④チユ
「クロウ、おはよう」
自宅で朝食の準備をしていると、サラが目を擦りながら歩いてきた。
本日のメニューは果物のサラダと豆のスープだ。
冒険者としては、まあまあの朝食といった所か。
「いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせて食事をする。
このいただきます、というのは、彼女が覚えていた前の世界の習慣らしい。
「今日から、チユちゃんが来るから楽しみ」
彼女は顔を綻ばせた。
「そうだな、チユは今日から僕らのパーティに入るから」
僕の妹であるチユは、名は体を表すとばかりに治癒魔法の使い手だ。
昨日も、夜遅くに帰ってきた僕達を治療してくれて、今は自室で出発ぎりぎりまで治癒魔法の勉強をしている。
朝食は置いて来たので、食べてはいるだろう。
食事が終わり二人でチユの部屋へ行くと、彼女は既に準備を終えていた。
「クロウお兄ちゃん、サラお姉ちゃん。今日からよろしくお願いします」
緊張した面持ちで改めて頭を下げる彼女に、僕達はつい笑ってしまった。
「お、今日は可愛い子がいるじゃねえか」
他の冒険者に囲まれてしどろもどろの妹を微笑ましく思いつつ、僕は門の外を見据える。
ここから一歩出れば、彼女とて冒険者。
命の危険だってある。
「クロウ、チユちゃんなら大丈夫」
僕を安心させるように、サラはにっこり笑って言う。
「そうだよ、お兄ちゃん!」
いつの間にか戻ってきていたチユは、杖をぶんぶん振り回して叫んだ。
「私だって、凄い治癒魔法使いなんだから!」
「…ああ、そうだな」
彼女の言葉は、決して誇張ではない。
チユもまた、勇者の仲間に選ばれる程には実力のある魔法使いだ。
そして、当然それ相応の覚悟も持って勇者の仲間に志願している。
やがて門が開き、冒険者達が一斉に動き出す。
「行こうか」
「了解。いつでも準備は出来ている」
「うん!」
力強く返事をする妹に、気付けば心配する気持ちは無くなっていた。
しかしそんな妹にも、今回の戦闘は衝撃だったらしい。
「サラお姉ちゃん、無茶しすぎだよ…」
チユの言葉には、僕も同意する。
自宅で治療してたとはいえ、いざ戦っている所を見ると、思う所もあるのだろう。
泣きそうになりながらも治癒魔法をかけ続ける妹は、努力の末に歴代でも最強の治癒魔法使いに成長した。
そこまで努力した理由は、僕と同じ。
この世界を救おうと戦う、サラの力になりたい。
その一心だった。
「お兄ちゃん、強いんだね」
ようやく一通り治癒を終えたチユは、僕に治癒魔法をかけながらこう言ってくれた。
「強いって言うのかな、あれは」
「強いよ、お兄ちゃんは。凄く強くなった」
チユは、そう言って照れ臭そうに笑った。
「だとしたら、サラのお陰だね」
「…うん、そうだね」
僕の言葉に、チユも同意する。
そうして二人で、未だに目を覚まさないサラに目をやった。
サラと出会う前、チユと僕はあまり仲良くなかった。
しかし、サラを助けたいという思いが同じだと分かった瞬間、僕達は結託した。
共に、サラの力になれる魔法使いになろうと。
サラの存在が、僕とチユを兄妹として繋いでくれたのだ。
僕の治療を終えてすぐに、サラが目を覚ました。
暫し視線をさ迷わせた後、涙目のチユを安心させる為か、サラはにっこりと笑った。
「チユちゃん、ありがとう」
力無く、でも優しく笑うサラに、チユは泣きながら抱きついた。




