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襲撃と邂逅

コラーロ・デスメフシス 

転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』


たくさんの人が死んでいる。


冷たいと思っていた前の世界では見ることがなかった光景を目の当たりにし、俺の思考はフリーズしている。


いや、前の世界でも俺の知らないところで同じようなことは起こっていたはずだ。

それを間接的には知っていたが、当事者ではなかったから、「酷いことをするな…」くらいの感覚で共感はしていなかった。


今、俺の目の前にはその地獄が繰り広げられている。

こんな辺鄙な場所にある村を襲う理由がわからなかった。


だが、襲ってきた者が叫んだ言葉が耳に入り、背筋が凍りついた。


『髪の白いカニスだけは殺すなぁ!特にメスだ!白髪のガキ産ませて売れば高値で売れるってのはわかってんなぁ!お前らぁ!』


村を襲った理由がなんなのか理解できた。


利益になるものを選別し捕まえ、増やし、売る。

それはまるで悪質な犬の繁殖屋のようだと思った。


人に近い姿をしていたら残酷だと思うくせに、前の世界で行われていた悪質なブリーディングについては「酷いことするな…」くらいの感覚で聞き流していた。


当事者にならねば、痛み、苦しみに気づけないなんて俺はなんて愚鈍な生き方をしていたんだろうと今になって後悔する。


俺は次に何をすればいいのかわからず、母親の腕の中で途方に暮れていた。

「おいおいおい!いたぞ!白髪のカニス!ははっ!しかもまだまだ若そうだ。こいつなら子供もたくさん産んでくれるんじゃねえか!?」

煙が上がる村の中でもわかるほど醜悪な匂いを垂れ流す盗賊のような男が俺たちの周りに集まってくる。


完全に囲まれている。

俺を庇うカーネの腕は力強いが、震えている。


目的が転生者の俺であるなら、この場を収めるためにあえて捕まることを選んだ方がいい結果になることもあるだろう。

だが、こいつらの目的は俺ではない。

俺を庇おうとする、母親を連れ去ることが目的。


何をすればいいかわからず、思考停止していた時、後ろに回っていた盗賊たちから悲鳴が上がり、倒れていく。


「カーネちゃん、早く逃げろ!ここは俺が食い止めるから!」


助けに来てくれたのは俺の祖父に当たる人物。

名前はグラン。


グランじいちゃんは俺たちの隣を瞬く間に通り過ぎ、俺たちの前に立っていた盗賊たちに飛び掛かる。


手に持った薪割り用の斧で、盗賊たちの頭を叩き割り、首を刎ね飛ばす。

強い。

だが、一人で戦うには圧倒的に敵の数が多すぎる。



『んだ!? このおいぼれが!てめえみてえな汚え年寄りには用がねえんだよ!』


「てめえら絶対に許さねえからな…俺が育った村を、めちゃくちゃにしやがって…殺す。全員残らず殺して、森の魔獣の餌にしてやる…!」


普段はこんなこと言う人ではない。

豪快で、よく笑い、器がでかい優しい人だ。

だが、もう完全に理性を失っているように見えた。

毛を逆立て、牙を剥くその姿は獰猛な野犬のようで、逞しさよりも怖さが優っていた。



『おらどけ、雑種のじじい!殺すぞ!』

「ああ!?雑種だぁ!?じゃあてめーら自分の血統を証明してみろってんだコラッ!!」



俺は、このままだとじいちゃんがどうなってしまうのか…簡単に想像できた。

だが…今の俺にどうすることができる…?


加勢したくても俺は人間で言えば、十歳にも満たない子供。

俺がカーネの手を振り解き、加勢するということは、グランじいちゃんが今稼いでくれている時間を無駄にし、母親が逃げるチャンスを潰すことになる。


それは俺にも理解できた。

そして、カーネは俺を抱え、走り出した。


それは残酷な決断にも思えたが、人の覚悟を無駄にしない効率的な決断とも思えた。

「ごめんなさい…ごめんなさい…お義父さん…」


カーネは俺を抱え、泣きながら謝罪している。

俺は改めてグランじいちゃんの方に顔を向けるとじいちゃんはいつものように優しい笑顔で

「ああ…それでいい。じゃあなシアン。お前…」


最後の言葉は聞き取ることができず、祖父との距離は離れて行った。


何が幸せに溢れた世界だ。

幸せというものはただ享受していればいいのではない。

守るために必死に対策しなければ、倫理のない第三者に意図も容易く壊れてしまうのだ。


やり直しても、結局俺は何も変われていなかった。

母親に守られて逃げることしかできない、ただの負け犬だ。



カーネは俺を抱え走り続ける。

向かったのは、大森林手前の大広場。

有事の時にみんなが集まる場所だ。


危険を察知した何組かの家族も、すでにそこに集まっていた。


「カーネ!シアン!良かった!無事だった!」


何組かの家族の波を避け、俺たちに近づく黒髪の獣人。


俺と瓜二つの父親、名前はマット。



「マット!よかった…私たちは無事…だけどお義父さんが…!」

「ッ!?」


カーネは詳細を話していない。

だがマットは、この場にいないグランじいちゃんが何をしたのかすぐに察していた。

それは父子の阿吽の呼吸というやつなのだろう。

グランじいちゃんがこんな時、どういう行動に出るのか知っていたふうだった。



『俺の家族はどこだ!おい!どこだ!? いないのか!?』

『ねえ?誰か私の子を見なかった!?どれだけ探しても見つからないの!?』


周りがどんどん騒がしくなっていく。

ただでさえ不意打ちで混乱していたのに、もう合流しに現れる仲間が減っているからだろうか。


よく周りを観察してみると、集まっているのはカニスだけで、人間の姿がない。


ただ、村で一緒に住む人間が俺たちを売ったとも考えにくい。

ここに辿り着くまでにたくさんの人間の死体をみた。

つまり逃げるのが遅れ、助かっていないか…もしくは別ルートで逃げたか…


『あいつら、男連中が狩りに出てる間を狙いやがった!』

そう。村が襲われた時、父マットを含め、この村の大半の男連中は森に狩りに出ていた。

襲ってきた連中は、俺たちの生活リズムを知っているようだった。



『人間だ…襲ってきたのは人間だった…』 『なんで人間が俺たちを襲う!?何が理由で!?』


合流した男連中は村が襲われた瞬間を知らない。

だからこの村が襲われる原因がわからず、混乱してる。


『これからどうする!?』

『そんなの決まってるだろ!村を救うために戻るんだ』


勇ましい声も聞こえる。

だがそれは、無謀だと思った。

敵の人数がわからないのに、今ここにいる人数だけで対処するにはリスクが高すぎる。


「いや…だめだ…遠目で見てもわかる。襲ってきたやつの数が多すぎる」


一人だけ、この状況でも冷静な人がいた。

それが俺の父親。


普段はニコニコしながら大人しい人が、真剣な表情でみんなを諌めている。



『ビビってんのか!?』 『マットの言う通りだ…戻るのはもう無理だ!』

『俺は戻る…息子が…息子がいないんだ…』 『バカ、待て!早まるな!』


だが、この混乱した状況下で全体の統率を取ることはできなかった。


衝動的に村に駆けてしまった者も既にいる。

そうなってはもう止まらない。


まとまりがなくなった集団は、さらなる混乱を自分たちで呼んでしまう。



「森に逃げよう…」


マットは覚悟を決めて、みんなに提案する。だが…


『おまっ!? 正気か!』 『今度は森の魔獣に襲われるぞ!』 『自殺行為だ!』


仲間たちは危険性を理解しているため否定的だった。

森の中に逃げるのは確かに正しい。


村の隣にある大森林は、人間には深すぎる。

逆に鼻がいいカニスには隠れるのに絶好の隠れ蓑になってくれるだろう。


だが、今は日が暮れた夜。

子供を連れて入るにはあまりに危険が多い場所。

誰も簡単には賛成してくれない状況で、マットの言葉に一番最初に賛成した人物のことを、俺は多分一生忘れないだろう。


『虎穴に入らずんば虎子を得ず、っちゅうやつですかねぇ? いや〜、この状況でも冷静に判断できるんは流石やなぁ、お兄さん』


それはこの世界に来てから今まで一度も聞いたことがない喋り方。

そして何よりも、この深刻な空気を晴らすような爽快な喋り方に、

皆が声のする方に視線を向けた。


「ん?なんか意味ちゃうな?というかこの人ら、虎やなくて犬やんな? 犬相手に虎に例えるんはおかしいな!あはは!」


巨大な馬に乗った、場違いなほど軽い空気を纏う黒髪の男が姿を現した。


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