136. F 神の紹介
しばらく振りに見る兄の趣味が変わったのかと本気で心配したのもつかの間、胸ポケットでジッとこちらを見ていた人形が話し始めた。
どうやら彼女は滅多にお目にかかれない虫族の人型らしい。森と辰の私兵団の街から出たことがなく、道中の物珍しさにセスのポケットから顔をだして、思わず覗いていたとの事。何にせよ、幼女の人形を愛でる趣味じゃなくて安心した。
部屋の奥では、リリアとリィナが父親らしき男にしがみつき泣きじゃくっている。……あちらはしばらくそっとしておこう。
セスの後ろで、大きな体をどうにか隠そうとチョロチョロ動くファジールに声を掛ければ、相変わらずビクビクしながら返事をする。特に何をした記憶も無いのだが、何故か怖がられて居るようだ。
とにもかくにも、皆無事でホッとしていたら、ノリアスが早速フィルに馬を返して貰えるように交渉に行ったようだ。だが、思わぬ方向に話が飛び、馬の話までたどり着く前にタイラ様が迎えにきて出ていってしまった。
何か言いたげにこちらを見るが、許可無くタイラ様達の事は話せない。なので、まず、お互いの近況を報告し合う。
そうこうするうちに、タイラ様達が戻って来た。セスは意気込んで説明を求めるが、どうやら扉の外で何人かが聞き耳を立てていたらしく、珍しく家名を使って宿をとるように言われた。
教会の息が掛かった宿はやめた方が良いと言うので、街の中央で何人かに宿の場所を聞き、大きすぎず、小さすぎない宿を尋ねる。宿には2組程宿泊客が居たが、代わりの宿の紹介と、宿泊費と詫び賃を渡して宿を移って貰った。
宿には多めに宿泊費を渡し、食事の準備が終わったら、しばらく宿を空けてもらう。宿の主人夫婦は『久しぶりに外食でもしてきます』と嬉しそうに出ていった。ノームの家族は少し休みます。と一家揃って部屋に引きこもってしまった。我々は一応周りを確認し、早速話を始める。
タイラ様とノリアスが知らない顔があるので、まずは自己紹介。我ら3兄弟が改めて名を言い、マリア、ファジールと順に名を言っていく。
ノリアスの紹介で、マリアがユノの事を思いだし、亡くなったと聞いて泣いてノリアスを抱きしめて離さず、中身が成人男性と何ら変わらないことを知っている俺やタイラ様が必死で引き剥がす。後に、馬の『だーく』が甘えるようにノリアスの頭を噛んだのを見て、無償でノリアスに返す事にしたようだ。
ノリアスは嬉しかったのか、珍しく笑顔でお礼を言っていた。そして、セスが一番気になっているタイラ様の番。
「え、えっと……岡……平良 岡本と言います! この世界の神、ヒルダをやってます!! よろしく!!」
……タイラ様。威厳が微塵もありませんが……? 聞いたセスとファジール、それと虫人のジョロウがポカンとしている。
「……神……ですか?? え?」
セスがこちらを見てホントか?? と確認するような目で見てくる。
「ヒルダ神様に間違いありません!」
「ホントだぞ!!」
マリアとハムスターのダン、いや、バリーが返事をする。相変わらず突然出てくる……
「鑑定した結果、タイラ様は創造主であり、神であることは間違いない。ただ、私も未熟故、ヒルダ神様だとは存じませんで……」
バリーはダンの体で敬礼しているようだ。ガタガタッと音がするので目を向ければ、セスとファジールがベッドとベッドの隙間で青い顔をして最敬礼をしている。
「知らなかったとはいえ、先程は大変なご無礼を!! 申し訳ございません!!」
タイラ様は苦笑いをしながら、気にするなと2人に敬礼をやめるようにいう。自己紹介が終わると、
「俺はイチカちゃんを探しに来たのね。だから皆にも協力してほしい。」
そう言って頭を下げた。
「あ、あの!!」
元気良く手を上げたのはファジール。何故か慌てたように、イチカを探す理由をタイラ様に聞いている。タイラ様が一通り説明し終わると、
「困るよ! ……いや、困ります!! イチカは僕の婚約者にするって、母様に言っちゃったし! 王様も許可をくれたのに!!」
…………なん、だと……??
「イチカを見つけたら、東の国に連れて帰るよ! 僕のお嫁さんになって貰うんだから。だから、タイラ様は1人でお帰りください!!」
イチカを嫁にってのは看過出来ないが、神に向かって帰れという度胸は認めよう!! と内心、感心する。
タイラ様は、困ったように言葉を重ねてファジールを説得しようと頑張っていたがなかなか納得せず、タイラ様がほとほと困ったように頭を抱えている。すると、マリアがタイラ様を困らせるなと一喝して、イチカの話は終わりを告げた。……後で個人的にファジールと話をしよう。
その後は、リリア達の話になる。どうやらタイラ様が神々に話をしてくれたそうで、各国の代表者に加え、あの偽物母娘や地底国の重鎮達も呼び出し、神が直々に王族として認めると宣言してくれるらしい。さすがにそこまですれば反対は無いだろうとのこと。
コンコン、と部屋の扉がノックされる。誰かと思えば、ジーマが少し怯えたように立っていた。どうしたのかと聞けば、宿の扉を誰かがずっと叩いて居ると教えてくれた。話に夢中になりすぎて気付かなかった。
宿の主人達には暫くの間、他に行ってもらって居るので、仕方なしに対応する。
「勇者マリア殿はこちらにおいででしょうか? 皇帝陛下からの書状をお預かりしております!!」
受け取り、マリアが内容を確認したところ、『勇者の証』を渡したいので城まで来るようにとの命令だった。そして、陛下からの使いのすぐ後、今度はグッドル公の使いが来て、同じ内容と、各国への連絡が終わった事を知らせが来た。
陛下の所には、マリアと俺たち兄弟、あとはファジール、それにリリア達も来るように書かれて居る。招待されていない者を連れてはいけないので、タイラ様やノリアス達は留守番になる。……大丈夫だろうか……
心配しながらも、次の日は朝から強制的に謁見の支度させられ、城に連れていかれた。




