
高橋「名誉棄損。逮捕」
北島「こんな事で逮捕するな!」
高橋「これが警察の仕事です」
北島「事件を解決しろ!」
高橋「これも立派な事件ですよ」
北島「もっと大きい事件がさっきあったろ!」
高橋「まぁまぁ、後は署でじっくり聞きますから」
北島「俺は無罪だー!」
高橋「犯人は皆そう言うんですよ」
北島「一括りにするな!俺は何もやってない!」
高橋「言葉の暴力を働いたんですよ。その自覚は無いんですか?」
北島「無い!事実を事実と突き付けたまでだ!」
高橋「じゃあ私達は正義を貫きますね」
北島「どこが正義だ!」
高橋「公務を執行します」
北島「こんなところで公務を執行するな!」
―――終わり




