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133. I 嫌な思い出



「うわっ!」


カコーンッ、カラカラと中身をぶちまけて食器が転がる。


一人前の食事を受け取り、空いている席に向かう途中、横から生えてきた足を踏んづけて、危うい角度でお盆に乗っていたサラダが落ちてしまった。


「痛いじゃない! もっと周りをよく見て歩きなさいよ!!」


テーブルの下から足を生やした本人が言う。良く見た上で避けようとしたのに、わざわざ踏まれにきたお前に言われたくはないが、ここは食堂の中。周りの視線を感じ、スミマセン、と小さく謝って落ちたサラダを拾う。


船に乗って数時間。何故か小学生並の嫌がらせをちょこちょこ受けている。共同トイレに入れば出られないようにされ、通路を歩けばそこかしこから足が生えてくる。


こんなことをされる程、ここの女性陣と話してもいないのだが? と理由が思い当たらない私は、同室のミリーに相談をする。

このミリー、医療班なのかと思ったら、小隊を束ねる隊長さんだそうで、私の護衛も兼ねて同室になったらしい。


「たぶん、ドラド総隊長が貴方と同じ馬車に乗ってきたからじゃないかしら?」


……それで嫌がらせを受ける意味がわからん。


「ドラド様は女性嫌いなのは知ってる?」


直接聞いたわけではないが、初めて会ったときは私は意識の外に置かれてたし、触れるときは手が震えてるし、こっちを見るなとも言われたし……思い当たることは多々あるので、


「なんとなくそうなんじゃないかとは思ってました。」


「結構、重度なのよ。だから遠征なんかで船を使ったり馬車を使うにしても、絶対女性と同じものには乗らなかったの。今回、同じ船に乗り込んだのも異例なのよ。だから、船より距離の近い馬車に乗ったり、話しかけられたりするあなたが羨ましかったのね」


くっだらなーい!……そんなことで私のサラダが犠牲になったのか! 話したきゃ話し掛ければ良いのに……女嫌いとはいえ、話しかけてきた人を無下にするような事はしないでしょうに。


こういった嫌がらせを元居た世界でも散々受けてきた。なぜそんなことをされてきたかは良く覚えていないが、相手にするだけ無駄なのはハッキリ覚えている。だから大概は放置するのだが、食べ物が犠牲になるなら話は別! 後できっちりやり返してやる!! と意気込んでいると、苦笑いのミリーが、


「気持ちは分かるけど、あなたがやり返したら酷くなると思うはわ。あの子達には私からきっちり言っておく。そして、管理できなかった私のせいでもある。ごめんなさい……。」


ミリーが深々と頭を下げる。そこまで言われて引かない訳にもいかず、分かったからと頭を上げてもらった。


その後はなるべくミリーと一緒に行動するように心がけた。隊長という立場なので、四六時中一緒に居るわけにはいかないが、嫌がらせめいたことは減ったし、すれ違いざまに嫌みや子供じみた罵声を浴びせられるだけで実害がないので放置しておいた。


3日目、島の東側、酉領の港に到着。ここで物資と燃料の補充をし、明日の朝に西側の申の領地に向かう事になっている。滅多に来れない西の国という事で、補給の間は自由時間で夜までに船に戻るようにと解散になった。


残念ながら、総隊長のドラドさんも、討伐に参加のハスキスさんも会議があって船に籠ると言う。これまでの経緯を考えると、1人で外に出ても良いことはないだろうと、私も船に残ろうかと思ったら、ミリーが声を掛けてくれた。


「隊長さんも会議に参加するんじゃないの?」


「そうなんだけど、貴方を1人にしないようにするのと、この街を案内してやれとドラド総隊長から言われたの。おこずかいも預かったしね! だから街に出てみない?」


ジャラジャラと音の鳴る巾着を見せながら言う。そういえば、ミリーは元は酉の貴族だと言っていた事を思い出した。ならばとお願いし、一緒に船を降りる。


港町と言うこともあり、魚介類が並び、見たことのない魚の説明を受けたり、屋台の料理を堪能する。あれも美味しいのよ! これもオススメ!! と船で食べる用なのか日持ちする食品を大量に購入し、上機嫌で散策する。


「はぁ。久しぶりに思いっきり買い物したわ!」


やっと抱えきれる程の量を買って満足げにレストランの席に着く。昼時を過ぎて居るからかお客は私達しかいない。


「夜まで時間があるけど、他に何か欲しい物はある?」


「んーー、1通りは船にあるから大丈夫!」


「……そう。そうそう、このお店、魚介のスープがオススメなのよ!」


買い食いでだいぶお腹は一杯だが、そう聞くと食べないわけにはいかないと頼んでみれば、確かにすごく美味しい。ペロリと完食し、今度はリベル達にお土産の工芸品でも見ようと店を出ようと立ち上がる。


かくんっと膝に力が入らずまた椅子に座ってしまう。視界がぼやけ、意識が保てない。


「ごめんねイチカ。でも、貴方が悪いのよ……隊長まで上り詰めて、やっと、やっと私と普通に話して下さるようになったのに……何で貴方には笑顔でお話になるの? 隊長会議を免除するから、貴方を案内しろって何!? ……貴方もなんで嫌がらせしても平然としてるのよ!!」


ミリーが泣きながら何か言ってる……頭がぼうっとしてよく分からないけど、


「……ご、めんね……泣かないで……」


「ッ!! 食料も着替えも置いていく。3日後には家の者が迎えに来るわ。船のチケットは用意しておくから私とははぐれたと言って、セクトリアに戻りなさい。」


私の意識はそこで途切れた。


◇◇◇◇


寒い……自家発電で熱を作ろうと、膝を抱え小さくなって勝手に体がカタカタと震える。


ぼんやり目を開ければ、この世界にきた時同様、ログハウスの天井のような梁がむき出しの丸太小屋の中に居た。私の上には薄い毛布が掛かっているが、雨漏りしているのか天井からの水滴でしっとり濡れている。どうやら、この毛布のせいで風邪をひいたらしい。


喉も痛いし、身体中がギシギシしている。どのくらい寝ていたのだろう……。


ギィーと何かが軋む音がする。何とか頭を上げて音の方をみれば、扉が空いたようだ。扉の向こうは真っ暗。そして、扉を開けた人が、私が居ることに気付いて息を呑むのが分かった。


「…………先客か。」


「え?」


何かを言ったようだが、聞こえないので掠れた声で聞き返すも返事はない。


「む……に……」


迎えに来た人ですか? と聞きたかったのだけれど、うまく言葉にならず、また意識を手放した。

読んで頂き、ありがとうございました。

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