127. F とドラド
「久しぶりだな! 元気そうで何よりだ。」
数年振りに会うドラド様は、以前と変わらず精悍な顔立ちと、騎士隊の制服で店に居る女性の注目を一身に集めている。女嫌いでなければ、さぞ引く手あまただったろうに……自分の事は棚に上げ、そう思ってしまうほど格好いい兄貴分だ。
「お久しぶりです。西に遠征に行くとは知らず、急に連絡して申し訳ない。」
「いや、支度も終わっているし、あとは出発を待つのみだからな。久しぶりに弟分に会えて嬉しいよ。」
そう言って、ドラド様が注文を取りに来た女性ににこやかに対応する。思わずポカンと口を開けてその様子を見つめてしまった。
「ん? どうした?? 他に食べたいものでもあったか? 何でも注文しろよ! 私の奢りだ!!」
いやいや、女嫌いを拗らせて、こういう注文時さえ近づくのを嫌がる程だったのに、にこやかに対応するとは……
「だ、大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「いえ、女性を以前はきらってたので……」
そう言うと、ハッと何かに気づいたかのように耳の辺りが赤くなっていく。
「いや、まぁ、あの程度なら大丈夫だ……。」
そういえば、どうやらドラド様にも想い人が出来たようで、隊員の中にドラド様が近づいても平気な女性が居るらしい。とリベルが茶会で聞いたと驚いた様子で教えてくれたことがあったな……俺はこの手の話はあまり得意ではないので、それは良かった。位でちゃんと聞いて居なかったのだが……
何にせよ、キャーキャー騒がないリベルにさえかなり冷たい態度だったので、改善されて良かったと思う。……と。そんな事より本題だ……
◇◇◇◇
「…………帝国側にも、正式に地底国として立国する旨の報告が上がってきてはいるそうだが、肝心の王位をどうするか決めかねていて近隣諸国の賛同を得られないそうだぞ。」
帝国に報告された地底人達の話。確かに、以前問題を起こした人種。国の責任を負える代表者も居ない、なんとか担ぎ上げた王族もアレでは、近隣諸国の使節も自国の王に問題なしとは言わないだろう……
「地底国の王族の末裔が生きているそうです。そして、ノーム達はその末裔を探しています。」
「ん? 末裔の女王は既に居ると報告されてたぞ? ここだけの話、女王としてはちょっと……と外交大臣のスタイン公がこぼしてたわ。
「それが、その女王、偽物のようです。」
「!! なんだと? 皇帝を騙すつもりなのか?」
「いえ、王族の証を持って居たので、大半のノームは王女だと疑っては居ないようです。」
「それでか……でも、なんでフィルソンが探しているんだ?」
「行き掛かり上と言いますか……」
「相変わらずお人好しだな……にしても、ノーム……ノームね。今日はやけにノームに縁がある日だな……」
「どういう事です?」
「ん、あぁ。今日、訳あってグッドル公の客人と夫人達と街に出たんだ。夫人達が買い物する間、森で客人と手合わせをしてたんだ。そこで偶然見つけたノームの親子を保護してな。」
「……何処の森ですか??」
「え? えーと、戌と辰の境位じゃなかったかな……適当に馬車を降りて広い空間を探し歩いてたからな……それが何処だったか正確な位置は……」
「親子と言いましたね? 子供は男? 女?」
「お、おい。どうした急に……子供は女の子だ! うん。女の子だった!」
「今は? 今は何処に??」
「酷く疲れてるようでな、保護して直ぐに気を失ってしまったから、そのまま夫人が面倒見ると言ってグッドル公の屋敷に連れていったよ。」
「……そうですか。明日、グッドル公にお会いする約束なのですが、その親子はまだいらっしゃるでしょうか?」
「あぁ、さっきも言ったが、母親の方がだいぶ憔悴しているからな。夫人がしばらく預かると言っていたぞ。」
うん、何故かその2人が末裔のような気がする……気が急いて直ぐにでも確認に向かいたいところだが、流石にこの時間に突然訪問するのは失礼すぎると思い自重する。
その後はお互い近況報告をしながら、夕食を食べ、酒も久々に飲んだ。驚いた事に、ノーム達が連れ去られたと嘆いていた戌の英雄が、200年の眠りから覚め、討伐に参加してくれるとドラド様が上機嫌で話してくれた。失われた魔法で眠らされていると言っていたが、さすが、魔導師コラド様の再来と謳われるドラド様! やはり、最年少で総隊長に任命されただけある。
調子に乗り、呑みすぎた感はあるが、これ以上は明日の遠征に響くだろうと、呑むのを辞めて帰る事にした。
ドラド様を寮まで送ろうかと思ったが、意外と足取りはしっかりしている。お互いまた無事に会える事を祈りつつ別れ、宿に戻る。
宿ではタイラ様とノリアスの部屋にリベルも居て、食後のお茶をしていた。楽しげな雰囲気なのでどうしたのかと思えば、タイラ様が眠いのを我慢しているらしく、首がガクンガクンしている。お疲れなら寝てしまえば良いものを……笑いを堪え、タイラ様を起こし、簡単に明日の予定を話してリベルと部屋を出た。
◇◇◇◇
次の日、昼過ぎまで時間を潰し、約束通りグッドル公のお屋敷へ向かう。突然の申し出だったのにも関わらず、にこやかに出迎えられた。
客間に通され、早速訪問の意図を話す。
「ノームの王族の末裔? リリアさんとリィナさんが?」
「可能性の話ですが……今、妻と子を探しているノームが保護されており、その方はノームの王となると神託があったそうです。本日はその方の妻子をこちらの領内で捜索する許可を頂きたかったのですが、夕べ、ドラド様にノームの親子をグッドル公爵が保護をしているとお聞きし、もしやと思いまして……」
「話は分かった。確かにリリアさん達も旦那さんを探していると言っていたからね。本人達に確認してみるので、少し待って貰えるか?」
そう言って出ていったが、公爵は直ぐに2人を連れて戻って来た。
「主人の居場所をご存じだとお聞きしました。あの人は無事ですか? 何処におりますか??」
早口で捲し立てられる。簡単に自己紹介をし、
「申し訳ありませんが、居られる場所は分かりますが、体調などは分かりかねます……それよりまず、確認させて頂きたい。我々はノームの王族の末裔を探しております。」
リリアさんの肩が跳ねる。そして、リィナさんの肩を抱くと、
「末裔の証である短剣を騙し取られてしまい、今は伝えられた名と、王族にだけにあると言う浮き出る痣位しか証明するものがありませんが、わたくしの名はリリア・トマト・ジュレ・マッカナー。滅びたマッカナー王国の直系の末裔だと母に聞かされました。痣は……」
「手の甲に蝶々の形。」
タイラ様が俺に呟やいたのが聞こえたのか、驚いたようタイラ様を見た後、自分で中指の根本を押し、浮き出た痣を我々に見せる。確かに蝶のシルエットに見える。タイラ様を見れば、間違いないと言うようにうなずいている。
「失礼致しました。旦那様は辰の領地にて保護されております。そして、地下に新たに作られたノーム達の国の女王としてあなた方を迎えたいと、捜索を依頼されここまで参りました。」
彼女達の意向も聞かなければならない。取りあえず見つかったとセスに知らせを出し、今後の話し合いを始めた。
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