128. T と痕跡
……ガクッ
首が勢い良く後ろに倒れた衝撃で一瞬だけ覚醒するも、頭のポジションが元に戻れば、またウトウトと微睡み、勢いづいて右へ左へ倒れては覚醒するのを繰り返す。
ノリアスに布団に行きなよ! と声を掛けられた気もするが、ここでこうして居るのが気持ちいいんだよ……今動いたら目が冴えてしまう気がする……と自分に言い訳して、その提案を適当に受け流す。
どれくらいそうしていたかは定かでないが、俺の肩を掴んで揺さぶるのは、いつの間にか宿に戻って来たフィルだった。呑んでいるのか、若干顔が赤く、力加減のスイッチが壊れぎみだ……ちょっと捕まれた肩が痛い。
「……お帰り。お疲れ様……」
「ただいま。タイラ様、眠きゃ布団に入った方が良いぞ。風邪をひく。」
「いや、大丈夫……」
「説得力0! もう、何回も言ってるのに全然動かないんだから!!」
ノリアスが怒っているのが聞こえる。そして無理やり立たされベッドまで手を引かれて歩く。と、だんだん目が覚めてきた。
「ごめん、ホント平気! ノリアスもフィルもありがとう!!」
「ほんとにぃー? また話してる間にカックンカックンするんじゃない?」
うむ、信用度も0まで低下してしまったらしい。取りあえずベッドに腰掛け、いつでも横になれる体制で話を聞く。
「今日、ドラド様に会ってきた。そこで聞いた話だが、どうやらグッドル公爵夫人の元にノームの親子が保護されて居るらしい。明日の昼過ぎ、公爵に会いに行く約束を取り付けてあるので、皆着いてきて欲しい。」
元よりそのつもりでいた我々は、了承するとそれぞれ部屋に戻った。ノリアスと同室の俺は休めるうちに休む!! とノリアスにしかられ早々に布団に入って寝た。
◇◇◇◇
次の日は、朝食を終えるとすぐに買い物に出た。消耗品等を買い足した後、港の方が騒がしいので野次馬根性丸出しで見に行く。
バカデカい船が出港したところに立ち会う。船員なのか、乗客なのか分からないが、その家族らしき人々が泣いたり手を振って見送っている。何の船か分からず、ノリアスに聞いて貰う。
「西の国に魔王相当の魔物が出るって情報があったから、人獣と獣人の騎士隊が派遣されるみたい。」
「あぁ、みんなその見送りに来たんだね。」
そんな事を話を聞いた後、フと思う。本来の魔王、ノリアスが魔王になることを拒否して、別の魔王候補が現れて、周りが魔王と認定したなら、ノリアスの魔王の肩書きは外れるんじゃないのか? で、ノリアスの代わりに候補の方が倒されば物語も終了。主人公のマリアが最終的に誰を選ぶのか分からないが、選んだやつと幸せになればハッピーエンド。異物である俺たちは強制排除で戻れたり……
ガスッと衝撃が走る。ノリアスが指を揃えた手のひらを俺に向けている。チョップを喰らったようだ……
「ねぇ! その突然考え込むの止めて!!」
どうやら、周りの迷惑も考えず往来で立ち止まっていたらしい……スマンスマンと端へ避け、何を考えてたのか聞かれたので、肩書きの件だけ話す。と、魔王は一人と決まってる訳じゃないから外れるわけ無いでしょ!! と素気なく言われてしまった……。
そんなこんなで昼食後、グッドル公爵の屋敷に向かった。挨拶を交わし、例の親子と対面する、
部屋に入るなり、母親はフィルに詰め寄り、娘はノリアスに釘付け。見た目年齢は同じくらいか?
末裔の話をし、王族である証明を求める。『短剣』『真名』『痣』と俺の知り得る情報を全て出してきた。間違いないないだろう、と伺うようにこちらを見るフィルに頷きで返す。
にしても……名前! 真っ赤なトマトのジュレって、ライターさんふざけすぎだろ……この世界では通じないからいいものの、吹き出しそうになるのを堪えるの大変だった……
そこからは、セスに連絡をとったり、グッドル公を交えて今までの経緯を話したりしていた。
ノリアスと娘のリィナは話のじゃまにならないように部屋の隅で遊んでいて貰ったのだが、
「ジャーンケーンポイッ! あっち向いてホイ!!」
とリィナの声が聞こえる。えっと振り向き、思わず声をかけた、
「それ、なんで知ってるの??」
「? イチカ姉様が今日、教えてくれたの! 指とおんなじ方見たら負けなんだよ!! おじさんもやる?」
おじ……いや、それより、イチカって言った?? 俺が反応するより早く、獲物に襲いかかる熊の如く物凄い勢いでフィルがリィナの横に行った。
「イチカを知ってるのか? 何処にいる? 今日、何処で会った??」
必死になるのも分かるが、リィナが怯えている。ノリアスが無意識だろうが、庇うように前に出て、フィルに落ち着くように促している。
「イチカさんと知り合いなのかい?」
驚いた事に、グッドル公爵が戸惑ったように声を掛けてきた。
「ええ。猫族に連れ去らされ、奴隷商に囲われたらしく、居場所が掴めず探しています。ノームの話も、探している途中で頼まれた案件でして……」
「それは……なんと言うか、タイミングが悪い……」
「と、言うと?」
「今朝、出港した西行きの船に乗り、魔物の討伐に参加すると騎士隊と共に出発しました。」
…………えーーーー!? イチカちゃん何やってるの?? あの最弱ステータスで魔王レベルの魔物の討伐に参加向かうって、バカじゃないの? 死んじゃうよ? ……って、ここで死んだらどうなるんだ?? ……また思考に耽りそうになり、あわてて意識を戻す。
「なぜそんな事に?」
眉間にシワを寄せてフィルが聞く。
「何処から話したものか……」
そう言うと、イチカが奴隷商に捕まってからグッドル公のお屋敷に、そして船に乗り込むまでの話を順序だてて話してくれた。
「王族から逃がしてくれた人が居たと聞いたが、君達の事だったのかな? 迷惑が掛かるかも知れないと頑なに教えてはくれなかったのだが……。分かっていれば、君達に連絡の取りようもあったんだがね……。」
「………いえ、無事で居場所が分かっただけでも良かったです……ありがとうございます。」
フィルはすれ違いにショックを受けたようで、そこから使い物にならなくなってしまったので、リベルを中心に話を進める。リリアの意思確認をしたところ、王族末裔としての責務を与えてくれるのなら頑張りたい! という事で、女王としてノームの国に認めさせる計画を建てた。
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