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120. I の買い物

出発を明日に控え、街に買い物に出る。ハスキスさんが同行するのは良いとして、何故か忙しいはずのドラドさんが朝から馬車で迎えに来て、ジェパットさんの第一夫人も『私も街に行きたいわ』の一言で同行している。


海外旅行もしたことの無い私は、旅支度などと言われても、必要なものがさっぱり思い付かないので、移動中、皆に必要な物を聞いてみる。


「食事等は、我々と共に取って頂ければよろしいかと。なので、イチカが必要なのは、着替えと、万が一を考え個人で持つ魔力回復薬位でしょうか……」


「……やはり着いてきて正解でしたわ。女には必要な物が沢山ございます! なので、イチカは私と買い物に参ります。殿方はくれぐれも、()()()()()着いて来ないで下さいましね!!」


何か言いかける2人を勢いで牽制し、『ここでよろしくてよ!!』となれた様子で馬車を止める。ドラドさんが用意した馬車なのだが、何故か夫人が御者に指示を出す。


「護衛もおりますし、私達は好きに街を回ります。時間がかかるでしょうから、殿方はどこかで時間を潰していて下さいまし。」


時間と待ち合わせ場所を決めると、急かされ、馬車を降りた先には女性の下着専門店。確かにここには着いてきて欲しく無いかも……。


「全く、イチカもイチカでしてよ! もう少し身なりを気になさい! 屋敷に来たときも、シーツを裂いて作った胸当てに、穴を開けたような服、それにイヤらしい下履きを履いて!」


店に入るなり、夫人のテンションがマックスまで上がったらしい。奴隷商のアジトから逃げてきたとき格好の事を言い始める。あそこの部屋には女性用の服は大量にあったのだが、透けていたり、大事な所だけくり貫かれていたりと、失敗作ばかりで外には来て歩けない服ばかりだった。仕方なくシーツを破き、スッポリとかぶり、細く切って紐状にしたものを腰で巻いて逃げたしてきたのだ。正直、身なりなど気にする余裕もなかった。


何だかんだと言いながら、第一婦人はあれもこれもと店の人に指示を出し、何日分か分からないほどの下着を購入した。


さて、次よ!! と今度は庶民向けの店に移動すると、動きやすい服をやはり大量に購入した。


「あの、ありがたいのですが、そんなに持っては行けないかと……」


恐る恐る声を掛ければ、ニヤリと笑い


「大丈夫でしょう、なんと言ってもドラド総隊長殿が御一緒ですもの。それに、何人か空間魔法を使える方がいたはずです。女性は荷物が多いのが常! 遠慮などせず、どんどん持っていきなさい!」


そういうと、またあれもこれもと扇子で指した物が一ヶ所に集められていく。


「あぁ、やはり女の子の買い物は何て楽しいのかしら! パーティーなどがあればドレスも選べましたのに……残念ですわ……。」


そんなことを呟きながら、幾つかの店で夫人の気が済むまで買い物をし、旅に必要なもの()一通り買ってもらった。


ハスキスさんとドラドさんとは会えなかったので、そのまま美味しいと評判のレストランに行き昼食を頂いた。お土産にと今度はスイーツの店を幾つか周り、また扇子で指示をだす。公爵家に届けて貰えるように手配が済むと、ちょうど待ち合わせ時間。街の中央まで移動する。


既に待っていた馬車を見つけ、ドアを開けると、ボロボロの服を着た女性と女の子が乗っていた。2人ともお互いを守るように抱き合い、隅で小さくなって眠っている。


「夫人、申し訳ないのですが、待ち合わせ時間が迫っておりましたので、森で保護した方をそのまま乗せて来てしまいました。一度、屯所に寄って彼女達を預けて参りますので少々お待ち頂けますか?」


夫人はキッとドラドさんとハスキスさんを睨むと、自分がかけていたストールを子供にかけ、


「このまま屋敷に戻って頂いて構いません。この方達は私が保護致します! 何があったかは存じませんけど、こんなに顔色の悪い方を男ばかりの屯所に連れていってどうするつもりですか!!」


起こさない程度に抑えた声でドラドさんに言う。屋敷に戻る間、2人を保護した経緯を聞いた。私達と別れた後、特に必要な物がないハスキスさんとドラドさんは、久々に手合わせでもしようと、人があまり入らない街から離れた森の奥の方まで行き、思う存分暴れていたらしい。


そこで、熱中するあまり、森の木々を倒したりしていたそうなのだが、倒した際、木の陰に隠れていた2人を発見したそうだ。始めは怯えて逃げ出したそうなのだが、身分を明かして印を見せたところ、崩れ落ちるように母親の方が倒れてしまったそう。子供は、倒れた母親を守るようにしがみ付いていたが、そのうち一緒に寝てしまったそうだ。


「こんなにボロボロで……森で何をしていたのかしら?」


夫人が不憫そうに2人を見る。なんにせよ、夫人が預かると言った以上心配は無いだろう。少し口煩いが、面倒見が良いのは間違いない。品の良い肝っ玉母ちゃんとでも言うのか、私もいっしょにいると安心する。この世界の母親のよう………………


アレ? 母親……って、うそ! あれ?? お父さんもお母さんも顔が思い出せない……あと……お兄ちゃん……が居た? よな……?????


…………………………頭が痛い。久々の偏頭痛。でも待って、多分大事な事。名前は? 住所は? ……痛い、何で? 思い出せない…………


「……………カ! イチカ!!」


ハスキスさんが痛いくらいに肩を掴んで目の前で私の名前呼んで居た。


「大丈夫か? 屋敷に着いたのに俯いたまま動かないから驚いたぞ? 具合が悪いのか??」


「ご、ごめんなさい。 寝ちゃってました……」


「大丈夫なのか? まぁ、久々に外に出たからな、疲れたのかも知れない。夕飯まで休ませて貰え。」


「ありがとう。そうする……」


部屋に戻り、ベッドに潜り込む。改めて考えてみるも、やはり思い出せない。出てくるのは地球の日本をイメージ出来るザックリしたもの。東京のビル群や京都の寺院、富士山をバックに走る新幹線に、等間隔にテールランプが並んだ道、日本紹介のVTRを見ている気分だ。なのに、肝心の自分に関しての記憶があやふや。両親に関しては名前も顔も思い出せない。兄弟に関しては、居たかどうかの確信が持てない程……


考えれば考える程、偏頭痛は酷くなっていく。


……………よし。諦めよう! 分からないものは、いくら考えたところで分からない!! 両親や、居たかどうか分からない兄弟には悪いが、ここでの暮らしは悪くない。どうせ戻れないのだろうし、この世界で暮らして行こう!! 私が幸せなら家族も喜んでくれるさ!


ポジティブに考え、ベッドから出ると、夕食の声がかかるまで買ってもらった服で1人ファッションショー開催した。

読んで頂き、ありがとうございました。

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