119. T とトマト
………眠い。
夜中に起きてフィルとノリアス2人に母娘の話をした。で、 地底人の本物の王族の末裔探し出そうと決め、再び布団に入ったものの、なにかを忘れているような気がして結局寝られなかった。
次の日の朝、朝食を取っていると、昨夜偽物母娘の後ろで、青い顔をして胃を押さえていたアンジャという外交官役の男が、ニヤついた顔で声をかけてきた。
朝から訪ねてきて何を言うのかと思えば、何がどうなっなのか、フィルにあのギラギラしたオバサンと結婚して王様になれと言う。『ならないか?』等の伺いではなく、もうすでに決定事項のような口振り。
無いわー……飲み会の席の王様ゲームじゃないんだから、そう簡単に決めちゃいかんでしょ。しかも、ギラギラオバサンとなんて、いくら積まれてもお断りするわ……
しかも、フィルの親父さんへの根回しまでするらしい。うへぇ……昔の貴族の結婚は、好きも嫌いもないって聞いたことがあるが、実際聞くとキッツイわ……でも、フィルはにべもなく断った。
そのまま地上へ行こうとするも、地上への扉を封鎖されて結局夕べの晩餐会場だったお屋敷に連れてこられた。
ここへ来るまでに、馬車に乗る乗らない、とまた悶着があったのだが、何故か急にアンジャが大人しくなりノリアスを膝に乗せる形で全員馬車で移動してきた。後でリベルに聞いた話だが、アンジャは爵位を貰ってはっちゃけていたのを、フィルがたしなめたから大人しくなったのだ、とスッキリした顔で教えてくれた。
屋敷に着くと、ピシッとキーマンである執事が出迎えてくれた。そして、我々を部屋に案内し、出ていこうとする彼に無邪気を装いノリアスが話しかけた。
「ねぇ、さっき、フィル様があの母娘の母親と結婚して王位に付くように言われたんだけど、おじさんは賛成? 反対?」
「……私の口からは何とも……」
「ふーん。でも、僕、あの人達が王族の末裔とは到底思えないんだよね。ってか、内緒なんだけど……」
執事の袖を引っ張り耳元で何が話している。夕べも、今も無表情で淡々と仕事をこなしていた執事が、ノリアスの話を聞いて眉間に深い皺を寄せた。
「………申し訳御座いませんが、やはり私の口からは何とも……。今、お茶をお持ち致します。少々お待ち下さい。」
と、また深々と頭を下げて部屋を出ていった。
「何を言ったの?」
「ん? スキルでみたけど、あの母娘にはノームの血なんて一滴も入ってないよ! ってのと、本物の末裔の居場所は把握してるの?
て聞いた。」
「それであの反応か……我々があの人の味方で、向こうもこちらに付いてくれれば、この地下空洞の街も動きやすくなるんだが……」
コンコンと控えめなノックの後にワゴンにお茶を乗せて先程の執事が入ってくる。
「おじさん、この地下から出られる場所を知らない? 僕たちが本物を探して来てあげる!」
「……お客様、申し訳御座いませんが、このお屋敷の外へは出ないようにと伝言をお預かりしております。それと、滅多なことを口になさらぬようお願い申し上げます。」
「さらぬ……? そうだ!! 真名!! トマト!!」
夕べから引っ掛かってた事、思い出したーー!! スッゴい爽快感!
そうだ、真名だ。このゲームの王族には、代々受け継がれる真名がある設定。南の午の攻略対象者の話がそっち関係の話だったはず。
で、このボーナスステージのシナリオライターさんと呑んでた時、そんな話になって、『ならノームの王族にも真名を付けてやらねば! うーん、そうだトマトにしよう!』と酒のツマミのカプレーゼを見ながら言ってたのを思い出した。
ハッっと視線を感じ周りをみれば、またか。と呆れ顔のノリアスとフィル。それと驚いた顔のリベルと、カタカタと震える執事。
「な、何故……」
執事が目を見開いて呟く。お! この反応……呑んでる席で話しただけだったけど、真名の設定ちゃんと残ってるのか?ってか、この世界にトマトは存在しないのか??
「あー、えーっと……この話、協力してくれるな話すけど……?」
駆け引きとか全く出来ないけど、取りあえずここから出たいので協力を得られるように話を持っていく。
「王家の方をご存知なのですか? と言うか、まだ王家は途絶えていないのですね? あぁ……」
やべぇ、泣かしてしまった。結構なおじいちゃんが、顔を覆って号泣してるのを見て、物凄く動揺する。
「だ、大丈夫。あの、王家の末裔はまだ生きてると思う。でも、ちょっと危険かも知れないから早めに探し出したいのね。だから協力して欲しいかなと……」
執事はごしごしとハンカチで目元の涙を拭うと、小さな声で話し始めた。
「そういうことならば喜んでお手伝い致します。この国の各地の代表は、元々ノームの国で貴族だった者達の末裔です。国の再建を願い、それぞれが代々色々な物を受け次いで参りました。そんな中、王族の末裔が見つかったと知らせが入り、あの母娘が連れて来られました。」
手にしたハンカチをギュッと握りしめ、執事が話を続ける。
「一目見て、王族ではない。ノームですら無いのは分かりました。が、証である短剣を所持していたことから、代表の1/3程が王族の末裔と認め、王族の確認方を伝え聞いていた残りの代表は、認めることは出来ないと即位を反対しました。
そこからは代表者同士の争いとなり、即位の話しも宙に浮いていたのですが……
夕べ、北の公爵、ウリーボ公の御子息がこちらに来ていた事を聞き、身元のハッキリした者を王に迎えるならば、あの偽物を女王として迎えても良いと言い始める代表が何名か出てきまして……」
「それで本人の意思を無視して、結婚だなんだと騒いでるんですか? うわぁ、超迷惑……」
「申し訳御座いません。これは本来、我々地底で暮らすノームのお家騒動で御座います。巻き込まれた皆様には大変御迷惑をおかけしまして……ですが、名を受け継ぐ王家の末裔がいらっしゃるなら、是非御会いしたい!! この国には人々を纏められる王が必要なのです。……今夜、地上へ抜けられる道へご案内致します。それまでは、この茶番にもう少しお付き合い下さい。」
執事は深々と頭を下げて出ていった。
暫くして、我々は、この屋敷の持ち主、ギラギラ母娘の晩餐への招待を受け、ノリアスにもらった薬を飲むと、にやけ顔のこの国の代表者達が揃うテーブルに着き、楽しくもない食事をする羽目になった。
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