―第7話 「夢の呼吸」―
夜。
眠りに落ちる瞬間だけ、世界の輪郭が少しだけ曖昧になる。
気がつくと、そこは教室だった。
昼でも夜でもない光。
窓の外は白く、遠近感がない。
「……ここ」
声を出すと、その響きだけが少し遅れて返ってくる。
――遅いよ。
背後。
振り向くと、そこにいた。
長い髪の少女。
神代緋月。
「緋月」
呼ぶと、彼女は少しだけ首を傾げる。
――お兄ちゃん。
その呼び方は、正しいはずなのに、どこか噛み合っていない。
「ここは夢だ」
そう言うと、緋月は否定しない。
――うん。
――でも、全部が夢じゃないよ。
その言葉が、少しだけ引っかかる。
「どういう意味だ」
緋月は机に指を置く。
――お兄ちゃんが見てるものは、全部同じじゃないから。
その瞬間、視界の端が揺れた。
机の表面に、一瞬だけ“何かの文字”が浮いた気がする。
けれど次の瞬間、それはもう見えなかった。
「今のは……」
――見えた?
緋月は小さく笑う。
――それとも、思っただけ?
言葉に詰まる。
夢なのか、記憶なのか、分からない。
「お前は誰だ」
その問いに、緋月は少しだけ沈黙する。
――ワタシはね。
そこで言葉が途切れる。
続きはない。
代わりに、胸の奥にだけ意味が落ちる。
――まだ決まってないワタシ。
その瞬間、目が覚める。
天井。
朝の光。
「……」
喉が乾いている。
起き上がると、机の上を見てしまう。
何もない。
当然だ。
けれど一瞬だけ。
そこに“何かの痕跡があった気がした”。
すぐに消える。
残っているのは、ただの机だけ。
でも頭の中だけが、少しだけズレている。
――ワタシ。
その言葉だけが、なぜか自然に浮かぶ。




