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『神の手違いが生んだ報われぬ者の転生録』  作者: Lark224a


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第115話 不穏な空気。

そうして連撃の手ごたえを確かに掴んだ俺は、その感覚を確かめるように他のブラックボアにも踏み込み、連撃を主軸に戦闘を組み立てていく。


回避の癖や体勢の崩れ、その一瞬の“繋ぎ目”を見極めるたびに刃を差し込み、気付けば四体全てを――一人で、倒し切っていた。


確かな手ごたえ、自分がまた一歩成長した感覚、そしてこの高揚感に押されるように、俺は小さく息を吐きながら、


「完璧」


と、誰に聞かせるでもなく呟いていた。


だが、その言葉が静かに流れていくことはなく、この場には俺一人ではなく雪と咲が居て、戦闘に参加する機会を奪われた二人は、怒っているというよりも呆れと不満を隠しきれない様子で、じっとこちらを見ていた。


「ねぇ、何で一人で全部倒しちゃうかな?」


先に口を開いたのは雪だった。いつもの柔らかい声音の中に、わずかな棘が混じっている。


「私、ちゃんと援護しようとしてたんだよ?魔法を撃つタイミングも見てたのに、悠真が射線も無視して飛び込んでくるから、結局一回も撃てなかったんだけど?」


軽く頬を膨らませながら言う雪に、俺は思わず言葉を詰まらせる。


「それにさ、パーティーリーダーとして仲間を無視するのって、普通に良くないと思うんだよね。咲ちゃんもそう思うでしょ?」


話を振られた咲は、腕を組みながら小さく息を吐いた。


「えぇ、全くその通りよ。いくら試したいことがあったからと言って、全てを一人でやるのは褒められた行動ではないわ。それに――」


一歩、こちらへと歩み寄る。


「そのことを事前に何も伝えずにやったことも問題よ?私達は同じパーティーなのだから、最低限の共有は必要でしょう。‥‥ちゃんと分かっているのかしら?」


二人の言葉はどれも正論で反論の余地は一切なく、だからこそ俺は視線を逸らすことも出来ず、ただ素直に、


「すみません。」


と頭を下げるのであった。



そんな一件もありながらも、俺達の探索は順調に進んでいった。


無駄な戦闘を避ける判断、必要な場面での連携、そしてそれぞれの役割分担が噛み合っているからこそ、大きな崩れもなく階層を踏破していくことが出来る。そして気付けば、当初の目的地として設定していた30層へと、無事に到達していた。


「ようやく30層だね。いや~~流石は日本で一番難しいって言われてるダンジョンなだけあって、普通に大変だったよ。」


軽く肩を回しながら、雪がそう言葉を漏らす。


「ここまで来るだけでも、結構ギリギリな場面あったしね。やっぱり、スタンピードが起きかけてる影響とかもあるのかな?」


その言葉には、単なる感想以上の実感が込められていた。


雪が扱う氷魔法は、この三人の中でも群を抜いて高い火力を誇る主力だ。広範囲を一瞬で制圧する制圧力、対象を拘束する制御力、そして何より純粋な破壊力――そのどれを取っても、今回の探索においては中核を担っていた。


ここに至るまでのボス戦も、雪の魔法を軸にDPSを組み立て、俺と咲がそれを補佐する形で成立させてきた。だが、その雪が“強くなっている”と感じているということは、以前と同じ出力では通用しない場面が増えているということでもある。


「だろうな。攻撃力もそうだが、それ以上に動きが速くなってる。反応速度も上がってるし、確実に前に来た時よりも強化されてるのは間違いない。」


周囲の気配を探りながら、俺はそう答える。


「その原因がスタンピードにあるかは断定出来ないが、少なくとも無関係とは思えないな。」


「やっぱりそうだよね‥‥」


雪は小さく頷きながら、少しだけ考え込むように視線を落とした。


「そういえばさ、悠真のお父さんってダンジョンの研究者だったよね?こういう異変とかって、もう何か分かってたりするのかな。今回の件で渋谷に来てたりする可能性とかは?」


「正直なところ、分からないな。研究で家に帰ってこない日なんて珍しくないし、その理由が全部こういう異常事態に繋がってるとも限らない。ただ、ダンジョンから出たら一応聞いてみるつもりだ。」


「うん、それがいいと思う。もしかしたら、もう何か対策を考えてる可能性もあるしね。」


雪がそう言って小さく笑った、その時だった。前を歩いていた咲が不意に足を止め、その動きはあまりにも自然でありながら、場の空気を一瞬で切り替えるには十分だった。


「咲、どうした?何かあったか?」


声を掛けると、咲は振り返ることなく、ただ前方を見据えたまま静かに口を開く。


「‥‥二人とも、問題よ‥‥この先に主の部屋があるわ。」


その言葉が落ちた瞬間、空気が変わり、先程までの緩やかな空気は消え、張り詰めた緊張だけが場を支配する。


予想外の事態に、俺と雪は言葉を失い、ただ静かに前方を見据えることしか出来なかった。


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