139. S とタイラ様
目の前に神が居られる。比喩ではなく、教会の像や経典、絵本の姿とはだいぶ違うが、マストル村の教会で信託を下さったヒルダ神様のお声と話し方そのままだ……何故気付かなかった……あまつさえ、マリア嬢を守る為とはいえ神に刃を向けるところだった……
ファジールと共にベッドとベッドの隙間で敬礼をしたまま後悔と猛省を繰り返す。
「あ、それ! それ止めて!! 全然気にしてないから! ぶっちゃけテンション上がって女の子に駆け寄る怪しいおじさんだったし。2人の行動は正しいよ! むしろ驚かしちゃってゴメンね……」
あたふたしながらも、ヒルダ神様が我々を赦して下さる……なんと寛大な……
ヒルダ神様が身を明かされた後、こちらの世界に来られた理由を改めて説明する。案の定、ファジールがなんでなんでと納得できない様で騒いでいたが、リベルの一喝で大人しくなった。……それより、フィルよ……この狭い空間で殺気を放つのは止めてくれ……若干だが部屋の温度が下がるじゃないか……
その後はリリア達の話をし、皇帝とグッドル公からの伝言を聞きそれぞれ就寝。翌日は早朝から城からの使いが来て謁見の為の支度をさせられる。されるがままに着替え、髪型を整えられ、馬車に乗る。リベルとマリア嬢は我々よりも更に早くから起こされたらしく、朝だというのに既にグッタリしている。
城に着けば、謁見の為の堅苦しいしきたりを行い、チェックを受け玉座の間に向かう。優しそうなお爺さん、という感じの皇帝がマリア嬢に『勇者の証』を授け、魔物の討伐依頼と、リリア達の詳細を話して謁見は終了。そんなに長い時間居たわけでは無いのだが、やたらと疲れた……
宿に戻ると、ヒル……タイラ様が街で評判だという菓子を頬張りながら、『ほはへりぃー』と出迎えてくれた。我々が城にいる間、ノリアスとジョロウ、ダンそれにノームの家族を連れて街を散策していたそう。……話し方もなさる事もかなり気さくな方のようだ……
お土産のお菓子を一緒に頬張りながら、城でのやり取りをタイラ様へ伝えて居る。と、体の大きなメイドが訪ねてきた。フィルとリベルが対応していたら、ノームの王家に使えていたモグラの獣人の末裔なのだとタイラ様が教えてくれた。リリア達に会いに来たのだろう。
そのあとは特にやることもなく、ぼんやりと窓の外を見ていたら、タイラ様が暇潰しをしようと皆を集めて『スゴロク』というものをやろうと言い出した。黙々と作業をしていると思ったが、その遊びの道具を作っていたようだ。
街で買ったという大きな布に丸と棒と数字が書かれている。丸の中には『歌を唄う』や『変な顔をして指定された人を笑わせる』など、やるべき事が書かれているらしい。
やり方を一通り教わり、皆でやってみると思いの外面白かった。さすが創造神、こういった遊び道具をも作られるとは!!
神の力を目の当たりにして、その日は上機嫌で床に着く。
◇◇◇◇
次の日、朝早く起こされたのは隣の部屋ジーマさん達だったようだ。人が動く気配を感じながら微睡んでいたら、リベルが起こしに来た。どうやらリリア達は先に行ったようだ。
我々は朝食を食べ、約束の時間より早めに着くように宿を出て教会に向かった。のだが、教会の周りが馬車で埋め尽くされ先に進めない。仕方なしに一度宿に戻り、教会まで馬で向かった。
到着したのは予定時間ギリギリ、扉をそっと開ければ驚いたことに皇帝も各国の王も既に設えられた席に着いていた。そして、騒ぐ派手な女と貴族服を着たノーム達をウンザリしたような顔で見下ろしていた。
『あちゃー』と言う声の主を見れば、嫌そうな顔をしたタイラ様が額に手を当てていた。どうやら偽物がリリア達に喰ってかかっているようだ。その横で、ノームの貴族だと名乗る者達が皇帝や王にそれぞれの主張を繰り返している。
戴冠式を取り仕切る? この教会の司祭、デナルと言ったか? 大汗をかいて、偽物達を宥めている。
「王族の末裔と言っているが、証拠はあるのか?」
「証拠? その短剣を持っているのが何よりの証拠でしょ?」
「それは、私の物です! 返して下さい!! 母から譲り受けた大切な物なんです!!」
混沌とした現場にそっと足を踏み入れると、皇帝がマリア嬢を見つけ、ニンマリと笑うと
「静にせんか!! 本物も偽物も勇者が知っておる! のう? マリア殿?」
来て突然話を振られたマリア嬢は慌てた様子で返事をする。
「マリア殿、御主が賜った神託をこの者達に伝えてくれぬか?」
そう言われ、マリア嬢はタイラ様を見る。タイラ様が力強く頷くと、
「畏れながら……昨日、新たな神託を授かりました。」
「ほう。して?」
「この場に居る全ての者に神託を授けると……」
「なんと!? 真か?? どうすれば良いのじゃ?」
「私と共に神にお祈り下さい。」
「うむ。皆の者、聞いたな? これより、この教会内統べての者は神に祈りを捧げよ!!」
2人の会話に聞き入っていた人々は、驚きと興味を持って祈り始める。が、待てよ? ヒルダ神様は私の横にいらっしゃる?? とチラッとタイラ様を見ると、タイラ様も一緒になって祈っている。どういうことだ??
『……か? き……えるか? 聞こえるか? 皆の者。』
ヒルダ神様と話した時より、お歳を召したような、少ししわがれた声が頭の中に響く。
「おお! 神よ!! 聞こえております!!」
皇帝が返事をする。他の者は驚きつつも祈りの体制を崩さない。
『我は大神。双子神にこの世を与えた者なり。此度、勇者マリアの呼び掛けに答え、そち達の愁いを晴らそうぞ。』
大神さま!? ヒルダ神様より格上とされる神!! だからヒルダ様もお祈りをしているのか……
皆静に神託を聞いていた。神はリリア達の問題をあっさり解決し、最後に何故か数人の司祭や枢機卿の名前を呼び、『いつでも見ているぞ』とお言葉を残して神託は終わりとなった。
読んで頂き、ありがとうございました。




