桟橋での攻防
当然向こうもこちらの動きに気付いているようで狼の様な生き物が何かつぶやいたのか箱を首から掛けた男は桟橋の先端に向けて走り出した。
『邪魔をするな!』
背筋が凍るような声が直接脳に響いて来る。しかしここまで来て分かりましたと引き下がる訳もなく三人も速度を上げたのだったが、当然向こうもこちらに向かい牙をむき出し襲い掛かって来る。もう誰でも良いから男に追いつければ良しとしようと覚悟を決めた聡介が次の瞬間に見たのは大きな鎌を持ちその牙を受け止めている天明の姿であった。
「こちらの使いは私が引き受けます!何としても箱が投げ込まれるのを阻止してください、如月さん!」
「はい!」
聡介と紫音はその横を通り抜け男を追う。後ろでドスンと言う音が聞こえるが決して振り返ることをしなかった。
二人が遠ざかっていくことに安堵できる状態ではなく天明は背中を地面に押し付けられ、その牙は今にも喉ぼとけに達しそうになっている。そして再びその声が脳に直接語り掛けて来る。
『その鎌、何故死神が邪魔をする?約束の日は神々の決定事項だぞ』
「未来を人間たちの手に委ねるのも悪くないのではと思いまして、、、そこまで愚かな種族ではないのではないかと。」
『愚かでなければ何故こんなに空気が、水が、大地が穢れているんだ!一度全てを元に戻す必要があるのだよ。』
「そうしても結局同じことが繰り返されるだけでは?生きている者たちが考え、改善していかなければ。だから何度も約束の日が訪れてしまうんです。足掻き苦しみ少しでも良くしていこうとしているのに上から全部塗りつぶして何が残りますか?」
『ふん、何を言ってももう遅い。もう止められんよ。』
「そうでもないんですよ。今追っているのは細小路貞行のお孫さんですから。」
『何?』
その一言に油断を見せたその使いの腹を蹴り上げ天明は絶対絶命の状況を何とか抜け出した。しかし決して危機が去った訳ではない。
「まったく、、、こういった業務は苦手なんですがね。」
「情けないな、先に行くぞ。」
肩で息をしている紫音を置きざりにして聡介は更に速度を上げる。過去散々走らされた経験から何故か未だに走り込みを続けていた成果であろう、何とか男に手が届きそうな所まで迫っている。
「待ってください、それを投げ込むのは止めてください!」
何かこちらに言っているようであるが残念ながら聡介には聞き取ることが出来ない言語のようだ。男は遂に桟橋の先端付近辿り着き箱を繋ぎとめる紐を首から外し今にも投げ込もうとしている。今まで長い時間を掛けてその役目を全うして来たのだから当然向こうも辞める訳がないだろう、聡介はその腕に飛び掛かり箱をその手からもぎ取ろうとした。次の瞬間聡介の背中に激痛が走った。男は掴まれた腕を勢いよく振り回し、聡介はその怪力に抗うことが出来ず桟橋に叩きつけられたのであった。呼吸が出来ない、、、横たわる聡介は何も出来ないまま箱が投げ込まれるのを見ているしかなかった。全てが終わった、そう思った瞬間過去に一度聞いた轟音が辺りに鳴り響く。
「へへへっ、天明さんに死神の能力が残ってたからもしかしてと思ったんだぁ。」
紫音が過去聡介の命を救った時に使った術を再び披露したのだった。男は白目をむいて膝から崩れ落ちた。
「ナイスだ、紫音!」
「私が世界を救いましたぁ!」
二人は喜びを爆発させていたが、桟橋の入り口から聞こえる鈍い金属音を聞き冷静さを取り戻した。箱を回収しなければ、、、、
紫音は横たわる男に近づきその手を覗き込むがそこにはあるはずの物が無かった。
「無い!箱がない!」
何とか起き上がった聡介とパニックになった紫音は辺りを見回す、すると半分だけ橋のへりに乗った状態の箱を発見した。男が倒れる際に手から落ちたのだろう。
「危なかったぁ~」
急ぎ箱に駆け寄る紫音、しかし絶妙なバランスで橋に留まっていた箱はその微妙な振動をトリガーにして湖の中へと吸い込まれて行った。




