コント集13
コント集13
121・・・・モンスタークエスト
122・・・出世払い
123・・・婚約記念パーティ
124・・・客引き
125・・・閻魔大王
126・・・馬鹿の記憶喪失
127・・・ナンバー2
128・・・親孝行
129・・・事故物件
130・・・ニュースキャスター
『モンスタークエスト』
・登場人物
北島(クエスト案内人)
藤原(冒険者)
枝村(冒険者)
小川(弓使い)
儀間(格闘者)
米山(僧侶)
西岡(盗賊)
・舞台
クエスト案内所
明転。
クエスト案内所。カウンター一つに椅子が一つ。カウンターの上にはPCが一つ。
北島、板付き。
藤原「(舞台上手から袋を持って登場)こんにちはー」
北島「あぁ、藤原さん。お疲れ様です。クエスト、終わったんですか?」
藤原「えぇ。今回も疲れましたよー。大変なクエストでした」
北島「そうですか。じゃあ今申請ますんでちょっとお待ち下さい」
藤原「はい」
北島「……はい、クエスト完了です。お疲れ様でした」
藤原「はい。ありがとうございました」
北島「あ、おめでとうございます。レベルアップです」
藤原「本当ですか!?」
北島「はい。レベル99になりました」
藤原「やったー!カンストしたー!ありがとうございますー!やったやったー!」
北島「…………」
藤原「どうしました?」
北島「非常に申し訳にくいのですが、ウチのカンターストップレベルは999なんです」
藤原「はぁ!?」
北島「今後の御活躍、お祈り申し上げます」
藤原「待って待って!?普通レベルカンストって99じゃないの!?」
北島「ウチでは999です」
藤原「じゃあこの後900もレベル上げなきゃいけないの!?」
北島「いけない訳ではありませんよ?」
藤原「そらそうだけども!俺はレベルをカンストしたくてずっとクエストしてきたの!これからどうすれば良いの!?」
北島「まぁ、仲間を集めるとかすれば良いんじゃないですか?」
藤原「今更、集められるか!」
北島「でしたら一気にレベルを上げられるクエストがありますけど」
藤原「何だそれは!?教えてくれ!」
北島「魔王討伐ですね」
藤原「魔王ってレベル何なの?」
北島「1000ですね」
藤原「馬鹿か!?レベル99に敵う訳無いだろ!」
北島「これが一番手っ取り早いんですけどねぇ」
藤原「それに俺達のカンストレベルは999なのに、魔王は1000ってどう言う事!?」
北島「普通一人じゃ向かわないですからね。カウンターストップした仲間達と共に討伐に向かうのが当たり前ですからね」
藤原「やっぱり仲間を集めないと駄目なのか……」
北島「そっちの方が効率が良いと思いますよ」
枝村小川儀間米山西岡「(舞台上手からドラゴンの頭を持って登場)お疲れ様でーす」
北島「あぁ、枝村様、小川様、儀間様、米山様、西岡様、お疲れ様です」
枝村「これ、今回のクエストの戦利品です」
北島「少々お待ち下さい。只今確認致します……はい。これでクエスト完了です。お疲れ様でした」
枝村小川儀間米山西岡「ありがとうございましたー」
北島「あ、おめでとうございます。皆様のカウンターストップレベル999になりました」
枝村小川儀間米山西岡「やったー!」
北島「次のクエストの予約はしていきますか?」
枝村「いや、今日は祝賀会で休みます。次に来た時に新しいクエストの申請をします」
北島「畏まりました。ではごゆっくりお休み下さい」
枝村「ありがとうございますー。ではー」
小川「祝賀会どこでやる?」
儀間「いつもの宿で良いんじゃない?」
米山「えー?お金も貯まってきたんだし、たまには豪勢に行こうよー」
西岡「俺は肉が喰えれば何でも良いや」
藤原「あのー……」
枝村「はい?どちら様?」
藤原「俺、藤原って言います。率直に言います。俺を貴方達のパーティに入れて下さい!」
枝村「は?」
藤原「俺、早くレベルカンストしたいんです!お願いです!協力して下さい!(土下座する)」
枝村「ちょっ、こんな所で止めて下さい。顔を上げて下さい。ちなみに今のレベルは?」
藤原「99です」
小川「一人で99になったの?」
藤原「はい」
儀間「寂しっ」
藤原「で、でもカンストレベルが999なら、そこまで大した数字じゃ……」
米山「一人でそこまでコツコツとレベルを上げたのは認めるけど、それで私達のパーティに入って私達に何のメリットがあるの?」
藤原「そ、それは……」
西岡「金でもくれるって言うなら考えてやっても良いぞ~?」
枝村「コラッ、西岡っ。まぁ、今回は縁が無かったという事で……」
藤原「……ある……」
枝村「え?何ですか?」
藤原「金ならある!(懐から金貨がタンマリ入った袋を取り出す)」
小川「えっ、な、何で!?」
儀間「凄い……これ、豪邸一軒建つくらいあるじゃない……」
米山「何でこんなにお金があるの……?」
西岡「これで高級ドラゴン肉何体分、喰えるんだ……?」
枝村「もしかしてお金持ちの家系なんですか?」
藤原「いえ、今までやってきたクエストで貯めたお金です……コツコツ貯めました……」
枝村「これは全財産ですか?流石にそれは受け取れませんよ」
藤原「いえ、ほんの一部です。後は金庫にしまってあります」
小川「これが、ほんの、一部……?」
枝村「ちょ、ちょっと待ってて下さいね?話し合ってきますから」
藤原「はい……」
枝村「(小川、儀間、米山、西岡と共に少し離れる)……どうする?」
小川「お金はあるに越した事は無いよね」
儀間「これから魔王討伐しに行くつもりな訳だし、防具とか買い揃えたいしね」
米山「魔力回復の薬草もね」
西岡「高級な肉喰って栄養を付けたいし。体力作りは基本でしょ」
儀間「盗賊のアンタに体力作りはあまり必要無いんじゃ……?」
西岡「何を言う。盗みだって立派な仕事だぞ」
小川「立派か……?」
米山「立派ではないわね」
枝村「まぁまぁ。じゃあ彼の事は決まりで良いね?」
小川儀間米山西岡「オッケー」
枝村「(小川、儀間、米山、西岡と共に藤原の下に行く)今回の件は無かった事に……」
藤原「はぁ!?何でだよ!?さっきまでかなり俺を評価してるみたいな言い方だったのに!?」
枝村小川儀間米山西岡「だって人手足りてるし」
藤原「人出が多い事に越したことは無いでしょ!?」
枝村「あれ?ご存じありませんか?パーティは最大で五人までなんですよ?」
枝村「えっ?そうなの?」
北島「そうですよー」
枝村「じゃあ何で先に言ってくれないの!?」
北島「だってクエスト説明書の最初に書いてあるから分かると思いまして」
藤原「嘘ぉ!?」
枝村「本当ですよ」
藤原「じゃ、じゃあ、補欠で良いんで俺をパーティに入れて下さい!」
枝村「まぁ、それなら……」
北島「大丈夫ですけど……」
枝村「じゃあ早速レベル99でもクリア出来るクエスト申請しましょう。テストです」
藤原「ありがとうございます!」
北島「じゃあこのドラゴン退治なんてどうですか?」
藤原「ドラゴンか……」
枝村「何、今までは一人だったかもしれないけど、今は仲間がいるんです。サポートはしますから、やってみましょう」
米山「怪我したら私が治してあげるよ」
西岡「じゃあレベルカンスト記念と新歓コンパを兼ねてパーッといこうぜ!」
儀間「私もうお腹空いちゃった。早く行こう」
小川「私もー」
枝村「じゃあ行こうか。じゃあ北島さん、また明日」
北島「はい。おやすみなさい」
暗転。
明転。
クエスト案内所。
北島、板付き。藤原、枝村、小川、儀間、米山、西岡、舞台上手から登場。枝村と西岡で藤原を担いでいる。
北島「ど、どうしました!?」
枝村「すみません!ちょっとここ借ります!米山さん!回復魔法!」
米山「分かったわ!(SE、ヒール音)」
北島「どうしてこうなったんですか!?まさかドラゴンに!?」
枝村「いや、大型スライムにやられたんです!」
北島「えぇ!?」
藤原「……うぅ……ここは……?」
枝村「目が覚めましたか!?どうしてあんな雑魚モンスターにやられたんですか!?」
藤原「俺、あんな強力モンスターと戦った事無かったので……」
枝村「あの程度で強力……?今までどんなモンスターと戦ってきたんですか?」
藤原「ずっと、スライムと戦ってきました……」
枝村「うん?それで?」
藤原「だから、ずっとスライムと戦ってきました……」
枝村「どういう事ですか?」
北島「藤原さんは弱小スライム退治専門家としてコツコツ戦ってレベルを上げていったんです」
枝村「雑魚かよ!」
藤原「雑魚だよ!」
枝村「誇るな!」
藤原「でも弱小スライムだけでレベル99までなったんですよ!?それは誇っても良いでしょう!?」
枝村「気力と胆力だけはあるんだな!?でも失格!」
―――終わり
『出世払い』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
個人飲食店
明転。
個人飲食店。閉店間際。カウンター席に椅子が四つ。カウンターの裏は厨房。
北島、藤原の耳を掴んで舞台上手から登場。
藤原「いててててててて!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
北島「はいはい駄目駄目。食い逃げは犯罪だからねー(藤原をカウンター席に座らせる)」
藤原「どうか警察にだけは!」
北島「駄目、駄目。窃盗と同じだからね。通報させて頂きます」
藤原「お願いします!この通りです!(床に土下座する)」
北島「(カウンターの中に入る)……アンタさぁ、何でこんな事したの?」
藤原「俺……まだ売れてない芸人なんです……お金が無くて……でもひもじくて……それで……」
北島「……(カウンターからカツ丼を取り出してカウンターに置く)喰いねぇ」
藤原「えっ……?」
北島「喰いねぇ」
藤原「良いんですか……!?」
北島「これからはここで好きなだけ喰って良い。だが、他の店ではするなよ?」
藤原「は、はいっ!ありがとうございます!」
北島「勘違いするなよ?あくまで出世払いだからな?いつか売れた時、纏めて払ってもらうからな?」
藤原「はい!分かりました!ありがとうございます!じゃあ、頂きます!(カツ丼を喰う)」
北島「おう」
藤原「美味しい!美味しいです!」
北島「当ったり前よぉ。何年この店やってると思ってるんだ」
藤原「あはは!含蓄のある言葉ですね!」
北島「五月蠅ぇよ」
藤原「(カツ丼を食べ終える)あの、おかわり、頂けますか……?」
北島「良い喰いっぷりだねぇ。よっしゃ。まかせとけ。どんどん喰え。(カツ丼のおかわりをカウンターに置く)ほれ、喰いねぇ」
藤原「わー!ありがとうございます!(ガツガツとカツ丼を喰う)おかわり!」
北島「良い喰いっぷりだ。気に入った。どんどん喰いねぇ」
藤原「(ガツガツとカツ丼を喰う)おかわり!」
北島「はっはっは。良いぞ。どんどん喰いねぇ」
藤原「(ガツガツとカツ丼を喰う)おかわり!」
北島「おう。立派な芸人さんになれよ?」
藤原「はい!頑張ります!(ガツガツとカツ丼を喰う)おかわり!」
北島「おう」
暫く「おかわり!」「おう」が続く。フェードアウト。
暗転。
明転。
個人飲食店。
北島、閉店作業をしている。「倒産しました」と書かれた張り紙を貼っている。
北島「……はぁ~……(項垂れる)」
藤原「(舞台上手から登場)おやっさん!今日も来ましたよ!」
北島「藤原か……悪いがもう飯は喰わせてやれねぇ」
藤原「えぇ!?何でですか!?」
北島「(『倒産しました』の張り紙を指差す)」
藤原「……えぇ!?倒産!?何でですか!?」
北島「お前がガツガツ無銭飲食したからだよ!」
藤原「俺のせいですかぁ!?」
北島「教えてやろうか!?お前、一日三食、六百円のカツ丼十杯を毎日喰ってただろ!それが原因で倒産したんだよ!」
藤原「そんな数年程度で潰れるんですか!?」
北島「十年だよ!」
藤原「えっ?」
北島「十年だよ!十年間食い逃げした結果潰れたんだよ!」
藤原「無銭飲食だの食い逃げだのって……おやっさん、認めてくれてたじゃないですか!」
北島「まさか本当に売れないままずっとここで喰い続けるだなんて思ってもみなかったんだよ!」
藤原「あぁ!先見の明が無かったって事ですか!?」
北島「言葉に気を付けろ!誰のせいでこうなったと思ってるんだ!?もういい!金払え!」
藤原「えっ?」
北島「『えっ?』じゃない!今までのツケを払えって言ってんだ!」
藤原「えぇ!?でももう潰れたんですよね!?だったらもう俺が支払う義務は無いじゃないですか!」
北島「売掛金の回収は法で定められてるだよ!」
藤原「売掛金って何ですか!?小難しい言葉使って俺を騙そうったってそうはいきませんよ!」
北島「ツケの事だよ!今すぐ払え!」
藤原「分かりましたよ……全く、法を味方に付けなければ金を請求出来ないなんて、何て守銭奴だ……」
北島「割増ししてやろうかこの野郎」
藤原「ごめんなさい!勘弁して下さい!」
北島「次は無いからな」
藤原「はい!で、おいくらですか……?」
北島「えーっと……(胸ポケットから手帳を取り出す)一日一万八千円×三百六十五日×七年と、閏年で一万八千円×三百六十六日×三年で、五百五億一千六百七十八万四千円だな」
藤原「五百億……!?そんな無茶な!」
北島「その無茶をしたのは誰だ!払え!すぐに!借金をしてでも!」
藤原「五百億なんて金を貸してくれる金融屋がどこにいるんですか!?」
北島「知らねぇよ!」
藤原「せめて期間を下さい!少しずつでも返すので!」
北島「信用ならん!」
藤原「俺、ここの味、好きだったんです!だからまたおやっさんのカツ丼喰いたいんです!また活動、再開出来るように必ず借金は返済しますから、おやっさんも頑張って下さい!」
北島「何で俺が励まされてんのか分からんが、とりあえず誓約書書け。オラッ(藤原の耳を掴んで店内に入っていく)」
藤原「いててててててて!あぁ、懐かしいなぁ……こうやって俺が喰い始めたんですよね!」
北島「五月蠅ぇ!今じゃ大分後悔してるよ!」
暗転。
明転。
個人飲食店。
北島、皿洗いをしている。
藤原「(舞台上手から登場)」
北島「らっしゃ……何だ、お前か」
藤原「何だって何ですか~。俺とおやっさんの仲でしょう?」
北島「あぁ。借金取りと債務者な」
藤原「も~、そんな堅苦しい肩書もう良いじゃないですか~。それにしても、また再開したんですね」
北島「色々、借金してな。で、何しに来た?」
藤原「勿論、借金を返しに来ました」
北島「はぁ?誓約書書かせたのに十年間一度も金を返しに来なかったお前が今更、金を返しに来ただぁ?どうやって工面してきたんだ?」
藤原「俺、芸人、辞めたんです」
北島「は?じゃあどうやって金稼いだんだ?真面目に働いて……って十年じゃとても無理か。じゃあ闇金か?」
藤原「いいえ。純粋に転職しました」
北島「何に?」
藤原「フードファイターです」
北島「フードファイターぁ?それってそんなに稼げるもんなの?」
藤原「テレビだけじゃなくてユーチューブやインスタグラムやティックトックや大食い勝負の店を回って荒稼ぎしました」
北島「あ、そー。じゃあ、はい。返して」
藤原「はい。小切手で良いですか?」
北島「何でも良いよ」
藤原「はい(胸ポケットから小切手を取り出して北島に渡す)」
北島「おぉ……マジか……お疲れさん」
藤原「はい。おやっさん!また、いつものカツ丼下さい!」
北島「今度は金を貰うぞ?」
藤原「先払いしましょうか?」
北島「そこまで自信があるなら信用してやるよ(カツ丼を取り出してカウンターに置く)。はい、カツ丼一丁」
藤原「頂きます(カツ丼を喰う)。あぁ……美味い……!あの頃のままだ……!」
北島「そうかい。おかわりは?」
藤原「いります!」
北島「はいよー。あれだけ大食いだったんだしフードファイターは天職だったんじゃないか?」
藤原「適材適所ってやつですね!」
―――終わり
『婚約記念パーティ』
・登場人物
北島
藤原
枝村
ナレーション(女性)
・舞台
婚約記念パーティ会場
明転。
婚約記念パーティ会場。テーブル一つに椅子が三つ。
北島、藤原、枝村、板付き。北島、カメラを持って舞台中央にいる。藤原、枝村、席に着いている。
北島「(カメラを持って撮影)はーい!新婚さん!こっち向いてー!はい、チーズ!はーい、どうもー!(席に座る)」
藤原「今時『はい、チーズ』はダサくないか?」
北島「じゃあ何て言えば良いんだよ?」
枝村「『3,2,1、はい、撮るよー!』くらいで良いんじゃない?」
北島「そっかー。次からはそうするかー」
藤原「それにしても何だなぁ。西岡もこんなタイミングで結婚披露宴なんかしなくても良いのに」
北島「そうだなー。コロナ禍が薄まったとは言え、またコロナ患者、増えてるんだろ?そんな時にこんな会開かなくてもなー。これでコロナになったら目も当てられないぞ」
枝村「一年前から決めてた事だし、コロナ禍、再開になったのは彼らのせいじゃないだろ。それに結婚披露宴じゃなくて、婚約記念パーティだし」
北島「それもそうだな」
藤原「しかし西岡の親父さんの急な引退で三十代で社長になるなんてな」
枝村「その報告もあってのこの婚約記念パーティなんだろうな」
北島「だろうな」
藤原「なぁ、北島。この会のご祝儀いくら出した?」
北島「五万」
藤原「太っ腹ー。枝村は?」
枝村「三万。ちょっと今月は厳しくてな」
藤原「あぁ、俺と同じか。俺も今月は厳しくてなー」
北島「俺だって厳しいよ?でも祝うんならこれくらい出しとこうと思ってさ」
藤原「偉いなー、お前」
NA「西岡聖弘さんと小川美幸さんの婚約記念パーティに集まり頂きありがとうございます。しばしご歓談下さい。尚、後日、結婚を祝う会を行いますのでご参加成される方は後日お送りするハガキに参加の丸を付けてご返送下さい」
藤原「……今何て言った?」
北島「結婚を祝う会をするって言ってたな」
藤原「はぁ!?またこの会やるの!?またご祝儀出さなきゃいけないの!?」
枝村「嫌なら参加しなきゃ良いじゃん」
藤原「でも参加しなくてもご祝儀は出さなきゃいけないだろ!?そんなガメツイのかよ!?」
枝村「落ち着けって、藤原。参加しない場合のご祝儀の相場は一万円だぞ?」
藤原「高ぇよ!参加しなくても一万払うとか絶対嫌だ!」
北島「藤原、落ち着けって。絶対参加じゃないだけまだマシだろ?」
藤原「絶対参加じゃないところが逆に辛い!」
NA「結婚を祝う会を行った後、後日、結婚お披露目パーティ、結婚祝賀会、結婚披露パーティ、結婚パーティと結婚式、結婚披露宴を行いますので、皆様ご検討下さい」
藤原「結婚を祝う会を開くだけじゃなくて結婚お披露目パーティと結婚祝賀会と結婚披露パーティと結婚パーティと結婚式と結婚披露宴も開くの!?」
北島「結婚式と結婚披露宴は当たり前だろ」
藤原「絶対嫌だ!参加しなくても、今日含めて十万も払うんだぞ!?お前らそれで良いのか!?」
北島「いや、俺は別に」
枝村「俺も別に」
藤原「お前ら参加するつもりなのか!?」
北島「まぁ、ここまで来たら最後まで付き合おうかなって」
枝村「俺も」
藤原「お前らよく考えろ!北島!お前は今日で五万払ってるんだぞ!?後六回もこんな事やってたら三十五万吹っ飛ぶんだぞ!?」
北島「まぁ、期間空くし、そこは工面してどうにかするよ」
藤原「正気かお前!?枝村!お前はどうだ!?十八万吹っ飛ぶんだぞ!?」
枝村「いや?俺は婚約記念パーティと結婚を祝う会と結婚祝賀会には三万ずつ、結婚披露パーティと結婚式結婚と披露宴には五万ずつ払うつもりだから計二十四万だな」
藤原「お前ら正気の沙汰とは思えないぞ!?こんな滅茶苦茶まかり通って良いのか!?」
枝村「仕方ないじゃん。本人達がやりたいって言ってんだから」
北島「しかし、確かに三十五万は痛いな……」
藤原「そうだろう!?三十五万あったら煙草、約七百箱買えるんだぞ!?」
北島「煙草換算すんなよ。ヤニカスかお前?」
藤原「一日一箱で二年近く吸えるだぞ!?こんな出費、痛すぎるだろ!」
枝村「だから参加しなければ良いじゃん。そうすれば最低の出費で済むんだぞ?」
藤原「友達の結婚を不参加って今後の友情に関わるだろ!」
北島「じゃあ参加しても一万円のご祝儀で済ませれば良いじゃん」
藤原「それはそれで友情に亀裂が入るかもしれないだろ!」
北島「じゃあどうしたら良いんだよ?お前はどうしたいの?」
藤原「俺は納得がいかないの!何でこんな滅茶苦茶をやってるのか!」
枝村「結婚を祝ってほしいんでしょ?」
藤原「んな事ぁ分かってんだよ!大体さぁ、婚約記念パーティと結婚を祝う会と結婚祝賀会と結婚披露パーティと結婚披露宴って何が違うの?」
枝村「婚約記念パーティは婚約を祝う会で、立ち飲みだな。同窓会みたいなものだ。結婚を祝う会はカジュアルなパーティ。結婚祝賀会は主催者や主役が日頃お世話になっている人たちと喜びを分かち合う為に開催される会。結婚披露パーティは結婚を祝う会よりさらにカジュアルになった立食パーティみたいなもの。結婚披露宴は会社の同僚や上司、部下、親族、友人に結婚を祝ってもらう会だよ」
藤原「淡々と説明するんじゃねえ!意味あったのかよ!?」
枝村「そらあるよ」
藤原「はぁ……今月厳しいし、彼らには一万円で我慢してもらうか……でもなぁ、各一万円かぁ……」
北島「嫌いになった?」
藤原「そらなるよ!こんな無駄な事して!」
枝村「無駄じゃないよ。婚約記念パーティは婚約を祝う会で、立ち飲みで同窓会みたいなもの。結婚を祝う会はカジュアルなパーティ。結婚祝賀会は主催者や主役が日頃お世話になっている人たちと喜びを分かち合う為に……」
藤原「さっきも聞いたわ!お前らどこからそんな金出てくんの?北島、三十五万とか月収に近いんじゃないのか?」
北島「俺は貯金があるし、稼いでるから」
藤原「嫌味か!枝村はどうなんだよ?月収レベルで払うんだぞ?」
枝村「俺も貯金はあるし稼いでるから」
藤原「お前も嫌味か!おれはどうしたら良いんだ!」
枝村「煙草、止めたら?貯金、貯まるよ?」
藤原「そういう事じゃない!そういう打開策を求めてるんじゃない!」
北島「結局お前は金を出したくないんだな?」
藤原「そうだよ!こんな金にガメツイ奴らだと思わなかったからな!」
枝村「じゃあどうするの?参加するの?しないの?」
藤原「行くよ!」
北島「行くんかい」
枝村「金は?」
藤原「出す!」
枝村「いくら?」
藤原「各五千円!」
北島「そんだけ?」
藤原「七万も出したら煙草百四十箱買えるんだぞ!?そんなに出せるか!」
北島「お前も十分ガメツイじゃねぇか」
藤原「当たり前だ!大体お前ら、何でそこまでして西岡の結婚を祝うなりなんなりに素直に出るんだよ!?」
北島「だってウチの会社の大事な取引先だから……」
枝村「右に同じ」
藤原「お前らだってガメツイじゃねぇか!」
―――終わり
『客引き』
・登場人物
北島
藤原
米山
・舞台
ファストフード店
道端
明転。
道端。後ろにはファストフード店。カウンター一つにキャッシャー一つ、メニューが一つ。
藤原、板付き。北島、舞台上手から登場。
藤原「あっ、そこのお兄さん?最近疲れてませんか?」
北島「何ですか急に?誰ですか、貴方?」
藤原「そこのお店の者です。如何ですか?可愛い子揃ってますよ~?」
北島「可愛い子~?どうしよっかなぁ……でも俺、腹、減ってるんですよね」
藤原「あぁ!もうそりゃあとっておきですよ!ウチでは食べ物に力を入れてるんで!」
北島「珍しいね。お酒じゃないんだ?」
藤原「はい。お酒も一部ご用意出来ますが」
北島「じゃあ折角だし行こうかな?」
藤原「ありがとうございまーす!」
北島「遠いの?」
藤原「いえ!すぐそこです!ではこちらへー!(北島と共に舞台下手へ一旦退場し、奥のファストフード店に舞台下手から登場)いらっしゃいませー!(ファストフード店の帽子を被る)」
北島「えっ、何ここ?」
藤原「ファストフード・バーガーフジワラへようこそー!」
北島「は?ファストフード?可愛い子のいる店に行くんじゃないの?」
藤原「可愛い子達が勢ぞろいですよー!ウチで丹精込めて作った可愛い商品達がね!」
北島「あっ、そういう意味!?何だよ!折角、可愛い女の子達と一緒に食事が出来るんだと思って楽しみにしてたのに!」
藤原「(メニューを持ち上げる)この商品達を擬人化したのがこちらにございます!」
北島「これを見ながら食べろと!?」
藤原「いけませんか?」
北島「寂し過ぎるだろ!何だよ!?絵を見ながらその商品を食べるって!?」
藤原「まぁまぁ。アニメを見ながら食事をするみたいなものですよ」
北島「そういう物?まぁ、ボッタクリの店に捕まるよりはマシか……」
藤原「ウチは至って健全です!如何ですか?」
北島「腹、減ってるし丁度良いか。何があんの?」
藤原「オススメは萌え萌えバーガーと萌え萌えポテトと萌え萌えドリンクの萌え萌えセットになります」
北島「何だそのメイド喫茶みたいなネーミングセンスは?」
藤原「そういうお店です」
北島「あ、そう。じゃあそれで」
藤原「畏まりましたー!では萌え萌えセットお一つで宜しいですか?」
北島「普通にバーガーセットって言ってくれない?」
藤原「当店の決まりですので」
北島「あ、そう。デザート的な物は無いの?」
藤原「只今すぐにご用意出来るのは女汁になりますね」
北島「何だその絶望的なネーミングセンスは。女汁?」
藤原「はい。裏で女の子が丹精込めて作ったバニラシェイクです」
北島「じゃあバニラシェイクで良いだろ。てかさっきの『萌え萌え』を頭に着けるのは何処に行った?」
藤原「そこは気付きませんでした……!」
北島「ポンコツかな?てかバニラシェイクに丹精込めるも何も無くね?機会にアイスクリームをセットしてかき混ぜるだけでしょ?」
藤原「女の子が作ってると思うと興奮しません?」
北島「しねぇよ!てか裏に女の子いるならその子と飯食わせろよ!」
藤原「ここはそういうサービスはしておりませんので……」
北島「まぁ、ファストフード店だしな。仕方ないか、そこは」
藤原「では女汁一つ追加で宜しいですか?」
北島「女汁って言うの止めない?バニラシェイクって言って?」
藤原「当店の決まりですので」
北島「あっそう。じゃああんま言いたかないけど、女汁一つ追加で」
藤原「畏まりました。ドリンクは如何致しますか?」
北島「あー、何があんの?」
藤原「女汁ABCですね」
北島「また出たよ女汁。Aは何?」
藤原「コーラですね」
北島「Bは?」
藤原「オレンジジュースですね」
北島「Cは?」
藤原「紅茶ですね」
北島「じゃあ最初からそう言えよ!」
藤原「当店の決まりですので」
北島「あっそ!じゃあ女汁Aで!」
藤原「畏まりました。ちなみに萌え萌えポテトと女汁Aと女汁はサイズが選べます。ちっちぇぇ!普通かよ!でっけぇ!の三種類からお選び頂けます」
北島「何だよちっちぇぇ!普通かよ!でっけぇ!って!?SMLって言えば良いだろ!」
藤原「当店の決まりですので。で、如何致しますか?」
北島「全部でっけぇ!で!何故なら面白そうだから!」
藤原「畏まりました。ちなみにお客様、当店の割増しチケットはお持ちですか?」
北島「無ぇよ!あっても一生使うかそんなもん!」
藤原「そうですかー……では萌え萌えセットと女汁お一つで、萌え萌えポテトと女汁と女汁Aは全てでっけぇ!で、合計三千円になります」
北島「高っ。何でそんな高いの?」
藤原「オプション料金です」
北島「オプション料金?何の?」
藤原「裏で女の子達が丹精込めて作ってるので、その料金です」
北島「にしたって高過ぎるよ」
藤原「後は深夜料金ですね」
北島「深夜料金って、ここ、二十四時間営業とかなの?」
藤原「いいえ?夜十時から深夜三時までの五時間営業です」
北島「じゃあ深夜料金もクソも無いじゃねぇか!」
藤原「後、コンセプト代ですね。この店の萌え萌えな雰囲気ですね」
北島「コンセプト代って、もう本格的にメイド喫茶と何ら変わらないじゃねぇか!」
藤原「夜のメイド喫茶と思って頂ければ」
北島「その肝心のメイドが居ねぇんだよ!」
藤原「お客様、そろそろこっちの方良いですかね?(金のジェスチャーをする)」
北島「支払いで良いだろ!分かったよ!(財布を取り出し三千円を取り出す)はい、三千円!」
藤原「はい、丁度お預かりします。二千円のお釣りです」
北島「じゃあ千円じゃねぇか!何だったんだよ今までのやり取り!?」
藤原「当店の決まりですので」
北島「お前、それ言えば何でも許されると思ってないか?」
藤原「いけませんか?」
北島「いけませんよ!?魔法の言葉じゃないんだから!」
藤原「善処します。では順番にお呼び致しますので少々お待ち下さいませー」
北島「はいはい」
藤原「(一旦舞台上手に退場し、米山と共にバーガーセットとバニラシェイクを乗せたトレーを持って登場)お待たせしましたー」
北島「随分早いね?」
藤原「ファストフード店ですから」
北島「ちゃんと火ぃ通した?」
藤原「勿論です!」
北島「そこの方は?」
藤原「ウチの従業員の米山です。今回の調理を担当しました」
米山「米山です。この度はご来店頂き誠にありがとうございます」
北島「あ、はい。何しに来たんですか?紹介ですか?」
米山「最後の仕上げをしにきました」
北島「最後の仕上げ?」
米山「美味しくな~れ!萌え萌えキュン!」
北島「いよいよメイド喫茶と何ら変わらなくなってきたな……」
米山「では私はこれで失礼します。ごゆっくりお召し上がり下さい(舞台上手に退場)」
北島「で、どこで食べれば良いの?」
藤原「二階席がございます」
北島「あぁ、はい。あっちね(トレーを受け取り、舞台上手に退場)」
藤原「ごゆっくりどうぞー」
暗転。
明転。
ファストフード店。
藤原、板付き。北島、舞台下手から登場。
藤原「いらっしゃいませー。あ、お客様、この前の」
北島「その節はどうも。また食べに来たよ」
藤原「ありがとうございますー」
北島「すぐそこでこの店の割増しチケット貰ったんだけど、これ何の意味があんの?」
藤原「オプションで女の子が席に着いて食べ物と飲み物をお客様のお口に運びます」
北島「マジで!?じゃあ最初からそう説明してくれよ!」
藤原「聞かれなかったので」
北島「普通、聞くかよ!そんな事!」
藤原「本日は如何致しますか?」
北島「萌え萌えセット、女汁A、女汁、全てでっけぇ!で(割増しチケットを取り出してカウンターに置く)」
藤原「畏まりました。では割増料金で計五千二百円になります」
北島「割増しし過ぎだろ!(財布を取り出し、五千二百円をカウンターに置く)はい、五千二百円!」
藤原「丁度お預かり致します。四千円のお釣りです」
北島「じゃあ千二百円じゃねぇか!好きねぇ!このクダリ!」
藤原「では承りますねー。米山さーん」
米山「はーい。(舞台上手かバーガーセットとバニラシェイクを乗せたトレーを持って登場)お待たせしましたー」
藤原「米山さん、これ、割増しチケット」
米山「あ、分かりましたー。お客様、どうぞ二階席へー。いーっぱい、食べさせてあげますねー!」
北島「わーい!ありがとうございますー!」
藤原「これ、次回から使える割増しチケットですー(北島に割増しチケットを渡す)」
北島「はい、どうもー」
藤原「今後ともご贔屓にー!」
北島「はーい!」
―――終わり
『閻魔大王』
・登場人物
閻魔大王(閻魔)
北島
閻魔大王秘書(秘書)
・舞台
地獄裁判所
明転。
地獄裁判所。高い台の上に豪華なデスクが一つに豪華な椅子が一つ。
閻魔、席に着いている。北島、床で寝ている。
北島「……うっ……ここは……?」
閻魔「目が覚めたかぁ!」
北島「うわぁっ!?だ、誰!?」
閻魔「我は閻魔大王!これよりお前の天国か地獄行きの裁判を行う!」
北島「何だって……!?俺は天国に行きたい……ここは嘘を吐くか……閻魔大王様、私は前世では清く正しく生きてまいりました……!」
閻魔「嘘を吐くでなぁい!」
北島「ヒィ!」
閻魔「お前は前世で数々の罪を犯してきた!よってお前は……!」
北島「(ゴクリ)」
閻魔「四国行きだ!」
北島「小旅行!?」
閻魔「地獄温泉を七ヶ所巡って身を清めて天国に昇ると良い!」
北島「地獄温泉は大分県の別府ですよ!?」
閻魔「えっ!?そうなの!?」
北島「そうですよ!?」
閻魔「今の今まで間違えてた……」
北島「大丈夫かよ。この閻魔大王様……」
閻魔「ま、まぁ良い。別府で地獄温泉巡りをして自分の罪を償って来い!心を浄化されてくるが良い!」
北島「結局、小旅行と何ら変わりませんよ!?」
閻魔「と、申すと?」
北島「地獄温泉は観光地ですよ!?身を清めると言えば確かに綺麗な体になるかもしれませんが、心はポカポカするだけで何の浄化にもなりませんよ!?」
閻魔「そ、その心が大切なのだ!ポカポカする心を以って天国に逝く。苦行だぞ~?」
北島「どこが苦行なんですか?」
閻魔「熱いぞ~?この世の地獄ってくらい熱い風呂に入る。これほどの苦行はあるまい!」
北島「温泉の温度は43℃前後ですよ!?少し熱いな~、くらいにしか思いませんって!」
閻魔「えぇっ!?だって泉温100℃前後って情報が……」
北島「源泉の泉温はね!?お風呂に入るには冷やしてたり薄めたりしてるんですよ!?」
閻魔「そんな……!?で、でも海地獄で溺れたり!」
北島「海地獄はコバルトブルーが美しい地獄って温泉ですよ!?」
閻魔「鬼石坊主地獄でどつかれたり!」
北島「鬼石坊主地獄は心落ち着く穏やかな地獄って温泉ですよ!?」
閻魔「かまど地獄で煮えたぎらせられたり!」
北島「かまど地獄は様々なテイストの地獄が楽しめるって温泉ですよ!?」
閻魔「鬼山地獄で鬼に責められたり!」
北島「鬼山地獄は湯けむりに囲まれた通称『ワニ地獄』って温泉ですよ!?」
閻魔「白池地獄で体まで白く塗り潰されて辛い思いしたり!」
北島「白池地獄は日本庭園のある趣ある地獄って温泉ですよ!?」
閻魔「血の池地獄で血を見る事になったり!」
北島「血の池地獄は真っ赤な光景はまさに地獄絵図って温泉ですよ!?」
閻魔「龍巻地獄で竜巻に巻き込まれて死ぬ思いをするとか!」
北島「竜巻地獄は勢い良く噴出する迫力の間欠泉って温泉ですよ!?」
閻魔「……随分詳しいんだな」
北島「そりゃ生まれ故郷ですもん。知ってますよ」
閻魔「そうなの?じゃあ今まで我がやってきた事って……」
北島「ただの小旅行プレゼントをしてただけですね」
閻魔「何だって……!?じゃあ今まで無駄な事をしてきたって事!?」
北島「そうですね」
閻魔「そんな……!?」
北島「で、どうします?」
閻魔「で、でも地獄温泉巡りした皆はスッキリした顔をしてたぞ!?」
北島「そりゃ『整う~!』を体験してきたからでしょ」
閻魔「良いから行ってこい!そしてスッキリした魂で天国に逝け!」
北島「ふと思ったんですけど、何で素直に地獄に送らないんですか?」
閻魔「えっ?」
北島「俺は前世で確かに悪事を働きました。素直に地獄に送れば良いじゃないですか」
閻魔「今、地獄は悪人でいっぱいなんだ。少しでも地獄に割く人手を減らす為に、現世に戻って善行を積んだり魂を浄化してもらって天国に逝ってもらおうと思ってな」
北島「逆に言うと天国ってそんなに人がいないですね?」
閻魔「人には業というものがあるからな。それを償って初めて天国に逝けるのだ」
北島「そういうもんですか?」
閻魔「そういうものだ」
北島「じゃあ俺、地獄温泉巡りに行ってきますね」
閻魔「あぁ。くれぐれも他のお客様のご迷惑にならないように気を付けるんだぞ」
北島「業者かっ。じゃあ行ってきますね」
暗転。
明転。
地獄裁判所。
閻魔、秘書、板付き。北島、床で寝ている。
北島「……うっ……ここは……?」
閻魔「目が覚めたようだな」
北島「閻魔大王様……じゃあ、俺、またここに……?」
閻魔「あぁ。どうだ?体の調子は?」
北島「はい。とても調子が良いです」
閻魔「そうか」
北島「閻魔大王様、ありがとうございました!」
閻魔「何がだ?」
北島「俺、あんな極楽、初めてでした!これからは心を入れ替えて天国で過ごします!」
閻魔「そう思ってくれたなら、あの地獄温泉巡りは意味があったな」
北島「はい!」
閻魔「ではお前は天国逝きだ。ご苦労だったな」
北島「ありがとうございました!」
秘書「ではこちらへ(北島と共に舞台上手に退場し、すぐに戻ってくる)今回も成功でしたね」
閻魔「あぁ。自分を見直す機会を与えて、反省して天国に逝ってもらう。これで地獄は少しは楽になるだろう」
秘書「これからもこの方法でやっていきましょうね」
閻魔「あぁ。これで順調に昇進していけば、いずれは本当の閻魔大王に……!」
秘書「でもまずは大分出身者限定地獄裁判所所長・閻魔大王を卒業しないと」
閻魔「……はい」
秘書「そんな勢いで本当の閻魔大王になれるとでも?」
閻魔「はい!」
秘書「声が小さい!」
閻魔「はい!!」
秘書「まだまだぁ!」
閻魔「ひ~ん……(泣く)」
秘書「そんな覚悟だったのか!大分出身者限定地獄裁判所所長・閻魔大王!」
閻魔「この秘書、怖いよぉ……!」
秘書「私如きに負けてどうするんですか!ほら!腹から声出して!」
閻魔「はい!」
秘書「もっともっと!」
閻魔「はいぃ!」
暫く秘書の煽りと閻魔の「はい!」が続き、フェードアウト。
―――終わり
『馬鹿の記憶喪失』
・登場人物
北島(医師)
藤原正将(患者)
藤原愛真(正将の母)
小川美幸(一瞬だけ登場)
・舞台
病室
診察室
明転。
病室。ベッドが一つに椅子が一つ。
正将、ベッドの上で寝ている。愛真、椅子に座っている。
正将「……うっ……!」
愛真「正将!目が覚めたのね!?」
正将「ここは……?」
愛真「良かった……!ここは病院よ!」
正将「病院……?って、何?」
愛真「何を言ってるの?」
正将「それに、貴方、誰ですか……?」
愛真「私の事が分からないの!?貴方のお母さんの愛真よ!?」
正将「分からない……僕は、僕は一体、誰なんだ!?」
愛真「先生、呼んでくるわ!(舞台上手に退場)」
暗転。
明転。
病室。
北島、椅子に座っている。正将、ベッドの上で起き上がっている。愛真、北島の後ろに立っている。
北島「(聴診器を当てている。そして離す。頭をチェックし、手を離す)軽い質疑応答をさせて頂きますね」
正将「シツギオウトウ?」
北島「軽い問い掛けに答えて下さい」
正将「はい……」
北島「アメリカの首都は?」
正将「分かりません……」
北島「5×8は?」
正将「分かりません……」
北島「今は西暦何年ですか?」
正将「分かりません……」
北島「そうですか……分かりました。ありがとうございました(愛真と共に少し離れる)とても重篤な状態です。記憶が戻るかどうかは分かりません。日常生活に必要な知識も欠けています。普段通りの生活も送れるかどうか……」
愛真「あ、そこは問題無いです」
北島「えっ?と言うと?」
愛真「あの子、馬鹿なんです」
北島「は?」
愛真「ですから、あの子、馬鹿なんです」
北島「……意味が分からないんですが、知識が欠けている点を踏まえると、入院した方が宜しいかと思われるのですが……」
愛真「いえ、あの子、あの程度の質疑応答にも答えられないくらい元々、馬鹿なんで、普段の日常生活には何の問題も無いと思われます」
北島「えぇ!?アレ、素だったんですか!?」
愛真「はい……」
北島「し、しかし、記憶喪失である事に変わりはありませんから、週一で通って下さいね?」
愛真「分かりました……」
暗転。
明転。
診察室。診察台一つに椅子が二つ。
北島、正将、椅子に座っている。愛真、正将の後ろに立っている。
北島「その後、一週間が経ちましたが、記憶の方はどうですか?」
正将「大分戻りました」
北島「そうですか。それは良かったです。具体的にどこまで思い出せましたか?」
正将「家族の事と、友人関係、仕事の事、一人称が『俺』、思い出がチラホラと」
北島「そうですか。かなり良くなってきてますね」
正将「ただ、原因が分からなくて……」
北島「そこがネックですよね……」
愛真「あのー、その事で一つ思い当たる事があるんですが……」
北島「何でしょう?」
愛真「入ってもらっても良いですか?」
北島「どなたか来ていらっしゃるんですか?」
愛真「はい」
北島「どうぞ、入ってもらって下さい」
愛真「はい。小川さーん」
小川「(舞台下手から登場)失礼します」
北島「貴方は?」
小川「小川美幸です。藤原正将君とは幼馴染です」
正将「うっ、頭が……!」
北島「大丈夫ですか!?藤原さん!?」
愛真「正将!」
正将「思い、出した……!俺、美幸に告白してフラれたんだ……!そのショックで倒れて気を失ったんだ……!それで、記憶が……!」
北島「ど、どういう事です?」
正将「いやー!絶対イケると思ったんだよなー!絶対、結婚までこぎつけるつもりだったんだけどなー!」
愛真「だから言ったじゃない。無理だって」
小川「そうよ。私は正将の事なんてこれっぽちも恋愛感情なんて抱いてなかったんだから」
正将「そんなぁ……」
小川「正将、大学も行ってないし、高卒で稼ぎも良くないし、何よりノリが高校生で止まってて正直、痛いし」
正将「うっ……!(気絶する)」
北島「藤原さん!?藤原さーん!?」
暗転。
明転。
病室。
正将、ベッドの上で寝ている。北島、椅子に座って聴診器を正将に当てている。愛真、北島の後ろに立っている。
愛真「先生、どうなんでしょうか……?」
北島「心因性ショックによる気絶でしょう。すぐに目を覚ましますよ」
正将「……うっ……!」
愛真「正将!目が覚めたのね!?」
正将「ここは……?」
愛真「良かった……!ここは病院よ!」
正将「病院……?って、何?」
愛真「何を言ってるの?」
正将「それに、貴方、誰ですか……?」
愛真「私の事が分からないの!?貴方のお母さんの愛真よ!?」
正将「分からない……僕は、僕は一体、誰なんだ!?」
北島「またかよ!?じゃ、じゃあまた軽い質疑応答させて頂きますね」
正将「シツギオウトウ?」
北島「またそこから!?もう何を質問したら良いか分からんよ!」
愛真「先生!見捨てないで下さい!」
北島「じゃああの小川美幸さんを連れて来て下さい!すぐ記憶が蘇るでしょう!?」
小川「(舞台上手から登場)もう来てます」
愛真「美幸ちゃん!」
正将「君は……美幸!?そうだ!俺、美幸にフラれて……!うっ……!(気絶する)」
愛真「正将!」
北島「……気を失いました。でもすぐに目を覚ますでしょう」
正将「……うっ……!」
愛真「正将!」
正将「ここは……?」
愛真「良かった……!ここは病院よ!」
正将「病院……?って、何?」
愛真「何を言ってるの?」
正将「それに、貴方、誰ですか……?」
愛真「私の事が分からないの!?貴方のお母さんの愛真よ!?」
正将「分からない……僕は、僕は一体、誰なんだ!?」
北島「またかよ!?もうどうしたら良いか分からん!」
愛真「先生!どうしたら良いんですか!?」
北島「入院して自然治癒!」
―――終わり
『ナンバー2』
・登場人物
北島
竹内
藤原
枝村
高橋
西岡
・舞台
アジト
明転。
アジト。椅子が一つ。
北島、椅子に縛られている。側に竹内が立っている。
北島「……うっ……!ここは……?」
竹内「目が覚めたか」
北島「アンタは……?」
竹内「組織の者だ」
北島「組織?じゃあ、アンタは幹部か」
竹内「裏切者は殺す」
北島「待ってくれ!俺は裏切者じゃない!」
竹内「ボスから指令が出たんだ。(リストを取り出す)このリストの中に裏切者がいるってな」
北島「だから俺は裏切者なんかじゃない!信じてくれ!」
竹内「(銃を取り出し、北島に発砲する)」
北島「うぐぅ!」
竹内「最後に一分間だけ猶予をやる。それまでに白状するんだな。まぁ、白状しなかったら殺すだけだが」
北島「アンタ、一体何者だ……?」
竹内「そうだな。冥途の土産に教えてやろう。俺はこの組織のナンバー2。竹内だ」
北島「そうかよ……だが、俺は裏切者じゃあない。残念だったな」
竹内「一分が経った。疑わしきは罰する。それが俺のポリシーだ(銃口を北島に向ける)」
北島「くっ……!」
竹内「じゃあな、北島」
藤原「(舞台上手から登場)『疑わしきは罰せず』が正しい言葉だよ。竹内さん」
竹内「……藤原か」
北島「アンタは……?」
藤原「僕はこの組織のトップ2。藤原。宜しくね、北島君」
北島「と、トップ2……?でもこの竹内がナンバー2って……?」
竹内「藤原ぁ!お前、俺がナンバー2だって言ってるだろ!」
藤原「だからそれは前にも否定しなかったでしょう?僕はトップ2だと言っているんです」
竹内「どっちも変わらねぇだろ!」
枝村「(舞台上手から登場)変わるのはどっちかな?」
竹内「枝村ぁ……!」
藤原「枝村さん……」
北島「アンタは……?」
枝村「失礼。挨拶が遅れたね。私はこの組織の二番手、枝村だ」
北島「二番手……?でもさっきナンバー2だかトップ2だかって……」
竹内「枝村ぁ!お前、その名乗り止めろって前にも言っただろ!」
藤原「そうですよ!僕がトップ2です!」
枝村「いいや、私が二番手だ。それは譲らない」
高橋「(舞台上手から登場)譲らないのはこっちの台詞ですよ」
竹内「高橋ぃ……!」
藤原「高橋さん……」
枝村「高橋君……」
北島「アンタは……?」
高橋「私はボスの右腕。高橋だ」
北島「じゃ、じゃあ、アンタが実質トップ2……?」
西岡「(舞台上手から登場)ちょっと待ったぁ!」
竹内「西岡ぁ……!」
藤原「西岡さん……」
枝村「西岡君……」
高橋「西岡……」
北島「アンタは……?」
西岡「俺はこの組織の上から二番目に位置する男。西岡だ」
竹内「お前らぁ!勝手に二番目を狙うな!俺がナンバー2だ!」
藤原「だから言ってるでしょう!?僕がトップ2です!」
枝村「いいや、私が二番手だ!」
高橋「ボスの右腕は私のモノだ!」
西岡「組織を引き継ぐのはこの俺だ!」
北島「頭痛くなってきた……」
枝村「大体、何だ!二番目に位置するって!二番って言葉が私と被ってんだよ!」
西岡「そんな事言ったら組織の組織のって言ってる時点で被り過ぎだろ!それにナンバー2とトップ2って何だ!2が被ってんだよ!」
竹内「仕方ないだろうが!実質ナンバー2なんだから!」
藤原「実質って言っちゃったよ!じゃあ貴方ナンバー2じゃあないんじゃないですか!」
北島「(手錠を落とす)」
高橋「じゃあ私は『ボスの』右腕だから一抜けぴっぴですね!」
枝村「ふざけるな!一人だけ違うの混ざってるだけだろ!」
藤原「そうですよ!何、自分だけ特別扱い受けてると思ってるんですか!」
高橋「実際、特別でしょうが!」
北島「(ソロ~っと舞台上手に向かう)」
竹内「特別なのは俺だ!」
藤原「いいや、僕だ!」
枝村「私だ!」
高橋「私だ!」
西岡「俺だ!」
北島「(舞台上手に退場しようとする)」
竹内「あっ!?お前、何してる!?」
北島「あ、やべっ(舞台上手に駆けて退場)」
竹内藤原枝村高橋西岡「待て!ゴルァ!(全員で北島を追い、連れ帰ってくる)」
北島「クソッ……!」
竹内「お前、誰がこの組織のナンバー2だと思う?」
北島「は?」
藤原「トップ2ね」
枝村「二番手な」
高橋「右腕ね」
西岡「上から二番目ね」
竹内「どれでも良いわ!ここはナンバー2に統一させてもらう!で、俺達の誰がナンバー2だと思う?」
北島「そんな事、答えたってどうせ殺されるんだろ?」
藤原「これに答えてくれたら見逃してあげますよ」
北島「は?良いのか?」
枝村「ナンバー2権限で今回の事は無かった事にしてあげます」
北島「そ、そうか……」
高橋「で、誰だと思う?」
北島「うーん……」
西岡「さっさと決めてくれ」
北島「俺、アンタ達の事、知らないから何とも言えないな」
竹内「そうか。じゃあ学力テストで勝負を付けよう」
北島「が、学力テスト……?」
藤原「良い案ですね(舞台上手に退場)」
枝村「じゃあ机を運んで来よう(舞台上手に退場)」
高橋「では私は問題用紙と回答用紙を持って来よう(舞台上手に退場)」
西岡「手伝おう(舞台上手に退場)」
竹内「俺も。あ、逃げたら殺すからな(舞台上手に退場)」
北島「あ、はい……」
竹内、藤原、枝村、高橋、西岡、机と椅子と問題用紙と回答用紙と鉛筆と消しゴムを持って来て並べて座る。
北島「で、俺に何をしろと?」
竹内「試験官をやってほしい」
北島「し、試験官……?」
藤原「時間は一時間」
枝村「カンニングなどの不正が無いか見張っててほしい」
北島「は、はぁ……」
高橋「早く終わればその分、点数アップ」
西岡「その上で採点をして、合計点を競う。良いね?」
北島「は、はい……」
竹内「じゃあカウントダウンを始めてくれ」
北島「あ、はい。十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、始め!」
暗転。
明転。
竹内藤原枝村高橋西岡「出来た!」
竹内「チッ……!同じタイミングか……!」
藤原「採点しましょう」
北島「じゃあ解答用紙を集める」
枝村「いや、その必要は無い」
北島「え?」
竹内、藤原、枝村、高橋、西岡、胸ポケットから赤ペンを取り出す。
高橋「丸付けは我々でやる。君は解答を読み上げてくれ」
北島「は、はぁ……」
西岡「じゃあ読み上げてくれ」
北島「はい。じゃあ第一問。一番」
竹内藤原枝村高橋西岡「良~いです!」
北島「……第二問。三番」
竹内藤原枝村高橋西岡「違~います!」
北島「……第三問。四番」
竹内藤原枝村高橋西岡「良~いです!」
北島「小学校か!何だこの採点方法!?」
竹内「良いから続けろ!殺されたいのか!?」
北島「すみません!じゃあ第五問……」
暗転。
明転。
北島「第二十問。一番」
竹内藤原枝村高橋西岡「良~いです!」
竹内「チッ……!今度は点数も同じか……!」
藤原「じゃあ次は何で勝負付けます?」
枝村「カラオケとかどうですか?」
高橋「同じ曲で?」
西岡「そりゃそうでしょ」
北島「俺、いる?」
竹内「いるに決まってるだろ」
藤原「貴方以外に誰が立会人になるって言うんですか?」
北島「あ、そう、ですか……」
暗転。
明転。
カラオケジュークボックスがある。
西岡、歌い上げる。
点数が表示される。
竹内「チッ……!また点数が同じか……!」
藤原「ここまで来たら、運で決めませんか?」
枝村「じゃあじゃんけんとかどうですか?」
高橋「良いでしょう」
西岡「異論は無い」
北島「今度も俺、いる?」
竹内「当たり前だろう」
藤原「さっきも言いましたけど、誰が立会人になるって言うんですか?」
北島「ですよねー。でもじゃんけんって、一斉にやるのか?」
高橋「その方が公平だろう」
北島「でもそれだと下手するとずっと相子にならない?」
西岡「それはないべ。とにかくやろう」
竹内藤原枝村高橋西岡「(半円を組んでじゃんけんをする。順番はグーチョキパー。ずっと同じ手で相子が続く)」
竹内「チッ……!勝負が着かねぇ……!」
藤原「まさかずっと皆、同じ手を出すとは……」
枝村「ここはもうここまで見た第三者に判断してもらおう」
高橋「そうですね。北島君」
北島「はい?」
西岡「この中で誰が一番組織のナンバー2だと思う?」
北島「まずアンタら、この組織に向いてねぇよ」
―――終わり
『親孝行』
・登場人物
北島康介(父親)
北島愛真(母親)
北島正将(息子)
米山菜奈美(正将の婚約者)
・舞台
北島宅
明転。
北島宅。舞台上手にキッチン、台所一つに包丁やまな板、鍋、フライパン、野菜や肉等の料理一式。舞台下手にリビング、テーブル一つに椅子が三つ。
康介、リビングに板付き。愛真、キッチンに立っている。正将、舞台下手から登場。
正将「ただいま……」
康介「おう、おかえり」
愛真「おかえりなさい」
康介「早かったんだな」
正将「やっとプロジェクトが落ち着いてきたから、定時で帰れるようになったんだ」
愛真「あらあら、お疲れ様。今、夕飯作るからね」
正将「あぁっ!?何やってんだよババァ!」
愛真「え?」
正将「いつも朝ご飯とお弁当作ってくれてんだから晩飯くらい俺が作るよぉ!お前は座って待ってろよぉ!(愛真の手を引いて椅子に座らせる。そして料理を作り始める)ったくよぉ……お前のせいで、いつも美味い朝飯で朝から元気が出るんだよぉ……それに美味そうな弁当を見てると昼休みが楽しみで仕方ないだよぉ……何でこんなに美味いんだよぉ……ふざけんなよなぁ……」
愛真「何作るか分かる?」
正将「分かるに決まってんだろぉ!ババァ特製のカレーだろぉ!?隠し味までは分からないから最後の仕上げだけはお前がやれよなぁ!?」
愛真「えぇ。分かったわ」
正将「ったくよぉ……それくらい分かれよなぁ……いつもいつも楽しみにしてんだからよぉ……ババァのカレーをよぉ……(黙々と料理を再開する)」
愛真「……あの子、なかなか反抗期が直らないわね……」
康介「反抗期か?アレ?」
愛真「反抗期でしょ。あの言葉遣い、外でもやってないと良いけど……」
康介「そこまで馬鹿じゃないだろ。そんな事してたらとっくに会社クビになってるよ」
愛真「……そうよね!家だけよね!」
正将「ババァ!最後の仕上げを頼むぞぉ!」
愛真「はいはい。これが最後の仕上げよ(スパイスやチョコレート等を入れる)」
正将「ほほぅ……?それが隠し味だったのかよぉ……?」
愛真「そうよ~。結婚して子供が生まれたら、私が死んでもこの味だけは残していってよね?」
正将「縁起でもねぇ事言ってんじゃねぇよぉ!?いつまでも長生きして元気でいろよなぁ!?」
愛真「あら、いつまでも現役ではいられないのよ?」
正将「いつまでも長く生きてるだけで良いんだよぉ!それだけでも親孝行出来るチャンスが多くなるだろう!?」
愛真「あら、それはありがとう。期待してるわ」
正将「当たり前の事だよ馬鹿野郎ぉ……!(愛真と共にカレーをテーブルに運ぶ)」
康介愛真正将「頂きます」
暗転。
明転。
北島宅。
愛真、正将、食べ終わった後の食器を片付けている。
愛真「お皿洗うわ」
正将「何言ってんだよぉ!座ってろよぉ!美味しいカレー食べさせてもらったんだからよぉ!これくらい俺がやるよぉ!」
愛真「でも、お仕事で疲れてるでしょう?」
正将「あんな美味しいカレー作ってくれたんだからそのお礼だよぉ!」
愛真「でも殆ど正将が作ってくれたじゃない」
正将「あの隠し味が無ぇとあの味を出せないだろぉ!?作ったのはババァだよ!」
愛真「そう?じゃあお言葉に甘えて(席に着く)」
正将「お茶でも飲んで一服してろよなぁ……全く、困ったババァだぜぇ……(洗い物を始める)」
愛真「あの子、本当にあの口癖どうにかならないかしら」
康介「うーん……あの調子じゃあ、結婚した後、すれ違いが起こってすぐ離婚になってしまうかもしれないな」
愛真「今のうちに矯正した方が良いんじゃないかしら」
康介「アイツももう三十路間近だ。いい大人なんだから、自己責任でいってもらおう」
愛真「でも……」
正将「洗い物終わったよぉ……!」
康介「何でキレてんの?」
正将「別にキレてねぇよぉ!?これが平常運転だよぉ!?」
康介「あ、あぁ。そうだったな(肩を擦る)」
正将「何だよジジィ。肩凝ってんのかぁ?」
康介「あぁ。最近、仕事が忙しくてな……」
正将「(康介の肩を揉む)何だよこの岩みてぇな肩の凝り方ぁ!?どんだけ仕事にリキ入れてんだよぉ!?」
康介「まだまだ現役だと思ってたんだが、もう歳かなぁ」
正将「無理すんなよなぁ!少しは休めよなぁ!まだまだ長生きしてもらって、恩返しするつもりなんだからよぉ!」
康介「お、おう……」
正将「全くよぉ……俺が高校受験失敗して私立の高校に通う事になった時も『俺も私立に行った』って励ましてくれてよぉ……!大学だってそんな良い所じゃなかったのに、受かった時、自分の事のように喜んでくれてよぉ……!学費だって奨学金じゃなくて全額、自分の貯金から払ってくれてよぉ……!本当、ありがとうって言葉しか見つからねぇんだよぉ!」
康介「全然嬉しくないのは何でだろう。言い方かな?」
愛真「(お茶を淹れようと急須を持って席を立つ)」
正将「あぁ!?何してんだよ、ババァ!?」
愛真「何って、お茶のお代わりを淹れようと思って」
正将「それくらい俺に言えよなぁ!?俺が淹れっからよぉ!(急須を取ろうと掴む)」
愛真「(取られまいと抵抗する)良いわよ。これくらい」
正将「良いから貸せってぇ!」
愛真「良いってば!」
少しの間、急須の奪い合いをし、途中、康介の留めが入る。その末、愛真に急須の中身が掛かる。
愛真正将康介「あっ!」
康介「大丈夫か!?母さん!?」
愛真「えぇ。冷めきってたから」
正将「ったくぅ、強情なんだからぁ……ババァ、言う事あるだろぉ?」
愛真「えっ……?」
正将「『ごめんなさい』だよぉ……『ごめんなさい』ぃ……!」
康介「正将!お前がやった事だろ!」
正将「だから俺が言うんだよぉ!ごめんなさぁい!」
沈黙。
康介「お、おう……」
正将「許してくれるかぁ……?母さん……?」
愛真「え、えぇ……それより、正将、貴方、今『母さん』って……」
正将「あ、やべっ」
康介「俺の事は?」
愛真「もう一度言って?正将」
正将「恥ずいぜ、母さん……」
愛真「ほら!言えるじゃない!『母さん』って!」
正将「あっ、つい言っちまった」
康介「ねぇ、俺の事は?」
愛真「どうして急に『母さん』だなんて言ったの?今まで『ババァ』だったのに」
正将「思春期を終わらせるタイミングを逃しちまってな……気付いたら三十路直前までこんな呼び方をしちまってな……後、とある人の影響でこうなった。ごめんなさい、母さん」
康介「タイミングの問題なの?ところで何で俺の事は『父さん』って呼んでくれないの?」
愛真「良いのよ……その気持ちだけでも嬉しいわ」
正将「母さん……!(愛真を抱き締める)」
康介「なぁ、何で俺の事は『父さん』って呼んでくれないの?」
愛真「ところでとある人って誰なの?」
正将「あぁ、その事なんだけど、実は母さんとジジィに会わせたい人がいるんだ。その為に、少しでも自分の親の事をちゃんと呼べるようにしたかったんだ」
康介「ねぇねぇ、何で俺の事は『父さん』って呼んでくれないの?」
愛真「お父さんは黙ってて!今、大事な話してるんだから!」
康介「えぇ……この話も結構、大事なんだけど……」
愛真「で、誰なの?会わせたい人って?」
正将「この場で言うのもアレなんだけど、実は結婚を前提に付き合ってる人がいてな」
康介「続けるんかい」
正将「また後日、連れてくるから」
愛真「分かったわ。楽しみにしてる」
康介「なぁ。俺の事を『父さん』って呼ぶ練習しとかなくて良いのか?」
正将「じゃあ後片付けは俺がやるから、母さんは風呂、先に入ってきなよ」
愛真「ありがとう、正将」
康介「なぁ、俺は?俺には?俺には『父さん』って呼んでくれないの?おーい!(フェードアウト)」
暗転。
明転。
北島宅。
康介、席に着いている。愛真、正将、米山、舞台上手から登場。
愛真「あらあらあら!こんなべっぴんさんがお嫁に来るなんて!お母さん嬉しいわ!」
正将「母さん!まだ嫁になるって決まった訳じゃ……!」
米山「あぁん?テメェ、アタシの事フるつもりかよぉ!?」
康介愛真「……ん?」
正将「菜奈美!」
米山「あっ、やべっ。じゃなかった。おほほ。この私とは遊びのつもりだったんですか?正将さん?」
正将「そんなつもりはないよ、菜奈美」
康介「まぁ座りなさい、二人共」
愛真正将米山「(席に着く)」
正将「菜奈美、紹介するよ。この二人が俺のジジ……父さんと母さんだよ」
康介「今ジジィって言いそうになったろ」
正将「そんな事無いよ」
康介「まぁ良い。正将の父の康介です」
愛真「母の愛真です」
米山「米山菜奈美だ。宜しくなぁ。ジジィ、ババァ」
康介「じ、ジジィ……?」
愛真「ババァ……?」
正将「菜奈美!」
米山「あっ、しまった。米山菜奈美です。よ、宜しくお願いします。お義父さん、お義母さん」
正将「俺達、職場で出会って、結婚を前提に付き合ってるんだ」
米山「正将はアタシの先輩でなぁ。仕事を共にしていくうちに惹かれ合ったんだよ。純愛だろ?」
康介「そ、そうだったのか。それにしても乱暴な口調なのは何でなの?」
米山「あっ、またやっちまった……」
正将「彼女は元ヤンなんだ。だから時々ついこういう口調になっちゃうんだ。でも中身はとても良い娘だから」
康介「もしかしてあの乱暴な口癖の影響って……?」
正将「うん。この菜奈美の影響」
米山「正将ぃ!余計な事言うんじゃねぇ!」
康介「似た者夫婦か!」
米山「やだ、お義父さんったら。夫婦だなんて……まだ入籍してないですよ」
康介「お、おう。で、二人共、職場ではどうなんだ?その口調はそのままなのか?」
正将「あー……」
米山「それは……」
SE、正将のスマートフォンに着信音。
正将「あ、悪い。仕事の電話だ(電話に出る)。もしもし?あぁ、西岡か。どうした?あぁ!?あの件の仕事でミスったぁ!?ふざけんなよ!それは俺と米山の仕事だろうが!お前はゆっくり家で休んでろよなぁ!?」
米山「ちょっと代われ(正将からスマートフォンを受け取る)。テメェ!休日くらいゆっくり休みやがれ!そういうのは上のモンがやるから余計な事すんじゃねぇ!テメェはテメェのペースでゆっくりで良いから昇進を目指しやがれ!じゃあな!良い休日を!(電話を切る)」
康介「やっぱり似た者同士か!仕事でもそれかよ!夫婦円満目指して頑張れよ!」
正将米山「おう!任せとけ!」
――――終わり
『事故物件』
・登場人物
北島(客)
藤原(不動産屋)
・舞台
不動産屋
明転。
不動産屋。カウンター一つに椅子が二つ。カウンターにはPCが一つ。
藤原、板付き。北島、舞台上手から登場。
藤原「いらっしゃいませー」
北島「あのー、アパートを探してるんですけど」
藤原「畏まりました。どうぞお掛け下さい」
北島「(席に着く)」
藤原「どう言ったご要望をお持ちですか?」
北島「駅から徒歩十五分圏内で、家賃八万円以内で、風呂トイレ別、二階以上だったら良いですね」
藤原「少々お待ち下さい(PCを打つ)。こちらなんかオススメですよ。駅から徒歩五分、家賃四万、敷金礼金無し、です」
北島「おぉ、良いですね」
藤原「ただユニットバスで一階なんですよね……」
北島「まぁそこは仕方ないですよね」
藤原「早速、内見行きますか?」
北島「ちょっと待って下さい。怪しいですね」
藤原「と、仰いますと?」
北島「駅から徒歩五分で家賃四万で敷金礼金無しなんて安過ぎますよ。何か訳アリなんじゃないですか?」
藤原「おっと。痛い所付きますね。そうなんです。実は事故物件でして……」
北島「ほらー、やっぱり。何があったんですか?」
藤原「トラックが突っ込みました」
北島「で、前入居者か運転手が亡くなったと」
藤原「いえ、その時は空き部屋で、運転手は無傷でした」
北島「えっ?じゃあどこが事故物件なんですか?」
藤原「事故を起こされたから事故物件です」
北島「ガチの事故物件!?」
藤原「今はリフォームして他のお部屋より冷暖房完備です」
北島「あ、そうですか。ついでにトイレと風呂も別にしてくれたら良かったのに」
藤原「どうしますか?」
北島「他の物件はありませんか?」
藤原「少々お待ちください(PCを打つ)。こちらなんてどうでしょうか?駅から徒歩十分、家賃三万、敷金礼金無し、風呂トイレ別。ただ、二階じゃなくて一階ですが」
北島「一階なのはもう仕方ないとして、そこも怪しいですね。また事故物件ですか?」
藤原「お察しが良くて大変助かります」
北島「こっちからしたらたまったもんじゃないですけどね」
藤原「こちらは先月、バスが突っ込みました」
北島「またぁ!?今度はバス!?誰が犠牲になったの?」
藤原「いえ、幸いにも運転手もお客さんも無傷でした」
北島「入居者は?」
藤原「奇跡的にいませんでした」
北島「またガチの事故物件!?」
藤原「内見に行きますか?」
北島「別のアパートで」
藤原「畏まりました。少々お待ち下さい(PCを打つ)。こちらはどうでしょう?駅から徒歩十五分、家賃二万、敷金礼金無し、風呂トイレ別です。一階の角部屋になります」
北島「また事故物件じゃあないでしょうね?」
藤原「お察しが良くて大変助かります」
北島「また事故物件なのか……で、今度はどんな事故なんですか?」
藤原「タクシーが突っ込みました」
北島「段々慣れてきたぞ……で、犠牲者はいなかった、と?」
藤原「お察しが良くて大変助かります。運転手もお客さんも無傷でした」
北島「どれも無傷なのが奇跡だな」
藤原「内見に行きますか?」
北島「別のアパートで。ってか、ここ、事故物件しか無いの?」
藤原「ウチは事故物件専門の不動産屋です」
北島「来る所間違えたな……」
藤原「でも安心して下さい。入居者がいる間は一回も事故が起こりませんでしたから」
北島「事故が起こらないのは大前提なんだよ!」
藤原「そう仰いましても、当不動産は事故物件専門ですから……」
北島「普通の事故物件は無いの?」
藤原「普通の、と仰いますと?」
北島「こう、幽霊が出るとか、怪奇現象が起こるとか」
藤原「事故が起こるのも怪奇現象だと思いますけどね……」
北島「物理的なのじゃなくて精神的な苦痛の方を求める」
藤原「そうですか。少々お待ち下さい(PCを打つ)。こちらなんかはどうでしょう?駅から少し離れるんですが、徒歩二十分、家賃二万、敷金礼金無し、風呂トイレ別、2LDKです。しかも二階の角部屋です」
北島「今度はちゃんとした事故物件なんでしょうね?」
藤原「これはガチです。二十代の女性の幽霊が出ます」
北島「何があったんですか?」
藤原「強盗に襲われて殺害されました」
北島「どういうポルターガイストとか起こるんですか?」
藤原「どんなに部屋を汚しても、仕事や学校に行ってる間に掃除してくれます」
北島「そんなに悪い霊じゃないね!?」
藤原「後、朝起きた時と夜帰ってきた時に勝手に冷蔵庫の中を物色して料理を作ってくれてます」
北島「至れり尽くせり!?」
藤原「しかも石原さとみ似の美人です」
北島「凄ぇ!もうここにします!」
藤原「ただ一つ問題がありまして……」
北島「あぁ、幽霊だって事、忘れてた……何ですか?」
藤原「掃除してくれるのは良いとは思うんですが、どんな所に隠してもエッチな本を探し出して、机の上に積んで『お年頃だからこういうのに興味を持つ事は否定しません』って置手紙を残しておくんです」
北島「オカンか!それは恥ずかしい!」
藤原「どうしますか?内見に行きますか?」
北島「うーん……もっとまともな事故物件が良いなぁ……」
藤原「畏まりました。少々お待ち下さい(PCを打つ)。こちらなんかはどうでしょう?駅から徒歩十五分、家賃三万、敷金礼金無し、風呂トイレ別、1LDK、幽霊が出ます」
北島「何があったんですか?」
藤原「三十代の女性が自殺しました」
北島「で、どういう怪奇現象が?」
藤原「金縛りに遭ったり、『出ていけ』と言う声が聞こえてきたり、洗面所の鏡に髪の長い幽霊が映ったり、ラップ音が聞こえてきたりします」
北島「そうそう!そういうの!そういうのが本当の事故物件ですよ!」
藤原「後、そのアパートの裏が墓地なので他の幽霊も出ます」
北島「良いじゃん!」
藤原「早速、内見行きますか?」
北島「行きます行きます!」
暗転。
明転。
不動産屋。
北島、藤原、板付き。
藤原「どうでしたか?」
北島「俺が求めているのは事故物件じゃない事を思い知らされました。そもそも事故物件を求めてた訳じゃないし」
藤原「駄目でしたか……」
北島「普通は一人の夜に起こる現象だと思ってたのに、昼間に二人で行ってもあんな怖い目に遭うとは思わなかった……『出ていけ』って聞こえてくるし、鏡に映るし、ラップ音激しかったし……」
藤原「即、入居を希望される場合は家賃は要らないと大家さんは言っていますが」
北島「他の物件をお願いします……」
藤原「では唯一、事故物件じゃないアパートを紹介出来ますが」
北島「最初からそうして下さいよ……」
藤原「駅から大分離れますが、バスで十分、家賃五万、敷金礼金無し、風呂トイレ別、二階の角部屋です」
北島「ちょっと離れてるけど、仕方ないか。安いし」
藤原「そのアパートから徒歩五分でスーパーもありますし、も少し歩けば商店街や飲み屋、スーパー銭湯、二十四時間営業のコンビニがありますよ」
北島「へー、良いじゃないですか」
藤原「内見行きますか?」
北島「行きます行きます」
暗転。
藤原「どうですか?」
北島「本当に事故物件じゃないんですよね?」
藤原「勿論です」
北島「良い所だし、車通勤に切り替えればここでも良いかぁ。ここにします」
藤原「ありがとうございます。では手続きをしますので一度当店まで戻りましょう」
北島「はい」
明転。
不動産屋。
藤原、板付き。北島、舞台上手から走って登場。
北島「ちょっとちょっと!」
藤原「あ、北島様。いらっしゃいませ」
北島「『いらっしゃいませ』じゃないよ!何か他の住人から凄ぇ虐め受けてんだけど!?」
藤原「どういう虐めですか?」
北島「何か『早く出ていけ!』『お前、邪魔なんだよ!』とか!本当にあそこ何も無いの!?」
藤原「あの部屋だけは特別でしたからね」
北島「と言うと?」
藤原「あの部屋だけ、事故物件じゃないんですよ」
北島「どういう事?」
藤原「一階四部屋、二階四部屋なんですが、北島様の部屋以外、全部、幽霊が出る事故物件でして、次の入居者が決まる前に争奪戦になるんです」
北島「はぁ!?」
藤原「今回はタイミング良く次の入居者が北島様でお決まりになったので、他の住人の方々は嫉んでるんでしょうね」
北島「ある意味、事故物件じゃん!もう引っ越す!」
藤原「ではご希望の物件は御座いますか?」
北島「ここでは決めねぇよ!」
―――終わり
『ニュースキャスター』
・登場人物
北島
藤原
・舞台
居酒屋
明転。
居酒屋。テーブル1つに椅子が2つ。テーブルの上にはビールジョッキが2つ。
北島、藤原、板付き。
北島「何だよ、話って?」
藤原「それがさぁ、ウチの内縁の妻の話でさぁ……」
北島「内縁の妻……?あぁ、籍入れてないけど奥さんと同じ扱いの彼女さんね。彼女さんがどうしたの?」
藤原「アイツがさぁ、元交際相手の男と淫らな行為をしてさぁ」
北島「元交際相手の男と淫らな行為……?あぁ、元カレと浮気したって事?」
藤原「そう。もう別れようかと思っててさぁ」
北島「あー、まぁもうそれは別れた方が良いね」
藤原「やっぱそうかぁ……」
北島「いつ分かったの?」
藤原「一昨日未明」
北島「未明……?あぁ、深夜二~四時頃ね。何で分かったの?」
藤原「俺が仕事終わりの帰宅途中、家の目の前まで来た際、夫婦の部屋の電気が点いていて、窓から怪しい人物が内縁の妻に覆い被さるところが見えて急いで帰宅したところ、その女性とその元交際相手の男が淫らな行為をしているところを俺に目撃され、逆上したその男から暴行を加えられた為、俺は警察が到着するまで取り押さえていた、という感じ」
北島「エライ細かいな」
藤原「それにしても酷いんだよ。彼女、性格の不一致だ、とか言ってさぁ」
北島「まぁ、そりゃ酷いけども。でも仕方なくない?籍入れてないんだろ?」
藤原「そうだけど……」
北島「籍入れてないんなら法的には問題無いじゃないか」
藤原「でも、もう十五年も交際してたんだぞ?内縁の妻と言えるくらいの仲だった訳で」
北島「まぁな。だけど浮気された側にも問題はあるって言うじゃないか」
藤原「過激な表現だな。何?お前も俺のせいだって言いたいの?」
北島「そういう訳じゃないけど」
藤原「じゃあ何だって言うんだよ……(電話が鳴る)ちょっと待ってて……はい、あぁ、うん。その事なんだけど……えっ?え、あ、ちょ!待て!待てよ!おい!おーい!……クソッ(電話を切る)」
北島「誰から?」
藤原「妻から」
北島「何だって?」
藤原「ここで新たな動きです。内縁の妻、別れ話、です」
北島「まぁ、だろうな」
藤原「ふざけんなよ~!俺の心、直接攻撃で大破。追い打ちで別れ話、かよ~!」
北島「元気出せよ」
藤原「無理~!」
北島「ところでさ、さっきから気になってたんだけど、何でそんなにニュースみたいな表現してんの?」
藤原「ニュースみたいな表現?」
北島「彼女の事を内縁の妻とか、元カレの事を元交際相手の男とか」
藤原「あぁ、それね。多分、職業病だな。俺、ニュースキャスターやってるから」
北島「そうなん?まぁ良いけども」
藤原「これで別れるのかよ~!呆気なさ過ぎる……十五年だぞ!?十五年!濃厚に過ごしてきて、こんなあっさり別れるとか信じられない……」
北島「弁護士に相談しな」
藤原「何で?」
北島「慰謝料取れるかもしれんだろ」
藤原「あ、成程」
北島「まぁ、そもそも籍を入れてないから慰謝料取れるか知らないけど」
藤原「えぇ~?じゃあどうしたら良いんだよ~!」
北島「知らんよ」
藤原「マジでどうしよう……何か、性格の不一致とか言われたんだけど……」
北島「何か兆候は見られなかったのか?ここ最近でも良いけど」
藤原「無かったなぁ……前に俺が風邪ひいた時、看病してくれたし」
北島「本当かぁ?」
藤原「本当だって。刃渡り15センチの刃物を使って林檎を剥いてくれたりしたし」
北島「刃渡り15センチの刃物……?あぁ、包丁?また紛らわしい言い方しやがって」
藤原「伝わってるなら良いじゃん」
北島「言い方がいちいち物騒なんだよ。どうにかして」
藤原「そんな事言われても……しかし、年々性欲を強めていった気がするなとは思ってたんだよ。ここ最近毎日誘って来てたし」
北島「勢力を強めてきた台風みたいに性欲を強めていったって言わないで。ってか、その現場に居合わせたの?」
藤原「うん。突撃した感じ」
北島「その時、相手から殴られたりとかしなかったか?」
藤原「あぁ、顔面を殴られて全治一ヶ月の重傷を負ったな」
北島「その診断書は?」
藤原「医者から『持っといた方がいい』って言われて、今は保管してるよ」
北島「それがあれば、裁判になっても有利に事が進むだろ」
藤原「裁判は金が掛かるし、双方から慰謝料、貰って事を穏便に済まそうと思ってる」
北島「そうか。ってか本当に兆候とかなかったのか?金の事とか」
藤原「あぁ、使途不明金があったからおかしいなとは思ってた」
北島「使途不明金……?あぁ、口座から謎の引き出しがあったって事?」
藤原「そう。後で聞いたらその男に貢いでたらしい」
北島「それは辛いな。いくらくらい引き落とされてたの?」
藤原「一年で一千万円」
北島「それは酷ぇな。別れて正解だよ」
藤原「でも俺はまだあの女性を愛してると思ってるんだよ……」
北島「その男の素性は?」
藤原「自称俳優兼モデルの男。副業で生計を立ててたらしい」
北島「どうやって知り合ったんだ?」
藤原「ホストクラブの男性従業員」
北島「男性従業員……?ボーイって事?」
藤原「いいや?」
北島「じゃあホストか」
藤原「そう」
北島「だから紛らわしいって。ホスト通いしてたって事?」
藤原「そう。頻繁に通っていたみたいで、ここ数年で数千万円持って行かれた……」
北島「よくそんな金あったな」
藤原「子供が出来た時の為に貯めてたんだ。でももう年齢的に子供は望めないってなって、それで自棄になってホスト通いしてたんだと」
北島「彼女さんも彼女さんで病んでたんだな」
藤原「あーあ、子供さえいてくれてたらなぁ……」
北島「そういう問題かな?」
藤原「えっ?」
北島「本当に彼女さんの事を愛していたなら、彼女さん、お前から離れなかっただろ」
藤原「そんな事言うなよ。俺は俺なりにあの女性の事を愛していたよ」
北島「だったら何で籍を入れなかったんだよ。お前、他に女いたんじゃないのか?」
藤原「俺はあの女性一筋だった!」
北島「彼女さんからはそうは思われなかったのかもしれないぞ?籍は入れない、子供は出来ない。年齢的に結婚にも焦りが出ていたんじゃないのか?」
藤原「…………」
北島「もう一度、ジックリ話し合って来いよ。仲直り出来るかもよ?」
藤原「……ありがとう。分かった。今度、時間作ってくる」
北島「頑張れ」
暗転。
明転。
居酒屋。
北島、藤原、板付き。
北島「で、あれから一ヶ月経ったけど、どうだった?」
藤原「自称俳優兼モデルのホストクラブの男性従業員と一悶着あったと供述していたよ」
北島「また堅苦しい言葉を使って……で、何があったの?」
藤原「まぁ、端的に言うと別れたって」
北島「どうして?」
藤原「慰謝料請求したら、自称俳優兼モデルのホストクラブの男性従業員はあの女性の金だけが目的だったと言ってアッサリ別れたって」
北島「結局はそういう事か。で、彼女さんとはどうなった?」
藤原「復縁したよ。今度は誠意を見せる為に、籍を入れた」
北島「ほら、男らしい事も出来るんじゃん。おめでとう」
藤原「ありがとう。北島のおかげだよ。本当にありがとう」
北島「俺は助言しただけだよ。当人同士の歩み合いの結果だよ」
藤原「それでも、あの時、あの言葉が無かったらきっと別れてたと思う」
北島「ははは、そうか」
藤原「あ、それと報告なんだけど」
北島「何?」
藤原「妻、妊娠した」
北島「マジで?二重でおめでとう」
藤原「ありがとう。まだあの自称俳優兼モデルのホストクラブの男性従業員との間の子かもしれないから生まれたらDNA鑑定するつもりなんだよね」
北島「仮にそのホストとの子だったら別れるの?」
藤原「いや、別れない。俺の子として育てる」
北島「そうか。立派だな」
藤原「そうでもないよ。ただ高齢出産になるから油断は出来ないけどね」
北島「慎重になるよな、そこは。ところで慰謝料はどうなったの?」
藤原「自称俳優兼モデルのホストクラブの男性従業員からは百五十万円、妻からは使い込みの金とプラスで百五十万円、請求した。自称俳優兼モデルのホストクラブの男性従業員からは一括で支払ってもらったけど、妻からは結婚を機に免除しようと思ったんだ。でも妻からは『ケジメだから』って一括で払ってもらった」
北島「奥さんも真面目だなぁ。まぁ、お前にピッタリだよ」
藤原「照れるな」
北島「じゃあ今回は結婚とお子さん妊娠のお祝いに俺がここを奢るよ」
藤原「いや、お前のおかげで幸せになれたんだ。ここは俺が奢るよ」
北島「いやいや、いいって」
藤原「いやいやいや、俺が」
北島「じゃあ、いつも通り割り勘にしよう。いつも通りでいこう」
藤原「そうだな」
北島「あ、そうだ。今度、同窓会、開くんだけど、俺、幹事でさ。来る?いつもお前、来ないから今回も止めとく?」
藤原「行く行く。いつ?」
北島「再来月の第二日曜日」
藤原「オッケー。予定空けとくわ」
北島「おう。皆も喜ぶと思うわ。後で皆にグループライン送っとくわ」
藤原「ありがとう。あ、俺ちょっとトイレ行ってくるわ(舞台下手に退場)」
北島「おう。(スマートフォンを取り出してラインを打つ)速報、GMテレビアナウンサー藤原正将、一般女性と結婚。第一子も懐妊か。と……アイツの口癖が移っちまったな」
―――終わり




