第110話 逃げ場のない任務が始まる。
新連載 『世界を統べた覇王と一心同体になった俺は最強の仲間【駒】を揃える』
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姉ちゃんと出掛けた翌日、俺は今日こそは絶対に休むぞ!!何があっても外には出ないぞ!!と固い意志のもと、布団のぬくもりに身を委ねながらゆっくりと体を休めていた。
全身に溜まっていた疲労がじわじわと抜けていく感覚は、何物にも代えがたい至福の時間であり、このまま一日中こうしていたいと本気で思えるほどだった。
そんな心地よい時間を邪魔するかのようにプルルル!!とスマホが鳴るが、その程度で起きるつもりなど最初からない。どうせ起きた後に掛け直せば済む話であり、この時間を手放す理由にはならなかった。
だが、その意思を嘲笑うかのように着信音は何度も繰り返され、ようやく鳴り止んだと思った矢先、今度は家のインターフォンが鳴り響く。
さすがにここまで続くと嫌な予感しかしない。
だが、まだ大丈夫だと自分に言い聞かせる。何故なら今日は母に「絶対に誰も部屋に入れないでくれ」と念押ししてあるからで、この防御が破られることはない――そう信じていた。
「よし‥‥寝るか。」
そう小さく呟きながら、もう一度眠りに落ちようと布団を深く被った、その瞬間だった。ガチャと静かに開いた扉の音と同時に、聞き慣れた声が無情にも耳に届く。
「居留守とはいい度胸ね。」
その一言で、全てを悟った。
恐る恐る視線を向けると、そこには氷のように冷たい目をした咲と、ニコニコと笑っているのに目だけが一切笑っていない雪の姿が立っていた。
完全に目が合う。逃げ場は、もうどこにもない。
――あぁ、終わった。
俺の中で何かが静かに諦めへと変わり、そのまま自分の最期を悟るのであった。
◇
「‥‥すぅ‥‥頭が痛い。」
あれから記憶が飛び、気が付けば俺は車の中にいた。咲と雪に叩き起こされ、半ば強制的に身支度を整えさせられ、そのまま連行されるようにここまで来たらしい。
「全て自業自得よ。あなたが居留守なんて使わなければ、乱暴することなく迎えに来てあげたのに。」
「まぁ、確かに居留守を使ったのは悪かったとは思うけど、それぐらい動きたくなかったんだよ‥‥ここ最近の疲れが一気に来てさ。」
頭を押さえながらそう言うと、咲は一度だけ小さく頷いた。
「それは分かってるわ。だから昨日は何の連絡もしなかったでしょ?」
「あぁ‥‥でも、そのせいで昨日は姉に捕まって全然休めなかったんだよ。はぁ‥‥本当に最悪だ。」
本音を漏らすと、咲は一切同情する様子もなく淡々と返してくる。
「そう。でも、それは私達には関係ないわ。今日はしっかり働いてもらうつもりだから。」
その言い方には一切の揺らぎがなく、既に決定事項であることが嫌でも伝わってくる。
「働くって言っても、何をさせるつもりなんだよ‥‥いや、この装備と格好からしてダンジョンに行くのは分かるけど、道がいつもの八王子とは違うよな?どこに向かってるんだ?」
窓の外を流れる景色を見ながら問いかけると、咲はほんの少しだけ意味ありげに笑った。
「ふふ‥‥渋谷ダンジョンよ。」
その言葉を聞いた瞬間、思考が一瞬止まる。
「はぁ?」
間の抜けた声がそのまま口から漏れた。
渋谷ダンジョンに、わざわざ今、そこに行く理由が思い当たらない。
「どうして、わざわざ渋谷なんだ?もしかして‥‥あのイベントのことを気にしてるのか?」
半ば冗談混じりに聞いたつもりだったが、咲は否定も肯定もせず、一度だけ視線をこちらに向けてから、静かにスマホを差し出してきた。
その仕草には先程までの軽さはなく、どこか仕事の話をする時のような張り詰めた空気があった。
「‥‥本当の理由はこれよ。」
画面に表示されていた文章を、俺は自然と読み進めていく。
『渋谷ダンジョンのマナレベルが急激に上がっていることが分かった。このまま上がり続ければ、いずれスタンピートが起こってしまう。それを防ぐ為にはダンジョン内の魔物を出来るだけ倒すしかない。
そこで、咲たちにもスタンピートを止める為に尽力して欲しい。頼んだよ――パパより。』
読み終えた瞬間、さっきまでのだるさが一気に引いていくのが分かった。
車内の空気が、明らかに変わる。軽い外出の延長だと思っていたものが、一瞬で“任務”へと塗り替わった。
「‥‥なるほどな。」
短くそう呟きながら、スマホから視線を外した。
「どうやら‥‥やることが出来たらしいな。」
そう言いながら、俺は小さくため息を吐いた。




