桜の下で、物語では言えたのに
重ね着にダウンさえも要るような冬の季節が終わり、春がやってきた。
そんな季節に咲く花、桜に纏わるエッセイを一つ書こうと思う。
家の近くにお花見スポットがあり、昔はよく家族とお花見をしていたのですが、何を思い立ってか、一人で花見をすることにしました。
パン屋で昼食用にメロンパン、スコーン、パックのお茶を持ってその場所へ向かいました。
満開に咲き誇る桜に、私自身心が高揚していました。スマホのカメラアプリを開き、パシャリ、パシャリと何枚も桜をスマホに収めました。
パンを食べながら桜を愛で、持っているパンと一緒に撮ってみたり、家族に電話をして、AIにさえも桜をおすそ分けしていました。
エッセイのネタ帳に桜のことを書いてたら、二名ほど桜を見つけて興奮した様子で写真を撮り始めていました。そんな光景を微笑ましく眺めていたら次の瞬間、一人の方が桜の花のついた小さな枝を折ったのです。
私はその時、何も言えなかった。聞いたこともないような言語で話す二人に私は、まるで体が石のように重く、硬くなり、ベンチから動くことが出来ず、そのまま帰っていく二人の後ろ姿を、ただ見送ることしか出来なかった。
直接注意をした方が良かったのだと私自身も思います。ただ、トラブルを避けたかった、自身の安全が第一、それもまた賢明な判断だと思います。
私の物語の登場人物たちなら、きっと迷わず声を上げている。私がそう書いてきたからだ。
けれど私は、その一言すら口に出来なかった。
こうして執筆をしている今ですら『私は愚か者だ』と思っている自分がいるのです。
なんの罪滅ぼしにはなりませんが桜の木に向かって「ごめんね、ほんとうは注意をするべきだった。でも、怖くて出来なかった、ほんとうにごめんなさい」とだけ言って、私はその場を後にしました。




