第122話 出迎えるのは父。
「「悠真ーー!!」」
主の部屋を出た瞬間、二人が同時に飛びついてきて、その勢いのまま俺は床へと倒れ込んだ。
「ちょっ、二人ともいきなり飛びついてきたら危ないって。」
そう言いながらも、引き剥がそうとする気にはなれなかった。二人は俺の言葉など耳に入っていないのか、体を離そうともせず、倒れたまま俺に顔を埋め続けている。その震えが直に伝わってきて、どれだけ心配をかけていたのかを嫌でも理解させられた。
今回ばかりは俺自身も死を覚悟していた。だからこそ、こうして戻って来られたという事実が、遅れて胸の奥に広がっていく。
自然と、俺も二人の背中へと手を回していた。
「‥‥ごめん。」
絞り出すように零れた言葉は、自分でも驚くほど素直なものだった。
「心配かけたよな。」
その言葉に、先に反応したのは咲だった。
「心配したでしょ!!何で、いつもいつも悠真は主である私に、こんな思いをさせるのよ。騎士は主を安心させるのが仕事でしょ!!」
怒っているはずなのに、その声はどこか震えていて、言葉の端々に抑えきれない感情が滲んでいる。
「あぁ、そうだな。本当にごめん。」
短くそう返すと、今度は雪が顔を上げた。
「ごめんねーー悠真!!私が勝手に飛び出したから、悠真に辛い思いさせたー!!ごめん!!」
今にも泣きそうな顔で、必死に言葉を繋ぐ雪に、思わず苦笑が漏れる。
「いや、雪のせいじゃない。俺も主と戦うことに賛成していたから、俺も同罪だ。それに雪は人を助けようとして起こったことだろ?なら、俺とは全然違う。雪は優しいからな。でも、今度はもう少し冷静になろうな。」
そう言うと、雪は大きく頷いた。
「うん!!ごめーーん!!」
その声には、さっきまでの不安が少しだけ抜けているように感じた。
三人でそのまましばらく抱き合ったまま、言葉を交わし、涙を流し、ようやく互いの無事を確かめ合う。時間にすればほんの僅かだったのかもしれないが、そのひとときは確かに、俺達の心を落ち着かせるには十分なものだった。
そして、ダンジョンから出た俺達を出迎えたのは――
俺の父だった。
◇
「悠真ー!!」
名前を呼ばれると同時に、強く抱きしめられる。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、その腕の力の強さと震えで、すぐに理解した。今、思い返してみれば、父さんにこんなふうに抱きしめられたのは子供の時以来で、どこか照れくささを感じながらも、その温もりが妙に安心感を与えてくる。
「心配したんだぞ!!宮崎さんから主に襲われたって聞いて、居ても立ってもいられなくて、本当に怪我はしてないんだよな?どこも痛いところはないんだよな?」
畳みかけるような言葉に、父さんの焦りと不安がそのまま表れていた。ここまで取り乱している姿を見るのは初めてかもしれない。
「うん、大丈夫だよ。俺も、雪も咲も全員怪我なく無事だよ。」
そう答えると、父さんはようやく少しだけ表情を緩めた。
「そうか。雪ちゃんも咲さんも無事でよかった。」
その言葉に、二人もすぐに反応する。
「ご迷惑をお掛けしました、拓真さん。」
「ごめんなさい。」
揃って頭を下げる二人に対して、父さんは一瞬だけ言葉を探すように視線を泳がせたが、結局それ以上何も言わず、小さく頷くだけだった。
怒るよりも、無事でよかったという思いの方が強いのだろう。
「‥‥行くぞ。」
そう短く言うと、父さんはそのまま俺達を連れて歩き出し、その背中を追いながら、ようやく本当に終わったのだという実感が胸の奥にじわりと広がっていくのを感じていた。
俺達はそのまま、臨時対策室へと向かうのだった。




