第119話 走馬灯の先にあるもの。
「それじゃあ、全員で息を合わせて行くぞ!!」
その言葉を皮切りに、俺達は同時に動き出した。
俺は一歩踏み込んだ瞬間に神速を発動し、死ぬと分かっていながらも一切の迷いなく主へと距離を詰め、そのまま体重を乗せた上段からの一撃を全力で叩き込む。本来であれば30層の魔物であれば一撃で撃破出来るほどの威力を持つ斬撃だったが、主はそれをあまりにも容易く受け止めた。
衝突の瞬間、手に伝わる感触が全てを物語っていた。力負けしているどころか、そもそも勝負になっていないと理解させられるほどの差がそこにはあった。
だが、驚くことではない。相手は俺達とは次元の違う存在であり、俺の全力など止められて当然だと分かっているからこそ、それでも攻めるしかないと結論づけていた。
一瞬でも気を抜けばその時点で全てが終わる以上、相手に動く余裕すら与えず、攻撃する時間そのものを奪い続けるしかなく、剣を弾かれようが体勢を崩されようが構わず次の一手へと繋げていく。
そうやって“攻め続ける”ことでしか、この場を繋ぐことは出来ないのだから。
「おおおお!!」
喉の奥から絞り出すように声を上げ、俺は主へと斬りかかり続ける。剣を受け止められてもその反動を利用して次の斬撃へと移行し、僅かな隙すら作らせないように圧をかけ続ける。
その間に背後では雪と咲が動いており、咲は素早く状況を見極めて負傷した探索者を支えながら後退し、雪はその周囲に氷を展開して主の視界と動線を一瞬でも遮ることで、完全な防御にはならなくとも確実に時間を稼いでいた。
その連携が機能しているのを感じながら、俺は主の注意を引きつけ続け、その間に二人が人を連れて脱出するという流れが崩れないよう、ただ前へと出続ける。
剣と剣がぶつかり合うたびに腕が軋み、衝撃が全身を駆け抜ける。それでも足は止めない。止めた瞬間に終わると分かっているからこそ、無理やり身体を動かし続けるしかなかった。
やがて背後の気配が遠ざかっていくのを感じ、雪と咲、そして探索者たちが無事に部屋の外へと抜けたのだと理解した瞬間、ほんの僅かに胸の重みが軽くなる。
これで――俺の役目は果たした。
そう思いながら最後の一撃として剣を振り抜いた、その時だった。
――カキン。
乾いた音が、やけに鮮明に響く。
視線を落とすと、握っていた剣は根元から砕け散り、役目を終えたかのように崩れ落ちていく。その光景はどこか自分自身の結末をなぞっているようにも見え、もはや抗う術は残されていないのだと理解させられる。
もう、終わりだ。
抵抗することなくゆっくりと目を閉じると、主の剣がこちらへ振り下ろされてくる気配が確かに伝わってきた。さっきまでは見えもしなかったその動きが、今は不思議なほど鮮明に捉えられている。
恐らくこれが――走馬灯というやつなのだろう。
全てが終わる――そう思った次の瞬間、振り下ろされたはずの剣は俺に届くことはなく、代わりに届いたのは、金属音でも衝撃でもなく、どこかで聞いたことのある柔らかな声だった。
「もう、大丈夫だよ。私が――来たから。」
ゆっくりと目を開ける。
そこに立っていたのは――宮崎日葵。
昨日出会ったばかりのはずのその少女は、まるで何事もなかったかのように穏やかな笑顔を浮かべ、当然のようにその場に立っていた。




