131. F の懺悔
「ジャーンケーンポイッ! あっち向いてホイ!!」
ノームの娘がノリアス相手に何かの呪文を唱えている。聞いたことがないが、地底人に伝わる何かだろうか。グッドル公と話ながらフと気になった。
「それ、なんで知ってるの??」
好奇心旺盛なタイラ様が声をかける。すると、予想だにしなかった答えが帰って来た。
「? イチカ姉様が今日、教えてくれたの! 指とおんなじ方見たら負けなんだよ!! おじさんもやる?」
話途中、失礼は重々承知だが、体が勝手に動く。
「イチカを知ってるのか? 何処にいる? 今日、何処で会った??」
娘は怯えたように目を潤ませるだけで何も言わない。泣いてないで教えてくれ! と怒鳴りそうになるのをぐっと堪えると、後ろグッドル公が知り合いなのかと訪ねて来た。
自分達の目的がイチカを探す言だと簡単に説明すれば、イチカは今朝までここに居たと言う。しかも、魔物の討伐に参加するために、ドラド様が率いる騎士隊と共に西行きの船に乗ったと聞かされた。
「なぜそんな事に?」
グッドル公が悪いわけではないが、思わず睨み付けながら聞いてしまう。
グッドル公は突然訪ねて来たところから、船に乗り込むまでの話を順序だてて話してくれた。ん? その時点で戌の英雄は目覚めていたのか? 一体どうやって……と、考えていたら、ドラド様の魔法で髪色が変わっていることも教えてくれた。どうやら菓子屋で見た『似た女性』はイチカ本人だったようだ……
「王族から逃がしてくれた人が居たと聞いたが、君達の事だったのかな? 迷惑が掛かるかも……………………。」
グッドル公爵が気遣って色々と話してくれるが、もう耳には入らない。なぜあの時、間違ってもいいから声を掛けなかったのか……あそこで会えたなら危険な討伐になど行かせなかったのに……
悔やんでも悔やみきれん! と考えているうちに、なぜか話が終わっていたらしく、『かーえーるーよ!!』 とノリアスが俺にチョップをしている。見れば皆が苦笑いでこちらに注目していた。
何がなんだか分からないが、申し訳ないと謝り、宿への道中で決まった事を聞かされた。出来ればこのまま西へ向かいたいが、タイラ様とイチカを会わせたくない気持ちもある……どうしたもんか……
宿に着き、暫くしてから夕食を頂いていると、タイラ様が神託についての話を始めた。そこで驚きの事実を知る。ずっとこの世界を造った神。神話の挿し絵にある、大神様から渡されたボールを造った神だと思っていたタイラ様が、守り神のヒルダ神なのだと言う。
これまで、神など居たところで意味はない、それどころか、魔物等が出るのは双子神の兄弟ゲンカのせいではないか! などと思って、小さい頃は絵本や経典にイタズラ書きをしたり、神殿で物が壊れるのもお構いなしに遊んだり、嫌なことがあると神のせいにして悪態をついたりと、やりたい放題だった事を思い出す。
『神はいつでも見ているのですよ。』母が昔言っていた。横を見れば、リベルも小刻みに震えている。食事を終えたあと、部屋で謝罪と懺悔をする。神罰も覚悟の上だったのだが、タイラ様は『どうでもいい』と赦してくれた。
神らしからぬ神だと思っていたが、やはり神は神。懐が深い……その後、中断した神託の話をして次の日に備え皆で休んだ。
◇◇◇◇
翌日、皇帝や各国の王、貴族などへの根回しはグッドル公爵に任せ、我々はノームの親子を連れてセス達との待ち合わせ場所に向かう。
グッドル公の屋敷を出るときに、教会に行くなら格好に気を付けろと、人数分の服とドレスを頂いた。教会に入るのにドレスコードがあると聞いたことはないのだが、言われた通り直前に着替えてから向かった。
入り口に行けば、扉の前の聖職者が慌てて中に入り、色の違う法衣を着た男を呼びに行ったらしく、恭しく出迎えられた。
「お名前をお聞きしても?」
「北のウリーボ公爵の子、フィルソン。」
貴族相手ではないので簡単に自己紹介すれば、大袈裟な程驚き、良くお越し下さいましたと無駄に豪華な部屋に通された。少々お待ちをと、男が出て行った後、次から次へ菓子やら果物、お茶が運ばれてくる。あまり教会等に足を運ぶことがないのだが、普通は祈りを捧げるのが先では無いのか?
ノリアスなどは喜んで食べている。リベルも戸惑いながらも喉か乾いたのかお茶を飲んでいる。タイラ様は……キョロキョロと見回した後、ちょっと行ってくると出ていってしまった。
暫くしてから、先程の男が戻って来て、訪問の目的を聞かれたのだが、その説明をしようとした矢先に窓をコツコツとつつく言俐に気づく。リベルが受けとると、
「神父様。私の弟がここに来たのだけれど、門前払いで話も聞かないと憤慨しているわ。どういう事かしら?」
貴族の令嬢らしくピシッと聞けば、神父は慌てたように、
「リベル様の弟君と申されますと……」
「ウリーボの嫡男。次期公爵よ。ここまで勇者様に付き旅をしてきて、この場で落ち合う予定だったのだけれど、格好を指摘され、中に入れないと書かれているわ。裸でもあるまいし、旅装している者が入れないなど聞いたこともない!!」
神父の顔色がみるみる青くなっていく。このまはまでは、タイラ様をも震え上がらせる、般若のリベルになりかねない。そう思い、急いで助け船を出す。
「取りあえず、彼らを中に。少し話したい事があるのでこの部屋をお借りしても?」
ハイッ! ハイッ! と勢いよく返事をし、姿勢をただし、頭を下げて出ていく。その様子を見てリベルはぶつくさ言っていたが、ノリアスに菓子を勧められ、一緒になって食べ始めた。ノリアスは人を宥めるのが上手いらしい。見習いたいものだ。
暫くして、以前より逞しくなったセスが、肩にハムスターを乗せ、胸元のポケットから女の子の人形覗かせて扉から入って来た。
読んで頂き、ありがとうございました。




