176. ???
「新王!!!」
ドゥクランは城の奥、王家のプライベートエリアにある一室の扉を乱暴に開ける。
「あぁ、お帰り……ドゥクラン、私をその名で呼ぶのは止めなさい。あと、扉はもう少し静かに「お帰りなさい!! ドゥクラン様~! もー、全然戻ってこないから、オー様とお茶して暇潰してました!!」……私は暇潰しに付き合わされていたんだね……」
『新王』と呼ばれた男は気分を害した風でもなく、ドゥクランに抱きつきに行き、背中のチンパンジーと喧嘩を始め女の子を苦笑いで見つめる。
「新王!! それどころでは……神が! ヒルダ神様が降臨されておりました!!」
「あぁ、タイラ様だろ? うん、あの方は私も会ったが……神……神ねぇ……うーん、私の思っていた『神』からかけ離れた方だったよ…………」
「お会いになられたのですか??」
「あぁ、帝国でな。西に行きたいというから、転移門での移動を勧めてやった。喜んで使っていたぞ?」
「また危険な……」
「そうか? 考え方によっては、あの方を味方に出来れば怖いもは無いだろう? あの方が私が新たな皇帝だと言えば誰も異議は唱え無いだろうし…………実際、地底国の王位は神により授けられたしな。」
「そのようなことが……!?」
「ああ。だからあの方をどうにか味方に引き込まねば。……それで、他は計画通りに進んでいるのかい?」
『新王』はニコニコと微笑みながら椅子に凭れ肘を付きドゥクランに聞く。
「本土は例の魔物達を放ちました。それにともない、通信の妨害、転移門の解体を実施。なので西に集めた印持ちや騎士隊の月組達は連絡を受けたとしても本土に着くのは20日後位かと……」
「ご苦労。あ、西の魔物達はどうなった? ちゃんと魔王を捕らえ奴等に渡せたか?? それと勇者だ。ここに連れてこいと言ったはずだが??」
「そ、それが……」
『新王』は微笑んだまま話を聞き、反対の指で肘掛けをコツコツとつつく。それに合わせ、立って報告をしていたドゥクランの顔がなぜか苦しそうに歪んでいく。
「うん、要は魔物達の制御は失敗。竜の卵を孵すのも失敗、勇者は覇気に圧され手をだせず、その上、神に喧嘩を売っておめおめと戻って来たと……」
報告を終えたドゥクランは喉元を抑え、苦悶に満ちた表情で床に転がっている。『新王』はその様子をじっと見た上で、パチンと指を鳴らした。
ヒュッと息を吸う音が聞こえたかと思うと、ドゥクランは激しくむせ返る。心配そうに見ていたチンパンジーと女の子はドゥクランに駆け寄ると背中を擦っている。
咳が落ち着いてくると、ドゥクランは敬礼し途切れ途切れに『申し訳ございません』と謝る。『新王』はスンッと真顔になると、
「魔王を懐柔し、魔物達に命じて西に集めた印持ちや騎士を殺せ。あの数だ、皆殺しとまではいかなくても半数位迄には減らせるだろう? 力が足りなければお前とモズの血を使い覚醒させろ。あと、竜どもはは竜王が敵に回るとやっかいだ……このまま手を引く。」
「畏まりました……。」
「あぁ、それと……タイラ様はここにお連れしろ。丁重にもてなさねば………勇者に関しては、ローナ、君が手紙でも書いてやりなさい。友達なのだろう??」
ドゥクランの背を擦っていたローナは、突然名を呼ばれビクッと肩をあげつつ、『はい。』と素直に返事をする。満足げにその様子を見た『新王』はもう一度ドゥクランに目をやると
「………そうそう、モズが折角捕らえたネズミを逃がしたそうでな。私自ら叱っておいた。……奴の事だ、様子を見て来てやれ。」
「ハッ!!」
ドゥクランとローナとチンパンジーは頭を下げると部屋をでる。そのまま城内を移動し、酉族が管轄するエリアに足を踏み入れる。
「これはこれは申の……わざわざ酉族エリアに何用で?」
酉族の現公爵の義弟で国の人事部のトップに廊下ですれ違う。
「陛下よりモズ殿に伝言を預かりまして……。」
「……左様で。モズは今、自分の執務室に居るようですよ。……では、失礼。」
胡散臭げにこちらを一瞥すると、そのまま自分の部屋に向かったようだ。
モズの執務室。ドゥクランはため息を1つ、ローナは何かを覚悟するように生唾を飲み込みゆっくりと瞬きをする。チンパンジーはその様子を見届けてから扉をノックした。
「ん……ハッ、はぁーい。」
官能的な声で返事が返ってきて、扉の前の2人の表情が変わる。も、王の指示を違える訳にはいかないと扉を開ければ、ムワッと血の臭いが漂ってくる。
部屋の中では、上半身に無数の切り傷を作り、血まみれのモズが執務用の机の上で、1人で事に耽っていた。
「あっ、ん…………ふ、2人とも……なぁに?」
「王からお前の様子を見てくるように言われた。とりあえず座って話を聞け……」
2人は目をそらし、モズに話を聞くように促すと『後ちょっとだったのに……』と文句を言いつつ、怪我もそのままにシャツを羽織りズボンを履く。
「ネズミを逃がしたそうだな? ……その怪我は王が?」
「違う。王様は叱責だけ……」
つまらなそうに唇を尖らせて文句をいうモズに
「普通はそれで済んで良かったと思うものだ。で、王の罰で無いのならその怪我はなんだ?」
「もちろん、自分で罰したの! バリーを逃がしちゃって悪かったなって思ったから……」
「手当てを……」
「ローナちゃんがいい!」
「嫌です!! キモチワルイ……」
「あぁ!! ローナちゃん、そんな蔑んだ目でみないでぇ!!」
何をしても、何を言っても喜びに変換できるめでたい性癖の持ち主には、何もしないのが一番。王も叱責だけで止めたが、こいつの性癖上物足りなくて自分で傷付ける可能性を考慮して我らを寄越したのだろう……結局チンパンジーが手当てをする。
「どうやって逃げた? しっかり囲っていたんだろう?」
「精神系のスキルで鳥籠作って中に入れてたんだけどねぇ……奴、ネズミじゃん? げっ歯類じゃん? 折角作った鳥籠齧って逃げやがった……気づいた時にはもうこの国に居なかったんだよぅ……ごめんねぇ」
くねくねと上目遣いで、『やめろ! キモチワルイ!!』の言葉と、怪我をしている体への突っ込み待ちを全面にアピールしているが、その手に乗る気は無いので淡々と無事の確認だけして部屋を出る。
「……あの方、本当にキモチワルイです……」
青い顔をしているローナを見て、連れてきた事を少し後悔するも、平民の彼女を城内で1人にしておく訳にもいかない。
「……すまん。次は必ず勇者を連れてくる。」
そう約束し、勇者の特徴を詳しく聞いた。




