104. F の晩餐
少々お待ち下さい、とアンジャが席を立つ。その間に3人に地底に一泊する事を伝える。
宝石の採掘現場に見学に行く! と担当者と打ち合わせを始めるリベル。旨いものが食えるのか?? と腹を空かせるためにもう一度森へ出る準備をするノリアス。じゃあ、まだ遊べるな!! と子供達に引きずられて行くタイラ様。
すがるように俺を見るタイラ様を憐れんで見送った後、戻ってきたアンジャに宿の場所を聞く。その時に、申し訳無さそうに、俺とリベルだけ、あの王家の血を引く母娘から晩餐の誘いがあったことを聞かされた。
即座に断る。只でさえ良い印象の無かった母娘だった上に、口には出せないが、神と魔王を差し置いて自分達だけ晩餐に出席など出来るわけがない。
が、アンジャが困り果てた顔で喰い下がる。一度、今夜だけです。あの方達のわがままを聞いて下さい!! と涙ながらに訴えられ、4人一緒にならと了承した。
夜になり、宿に使いが来る。男共には貴族服が、リベルにはドレスと宝石、それとメイドが付き、着替えるように言われる。
タイラ様とノリアスはカッチリとした貴族服を着てシチゴサンみたいだ! と2人でキャッキヤッと騒いでいる。俺は堅苦しくてあまり好きではないが、相手は今後王族になるかも知れない人物。会うからには粗相の無いようにしないと……。
全面に押し出る面倒くささをなんとか隠し、迎えの馬車に乗り込む。ここでもタイラ様とノリアスを同じ馬車に乗せる乗せないでひと悶着あったが、4人とも同じ馬車に乗って移動した。
何が出るんだろうね? と無邪気に喜ぶタイラ様とノリアスを見ながら馬車に揺られ、到着したのは地上にあるような木とレンガでできたお屋敷だった。
ホールには執事服を着たノームが頭を下げている。全体的にノームは小柄な人が多く、男性でもイチカと同じ位の身長しかない。
「お待ちしておりました。只今主人が参ります。」
執事が言うと同時に、階段から先程の母娘が降りてくる。昼間見たものとは違うが、やはり露出の多い派手な色のドレスを纏っている。
「ふふ、いらっしゃい。お待ちしておりましたわ、フィルソン様、リベル様。」
娘の方がリベルをジロジロと頭の先から爪先まで値踏みでもするように見つめて言う。
「ええ、本当に待ちくたびれたわ。それに……従者まで連れてくるとは……まあ良いわ、案内なさい!」
執事に言うと、自分達はさっさと会場に向かう。
案内されながら、先程まで楽しそうにしていたタイラ様とノリアスを見れば、俺が乗り気じゃなかった理由を察したらしい。ポカンとした後、うわぁー……という顔をする。
リベルは、貴族社会に慣れているからか、顔面に笑顔の仮面を張り付け対応している。母娘の後ろに居たアンジャが胃を抑えながら頭を下げている所を見ると、終始こんな感じの人達なのだろう。
案内されるまま付いていく。と、ノリアスがススッと横に並び、袖を引っ張る。どうした? と見れば、ニパッと笑顔で
「ダッコ!」
と両手を差し出す。見た目は5才児なので周りからは"あらまあ"と微笑ましく見られるが、魔王を知ってる俺からすると恐怖でしかない。
何を企んでいるのか……。恐る恐る抱き上げる。と、頭にギュッと抱きつく。
「あの2人、ホントに地底人か? 周りの奴らと匂いが違うぞ? あと、念のため、飯の前に飲め。」
と、耳元で話すと、小さな薬を握らせてきた。
「んー、やっぱリベルがいい!! リベルダッコー!!」
俺の腕から体を乗り出し、リベルに手を伸ばす。貴族にはあるまじき行為だが、前を歩く母娘は気にする様子もない。
リベルは何かしらの意図を感じ取ったのか、しょうがないわね。とノリアスを片手抱きにする。ありがとーと無邪気に言っているが、やはり同じように薬を渡したようだ。
席に着くと次々と料理が運ばれてくる。が、明らかにタイラ様とノリアスの料理が違う。従者として振る舞っている限り、本来ならこの席に着くことも許されない身分だが、晩餐の条件として一緒に居る訳だからこの対応には憤りを感じた。
それでも2人は、黙って出された料理を食べている。リベルも嫌みな2人の話をサラッと流し聞いて適当な相槌を打つ。俺も大人の対応を……と話しかけられれば当たり障りの無い返事をする。
食事も終わり、サロンに移動しお茶を飲む。適当に2、3話してからそれでは。と、帰ろうとすれば、泊まっていけ、と背筋が凍るような気味の悪い笑みを湛えていう。娘の方も、
「リベル様に、社交界について色々お聞きしたいわ。」
と、ニタッと唇を歪めて笑う。と、またノリアスが俺の袖をツンツンと引っ張る。
「どうした?」
「眠いです。 宿に帰りたい……」
グズり始めた。お、おぅ。こうしてみると可愛い5才児に見える。
「申し訳ないが、我々はこれで失礼致します。お誘い有り難うございました。」
アンジャがえっ!? という顔をしたが、リベルもタイラ様も一斉に席を立ちお礼をする。そして、本来なら見送られて帰るところだが、ドアの前に立つ執事に馬車を頼みホールに向かって行く。
待ちなさい! や何様なの!? と怒鳴り声が聞こえるが、無視だ無視!! とばかりに足早にホールを抜け馬車に乗り込む。行き先を告げ、宿に戻る。
「体調に変化は?」
「特に無いかな。」
「私も。」
「タイラは?」
「ん? 今は眠いくらいかな……」
フニャッと笑う。ノリアスはそうじゃない。と言いつつ、先に寝たら? と気遣いをみせる。
「さっきの食事。フィルのには催淫剤、リベルのには眠り薬が入ってた。あのまま泊まってたら2人とも何をされたか……。何を飲まされるか分からなかったから、僕の薬を飲んだ後に、口にした薬を体内に吸収させない物にして正解だった。」
「え? やっぱりあの2人、悪者?? 因みに俺のには?? なんか入ってた?」
……聞かない方が良いと思う。ポツリと言うと、タイラ様は面白いほど顔色を変えた。クツクツと笑うノリアスを見れば、悪いものは入って居なかったのだろう。相変わらずノリアスには遊ばれている……。
さて、とノリアスが真面目な顔をしてこちらに向き直る。長くなりそうだ。と覚悟を決めノリアスの話を聞く。
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