第106話 悪魔登場!!
長かった体育祭もようやく終わり、その後の打ち上げから帰ってきた俺は、風呂と歯磨きをパパッと済ませると、そのままベッドに倒れ込むように眠りに就いた。
普段であれば朝6時には起きて軽く運動をするのが習慣になっているのだが、さすがに今回は心身ともに限界だったらしく、次に目を開けた時には時計の針は11時を回っていた。
寝たのは確か10時頃だったはずだから、軽く12時間以上は眠っていたことになる。
「あ"あ~流石に寝すぎた。でも、まだ眠い。」
自分でも呆れるほどの睡眠時間のはずなのに、まぶたは重く、体は布団に沈み込んだまま動こうとしない。ふかふかの布団の心地よさと、これまでの疲労が一気に表面に出てきたせいなのか、むしろ寝る前よりも眠気が強くなっている気すらした。
幸い、今日からは土日と祝日で三連休だ。何も予定がない以上、このまま寝続けても誰にも文句は言われない。
――なら、もう一度寝ても問題はないよな。
そう自分に言い訳をして、再び意識を沈めようと目を閉じた、その瞬間だった。
ガチャ!!
勢いよく扉が開く音が響き、ドスドスと遠慮のない足音が近づいてくる。そして次の瞬間――
ドン!!
「うぐッ!!」
背中に容赦ない衝撃が走り、肺の中の空気が一気に押し出される。
何だ今の!?
一瞬で眠気が吹き飛び、反射的に体を起こす。
「一体何だ!?」
背後を振り返ると、そこには当然のように俺の背中に座り込む姉の姿があった。
「‥‥姉ちゃんは何してるの?」
「いつまでも寝てるあんたを起こしに来たのよ。」
その言い方は完全に“善意でやっている”側のそれだが、やっていることは完全に暴力だ。
「うーーーん、何で?今日は土曜日じゃん。それに昨日まで毎日忙しかったの知ってるだろ?今日ぐらいゆっくり寝かせてくれよ。」
もしこれが母さん相手なら、この程度の言葉で引き下がってくれただろう。だが目の前にいるのは、そんな常識が一切通じない姉だ。
当然のように俺の事情など一ミリも考慮されることはなく、次の瞬間には布団が容赦なく引き剥がされる。
「ほら、さっさと準備しなさい。出かけるわよ。」
「いや、だから――」
言いかけた言葉は途中で飲み込まれた。
この状態の姉に何を言っても無駄だということを、俺は嫌というほど理解している。ここで抵抗しても無駄に時間と体力を消耗するだけで、最終的には同じ結果に辿り着く。
なら、最初から諦めて従った方が圧倒的に楽だ。
「で?出かけるって、どこに誰と行くの?」
渋々とベッドから起き上がりながら問いかけると、姉は当然のように答えた。
「二人で渋谷に行くわよ。」
その一言で、思考が完全に止まる。
は?ちょっと待て、今なんて言った?二人で?渋谷に?
俺の脳がその情報を処理することを拒否しているのか、言葉の意味がうまく繋がらない。
「うーーん‥‥もう一回聞くけど‥‥二人で渋谷に行くって言った?」
「そうよ。」
「その二人っていうのは‥‥俺と姉ちゃんの二人ってこと?」
「そうよ。」
「それはなぜ?」
「え?行きたいところがあるからよ。あんたなら荷物持ちに丁度いいでしょ?」
ふざけるな。
心の中で即座に否定の声が上がる。体中の細胞が全力で拒絶している。布団に戻れ、寝ろ、外に出るなと、本能が警鐘を鳴らしている。
だが、その全ては次の瞬間、一瞬で封じられた。
姉がゆっくりとこちらを見下ろし、ギロッと睨みつける。
「あんた。私の誘いを断るつもり?そんなことしていいと思ってるの?」
――終わった。その一言で、俺の中の全ての抵抗は消し飛んだ。
「すぐ準備します!!」
反射的にそう叫び、その場から逃げるように立ち上がる。こうして俺は、完全敗北のまま――姉と二人で渋谷に行くことになった。




