第七章
キョースケが部屋を出てからすでに二時間がたっていた。響などは彼を待つことに退屈しはじめ、独り寝台で眠っていた。
何をするでもなく部屋の隅で壁に背を預けていた御剣は、寝台に俯せで器用に大の字になって寝ている響に一瞥をくれると、壁から離れて部屋の入口へと、体ごと視線を向けた。直後、部屋のドアが開きキョースケが軽い足取りで入ってきた。
「ういーっす。おまたーってあれ、なに。響、寝てんの?」
「ああ、お前がなかなか戻ってこないからな。待つのに飽きたと」
頷き答える御剣に対し、キョースケはふーん、と呟くと椅子に腰かけた。
「あっ、そうだ御剣さん。ハルの父親を捜す話なんだけどさ、当てが見つかったよ」
「当てが見つかった、ということはやはり何も考えずに旅立とうとしたのか」
「流石御剣さん、鋭いとこ突くねー。まぁそこは大目に見てよ。結果的には当てはできたワケだらさ」
グッと拳を突き出し、親指を立ててサムズアップをするキョースケ。御剣はそういう問題じゃないだろう、と嘆息する。
「――まあいい。それで具体的にはどうやって夢商人の親を見つける気なんだ?」
キョースケは、先ほど情報屋としたやり取りの内容をかいつまんで説明した。
「衛星電話の原理を使って、遠く離れた人とリアルタイムで連絡を取るのか」
御剣の言葉にキョースケは衛星電話? と聞きなれない単語に首をかしげる。
「その話は信用に足るものなのか?」
「降峰の外から連絡を取る技術なんて先史文明の遺産であるトンデモ科学ぐらいしかない、ってのも事実だからなあ。正直、信じる他ないといいますか」
訝しむ御剣に対し、キョースケは頭の後ろで腕を組みながら投げやりに答えた。
「その話じゃない。その情報屋が、夢商人の親を捜す話だ」
「そっちね。――まあ商売なんて信用第一でしょう。顧客の信用を裏切るような真似は、多分しないと思うんですがね」
それに、とキョースケは付け加える。
「そいつは今までだって誤った情報を寄越したことはないんで、信頼できますって」
それだけ言うとキョースケは椅子の背もたれに体を預け、前後に体をゆらす。信頼できるといわれたところで、自分にとっては素性のしれない相手な為に、御剣は素直に頷けなかった。
「ようはその情報屋の連絡待ちだけじゃ不安なんだろ御剣さん。なら、別口で保険をかければいいんじゃねえか」
「響お前、起きてたのか」
「ついさっきまで寝てたぜ、御剣さん。だが話はだいたい聞こえてたぜ」
満面の笑みでサムズアップする。そうか、と御剣。
「それで響、その保険ってのは具体的にどうすんだよ」
「そんなの決まってんじゃん、御剣さん。アラマサのリソースの一部を捜索に回すんだよ」
アラマサという単語に御剣は眉間にしわを寄せる。
「……本気で言っているのか?」
御剣の問いに、もちろんと響は頷いた。
「ちょっと待てよ。二人だけで話を進めないでくれ。なんなんだそのアラマサってのは」
一人置いてきぼりになっていたキョースケが説明を求める。
「そいつは内緒だ」
響が即答する。なんでだよ、とキョースケが食い下がるも、二人はかたくなに口を割ろうとしなかった。
「――わぁったよ。もう聞かねえよ。二人で話を進めてくれ」
不機嫌そうに舌打ちをするとそう言ってキョースケは二人に背を向ける。
「まあそう腐るなよ。こればっかりはいくらお前でも教えられねえんだ」
「別に腐っちゃいねーよ」
響たちに背中を向けたまま、キョースケは答える。そんな彼を見て響と御剣は深いため息をついたのだった。
次回はもっと早く更新できるよう努力します




