第8話「停電の夜と、隠された原点」
特定班を完璧なフェイクで撃退したあの大雨の夜から二日が過ぎ、母親不在の密室生活もついに折り返しの火曜日を迎えていた。
外は夕方から急速に天候が崩れ始め、夜に入ると激しい雷雨が街全体を叩きつけていた。ピカッと紫色の閃光が自室の窓ガラスを白く浮き上がらせるたび、数秒遅れて地響きのような雷鳴がゴゴゴと腹の底に響く。
デスクトップパソコンのデュアルモニターに向かい、僕は星降ルナの次回の配信企画書を作成しながら、時折窓の外の荒れ模様に視線を走らせていた。
モニターの青白い光が、暗い部屋の中に僕の影を長く引き伸ばしている。キーボードを叩く音と、激しく窓を打ち付ける雨音だけが、この空間を支配していた。
壁一枚隔てた隣の部屋。そこからは、普段なら聞こえてくるはずのキーボードの打鍵音や、椅子が軋む音、あるいは微かなため息などの生活音が一切聞こえてこなかった。
(……結愛のやつ、大丈夫か?)
僕はタイピングする手を止め、ヘッドセットを首にかけたまま隣の気配に耳を澄ませた。
星降ルナとして数万人のリスナーを魅了する彼女だが、現実の天野結愛には、あまり他人に言いたがらない致命的な弱点があった。それは『雷』と『完全な暗闇』だ。
今から五年前、親同士の再婚で彼女が我が家にやってきた最初の夏にも、今日のような激しい雷雨の日があった。当時まだ中学生になりたてだった結愛は、見知らぬ家で雷の音に怯えながら、部屋の隅で膝を抱えてガタガタと震えていた。
あの時、僕はどう接していいか分からず戸惑いながらも、彼女の部屋に入っていき「大丈夫、ただの音だよ」と不器用に声をかけた。そして、夏祭りの射的で僕が全財産をつぎ込んで手に入れたあの不格好な木彫りの熊のキーホルダーをお守り代わりとして渡したのだ。
あの時の、涙目で僕を見上げた結愛の顔を今でもはっきりと覚えている。
ドシャァァァと打ちつける雨音がさらに激しさを増し、思考の海から現実へと引き戻されたその瞬間、
ピカッ――――――――!!!
一瞬、昼間のように部屋全体が眩い白光に包まれた。網膜を焼くような閃光。直後、空が真っ二つに割れたかと思うほどの凄まじい爆音が響き渡り、僕の部屋の窓ガラスがビリビリと悲鳴を上げ、床板の振動が足裏から直接脳天へと突き抜けた。すぐ近くに落ちた。そう直感した次の瞬間──
バツンッ……!
甲高い電子音が弾ける音と共に、デスクトップパソコンのモニターがプツリと暗転した。同時に、部屋を照らしていたシーリングライトが消え、エアコンの送風音も、パソコンの冷却ファンの駆動音も、すべてが嘘のように一瞬で途絶えた。
室内は、完全なる漆黒と、耳鳴りがするほどの不気味な静寂に包まれた。
「……停電か!?」
僕は咄嗟にゲーミングチェアから立ち上がり、デスクの上のスマホを探して手に取った。画面をタップしてライトを点灯させると、鋭く白い光の筋が暗闇を切り裂いた。落雷によって近くの変電所か引き込み線がやられたのだろう。窓の外を見ると、近所の住宅街の明かりも一斉に消え去っており、街全体が黒い影絵のように沈み込んでいた。遠くでサイレンの音が小さく鳴り始めている。
その時だった。
「キャァァァァァァァッ……!!」
壁の向こう側から、空気を切り裂くような、破裂するような結愛の悲鳴が聞こえた。続いて、ガタンという何か重いものを倒す激しい音とともに、廊下を走る乱れきった足音が近づいてくる。
「結愛!?」
僕がスマホのライトをドアの方へ向けようとした瞬間、僕の自室のドアがバンバンバンッ! と壊れんばかりの勢いで叩かれた。
「陸っ! 陸ぅっ! 開けて! お願い、開けてよっ……!!」
ガチャガチャとノブが狂ったように回される。
ドア越しに聞こえてくるのは、いつもの「死ね」「視界に入るな」「息が臭い」と冷酷な暴言を吐き捨てる義妹の声ではなかった。恐怖で喉を締め付けられ、涙と鼻水で声にならない悲鳴を上げる、幼子のような哀れで切実な叫び声だった。
僕は急いでドアの鍵を外し、ノブを引いてドアを大きく開け放った。
「結愛、大丈夫──」
言い終わるより早く、暗闇の中から飛び込んできた小さな体が、弾丸のように僕の胸に激しく衝突した。
「うああぁぁぁんっ! 陸! 陸ぅぅっ!」
結愛は僕の着ていた高校の指定Tシャツを両手で力任せに掴み、顔を僕の胸元に思い切り埋めてボロボロと大粒の涙を流し始めた。全身が小刻みに、まるで氷水に落とされた小動物のようにガタガタと激しく震えている。
彼女の体からは、今朝僕が使ったボディソープのメントールの香りと、彼女自身の甘いシャンプーの匂い、そして恐怖による微かな汗の匂いが混ざり合った、ひどく生々しい匂いが立ち上っていた。
「ただの停電だよ、大丈夫だから!」
僕はスマホのライトを床に向け、パニックを起こして過呼吸気味になっている結愛の背中をゆっくりと優しく叩いた。
「ほら、深呼吸して。吸って、吐いて。大丈夫、僕がここにいるから。雷なんてただの雲の放電現象だから」
「ひっ、ぐすっ……こわい……暗いの、嫌……雷、落ちた……っ!」
結愛の指先が、僕の服を破らんばかりの力で握りしめられる。爪が僕の胸の皮膚に食い込むほどの強い力だった。
家では絶対零度の態度を崩さない彼女の鎧は、完全な暗闇と雷鳴の前に綺麗さっぱり剥ぎ取られていた。そこにいたのは、僕という『兄』の存在にしがみつくことしかできない、あまりにも不器用で、脆く、無防備な一人の少女だった。
「とりあえず、暗い廊下に立ってたら危ないから僕の部屋に入ろう」
僕は、怯える結愛の細い肩を抱きかかえるようにして部屋の中へ引き入れ、足でドアを閉めた。そのまま彼女を僕のベッドの上に座らせ、僕もその隣に腰を下ろした。スマホをデスクの上のペン立てに立て掛け、ライトを天井に向けることで部屋全体をぼんやりとした柔らかい間接照明のような光で照らし出した。
結愛はベッドの上で体育座りをし、僕のTシャツの裾を片手でギュッと握りしめたまま、ひっくひっくとしゃくり上げ続けていた。濡れた長い髪が頬に張り付き、大きな瞳にはポロポロと涙が溢れ出している。星降ルナとして何万人ものリスナーの熱狂を浴びている姿からは想像もつかないほど、今の彼女は小さく見えた。
「……落ち着いた?」
数分が経過し、彼女の震えが少しだけ収まってきたのを見計らって僕が静かに尋ねる。結愛は僕の顔を見ようともせず、小さくコクリと頷いた。
「……うん。……ごめん」
掠れた声で漏れ出たその言葉に、僕は一瞬耳を疑った。あの結愛が、僕に対して素直に謝罪の言葉を口にしたのだ。昨日まで僕がリビングにいるだけで「空気が汚れる」と罵っていた彼女が。
部屋の外では、相変わらず激しい雨音が屋根を叩き、時折遠くで雷鳴が重低音を響かせている。だが、スマホの仄かな光に包まれたこの狭い空間だけは、世界から完全に切り離されたかのような奇妙な静寂に満ちていた。
「……電気、すぐ復旧するといいな」
沈黙に耐えきれず僕が世間話のように呟くと、結愛は僕のTシャツを握る手にぐっと力を込めた。
「……復旧、しなくていい」
「え?」
「うそ……復旧してほしいけど……でも、電気点いたら……陸、私を部屋から追い出すでしょ」
膝に顔を埋めたまま、結愛がぽつりと掠れた声で漏らした。
「追い出さないよ。雷が止むまではここにいればいいから」
「……どうだか。いつも私をウザそうにしてるくせに」
「それは結愛でしょ。毎日毎日、顔を合わせるたびに暴言吐いてくるのは」
僕が苦笑しながら言うと、結愛はゆっくりと顔を上げた。真っ赤になった目と鼻先がスマホの光に照らされて揺れている。その表情には、いつもの攻撃的な棘は一切なく、ただひたすらに怯えと後悔が滲んでいた。
「……だって、そうしないと、どう接していいか分からないんだもん……」
細く消え入りそうな声だった。
「……え?」
結愛は溢れ出そうになる涙を手の甲でゴシゴシと乱暴に拭うと、意を決したように僕の目をまっすぐに見つめ返してきた。その瞳には、今まで隠し続けてきた「歪で巨大で重すぎる」感情の欠片が宿っていた。
「私……陸のことが、ずっと怖かったの」
「僕が……? 昔、何か酷いことした?」
「違うの! 陸が怖いんじゃなくて、陸に嫌われるのが怖かったの!」
結愛の声が、少しだけ高く悲痛な響きを帯びた。
「5年前、お母さんとお父さんが再婚して、この家に来た時……私、すごく浮いてたでしょ? 人見知りで、上手く笑えなくて、親同士の顔色ばかり窺ってずっと作り笑いして……。でも陸だけは違った。陸は私を特別扱いしなかったし、無理に距離を詰めようともしなかった。でも私が雷で泣いてた時、あの射的の熊のキーホルダーくれて、『これからよろしくね』って笑ってくれた」
結愛の手が、パジャマのポケットへと伸びた。そこから取り出されたのは、全体が黒ずみ、所々塗装が剥げた、あの不格好な木彫りの熊のキーホルダーだった。彼女は停電のパニックの中でも、このキーホルダーだけはしっかりとポケットに忍ばせていたのだ。手元配信で『宝物』として世界に紹介した、あのキーホルダーを。
「私、あの時すごく救われたの。この人は私の本当のお兄ちゃんになってくれるんだって、すごく嬉しかった。ずっと一緒に家族でいられるんだって。でも私が中学生になって、陸が高校生になって……周りの友達が『義理の兄妹なんて気まずいよね』とか『血が繋がってないなら男として意識しちゃうでしょ』とか言い始めて……」
結愛は悔しそうに唇を噛み締め、ポロポロと涙を溢ぼした。
「私、急に怖くなったの。もし私が『妹』として陸に甘えすぎたら、陸からキモいって思われるんじゃないかって。血が繋がってないのにベタベタしてくるウザい女だって、嫌われるんじゃないかって。もし私が陸のことを……その、本当の兄以上に好きだってバレたら、この家での私の居場所が、家族としての関係が全部壊れちゃうんじゃないかって……! だから……だから、自分から嫌われるような暴言を吐いて、距離を置こうとしたの! 大嫌いって言っていれば、本当の気持ちを隠せると思ったから……っ!」
雷に打たれたような衝撃だった。僕の胸の中で、これまで複雑に絡まり合っていた糸が一気に解けていくような感覚が走った。
彼女が家で見せていた冷酷な態度、数々の暴言、触れることすら拒むような仕草。それらはすべて、僕に対する嫌悪などではなく、自分の肥大化しすぎた好意と依存心を隠すための、あまりにも不器用で、破滅的で、悲しい防衛本能だったのだ。好きだからこそ嫌われるのが怖い。だから自分から攻撃する。その自己矛盾のループに、彼女は五年間も一人で苦しんでいたのだ。
「でも……無理だったの……」
結愛はボロボロと涙を流しながら、再び僕のTシャツに顔を押し付けた。
「言葉では嫌いって言えても、心は全然嘘つけなくて……。陸が学校に行って部屋にいなくなると、寂しくて死にそうになって……陸の部屋に入って、陸の服の匂い嗅ぐとすごく安心できて……っ! 陸が洗面所に置いていったものとか、使ってる私物を見ると、どうしても欲しくなっちゃって……っ!」
(……だから僕のパーカーの匂いを嗅ぎ狂い、シャーペンのバネを盗み、靴下を抱いて寝ていたのか……!)
すべてのパズルが、一つの恐ろしい、そして切ない絵として完成した。
彼女の異常な執着。それはヤンデレという一言で片付けられるものではなく、幼い頃に救われた救世主(僕)に対する、こじれにこじれた初恋と、絶対的な依存の末路だったのだ。
「……結愛」
「私……最低でしょ……? 家では陸に酷いことばっかり言って、裏では陸の服の匂い嗅いだり、靴下持っていったり……本当に気持ち悪い妹だよね……陸だって、こんな変態みたいな妹は気持ち悪いに決まってる……!」
結愛は声を出して泣きじゃくった。彼女の涙が僕の胸元を熱く濡らしていく。
「気持ち悪いなんて、思わないよ」
僕は静かに言いながら結愛の震える細い肩に手を置いた。
「……え?」
「ただ、結愛がそこまで一人で抱え込んでたなんて……気付いてやれなくてごめん。僕が鈍感だった。結愛が僕のことを本当に嫌ってると思って距離を置いてた」
「……陸……っ」
結愛が信じられないというような目で見上げてくる。
「暴言吐かれるのは正直イラッとしてたけどさ。結愛が僕のことを嫌ってないって分かっただけでもちょっと安心したよ。でも、靴下とかシャーペンのバネを盗むのは普通に困るし、レジンに封入するのはちょっとホラーだから、今度からはやめてね」
僕が少しだけおどけて言うと、結愛は「ふふっ」と泣き笑いのような声を漏らし、涙でグシャグシャになった顔を綻ばせた。
「やめない……あれは私の宝物だし。だって……陸の匂いがしないと夜眠れないんだもん……それに、レジンに入れたら陸の一部とずっと一緒にいられる気がして……」
小さくそう呟いた結愛の顔は、スマホの光の中で林檎のように赤く染まっていた。その表情は、僕が今まで見たどんな結愛よりも、そして星降ルナのどんなアバターよりも美しく可憐だった。
その時、僕の脳裏にもう一つの巨大な存在が浮かんできた。
バーチャルYouTuber『星降ルナ』と、そのプロデューサーである『P』。
「……ねえ、陸」
結愛が僕の顔をじっと覗き込んできた。その瞳の奥に少しだけ罪悪感のようなものが揺れている。
「私ね……最近ネットで活動してて、すごく好きな人ができたの」
(きた……!)
僕の心臓がドクンと跳ね上がった。全身の毛穴がキュッと閉じるのを感じる。
「その人はね、顔も名前も知らないんだけど……すごく優しくて、声が大人っぽくて、私のことを誰よりも理解してくれるの。『僕がずっとそばにいるから』って言ってくれて……私、その人の声を聞いてるだけで、胸が苦しくなるくらい幸せになるの。その人のためなら、私なんだってできる気がするの」
結愛は自分の胸に手を当て、うっとりとしたまるで夢見る少女のような表情で語った。
「陸のことはね……なんていうか、私の土台っていうか、一番安心できるお守りみたいな存在なの。陸の匂いがないと生きていけない。でも、そのPさんのことは本気で一人の男の人として大好きなの。……私、おかしいかな? 近くにいる陸に依存しながら、ネットのPさんに恋してるなんて、こんなふしだらで重たい女、引くよね?」
(おかしくない……というか、それ全部僕なんだよ……!)
僕は喉まで出かかった真実を、必死の思いで呑み込んだ。胃液が逆流しそうなほどの緊張感が腹の底を渦巻いている。
結愛は今、目の前にいる『安心できる兄(陸)』に絶対的な依存を抱き、画面の向こうの『理想の男性(P)』に強烈な恋愛感情を抱いている。だが、その二つの存在は同一人物なのだ。
もしここで「僕がPだよ」と明かしてしまえば、彼女の精神はどうなってしまうのか。自分の一番見られたくない醜い部分(服の匂いを嗅ぐ、私物盗難)をすべてPに知られていたことに絶望して壊れるのか、それとも二つの巨大な好意が融合して真の狂気へと昇華するのか。
どちらにせよ、僕の平穏な日常が完全に崩壊することだけは確実だった。
「……おかしくないよ」
僕はボイスチェンジャーを使っていない、自分の生声で静かに答えた。なるべく平静を装いながら。
「ルナ……じゃなくて、結愛がその『Pさん』を本気で好きなら、その気持ちを大切にすればいいと思う。ネットだろうがリアルだろうが、好きになった気持ちは本物だろ」
「……うん。私、頑張ってチャンネル登録者数十万人いって、Pさんに直接会うの。そして……好きですって告白するんだ」
決意を秘めた目で語る結愛。その純粋な瞳を見つめながら、僕は背中に冷たい汗が伝うのを感じていた。
十万人いったら直接会う──
その瞬間待ち合わせ場所に現れるのは、彼女が大好きな『P』であり、彼女が今しがた「安心できるお守り」だと告白した『陸』なのだ。
その運命の瞬間が、星降ルナの成長と共に刻一刻と近づいている。僕は、自分で自分の首を絞める時限爆弾のスイッチを押してしまっているのだ。
『ピーンポーン……パッ!』
突然甲高い電子音が響き、シーリングライトが一斉に点灯した。パソコンの電源が入り、冷却ファンが唸りを上げる。部屋全体が眩い光に包まれる。停電が復旧したのだ。
「あ……」
明るくなった室内で、僕と結愛は至近距離で見つめ合った。
結愛は自分が僕のTシャツをギュッと握りしめ、僕の胸元にすっぽりと収まるようにして抱きつく体勢になっていることに、今更ながら気づいたらしい。
「あ……あ……っ!!!」
結愛の顔が、見る見るうちに茹で上がったように真っ赤になっていった。耳の先から首筋まで一気に朱色に染まる。
「ご、ごごごごめんなさいっ! 触ってごめんなさい! 今のは違うの、雷が怖かっただけで、別に陸に抱きつきたかったわけじゃなくて……! ああっ、もう! 私、自分の部屋戻るっ!!」
彼女は弾かれたように僕から飛びのくと、真っ赤な顔を両手で覆い隠し、脱ぎ捨てられたスリッパも履かずに僕の部屋から飛び出していった。
バタン! ガチャリ!
隣の部屋でドアが乱暴に閉まり、鍵がかかる音が聞こえた。
明るくなった自室で、僕は一人ベッドの上にぽつんと取り残された。デスクの上では復旧したパソコンが静かに起動音を立て、デュアルモニターに星降ルナの作業画面と、リスナーたちの熱狂的なコメントのログが映し出されていた。
嵐は去り、停電は明けた。
だが僕と結愛の関係は、もう二度と以前の「冷戦状態の義兄妹」には戻れない地点まで変化してしまっていた。彼女の本音を知り、彼女の抱える二つの感情の矛先が、どちらも自分に向いていることを確信してしまった今。
僕はモニターの中の星降ルナの可憐なアバターを見つめながら、深く長くため息を吐いた。結愛の原点を知った今、僕が果たすべきプロデューサーとしての、そして兄としての役割とは何なのか。この歪な綱渡りの果てに、一体どんな結末が待っているのか。
窓の外ではまだ雨が降り続いている。二人きりの一週間は、まだ折り返し地点を過ぎたばかりだった。




