第112話 再び、渋谷ダンジョン。
新連載 『世界を統べた覇王と一心同体になった俺は最強の仲間【駒】を揃える』
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良かったらお願いします。
咲からある程度の説明を受け、俺達は再びこのダンジョンへと足を踏み入れることになった。
あのイベントが終わってから、まだそれほど時間は経っていないはずなのに、目の前に広がる渋谷ダンジョンの入口は、以前潜った時よりも明らかに“大きく”感じられた。
それが単なる気のせいなのか、それともあの日の出来事が無意識の内に恐怖として刻み込まれ、視界そのものを歪めているのか、あるいは――マナの急激な増加によってダンジョン自体が変質し始めているのかは分からない。
ただ一つ確かなのは、あの時とは比べ物にならないほどの緊張感が、この場所全体に張り付いているということだった。
空気が重い。
呼吸をするだけで肺の奥に何かが溜まっていくような、言葉に出来ない圧迫感がある。周囲を行き交う探索者達も、以前より明らかに口数が少なく、それぞれが警戒を強めているのが雰囲気から伝わってきた。
「で、俺達は今日はどこまで探索するんだ?」
自然と声のトーンが落ちる。
あのイベントの時とは違う。今は“遊び”でも“競争”でもなく、最悪の場合はスタンピートに繋がるかもしれない状況の中での探索だ。
前回は15層までしか進めなかったが、今の俺達は雪がパーティーに加わったことで戦力が大きく底上げされ、ランクもBまで到達している。あの時は完全に格上だったマンティコア相手でも、今なら正面から戦えるだけの力は身についていた。
それでも――油断できる状況ではない。
渋谷ダンジョンは八王子とは質が違う。単純な階層だけでは測れない“何か”があるのを、この身を持って経験している、そして、その経験は俺だけではなく咲も同じように経験していることだ。
彼女はすぐには答えず、ダンジョンの入口を見据えたまま、ほんの僅かに視線を動かしながら状況を整理するように思考を巡らせていた。
「‥‥そうね。」
短く呟いた後、ゆっくりとこちらへ視線を戻す。
「じゃあ、30層はどう?」
その言葉は決して軽い提案ではなく、現状の戦力とリスクを天秤にかけた上での判断だと分かる。
30層――それは決して浅い階層ではない。だが、深すぎるわけでもない。
魔物の強さも十分に実戦レベルで、今回の目的である“マナ増加に伴う変化の確認”と“戦力としての貢献”の両方を満たすには、確かに妥当なラインだった。
「‥‥そうだな。」
少しだけ間を置いて頷く。
「俺もそれぐらいかなとは思っていた。雪はどうだ?」
問いかけると、雪は周囲の様子を一通り見渡してから、静かに答えた。
「私も問題ないと思う。ダンジョンの状態確認と魔物の強さを測るには丁度いいし、余裕があるならそのまま進めばいいだけだから。」
無理はしないが、止まるつもりもない――そんな意志がその言葉には込められていた。
「そうだな‥‥じゃあ、決まりだ。」
そう言って一度大きく息を吐く。
「30層まで。状況を見ながら判断、無理はしない。」
自然と確認の言葉が出る。こういう時ほど、基本を徹底することが重要だ。
「じゃあ、そうと決まれば準備だな。」
俺の言葉に二人も小さく頷く。
一度ギルドに寄り、食料、水、予備バッテリー、医療用品、予備武器、そして投擲用の武器まで一通り揃えていく。
こういった準備は面倒に思えるかもしれないが、実際に命を左右するのはこういう細かい積み重ねだ。ほんの僅かな不足が、そのまま致命的な状況を招くことも珍しくない。
装備の最終確認を終えた後、俺達は互いに一度だけ視線を合わせた。
言葉はないが、それだけで十分だった。
「行くか。」
短くそう告げると、俺達は渋谷ダンジョンの入口へと歩みを進めた。その一歩は、確実に“いつもの探索”とは違う意味を持っていた。




