型破りな男
コラーロ・デスメフシス
転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』
カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称
「こんにちは〜」
関西特有のイントネーションで、洞穴に住む仲間たちに挨拶をする。
当然、予期せぬ来訪者にみんな驚くが、それだけで済んでくれればよかった。
またあの夜のように、みんなが牙を剥くところなんて見たくない。
そう思っていたが…。
「うわ!あの時のやつ!」
最初に出てきたのはマコト。
だがこの男を前にしても、マコトは至って普通。
特に変わった反応を見せたりしなかった。
「なんだなんだ?」「あの夜の人間だ…」
マコトの声に釣られ、洞穴から出てきた他の仲間たちも、あの夜のような異様な警戒心をこの男に見せることはなかった。
あれはやはり襲撃された時に起きた極度の緊張状態からの異常行動だったのか…?
みんながおかしくならないのであれば…それでいいが…
いや、そういえばさっき…。
とこの男は言っていた気がする…。
それはどういう意味だったんだろう…?
日によって何か違うのか?
「な〜な〜食料分けてくれへん?昨日の夜からなんも食ってないねん」
食料を持ち歩いていない状態で、よくこの大森林を歩いていられるな…。
というか普段はどうしているんだ?
この森で食料を確保できないということは、餓死につながる可能性は十分にあり得るのに。
「食料を分けてやるのはいい。お前には恩があるからね。ただ何故ここにいるのかまず説明しろ」
リーダー格であるマットが、至極当然の質問を男に投げかける。
そうだ。俺はこの人のペースに振り回され、そんな当たり前のことを聞くのも忘れていた。
なぜ、仲間も連れずにこの森を歩いているのか?
何が目的で、この森の中に入ったのか…?
そう考え始めると、やはりこの男の行動は不自然なことが多い。
そう思ったが…
「ドワーフの村の帰りです〜。王国行くんやったら、ここ通った方が早いんですよ〜」
と、笑いながら答えた。
地図を持っていないから、そのルートが本当に早いものなのかはわからない。
だけど鼻が効くカニスでも迷い、逸れてしまうようなこの森を、人間がなんの導もなく最短ルートだからと言うことで選べるほど、小さな森ではない。
それに問題はそれだけではない。
「人間のお前がどうやって森を迷わず進める?それに食料や水は?魔物に遭遇したら?お前がこの森にいるのは不自然だ」
マットがそう言う通り。
現に今、食料がないから俺たちに分けてもらいに来たと言うのに、今までどうやって生活していた?
「水なら簡単に手に入るんですわ。ほらこの袋ん中にあるもん。あんたたちも知ってるんちゃう?」
そういうと革袋に手を突っ込み、水色の綺麗な石を取り出す。
マットは一目見ただけでそれが何かを理解した。
「ああ、それか…」
俺にはなんだかわからないものだったから、首を傾げ見つめていると。
「プリムス村の井戸にも入っていた、アクエラ鉱という鉱石だよ。井戸の底に置いておくだけで、小さな村一つは賄えるほどの水を勝手に生成してくれるから重宝していた。それがあれば水に困ることがないことはわかった。食料と魔獣はどうしていた?」
ようやくファンタジーらしいアイテムが登場して、少し心が躍った。
俺が住んでいたあの村に、そんな画期的なアイテムが眠っていたなんて知らなかった。
あれ…?そういえば聞き流していたけど…この男は先ほど、ドワーフの村から来たと言っていたか…?
「皆さんあの夜見たやろ?僕が弓使えるのを?それつこうてバシュンとやって終わり〜。な?それなら森の中歩くんも、そんな難しいことあらへんやろ?」
なるほどな…それなら納得はいく。
この男の弓の技術は普通ではなかった。
そこに転移者という情報が乗れば…この世界でも特異的な存在になる…。
あの矢の能力はスキルか何かの可能性もあったが…もしかしたら、転生者や転移者に与えられた能力という線もありうる。
…そして…みんながおかしくなったのもこの男の能力のせいの可能性も…。
いやならば、なぜ今日はみんなの様子に変わりがないんだ…?
『今日は大丈夫やから安心してええよ』
その時、俺の脳内に、先ほどリオンが言っていた言葉が再生された。
…日によって能力が変化する能力…?
いや、能力に制限がかかる能力…?
ああ、くそ!情報が少なすぎて、逆に混乱してきたぞ!
「あ、そういや、食料だけやのぉて、取り引きもせぇへん?」
俺が頭を抱えているのを傍にリオンは図々しくもどんどん話を進めていく。
「と、取引…?」
冷静なマットすらも、だんだんこの男のペースにかき乱されてきている。
この洞穴に、この男が欲しがるようなものなんてないはずだ。
それに、俺たちだって欲しいものはあれだ、この男が即座に用意できるものなんて…?
「おたくの息子さん、服がパツパツや。カニスって人間よりも成長早いんやろ?人間とはちょっとちゃうけど、キミらだって衣食住揃ってなきゃあかんとちゃう?」
確かにそれは今の俺たちにとって喉から手が出るほど欲しくてたまらないものだった。
特に生まれたばかりのソラに着せられる服がない。
魔獣の皮で代用はできているが、これから暑くなるのに、毛皮は重くて不便だ。
それに、体温調節がまだ自分でできない赤子には不向き。
子供用の服がもらえるのは、願ってもない。
「キミらその様子なら毛皮取って保存しとるんとちゃう?それと子供用から大人用までの衣服と交換したるよ?な?都合ええやろ?」
多分俺たちは…この男にペースを乱され、この男のしたいように話を進めてしまうのかもしれないと思った。
その矢先…。
「う〜ん?」
「なんや?ボク?」
マコトが馬に乗っている男に近寄る。
少し離れた場所で聞いても、聞こえるくらい鼻をスンスンと鳴らし、匂いを嗅いでいる。
「お前臭い!」
「んなっ!?」
そんなことを言うために、わざわざ得体の知れない男の近くに寄ったのか?
「んなわけあるかい!?臭ないわ!臭ないわ!?自分らの方が臭いんちゃう!?こんな場所住んどったら、風呂入ってへんやろ!?」
余裕綽々な雰囲気を漂わせていた男が、顔を赤くして怒っている。
多分マコトが言いたいことは体臭が汗臭いとか、そう言う意味ではない。
離れていてもわかる、人工物的な匂い。
おそらくリオンがつけているのはこの世界での香水だろう。
その匂いが、マコトをはじめ俺たちには不快に感じる匂いだから、「臭い」と言ったのだろう。
それに対して、リオンが反論した意味もわかる。
この大森林の中で、遭難している俺たちがお風呂に入っていないと思うのも無理はない。
だが、残念なことに…。
「俺たちは毎日風呂に入っているよ?」
そう。俺たちの住む洞穴の近くには、温泉があったのだ。
ないのは人工的に作られた家や、家具だけ。
この洞穴は俺たちにとってのオアシスのような存在だった。
的外れな反論をしてしまったことに、リオンは少しだけ大人しくなるかと思った…。
だが…
「風呂キャン勢ちゃうかった!?いやそれよりも!温泉あるん!?めっちゃええやん!」
と、ツッコミを入れたと思ったらすでに服をはだけさせながら、どこやどこや!と子供のようにはしゃぎ始める。
その反応を見て、多分この人は俺が想像する通りに動かない。
おそらく『型破り』な人とはこういう人のことを言うのだろうと思った。




