142. S タイラ様の人選
大神様のご神託を受けたあと、横並びのタイラ様がフィルとの会話で聞き捨てならない事を言った。
横領? 神にバレる?? まさか神に仕える彼らが!? と名を呼ばれた方々を見れば、青ざめ、心なしか震えているように見える。いや、そもそも『タイラ様が知っている』時点で疑いようもなく、彼らは罪を犯しているのだろう。
早急に知らせなければ……とオヤジ殿に話す許可を貰う。
いざ、城でオヤジ殿に面会と思いきや、何故か御偉方がズラリ。事前に通達すれば、私やマリア嬢はまだしも、リベルやフィルは逃げ出す事を見通しての処置だろう。
慌てず、騒がず、定例通りの敬礼をすれば、南の王の斜め後ろにいる人族、たぶん宰相か外務大臣あたりの役職のおじさんが声を張り上げる。
「キサマ!! 何をしておる!!」
なんの事か分からず、おじさんの目線を追えばわたわたと俺達を見て真似をするタイラ様が目に入る。……しまった。神は敬礼などしないだろう。教えて差し上げるべきだった……後悔するも既に遅し。どうにもならない。
と、ここでフィルが思わぬ暴挙に出る。なんと、タイラ様の身分を断り無く陛下達に知らせたのだ。表情からするに、神罰は覚悟の上だろうが、問題はタイラ様。可哀想な位狼狽えて、皆に注目されるなかヨロヨロと立ち上がり、精一杯であろう威厳を演出しながら名乗りを上げた。
だが、タイラ様……途中の『えーっと』はいかがなものか……。そして最後は若干泣いているようにも見える潤んだ瞳で『タスケテ』を訴えながら、事を丸投げしてきた。失礼は重々承知だが、カワイイと思ってしまった……
取りあえず、居心地が悪そうな敬礼をやめてもらい、話し易いように着席して貰う。そして、タイラ様から聞いた教会の不正をタイラ様に確認しつつ話せば、皇帝を始め各国の宰相達が自国の兵士に指示を出す。それぞれの国の教会にも調査の手をいれるのであろう。帝国だけは、タイラ様を怒鳴り付けた人族の宰相が頭を下げて自ら指揮をとりに部屋を出ていった。
そこからは陛下達も落ち着きを取り戻したのか、タイラ様に自己紹介をしている。一通り終わると、驚いたことにフィルがタイラ様の斜め後ろに立ち、交渉を始めた。こういった場も、交渉役も嫌いで殆どしたことの無いフィルが、堂々と陛下達を見て話している。幼い頃から茶会で顔を合わせている大人達は何故か生暖かい目でフィルの話を聞いていた。
「転移門で西へ……では、討伐にタイラ様も参加頂けるのですかな??」
さすが皇帝、神でも憶さず駆け引きをして討伐に参加させる気か……
「も、勿論!! 任せと……任せたまえ。」
……タイラ様、今、予定に無かった魔物討伐を押し付けられた事を分かっているのかどうか……取りあえず笑ってしまうのでムリに威厳を出そうとするのはやめて欲しい……
「ならば我々と共に参りましょうぞ。」
西の国王が申し出た。
「今夜は晩餐会があるので、明日の朝に転移門を開くように伝えてある。その時で良ければヒルダ神様達も御一緒にいかがですかな?」
ニッコリと笑う。西の王は王様の中でも一番若く、今まで革新的な事を行ってきていることで有名だ。
タイラ様が小声でラッキーじゃん!! とフィルに囁いているが、ラッキーがわからないフィルは曖昧に頷いて、皇帝を見れば、
「そうだな。何度も開けるものでも無し。ヒルダ神様もそれで宜しいですかな?」
タイラ様は一瞬ポカンとしたあと、自分に話しかけられていると気づいた様で、
「ウム、クルシュウナイ。ヨキニハカラエ。」
と謎の呪文を唱えた。その場に居た者は皆、身構えたものの何も起きずにタイラ様を見つめる。皇帝が恐る恐る、
「ヒ、ヒルダ様……今の呪文は?」
「ん? 呪文?? いや、今のは任せるから一番良い方法で頼むって言ったの。通じなかったか……ゴメ……ん"ん"っ言い方が悪かったな。まぁ、帥らに任せる。」
「畏まりました。では、明日。それと、今日はこのまま城にお出でください。で、今夜の晩餐にご参加下さいますかな?」
タイラ様……お顔に感情が出すぎです……が、城に留まる以上出席しなければならないだろう。なんとか出席させたい皇帝と、面倒臭そうなタイラ様のやり取りの向こうで、西の国の王の顔が見えた。
ゾワッっと寒気がする程冷たい目をしてお二人を見ている。結局タイラ様が折れ、晩餐に出席が決まると、一瞬ニヤリと笑い、すぐに人の良さそうな微笑みに戻どし他の王達と共に与えられた部屋に戻って行った。
『何で』かは分からないが、このまま皆で西へ行くのは危険な気がする……我々も部屋へ戻ると、早速タイラ様に話をする。が、己の感覚でしか無いので説明に困る。
なんとかこの気持ちを伝えると、
「あー、だいぶシナリオが変わってるから、なにがあっても不思議じゃ無いんだよね……結局ホルスも居なかったし……確かに西に戦力が集中しすぎ……でも、マリアの対象者が……」
ブツブツと一人言を言い始めた。ホルスとは丑の印持ちのホルスの事なのだろうか?? 彼も何か関わりが??
「よし、西へは俺とマリア、フィルとノリアス、それとダン! 4人と一匹で行く!」
「僕も行く!!」
「だめだ。ファジールまで行くと、西の国だけ戦力過多。対象者枠が5人分しか無いからね。」
「意味がわからない!! 対象者って何?? 強い魔物倒すのに印持ちはいっぱい居た方が良いじゃん!!」
ファジールは相手が神様なのも忘れて駄々をこねる。
「いや、それはそうだけど、戦力が一ヶ所に集中し過ぎるのもね…… だからファジールにはこちらの大陸の守りを……「イヤ!」……」
確かに。西には王家と元々の守護人獣の酉と申の印持ち、騎士隊の辰のドラド様と200年前の戌の英雄がいるはず。それに騎士隊の人獣部隊の半数近くと医療、治癒ができる人たちが多数いる。
ここにさらに勇者とフィルとファジールとリベルの印持ちが行ってしまったら、本土の戦力はかなり下がる。
「タイラ様の決めたことだ。イチカなら必ず連れて帰って来る。」
フィルがファジールに言う。ファジールは一瞬怯むも、
「抜け駆けはしないで下さいよ!! 僕、絶対諦めませんからね!!」
泣くのを堪えるようにフィルとタイラ様に向かって言うと、パタパタと与えられた部屋に行ってしまった。
暫くして晩餐会が始まり、タイラ様は王達の質問責めに辟易しながらも食事を終え、明日に備えて皆、体を休めた。
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