③勇者
サラが、国王の住むこの街に現れたのは、五年前の事だ。
「私はこの世界を救う勇者です」
魔物だらけの門の外からやってきた少女は、開口一番こう言った。
門番はすぐに彼女を病院へ連れていき、『勇者がやって来た』と王へ報告した。
この報告には、王も、国民も、それは喜んだ。
この世界には百年に一度、強い力を持った『勇者』がやってくる。そしてその『勇者』は、この世界で大きな役割を果たすことになる。
『勇者』はこの世界にやって来る時、決まって記憶を無くしている。いずれ記憶を取り戻した時、この世界を救ってくれる。
誰でも知っているこの言い伝えが、本当だったと確信したからだ。
そもそも、明らかに魔物でもない普通の少女が手ぶらで、しかも自らの魔法のみで外から歩いて来るのがおかしい。
何でも、彼女はこの世界にやって来て最初にたどり着いた隣街で、どうにかこうにか一年間暮らしていたらしい。
しかし、先日自分が勇者としてこの世界にやって来た事を思い出し、自らの強さの証明の為に、国王の住むこの街までこうして歩いて来たのだという。
恐ろしい魔物だらけの森をたった一人で、だ。
魔法を、杖も使わずに使う規格外の強さ。
しばらく、記憶を無くしていた事実。
勇者である事を、疑う余地もない。
そんな彼女の当時の状態はというと、強いとはいえ身体は勿論傷だらけ。
魔法の使いすぎで元々無い体力も尽きかけていたという壮絶なものだったそうだ。
例え彼女が本当の勇者でなくても、門番はすぐに病院へ連れていっただろう。
病院で治療を受けた彼女は、王に話をした後、改めて勇者としてこの街に受け入れられた。
この街には魔法学校もあり、魔法を扱う勇者であるサラが学ぶのに良いという王達の判断だった。
当時十一歳だった彼女がいきなり魔王退治に乗り込んでしまわないよう、せめてもう少し鍛えて貰ってから、というのもあるだろうが。
また、彼女は王の住む城で暮らすことになった。
王と王妃には、サラと同い年の息子と、少し年下の娘がいた。
年が近かったのもあり、三人はすぐに仲良くなった。
ちなみに、サラと同い年の王の息子が、何を隠そう僕クロウである。
やがて、この世界を救う勇者として魔法学校に入学したサラは、歴代最強の攻撃魔法と歴代最低の魔法のコントロールでたちまち学校中の話題になった。
皆、彼女と話し、彼女の経歴を聞き、彼女とこの世界の行く末を大変心配した。
彼女の勇者という重すぎる重圧と、破滅的な魔法のコントロール。
学校の皆、特にクラスメイト達は、彼女の心を心配したらいいのか、この世界の心配をしたらいいか分からない、という状態だった。
そこで立ち上がったのが、僕だった。
国王の息子である僕に、父は「サラの力になってあげなさい」と何度も言っていた。
しかし決して、僕が彼女を手助けしたのは父に言われたからではない。
僕は、自分の意思で彼女の力になりたかった。
記憶の無い状態でこの世界に連れて来られ、一年前から突然魔王を倒す宿命を背負い、それでもこの世界を救おうとする、彼女の力に。
僕は魔法学校での三年間を制御魔法の特訓に捧げ、歴代でも最強の制御魔法使いとなった。




