第103話 互いに腹を割るべき。
全ての種目が終わり、白瀬悠真として迎える人生初の体育祭は幕を下ろした。
いざ終わってみると、どこか寂しさが胸に残る一方で、ここまでの仕事を思い返せば正直もう二度とやりたくないという気持ちも込み上げてくるという、相反する感情が同時に渦巻いていたが、それもいずれ時が経てば思い出として消化されるものだろうと考え、深く考えないことにした。
そして気になる団の順位だが、一位はC団、二位はA団、三位はB団、四位はD団という結果に終わった。
初めての優勝にC団の面々は大いに喜び、その熱気は体育祭が終わり放課後を迎えてもなお冷めることなく、下校していく生徒たちの表情には自然と笑みが浮かんでいる。
そんな中、俺は下校することなく屋上である人物を待っていると――ガチャ、と扉が開く音と共に七瀬先輩が姿を現した。
「待ってましたよ、七瀬先輩。団の順位はドンマイでした。」
「‥‥」
七瀬先輩は何も答えず、髪で顔を隠したままこちらへ歩み寄り、一定の距離に来たところで勢いよく頭を下げた。
「ありがとう。全て君の言う通りだった。負けていたのは‥‥私の心の方だった。」
そう、団としての順位では会長の勝利となったが、最後のリレーという一点においては七瀬先輩の勝利で幕を閉じている。
「最後の直線を走っている時に君の言葉を思い出して、最後の最後まで自分が勝てるって信じて走ったからこそ勝てたんだと思う。私は‥‥君の言う通り‥‥自分の勝利を信じていなかった。
だからこれまで勝負に負け続けてきたんだと思う。でも、今日のこの出来事を経て、私は‥‥これからは自分を信じて戦うことが出来る。」
「そうです。これからの全ての勝負に必ず勝てるとは限りませんが、この一度の勝利は紛れもなく七瀬先輩自身の力で勝ち取ったものです。その感覚を忘れず、これからも精進してください。」
「あぁ、ありがとう。」
――と、ここで全てが綺麗に終わればよかったのだが、問題はここから先にある。
七瀬先輩は確かに勝利を掴んだものの、その全てが純粋な実力だけで決まったわけではなく、あの事件によって会長の精神が揺らいでいたこともまた勝因の一つとなっている以上、このまま何もなかったことにするわけにはいかない。
「じゃあ、これで信じることの重要性は証明できたと思うので、本題に入りましょうか。」
「‥‥ん?本題??」
「入ってきてください。」
俺がそう告げると、屋上の扉が再び開き、そこに現れたのは一ノ瀬会長だった。
「何で、栞がここにいる!?」
「何で、それは一番‥‥結が知っているだろ?」
「‥‥ッ!!」
ちなみに俺は会長に対して事件の真相は一切伝えていない。ただ一言「屋上に来てください」、そして「俺の合図を待ってください」とだけ伝え、その通りに動いてもらった結果が今のこの状況だ。
「七瀬先輩。俺は先輩がしてしまったことを見過ごすことは出来ません。ただし、その真実を全ての人間に公開するつもりもありません。俺が望んでいるのは、当事者同士でしっかりと向き合い、本音をぶつけ合うこと――それだけです。
ここにはクラスメイトも、教師も、家の人間もいません。いるのはただの同学年の二人だけです。だからこそ、余計なものに縛られることなく話してください。自分の役目は、ここまでです。」
そう言い残し、俺は出口へと向かう。
この先の会話は、俺が立ち入るべき領域ではない。名家の次期当主である二人が、胸の内に抱えたものを全て吐き出し、何のしがらみもない真っ白な状態で向き合うべきものだからだ。
今後の関係がどうなるかは、二人の勇気と覚悟、そして気持ち次第で大きく変わるだろう。




