第六章
部屋を出たキョースケは、携帯電話の通話ボタンを押し、もしもし、とマイクロフォンに向かって声を出す。
ややあって、電話の向こうから中性的な声音が聞こえた。電話の相手ははひいきにしている情報屋だった。
『やあキョースケくん。一日ぶりだね』
「……あんたか。なんで降峰を出たのに、まだ電話が繋がるんだ?」
携帯電話は、電波を使って連絡を取るため、中継機器がない都市の外では繋がるはずがなかったのだ。
『君に渡した携帯は特別製でね、先史時代に打ち上げられた人工衛星を利用して各国に設置してある中継基地間の中継をさせている。つまり君や私がどの国や都市にいようと、こうやって繋がれるってわけだ』
情報屋の言葉を聞いたキョースケは、突拍子のねぇ話だなと呟いた。
「先史文明の、しかも現存する技術じゃあどうやっても手の届かないところにあるような物、どうやって動かすんだ? あり得ねえだろ」
キョースケが言い終えると、電話の向こうからクスクスと笑う声が聞こえた。
『それは企業秘密とさせてもらうね。それはそうと、先日の情報料、ちゃんと請求した分の入金を確認させてもらったよ』
「そーかよ。……まさか、それを言うためだけに連絡を寄越したとか言わないよな」
キョースケの問いにまさか、と名も知らぬ情報屋は否定をする。
「さっきも言ったとおり、その携帯電話は世界中のどこにいても私とつながることができる」
だから? とキョースケ。
「ようするに、今後ともご贔屓に、ってことさ。電話が通じる国には入金する端末が置いてある。これからも君と、電話一本で行えるビジネスをやっていきたいということを言いたかったんだ」
マジか、と呟くキョースケに、電話の向こうからマジだよという声が返ってきた。
「わかった。じゃあせっかくだから、ひとつ仕事の依頼をしようかな」
キョースケはそう言って依頼内容を説明した。
『――成る程。夢商人の親の居場所か』
キョースケの話を聞き終えた情報屋が独りごちる。いけるか、とキョースケが問いかける。
『難しい話だね。そも、君が今同行している夢商人の少女については、君が私に依頼した段階ですでに足取りをつかんでいたんだ』
その言葉を聞き、マジかよとキョースケは呻く。
『けれどもその父親の存在はおろか、夢商人が一族の名称で、子々孫々と受け継がれているだなんて話は初耳だよ』
「それはアンタが知らなかっただけなんじゃねえのか」
僅かに狼狽えた様子の情報屋と、そんな電話相手の機微に気付き、呆れた風のキョースケ。
『……そうかもしれないね。でも、今まで一度も私の網にその情報が引っかからなかったことを考えると、これから本物の――というよりは先代の夢商人を探すとなるとかなりの時間を要するだろうね』
とりあえず数日中に見つけられるのは不可能だろう、と情報屋は口惜しむように言う。
キョースケは、そうか、とだけ返すと。
「それじゃあ十数日でもそれ以上かかってもいいが、なる早最優先で探してくれ」
『それは、まあ君と私の仲だ。もちろんそうさせてもらうよ。でも、その分依頼料は増えると考えてくれよ』
「…………予算内で頼む」
長い間を置き、キョースケは唸るように言った。
『君の予算がどのくらいかは知らないが、まあ安くなるよう努力するよ。でも、本当にこれでいいのかい?』
「あ?」
『キョースケ君と彼女の間にあるものを、私は知らないし知るつもりもないけれど、君がこうも無条件で司嬢に尽くす必要はないんじゃないかと――いや、よそう。この話は前にもう終わらせたものだったね。失言だった。謝るよ』
キョースケが押し黙っていると、彼の異変に気付いた情報屋はすぐさま陳謝し、それじゃあと言って逃げるように通話を切った。携帯電話のスピーカーから流れるのは、通話が終わったことを示す電子音だけだった。
キョースケは携帯電話をポケットへとしまうと、胸の中に生じたもやもやとした感情をどうしたものかと考えるのだった。




