118. S とノーム
「…………………………!! ぅ…………」
「コラ! ダン!! ダメだろ、けが人の顔の上に…………セス兄さま! 起きたよ、この人!!」
男は状況が把握できないのか、ぼんやりと私の顔を見たまま動かない。
「ファジール、彼が目を覚ましたのをディアン様と団長達に知らせて来てくれ。」
伝言を頼み、ベッドに横たわったままの男を見る。酷くやつれていて、腹を刺された傷は暫く放置されたまま出血量が多かったらしく、後少し処置が遅ければ命が危なかった。傷はマリア嬢にふさいでもらった。それと、左の手首から先が無いのは古傷らしい。
洞窟から連れ帰った地底人。同じく捕まったいた狼の獣人達によれば、何か弱みを握られて無理やり言うことを聞かされていたらしい。
「大丈夫ですか? ここは辰の領地の東。私兵団の寮です。そして、私はセレネスと言います。先程の彼はファジール。」
ここまで言うと、お腹の辺りに違和感。みれば、ダンが紹介しろとばかりに私のお腹を一生懸命殴っていた。
「あぁ、すまない……そしてこの子はハムスターのダンと言います。」
手のひらに乗せ、男の目線に持っていってやれば、片手を上げて挨拶をしているようだ。
「……ぅ、……ぁ、ぅ…………」
男は、何か言いたいようで口をパクパクさせている。
「あぁ、ちょっと待て。水を……」
水差しを出してやれば黙礼をして、口の中を潤したようだ。
「ぁりがと……ご……ます、ゎ…しはジーマともぅしま……」
そこまで言って、ゴホゴホとむせたようだ。
「無理に話さなくて結構ですよ。ジーマさん。」
ジーマさんはなんとか咳を止めると、ぜーぜーと肩で息をしながらかすれた声で私に何か訴える。
「リ、リア、とリィナは? 妻……ゴホッ……ゴホゴホ……ぁの方の、ゴホッほ、保護を………ゲホゲホッ」
リアさんとリィナさんだろうか? そういえば、奥さんと娘さんが逃げ出したと言っていたな、と思い至る。
「あの場にいた貴方と狼の獣人方は保護され、病院や宿におりますが、リリアさんとリィナさんと言う方はおりませんでした……なので……」
そこまで聞いたジーマさんは、堪えられないといった感じで、声を殺して顔を覆うように泣き出してしまった。
「す、すみません!! 言い方が悪かったのですが、今、全力で探しています! ここの東部隊には虫人の隊員の方がいらっしゃって、その方が中心となってお2方の足取りを追っております! 森の中です。虫人のお仲間は山ほどいらっしゃるでしょうから、きっと見つかります! 落ち着いて連絡を待ちましょう。ジーマさんはまず、怪我の治療と体力の回復をしないと、お2人が見つかった時に心配をかけてしまいますよ!」
動揺してかなり早口になってしまったが、言いたいことは伝わったようで、ジーマさんはコクコクと頷きながら涙をぬぐっている。
ノックの音がして返事をすると、大男と男前が揃って部屋に入ってきた。
「どうだ?」
「今、お名前と奥さまと娘さんを探してるって事をお聞きしました。」
「分かった。取りあえず先生! お願いします。」
ジーマさんがここに運ばれて来たときに診察した医療班の先生がずいっと前に出て来てジーマさんを診はじめた。我々は一旦席を外す。
「悪いな、看病させちまって……」
「いえ、居候させて頂いてますからこれくらいは……」
宿に泊まるつもりだったのだが、寮の部屋が空いているという事でお世話になっている。というか、洞窟から保護した方達のお世話係として留め置かれた気がしないでも無いが……
「シウボ達の取り調べはいかがですか?」
「順調とは言いがたいが、幾つか確認できた。やはり裏でダスキートと繋がっているようだ。」
ディアン様とカナル団長の話を纏めると、ある時、シウボの元に仮面を付け、チンパンジーを連れたダスキートと名乗る男が来たそうだ。そして、奴隷を集めること、商品として扱う事、魔物を育てる事を条件に、その他はシウボに有利な契約を提示してきたそう。一旦考えると話を持ち帰ろうとすると、連れていけとまだ小さな魔物を一体持たされたのだと言う。
奴隷を集めるなど、一介の商人には難しい事だが、ダスキートが寄越した魔物が、どこからか人や非戦闘系の獣人をさらって来るようになった。ある程度集まった頃、ダスキートが現れ、かなり良い値段で買い取っていった。
一度味を占めてしまったシウボは、最初の頃にあったであろう罪悪感も無くなり、魔物を使い、次々に高値で売れそうな奴隷を集めるようになった。そんな時、珍しいノームの家族を発見。捕まえてみれば、案外使えそうだったので、妻と娘を人質にして奴隷の保管場所を管理させていた。
だが、奴隷以外の本業の買付の途中に魔物に捕まり、暫く目を離した隙にノーム達が逃げ出した。捕まえようとしたら、ジーマさんが体を張って止めに入り、妻と子は逃げたそうだ。
今は、酷いことをしてしまったと自戒を口にしているが、ディアン様が言うには、口だけで本当に反省しているようには見えないらしい。
カチャッと扉が開き、医療班の先生が出てくる。
「腹の傷は問題ない。衰弱が激しいからたっぷりの栄養と睡眠、あとはさっさと心配事を解決してやれ。そうすりゃすぐよくなる。」
簡単に言ってくれる……と言うカナル団長と少し話をすると先生は医療班の詰所に戻っていった。
「奥さんと娘さんの情報はありましたか?」
「それがどうも、無事は無事たが、途中で馬車に拾われたらしくてな……誰の馬車だったのか調べて貰ってる最中だ。」
貴族の馬車は隅々まで磨かれてしまうので、虫などは着いていない。誰の馬車に乗ったのか、判明するまでは時間がかかるかも知れないな……
「ま、そういうことなので、ジーマだったか……?彼に伝えておいてくれ。わっはっは……」
あ……、面倒な役を押し付けて行った!! 全く、調子がいい……仕方ない。取りあえず悪い知らせじゃないのでジーマさんに早めに伝えてあげようと部屋に向かった
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