140. F とタイラ様
謁見を終え、宿に戻りグッタリしたままタイラ様から渡された菓子を受けとり、ソファーへ腰掛ける。セスとファジールは手渡された菓子を頬張りながら今日の出来事を報告している。
着替えから戻ったリベルとマリアが加わり、報告から雑談に変わると、タイラ様は輪からそっと出で黙々と作業を始めた。何を作っているのか……気にはなったが、扉を叩く音で気が逸れた。
マリアが返事をし扉を開けると、驚いたことにモグラの獣人、ハナがはち切れそうなメイド服を着て立っていた。
「失礼致します。皆様、ご無事で何よりでございます。」
深々と頭を下げる。リベルがこちらこそありがとうと礼を言い、我々が逃げた後の話をザックリと聞く。
逃げた事を知った偽物母娘は、怒り狂って偽物派の貴族に当たり散らしていた。その事で愛想を尽かせたのと、地上の貴族の怒りを買ったと知った幾つかの貴族が離反。それに怒ってまた当たり散らすを繰り返していたそう。そこに、戴冠式を行うと連絡が来て、嬉々として地上に出てきたそうだ。
戴冠式には、偽物とアンジャ、偽物派の貴族、偽物反対派の貴族と執事、それとモグラの獣人の代表が参加予定らしい。
「私は、リィナ様の元に居たモグラより知らせを受け、ノームの王族が着る、伝統の衣装をお持ち致しました。サイズの調整をしたいので、リリア様達のお部屋を教えて頂いても?」
マリアとリベルがハナを案内しに行く。部屋では、タイラ様が『出来た!!』となにやら大きな布を広げていた。何をしていたかと思ったら、リィナがつまらないと言うので遊び道具を作っていたそうだ。さすが創造神……
ただ残念な事に、リィナはこれから衣装合わせて遊べない。それを聞いてガックリと肩を落とすタイラ様を見て、皆が励ますように一緒にやろうと説明を聞く。難しくは無さそうなので、リベル達が戻ってきてから皆でやってみた。案外楽しく、その日は謁見の疲れも忘れ夢中で遊んでしまった……
次の日、戴冠式が行われる教会へ行く。到着は時間ギリギリになってしまったので急いで中に向かえば、何故か皇帝や王に声を張り上げ訴える偽物が目に入った。すぐ横では『あちゃー』と謎の呪文を唱えるタイラ様。と、皇帝がこちらを見て、良いものを見つけたと言わんばかりの笑顔を見せた。
マリアにどうにかしろと遠回しに言うと、マリアは打ち合わせ通り神へ祈るよう皆に促す。タイラ様から話を聞いたとき、祈れば神託を頂けるなど半信半疑だったのだが、頭の中に声が響いてきた。驚き、周りを見れば同じように驚いた顔のリベルと目が会う。
双子神にこの世界を授けたとされる大神の言葉。威厳に満ちた声で、正当なる地底人の王族の末裔はリリアとその子リィナであると宣言された。そして、大汗をかいて偽物達を宥めていた司祭のデナルを始め、3人の枢機卿の名を呼ぶといつでも見ているぞと、励ましとも脅しとも取れる言葉を残して神託が終了した。
偽物は『インチキよ!』と神を罵倒する暴言を吐き、兵士達に連れ出された。後に、詐欺の罪に不敬罪まで加わり一生牢獄で過ごす事になったそうだ。アンジャは偽物と判っていながら、協力した罪で同じく終身刑。偽物を擁護していたノームの貴族は、軒並み爵位が下げられ、半ば引退に追い込まれた。
その後は戴冠式を恙無く終えたのだが、先程、大神様に名を呼ばれた4人の顔色が酷く悪い。思わずタイラ様に話を聞く。
「タイラ様、先程、大神様が最後に呼んだ4人。随分顔色が悪いようだが……」
「ん? あぁ。あれ、横領とかが神にバレてるって気付いたんじゃない? あの人達もなかなか上手いこと言うよね! 名指しすることで本人達にはプレッシャーを与えて、他のひとにはただの激励に聞こえるとか……」
事も無げにあの4人の罪を暴露する。上手いことを言うとは大神様のことか?
「横領ってあの4人がですか?」
声が聞こえたのか、セスが話に入ってくる。
「うん。寄附金募って孤児院やスラムへの炊き出しやってるって話になってるけど、孤児院には1日1度の食事が出来るだけのお金しか渡してないし、炊き出しだって具無しのスープのみ。あとは、孤児院の子を養子に出すって言って、実際には売り飛ばしたりね……」
「……その話、我々の父に話しても?」
「え? セスのお父さんに言うの? 皇帝じゃなくて??」
セスが、残念ながら、皇帝や王に、呼ばれもしていなのに近づけない。と説明すれば、
「うわぁ、めんどくさいんだねぇ……」
と言いつつ納得してくれた。一段高い位置に居る、北の国の王。その後ろに控える、護衛兼宰相の父へ目配せする。父は近くの兵士に何かを言うと、兵士は頭を下げてその場から離れた。しばらくすると、父達が滞在している城に来るようにと伝達があった。
教会内の騒ぎも落ち着き、皇帝と王達が退室した後、リリア達がお礼を言いにきた。地下の国は今まで通り、暫くは支持者に管理してもらい、リリア達は帝国内に留まり統治のいろはを学ぶそうだ。
これからは王族になるので気軽に会えなくなるが、お元気でと深々と頭を下げる執事に促されて、王族達と同じ扉から出ていった。
我々は一旦宿に戻り、タイラ様にもう一度詳しく教会内の話を聞いてから、父の元へ向かう。話を通してくれてあった様で、大人数にも関わらずさほど色々なチェックを受けることなく城内へ案内された。のだが……
こちらへ。と通された部屋は何故か男女別々の部屋。全員着替えさせられ、お待ちをと着替えが終わった者から順に客間に通される。全員が着替え終わり、案内された部屋には、皇帝を中心とした茶会の会場だった。反射的に敬礼をし、北の王の側に控える父を睨み付ける。スマンと唇が動く……。
俺達が会いに来ることを王に伝え、その話が皇帝や他の王の耳に入ったのだろう。……そうだ! 逆にチャンスかも知れない!! 思い付いた事を実行しようと覚悟をきめた。
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