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温泉での話し合い

コラーロ・デスメフシス 

転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称


「あぁ〜〜〜!ちょうどええ温度〜〜〜!ごっつええとこ拠点にできたやん〜〜〜ここに自分らの村とか作るのもええんちゃう?」


リオンは温泉に入り、蕩けている。

元々緊張感のかけらもなかった男だが、そこまで関係性ができてない相手の前でも遠慮なく、全裸になり「温泉どこ〜入れさせて〜や」と催促する姿は豪胆という言葉がちょうどいい気がする。


この男くらい、縛られずに、異世界に来たことを楽しめる心が俺にもあれば、とも少し思ったが、多分根本的な部分が違うのだろう。


この人はこの人。

自分は自分と考えるしかない。


「シオン…ちゃうわ。シアンくんのお父さん〜これからどうするんです〜?ほんまにここに村を作るのもありんちゃう?」


一応変なことをしないか監視するために、俺も一緒に温泉に入っている。


この機会にリオンが知っているこの世界のことを聞きたいが、マットも俺たちと一緒に温泉に入っている。

俺は極力会話はせず、二人の話から何かヒントを探ることにすることしかできない。


「マット。そう呼んでくれていい。俺が息子につけた大切な名前を何度も間違えられ、訂正されるよりも俺の名前を呼んでもらった方がいいから」


俺はあんまり気にしていないが、マットは気になるようだ。

シオンというのは前にいた恋人だろうか?それが癖になって間違えてしまっているならこの男らしい。


「あらら〜?それは偉いすんません…。ほならマットさんと呼びますわ。実際どうするおつもりです?あの村に戻ります?それともここに住み続けます?」


確かにこれからのことを考えないといけないはずだ。

だが、マットなら何か考えているだろう。

俺はあまり考えなくても良さそうだ。

「プリムス村がどうなったか、お前は知ってるのか?」

マットはリオンに村の状態を尋ねる。


「正直に言いますけど、もう村と呼べる状態ちゃいますね」


住民は、殺されるか、攫われたか、逃げたかのどれかなのだから、そうなっていてもおかしくない。

だけどそこはマットたちにとっては生まれ故郷だ。

村の形をなしてなくても、戻る価値はあるかも知れない。


「…………」


マットは深く考えている。

戻るか留まるか大切な決断だ。

簡単に決めていいはずがない。

俺はマットがどうするのか決断を待っていると…。


「シアンはどう思う?」


なんて、俺に話を振ってきた。


「え…?」

正直、どう思うも何もない。

俺はまだ中学生程度の子供だ。

俺の意見なんて、当てにならないだろう。

それなのに、なぜ俺にどうするか相談する?

シュウの父親のトラさんや、マットの弟のネスさんあたりに相談した方がいいのではないのか?


「シオ、シアンくんはまだ子供やん?そんなこと相談してええの?」


リオンも俺と同じことを思っている。

マットは俺の正体を知らないはずだ。

そんな気配一度も見せたことがない。

それなのに、まるで同等の大人のように相談してくる。

それが不思議でしょうがない。

「この子は俺よりも賢いからね。俺が気づいてないことに気づいているかも知れない」


平然とそんな重い期待を俺に向けてくる。


昔から、マットとグランじいちゃんだけは俺のことを『賢い』と言ってくれていた。

俺にはそんな自覚はないが、この重要な決断を前にして、言うということは本当にそう思ってくれているのか…?


なら少し、俺に期待しすぎている…。

俺はそんな賢い子ではない。


「ふ〜〜〜ん?実際どうなん?なんか考えあるん?シアンくん」


この男は俺の正体を知っている。

それを面白がってか、ニヤニヤしながら俺に質問をしてくる。


気になったことなんてたくさんある。

一番気になるのが、どこから来たかだ。


これは質問していいのか…?

会話の途中、さりげなく出てきた一つのワード。

それは標になるはずだ。

そこにカニスの特性と、この男のある特徴を合わせると…一つの道が出てくる。


ここに留まり続けるのも一つの手だが、食料や衛生面を考えると得策ではないと思う。

プリムスの村に戻るのも、不確定要素が多いし、村に残党が残っている可能性も捨てきれない。


なら…。

一度は子供らしくないところを見せたんだから、もう今更考える必要もない。

この人は俺の考えを不気味だと捉えないと思うから…それならみんなを安住の地に導く方が大切だ…。


「ドワーフの村から来たって言ってましたよね?」


俺は、リオンに向かって話しかける。

リオンは俺を見ずに、月のない夜空を見上げながら

「せやね?」

とだけ答える。


「ここまでどのくらいの距離で来ましたか?」

「う〜ん二週間ちょい?」


二週間。

しっかりと食事と、水を揃えればいけないこともない距離。


「この人の匂いはこの森ではかなり特徴的だから、それを遡るように進めば、ドワーフの村に辿り着けるんじゃないかな…?」


マットに視線を合わせて、答えると…マットは嬉しそうににっこり笑った。


「ああ〜なるほどな〜?確かにそれなら戻るよりもドワーフの村行った方がええかもな〜?って…それ、僕が臭いみたいな言い方しとるとちゃうよな?」


「違います…ただ…森の中に同じ匂いがないだけです」


人間が思うような悪臭をこの人からは感じない。


だが、カニスになってわかったが、香水の匂いは犬の嗅覚だと刺激が強すぎるのだ。

おそらく、通ってきた道にもこの匂いは残ってしまっているだろう。


それを辿れば、ドワーフの村に辿り着ける。

問題は…。


「ドワーフってカニスに対してどう思っているかわかりますか?」

苦労して辿り着いたにも関わらず、村に入れてくれないなどの差別や、余裕がなかったら意味がない。


どういう相手なのか今のうちから知っておいても損はないだろう。


「あ〜?別に普通やと思うで?あの人ら酒と鉱石以外はそんな興味あらへんし。それになんかちっこいカニスも一緒に住んどったから、差別とかはせえへんとちゃう?」


ちっこいカニスと住んでいた…?

チワワやトイプーなどの小型犬のカニスだろうか?

犬のことをよく知らないからメジャーどころでしか想像ができないが、他種族と共生できる文化があるならば、目的地にするのに問題はないと思う。


「へ〜ほんまにちゃんと考えてるんやね?おたくの息子さん」


正体を知っているくせに、「子供にしてはすごいな」みたいな言い方は皮肉のように聞こえたが、肝心のマットが…


「だろ?」と嬉しそうにドヤ顔をしていたから気にしないようにした。


俺のことをこんなに誇ってくれる人は過去にもマットとグランじいちゃんだけだ。


それが結構…嬉しい。


「ふ〜う!腹ペコやしもう上がりますわ。肉くださいよ〜お肉〜。たくさんあるんでしょ?」


全員で温泉から上がる。

普段なら、体を犬のように全力で震わせて、水を弾き落とすが、今日からは手ぬぐいと新しい衣服がある。


リオンと交渉で譲ってもらったのは衣服だけじゃない。

水の出るアクエラ鉱まで譲ってもらった。


当然、俺たちが彼に渡したのは食料だけではない。

冬を越すために大量に用意していた魔獣の毛皮。

それと交換をした。


俺たちの住んでいた村、プリムス村は魔獣の毛皮や骨を加工し、王国に献上して生計を立てていた。

その毛皮は良質で、王国でも重宝されていたが、村が崩壊したせいで毛皮の価値が高騰。


リオンはそこに目をつけただけでなく、元々衣服が好きでいろんな地域を歩き回り、さまざまな種族の衣服を集めていたらしい。


だから俺たち子供用の衣服まで持ち合わせていた。


ここで取引しても、資金があればまた仕入れられるから毛皮が欲しいリオンと、毛皮の使い道がなくなり、衣服とアクエラ鉱が欲しかった俺たち。


完全に利害が一致した俺たちの出会いは、本当に偶然か…それとも必然…か?


この時の俺にはわからなかったが、みんなと肉をうまそうに食う男の顔はとても無邪気で、とても人を騙すような悪人には見えなかった。


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