170. S の新事実
誰かの大声で目を覚ましたのはいいが、目を開けると目眩がする……。耳元で誰かがゴチャゴチャ言っているが、聞き取れない。
「何? もう一度……」
つぶやくと、ガバッと口を塞がれ、一気に目が覚める。目の前がグルグル回るなか、声がした方に顔を向ければ、すぐ横に誰かの顔があるり、その顔の主が私の口を塞いでいるのが分かった。
もう一度目を瞑り、モゴモゴと口を動かせば、
「んー……やっぱり聞こえなかった……。セス兄様は分かった?」
なんの事かさっぱり分からず、頭をゆるゆると振る。
「あ、ごめんなさい。バリー様が何か言ったんだけど、お前達ー! って言ったあとは、途切れ途切れで聞き取れなくて……。もう一回聞こうとしてる時に、セス兄様が何か言ったからとっさに塞いじゃった!」
バリー殿からここ最近連絡が無かったが、話しかけてきたのなら無事なのだろう……
やっと目眩が治まってきたので、ゆっくりと起き上がる。何故こんな硬い板の上で寝てるのだろう……。キョロキョロと見回し、ハッと思い出す。慌てて幌から顔を出せば、仮面の男とその男の足元に座り込んだタイラ様、それに見知らぬ男が瓦礫の上で話し込んでいる。
周りの人々はその様子を黙って見ているようだが……どんな状況だ??
「ファジール、私が気を失ってからの話をしてくれるか?」
そう言うと、大きなドラゴンの後ろに怪我をした騎士隊がいた事や、仮面の男、たぶんドゥクランが出て来て、今は魔物に取り囲まれている事、何故かタイラ様が魔王と間違われて連れていかれたこと、ダン(バリー殿)が何が言ってきたこと。を順に聞く。
魔物に囲まれていると聞き、得意では無いが注意深く気配を探る。物凄い数の魔物が居ることが判る。竜王に飛ばされた魔物を何体か見たが、あれらもここを囲う予定の魔物だったのだろう……
と、パタパタと白い小さなドラゴンが目の前に飛んで来る。
「お主、先程は大義であった。身体を張って卵を守ったお主に、酷い仕打ちをしてしもうた。怪我はないか?」
小首を傾げ、心配そうに覗き込まれる。ファジールが小声で私が持っていた時に卵が割れて顎を強打して意識を失ったのだと教えてくれた。
「竜の女王様。ご心配頂きありがとうございます。ですがもう大丈夫ですので……」
「ウム。じゃが、倒れるほどの衝撃だったのだろ? わらわの気が済まぬ。何か詫びをしたいのじゃが……」
『イチカ!!』
外からフィルの叫び声が聞こえる。驚いて幌から覗けば、仮面の男が居なくなり、代わりにイチカとノリアスが男に抱えられていた。
「おや、『黒の』があの2人を処分するのかの?」
「え? 処分? ですか……?」
「処分ってなに? イチカを殺すってこと?? なんで?? ダメだよ! 止めないと!!」
慌ててファジールが出ていこうとするも、ガンッと何かに弾き飛ばされて馬車から出られない。どうやら女王が馬車に結界を張っているらしい。
「静かにせい! 聴こえんじゃろが!!」
女王にしかられ、ぶつかった頭を擦りながらイチカ達の様子を見ていたらフィルとドラド様が近づいて行った。
「あの、彼らの話が聞こえるのですか?」
「あぁ。」
「なに?何て言ってるの??」
「フン、面白いことになっておる……」
と、なぁーーーーー!!と言う叫び声と共に突然イチカ達がいる場所が眩しいくらいに光りだした。眩しくて見ていられず思わず顔を背ける。
暫くして光が治まり、顔をあげると黒髪の長髪の男がイチカを抱き抱えていた。
「あー! なにあの男!! イチカに馴れ馴れしすぎる!!」
飛び出そうとして、また見えない壁にぶつかるファジールが竜の女王に文句を言う。
「クククッ、いやいや……生まれ変わり永年の記憶があるが、これは珍しいモノを見た。」
「もー! なんなの? 1人で楽しんでないで、何が起こってるか教えてくれるか、この壁無くしてよ!!」
ファジールがプリプリと怒り始めた時、やれやれと女王がこちらを向き、
「見ろ、新な魔王が誕生したぞ? あの女も恐ろしいの……魔王を虜にするとは……ファジールとやら、お主もあの女に懸想しておるようじゃが、深入りせず早々に諦めた方が賢明だろうよ。」
「ハァ? イチカの事を言ってるの?? って……魔王ってあの黒髪の男?? ちょ、助けないと!! いい加減壁消して!!」
ケタケタと楽しそうに笑いながら、竜の女王は結界魔法を解く。ファジールは対魔物用のブーツを装着しながら馬車から飛び出して行った。
「魔王がこの場に居るに、何故みんな黙って見ているのでしょう?」
「ん? なんだ、お主知らなかったのか? あれはノリアスだかって名の小僧の成れの果てじゃ。」
!? 驚き過ぎて声にならない……ノリアスが魔王?? タイラ様はご存知だったのだろうか……? もしかして、皆騙されてた?? いや、それより……伝説の魔導師、ユリノトの子供では無かったのか??
色々と疑問が浮かぶ中、女王が感心したように言う。
「フム、じゃが今度の魔王はちと毛色が違うの……」
「どういう事ですか?」
「…………すべての種族との共存を望むそうじゃ。」
私の知るノリアスであればそう言うだろうが……
「いけ好かぬ匂いはするが、魔王は暫く様子見じゃな。『黒の』も手出しはしないようじゃし……じゃがお主、魔王よりあの女には気を付けるのじゃぞ! 心奪われぬように……」
女とはイチカの事だろうが、ずいぶんと警戒しているようだ……と、女王は突然『わらわは帰る! 詫びは後程な!』 とパタパタとイチカ達のいる場所に飛んでいってしまった。
目覚めてから、怒涛のように色々と起こりすぎたせいで頭の整理が追い付かない。とクイクイと服を引っ張られる。見ればダンが全身で何かを伝えようとしているようだ。
「なんだ、どうした?」
小さな身体を賢明に動かすのをじっと見つめる。なんとなくだが、
「メガネ?」コクコクとダンが頷く。
「欲しいのか?」ブンブンと首を振る。
更に見つめていて思い付く。
「もしかして、バリー殿?」短い腕で丸を作る。
そんな感じのやり取りをして判ったことは、バリー殿に何か異変がある言うことだった。
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