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125. I 、西へ

夕飯のテーブルに着くと、ドラドさんが居ない。キョロキョロとしていると、


「ドラドなら呼び出しがかかって帰ったよ。」


ジェパットさんが教えてくれる。


「そうなんですね、今日、馬車を用意してくれたのでお礼を言おうかと思ったのですが、明日にします。」


そのまま今日、街で買い物した話や、馬車に乗っていた女性の話をしながら夕食を頂いた。


「彼女達は地底人(ノーム)だったよ。」


「ノーム? って確か、ハスキスさんが寝かされてた神殿の……」


「そう。大戦の時に滅びた国の人々だね。今は滅多に見ない。だから数もかなり減ってるんじゃ無いかと言われてるんだ。珍しい人は捕まりやすい。彼女達も、話を聞いたら奴隷商に捕まっていたそうだよ。」


「目が覚めたんですか?」


「あぁ、食事の前に連絡を貰って少し話をしてきた。疲れてはいるようだが、体調面ではどこも悪いところは無いらしい。」


「そうですか。早く元気になるといいですね!」


母親を守ろうとギュッと服を掴んでいた子供の姿を思い出す。と、同時に私を無理やり連れてきた猫族とダスキートに腹がたった。……そういえば、あの、大きな子供のファジール君は大丈夫だろうか……リベルやフィル、セレネス君達は元気にだろうか……


ここまでいっぱいいっぱいで、今までの事を考える余裕もなかったが、フッと思い出してしまった。どうにか連絡を取れないものか……


「どうした? 嫌いなもんでもあったのか?」


ハスキスさんがこちらを覗き込む。……そうだ! あの、鳥!! 魔法で伝言を伝えてくれる奴!


「嫌いなものは無いです、全部美味しい……って、そうじゃなくて、ハスキスさん、魔法使えますよね? あの、伝言する鳥の魔法使えませんか?」


「? 伝言する鳥??」


「イチカさん、それはもしかして言俐(コトリ)の事かな? 残念だが、ハスキス様が使えたとしても、受けとる相手を知らないと送れないんだ。」


キョトンとするハスキスさんに代わり、ジェパットさんが答えてくれた。相手を言えば探して代りに伝えてくれると言うが、皆が何処にいるか分からない。仕方がないので断り、食事を終えると明日に向けての支度をする。


全部終わったところで、寝ようと布団に入るも、緊張なのか、不安なのか、それとも初の船旅への興奮なのかは分からないが、目が冴えて眠れそうにない。少し体を動かそうと、庭にでた。


月明かりのもと、庭師が丹精込めて造り上げた庭は花が綺麗に……ん? 綺麗に並んで咲いている筈の花が、歯抜けのようにポコポコと無くなっていく。何事だと覗き込めば、抜けた花の下には穴が空いている。そして、土の下を何かが通った跡が残っていた。


先回りし、花壇の端のブロックがある場所で待つ。土の下の何かは、ボコボコと土を盛り上げながらブロックに向かってくると、行き止まりだと気づいたのか動きが止まる。多分アレだろうなと辺りをつけ、土ごと中にいる生き物を掬い上げた。


出てきたのは案の定モグラ。ネズミに似た種類のようで、異変に気づいたのかピタッと動きを止めて土に成りすましてるようだ。


「土を耕すのもいいけど、お花は倒しちゃダメでしょ……」


そう言って花壇ではない土の上に置いてやる。その後、倒れた花だけ埋め直し、盛り上がった土は明日の朝にでもジェパットさんに伝えようと部屋に戻った。


◇◇◇◇


やはり興奮からか、眠りが浅く、いつもより数段早く目が覚めた。着替えて、荷物の最終確認をしていると、部屋をノックする音が聞こえる。返事をすれば、私の担当をしたくれていたメイドさんが顔を出す。


「おはようございます。……あの、よろしいですか?」


「どうしたの?」


「昨日、奥さまが保護されたノームの親子を御存じで?」


「えぇ。ただ、馬車で眠っていたときに一緒に乗っていただけだから、向こうは多分私を知らないと思うけど。」


「……夕べ、庭に出られました?」


「うん。眠れなくて散歩したよ!」


「そうですか。旦那様がお呼びです。」


んん? 夕べ庭に出たことを確認したと言うことは、歯抜けの花壇の話か? あれ? もしかして、疑われてる?? 悪いことはしていないのに、ドギマギしながらジェパットさんの執務室へ向かう。


部屋に入ると、ジェパットさんと昨日の親子が居た。


「おはよう、イチカさん。朝早くから悪いね。」


特に怒っている様子はない。歯抜けの花壇の話では無いようだ。


「こちら、昨日ジェンナ(第一夫人)が保護した、ノームのリリアさんと娘のリィナさんだ。」


そう言うと、今度は2人に向き直り、私を紹介した。


「イチカさん。この度はありがとうございました。」

「ました!」


何故か頭を下げられる。が、何のことかさっぱりなので困惑する。


「あ、すみません。夕べ、この子のペットのモグラが荒らした花壇を直して下さったと聞きました。」


「ああ! え? ペット??」


「はい、あのモグラは少し特殊で、どんなに離れていてもこの子の居場所が分かるみたいで、いつの間にか近くに居るんです。」


それって怖くない? とも思わないでもないが、当人達は気にしていないようなので口には出さない。


「す、凄いですね。そういえば、お加減はいかがですか?」


「昨日は馬車に御一緒させて頂いたそうで……とんだご迷惑を……もうすっかり良くなりました。」


そう言って2人して深々と頭を下げる。驚いて私は何もしていないからと、頭をあげてもらい、仕事の邪魔になるからと3人で執務室を後にした。


その後朝食をとり、ドラドさんが迎えに来るまでリィナちゃんと遊んだ。


リィナちゃんは短い時間だったが、とても懐いてくれ、泣きながら見送ってくれた。それ以上に泣いて大変だったのがジェンナ夫人で、先日買った物以外にあれもこれも持たせようとしてくれて断るのに一苦労だった。討伐後にまた顔を出しなさい! と強硬に約束させられから解放された。


執事さんやメイドさんも、くれぐれも怪我には気を付けろ。と心配しながらも馬車に乗り込むまで見送ってくれた。この世界に来て、ずっと逃げ回る日々だったので、温かく見送られ、私も思わず泣いてしまった……


馬車の中では、ハスキスさんとドラドさんが泣く私を見てオロオロし、ジェパットさんがまた帰っておいで、と声をかけてくれた。


港に着くと、想像以上に大きな船が3隻。私は治療師として医療班の皆さんと行動することになった。医療班には女性隊員もいるらしく、部屋は隊の女性と同室になると聞かされ、案内役の方が部屋まで連れていってくれた。


ノックし扉を開けると、2人部屋の片方のベッドに既に荷物が置かれ、横に女性が立っていた。


「あなたが同室? 私はミリー。よろしくね!」


冷たい感じの美人が片手を出して出迎えてくれた。

読んで頂き、ありがとうございました。

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