第25話 ちゃんと、さよならを
忙しくて更新できなくて申し訳無い…!!
夜。
窓の外で風が揺れている。
部屋は静かだった。
でも、その静けさはもう怖くなかった。
ベッドに座る氷月の隣には、緋月がいる。
自然に。
当たり前みたいに。
最初は異常だったはずなのに。
今はもう、“いないほうが不自然”に感じてしまう。
それが、一番怖かった。
「……お兄ちゃん」
緋月が小さく呼ぶ。
氷月は視線を向ける。
月明かりの中の緋月は、少し透けて見えた。
昨日より、輪郭が曖昧だ。
「薄くなってる」
思わず零れる。
すると緋月は少しだけ困ったように笑った。
「分かっちゃったか」
胸が締めつけられる。
「……消えるのか」
その問いに、緋月はすぐ答えなかった。
少しだけ沈黙してから、静かに言う。
「多分ね」
部屋が静かになる。
時計の音だけが響く。
氷月は拳を握った。
「なんで」
震える声。
「なんで今さら」
やっと話せた。
やっと思い出せた。
やっと、“ちゃんと会えた”。
なのに。
またいなくなるのか。
緋月はそんな氷月を見て、少しだけ寂しそうに笑う。
「だって、お兄ちゃん」
優しい声。
「もう、ワタシを見失わないでしょ?」
その言葉で、呼吸が止まる。
ずっと。
緋月は、“忘れられること”を怖がっていた。
だから。
夢に出てきた。
侵食した。
声を重ねた。
“ワタシ”になろうとした。
全部。
消えたくなかったから。
「……ごめん」
また、謝ってしまう。
すると緋月は小さく笑った。
「ほんと、お兄ちゃんそればっか」
昔みたいな言い方だった。
その懐かしさが、胸を刺す。
「でもね」
緋月は続ける。
「ワタシ、お兄ちゃんに謝ってほしかったわけじゃないよ」
氷月は顔を上げる。
緋月は静かにこちらを見ていた。
「ちゃんと、生きてほしかっただけ」
その瞬間。
氷月の目から涙が零れる。
止められなかった。
苦しかった。
怖かった。
忘れたかった。
でも。
本当はずっと、“置いていかれたのは自分のほう”だったのかもしれない。
「……無理だよ」
声が震える。
「お前がいなくなったら」
言葉が詰まる。
緋月はゆっくり近づく。
そして。
そっと氷月の額に触れた。
冷たい。
でも、優しい温度。
「大丈夫」
小さな声。
「お兄ちゃん、ちゃんとワタシを覚えてるから」
その言葉で、胸の奥の何かが崩れる。
今まで。
“忘れること”が裏切りだと思っていた。
だから前に進けなかった。
でも。
覚えていれば、消えるわけじゃない。
緋月は少しずつ透け始めていた。
月明かりの中で、輪郭が淡く揺れる。
「……やだ」
氷月は子供みたいに呟く。
緋月は少し驚いたあと、嬉しそうに笑った。
「そんな顔、久しぶりに見た」
涙が止まらない。
「まだ、いたい」
本音だった。
すると緋月は、泣きそうな顔で笑う。
「ワタシもだよ」
静かな沈黙。
そのあと。
緋月は、小さく言った。
「だから」
「ちゃんと、さよならしよ?」
その言葉が、あまりにも優しくて。
氷月は、何も言えなかった。




