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『神の手違いが生んだ報われぬ者の転生録』  作者: Lark224a


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第114話 連撃。

デーモンスパイダーのドロップ品を回収し終えた俺達は、わずかな休息も挟まずに、そのまま探索を再開した。


本来であれば、咲の天啓によって魔物との接敵を極力避けたルートを進み、無駄な消耗を抑えながら次の層を目指すのが最適解だ。だが――今の俺の頭の中を占めているのは、ただ一つ。


新しく得たスキルを、実戦で試したいという衝動だった。


胸の奥がざわつくような抑えきれない焦燥に駆られ、気付けば早く魔物とぶつかりたいという思考に支配されていた。だが、咲が示すのは接敵を避けるための安全なルートであり、このままでは魔物と遭遇することはない。


だから俺は、その流れを自分から崩す。


「なぁ、咲。このまま次の層に進まずに、もう一回この辺で戦闘しないか?」


少しだけ間を置いて、咲がこちらを見た。


「唐突ね。でもまぁ、私は構わないわよ。雪はどうかしら?」


「うん、私もいいよー!!正直、このまま進むよりも、もう一度戦ってこの階層の魔物に慣れておきたいし。」


二人の返答を聞き、咲は小さく頷いた。


「なら、そうしましょう。今、天啓で探すわ。」


咲は静かに目を閉じる。呼吸が一度、深く落ち着いたかと思えば、ほんの数秒でその瞳が再び開かれた。


迷いはないまま、その足は自然と前へと踏み出される。以前の咲であれば、ここまでの精度で、しかもこの短時間で天啓を得ることなど到底出来なかったはずだ。


だが今は違う。これまで積み重ねてきた探索の経験が、そのまま確かな力へと変わっているのがはっきりと分かる。


「こっちに四体ほどいるわ。多分、ブラックボアよ。それでいいかしら?」


「あぁ、それで大丈夫だ。」


「私も問題ないよ~~。」


『ブラックボア』


黒い猪の魔物。


討伐推定ランクはCで、デーモンスパイダーと同等ではあるが、その性質はまるで別物だ。圧倒的な体躯に加え、地面を踏み締めるだけで伝わる重量感、分厚い皮膚と骨ごと砕くほどの突進力を持つ。


さらに特筆すべきは、異常なまでの群れ意識だ。同種であっても群れが違えば容赦なく牙を剥き、互いに潰し合うほど、この種は“群れ”という概念に強く支配されている。


ドロップ素材も優秀で、皮は防具に、牙は武器や加工品に使われるため、市場価値も高い。


そして何より――純粋に、試し斬りには丁度いい相手だ。


咲の導きに従い進んでいくと、やがて視界の先に四つの黒い影が浮かび上がった。地面を抉る蹄の音と、低く唸るような呼吸音が重なり、土と獣臭の混じった空気が鼻を刺す。


間違いない。ブラックボアだ。


「雪。最初は俺が切り込む。援護を頼む。」


「それはいいけど‥‥本当に悠真からでいいの?ここの魔物、かなり避けてくるよ。一撃目は私の魔法で牽制して、悠真が決めた方が確実だと思うけど。」


「分かってる。でも、今回は俺からやらせてくれ。試したいことがある。」


一瞬だけ視線が交差する。


「‥‥そっか。分かった。じゃあ、私が二撃目を合わせるね。」


「あぁ。失敗したら頼む。」


言葉を残した瞬間、俺は地面を蹴り、スキル「神速」を発動する。


視界が一気に流れ、風が肌を裂くように後方へと吹き抜ける中、足裏に伝わる反発すら曖昧なまま、気付けばブラックボアの懐へと踏み込んでいた。その速度は常軌を逸していたが、それでもブラックボアは反応する。


侵入者を察知した瞬間、その巨体があり得ない角度で捻られ、地面を削るように蹄を滑らせながら、迫り来る剣の軌道を紙一重で外した。金属が空を裂く音だけが虚しく響くが――やはり避けるか、とはいえ問題ない。それは最初から織り込み済みであり、むしろその回避動作こそが隙となる。


重心が崩れ、体勢が戻りきらないほんの僅かな硬直。その“繋ぎ目”を、俺は逃さない。


踏み込みをさらに加速させると、筋肉が軋み、骨にまで衝撃が伝わってくるが、そんなものは構わない。そのまま俺は――スキル「連撃」を発動した。


一撃目で外した軌道を無理やり引き戻すように刃を振り抜くと、鈍い手応えと共に分厚い皮を裂き、肉を抉る感触が腕へと伝わり、遅れて血が弾ける。それでもブラックボアが絶叫する暇すら与えず、間髪入れずに二撃目へと繋げる。


振り抜いた勢いを殺さず、体を捻り込むようにして叩き込んだ刃は、先程よりも深く、確実に急所を捉えながら胴体の奥まで食い込み、骨に当たる硬い感触と、それを押し切る確かな感覚が手に残る。


そして――最後。


首元へと滑り込ませた刃を、動きが止まった一瞬を逃さず全体重を乗せて振り下ろすと、肉が裂け、骨が砕ける音がやけに鮮明に耳へと届き、血飛沫が視界を赤く染めた。


ブラックボアの巨体は、力を失ったようにその場へ崩れ落ちる。


――手応えは、十分だった。

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