124. T 、グッドル領にて
執事が出ていって、代りに来た協力者は俺の中にある『メイド』のイメージをぶち壊すメイドだった。そのメイド(ハナちゃん)と言うらしいが、その子の指示に従い、晩餐後に屋敷から逃げ出した。
途中、ハナちゃんの弟だと言う賢いモグラに出会い、あまりの賢さに頭を撫でて褒めたら、出会った時と同じく、リベルに鬼の形相でメチャクチャ叱られた。姿形が違うだけで、中身は成人男性なのだそう。……確かに、おっさんに撫でられて喜ぶ歳では無いわな。素直にヒミズに謝る。
ヒミズはチロッとこちらをみて小さく頷いた。言葉は喋れないそうなので、許してくれたのだろうと勝手に思う事にする。
その後は……ぶっちゃけ地獄だった。昼夜問わず移動を続け、案内役が変わる度に歩きだったり、馬車だったり、荷樽の中に隠れて運ばれたり……。風呂にはなかなか入れないし、ご飯も満足に食えない。寝るのだって狭い馬車の中で座ったままとか……
愚痴が止まらないのは、28歳、インドア派のもやしオッサンにはかなりの大ダメージだったから……。しかも、やっと地上に出れたと思ったら、夜通し歩くって……死んでしまうわ!!
グチグチ言いながらも、朝方なんとか宿まで到着。砂やらホコリなんかを風呂場でざっと流して即座に布団に潜り込む。流石のノリアスも疲れたようで2人ともグッスリだった。
昼頃、宿の人が昼飯だと起こしに来た。グッスリ寝られたので頭は冴えているが、体が思うように動かない……全身と言っていい程あちらこちらが痛い。泣きながら起き上がり、食堂で晩餐より100倍旨い飯を食う。
フィルとリベルは宿の人や周りの客たちに話しかけ情報収集している。俺は邪魔にならないように黙々と食べ続けている。横で同じく静かに飯を食っていると思っていたノリアスだが、突然話に加わって、今後の予定を聞いていた。
どうやら西に行くには船が必要なのだが、魔物の噂のせいで船に乗れないらしい。どうするのかと聞いていたが、やはり港には行くのだそう。疲労困憊の体にムチ打ち、皆に付いて行く。ありがたいことに、馬車をレンタルしてくれたようだ。
港街に着くと、直ぐさま宿を探す。探す間、馬車の幌から街のようすを見ていたら、この馬車の上でツバメのような鳥が旋回しているのに気づいた。リベルに話すと、同じように覗き込み、言俐が来たのだと教えてくれた。
フィルに届いたようで、鳥が文字になり紙に貼り付いていく。おおぅ!! と感動しながら見つめるも、この国の文字は読めない。
文字を読む。と、フィルの眉間に皺が寄った。
「なに? 何が書いてあったの?」
「『神託より。地底人の王、辰の私兵団で保護』だそうだ…」
「ん? 王?? 女王じゃなくて? 第2夫人に腕を切り落とされちゃった庭師? え、ほんとに?? 生きてるの? ってか、神託って誰だろう……」
「庭師かどうかは分かりませんが、神託でその者が王だと伝えられたと読み取れます。」
リベルも困惑気味に言う。
「どうするの? 辰の私兵団の所まで行く?」
「……いや、王とは旦那だけ保護したと言うことだろう。我々の目的の女王である妻、あとは娘。この中央の地に居ることは分かった。ただ、保護されていないって事は、まだ探してる最中なのだろう。辰の領地は向こうに任せて、我々は戌の領地を探させて貰おう。」
どうやら船旅は回避出来そう。正直、乗り物はあまり得意では無いので助かる。
宿に着くと、皆で買い物に出る。地下の国を出る時に最低限の荷物しか持ってこなかったので、買い直しなのだ。
何が必要なのか分からない俺は、フィルやリベルの後ろに付いて歩く。サイズを聞かれ、分からないと言えば背中に服をあてがわれ、ちょっと小さいだの、色が似合わないだのとワイワイと俺のものを選んでくれる。
目の前の菓子屋では、背筋のピンと伸びたご夫人と、子供だろうか、店の菓子を買い占めるのでは無いかと言う勢いで注文をしていた。
「貴方も何か注文なさい!」
「フフ、そんなに食べれませんから……」
ガシッと後ろから頭を押さえ付けられる。痛い、痛い痛い!!何故か突然、フィルが俺の頭を押さえ付けて身を乗り出して前の店にいる貴族をガン見している。貴族の方は奥にも気になる菓子があったのか、2人して店の奥に行ってしまった。そして、我々の視線を遮るように護衛が立ちはだかる。
「フィルなに!? 重い! 痛いって!!」
「……すまん。」
「なに? どうしたの?」
ノリアスもリベルも驚いてフィルを見ていた。
「イチカの声が聞こえた気がしたんだ……」
「あぁ、さっきのお菓子屋にいた女の子? 確かに声は似てたけど、彼女、髪が紅かったわよ。見えたでしょ?」
「……ああ。」
「イチカって皆が探してる女の人? タイラと一緒で黒髪だっけ?」
「そう。だから背格好も似てたけどイチカでは無いわ。」
背格好が似てるなら可能性はあるけど、この世界は髪型を変えることはあっても、髪色は変えないそうだからやはり別人なのだろう。ショックを受けてるフィルには可愛そうだが、まだイチカちゃんには会えなさそうだ。
ベッコリ凹んだフィルを励ましながら買い物を終え宿に戻る。すると、窓の外にコトリがいた。またセスからかと思ったが、先程とは色が違うコトリ。どうやら差出人が違うらしい。
「先程、この領地の領主であるジェパット様と騎士団の人獣部隊を纏めるドラド様にお会いしたいと連絡をしたのだが、ドラド様がちょうどジェパット様と一緒におられたようで、ジェパット様の分もコトリで返事をくれたようだ。」
「なんだって?」
「ドラド様は明日、西へ行く部隊の総括で船に乗ってしまうらしい。だから今夜会ってくれると。ジェパット様は、その出港の見送りがあるから、会えるのは明日の昼過ぎだそうだ。」
「じゃあ今から行くの?」
「あぁ。時間と店が指定されてるからちょっと行ってくる。皆は食事をして先に休んでいてくれ。」
そう言うとフィルは支度をして出ていった。リベルも疲れたから夕飯まで休むと自分の部屋に行き、同室のノリアスは寝る! と早々にベッドに潜り込んだ。俺は今寝ると確実に起きられなさそうなので買ってもらった荷物の整理をすることにした。
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