⑧別れ
サラが元の世界に帰るとなってから、しばらく慌ただしい日々が続いた。
慌ただしいとは言っても忙しかったのはサラや両親や街の人達であり、僕やチユは比較的ゆっくりと日々を過ごした。
忙しい日々の合間を縫って、僕とチユとサラの三人で、久々に街へ出掛けたりもした。
出会う人出会う人、サラが帰ってしまう事を寂しがった。
そんな光景を見ていると、サラがここでどれだけ愛されていたかを、改めて実感した。
そして、サラの帰る日がやってきた。
サラを元の世界に返す為に訪れたのは、魔方陣が書かれた古い遺跡。
彼女が帰る為の儀式を行うのは、勇者の仲間である僕とチユの役割だ。
家族のように接してくれた両親。
何だかんだ言いつつも気に掛けていてくれた、魔法学校のクラスメイトや仲間たち。
冒険者として知り合った冒険者仲間。
皆とちゃんとお別れを済ませたからか、遺跡に立つサラは、とてもすっきりとした面持ちをしていた。
魔方陣の真ん中に立つのは、サラ一人。
彼女が手に持つ宝石は、魔王が宝として隠し持っていた『勇者が元の世界へ戻る鍵』だ。
「じゃあ、始めるか」
僕は手を組み、目を閉じる。
「異世界を繋ぐ宝石よ。どうか我らの世界を救い、役目を果たした『勇者』小川紗良を元の世界に帰して下さい」
小川紗良。
サラの、前の世界での名前。
旅の途中で、自分の世界には名字というものがあるんだと、彼女の本名を教えてくれた。
これが元の世界へ帰る為に必要だったなんて、その時は知るよしもなかったが。
瞬間、ごうっと強い風がサラを包む。
目を開けていられない程の強風に、僕は思わず目を閉じた。
サラお姉ちゃん、とチユが叫ぶ。
その時、確かに風の中から、声が聞こえた。
「いつでも準備は出来ている、つもり、だったのに…」
やがて、風が止んだ。
ようやく目を開けると、サラはもうどこにもいなかった。
サラが去った後には、チユのすすり泣く声と、僕が書いた魔方陣だけが寂しく取り残されていた。




