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任け犬の遠吠え【リビルド版】  作者: 飆キルトロ
第一章 絶望、逃避、森の中
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覚悟と予感

コラーロ・デスメフシス 

転生した異世界で課せられたルール。最後の一人が決まるまでにしていけないこと。『人殺し、死、自殺』


カニス 正式名称 カニス・アミークス この世界での犬の獣人種の名称


マットは覚悟を決めた顔をしている。

だが、残酷なことに覚悟を決めただけで魔熊をどうにかできるわけもない。


一人で時間を稼ぐと言っていたが、マットが囮をやってあの魔熊が釣られる保証はどこにもない。


ならばどうする?

どうすればいい?


前回はたまたま怯ませて、その隙をつくことで回避することができた。

だが、もう同じ手は通じるとも思えない。


ここで、あの魔熊を仕留めなければ、俺たちが安心して眠れる日は訪れないかもしれない。


ならここで決めるしかない。


考えろ…。

今まで経験したもので、何かいい手は…。


その時、考えがまとまらないことに焦った俺は何気なく目の前にあったものに体を少し預け、冷静になろうとしていた。


手に伝わる冷たい感触。

触ってみてわかる、本当に鉄のように硬く頑丈だ。


それはまるで森の中にある天然の檻のようだと思った。


…………。


「お父さん…待って」


ふと気づくと、俺はマットの手を掴んでいた。


この選択が合っているのかなんて全く自信がない。

だけど、そこに希望があるなら、試すべきだと思う。

昨日、倒すまでには至らなかったが、退かせることはできた。

あとは大人が俺の言葉に耳を傾けてくれるかどうか…。

俺はこれから行うことをマットに伝える。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「だめ!!」


俺の作戦をマットは快く聞き受けてくれた。

だけど、昨日「無茶しないでね」と言ったばかりのカーネは納得してくれなかった。


「カーネ。確かにこの作戦は危険だと思う。だけどあの大きさの魔熊がこの近くに生息しているということは、いずれこの山そのものの災いになる。

ドワーフの村も近い。今逃げれてもいつか山を降りて襲われる可能性もある。だから…今はわかってほしい」


マットから説得してもらっているが、カーネは首を縦に振らない。


「そうしなきゃいけない理由もわかる!だけどそれって今なの!?一旦ドワーフの村に入って態勢を整えてからでいいでしょ!?そんな少ない人数であの魔熊を倒せるってあなた本当に思っているの!?」


カーネの言い分は正しい。そうした方がずっといいに決まっている。

だからどちらも間違ってはいない。


だけど、そんな余裕はもうないのだ。


夜になると、あらゆる魔獣が俺たちを襲ってくる。

その原因はおそらくあの銀の矢が発する音波によるものだろう。


みんなの動きを鈍らせ、魔獣を呼び寄せるあの矢のせいでみんな疲労困憊になっている。

今から全速で村に駆け込んでも、村にたどり着ける保証はない。


そして一番最後を走ることになってしまうのが誰なのか…

カーネはまだ気付いていない。


「ソラを抱えてるお母さんが…一番危ないからだよ」


俺たちのことを心配してくれている人に、こんなこと言いたくなかった。

だけど、ここで言わなきゃ…納得してくれないだろう。


「!?」

俺の言葉を聞き、カーネは驚いた顔をしたあと、顔を伏せてしまった。


カーネが言ったことは間違っていなかった。

だけど、俺たちのことで頭がいっぱいで…その先のことまで、見えていなかったのだろう。


顔を上げた時には泣きそうな顔をしていた。


「大丈夫。きっと何とかできる。俺一人じゃ無理だけど、みんなと頭を使えば何とかなるってカーネも知ってるだろ?」


それは俺も知らない二人だけの話かもしれない。

その話はいつか聞くことにしよう。


今はそのために必要なことをしなくちゃ。


「マコト。お願いがあるんだけど」


俺は進もうとしていたマコトを呼び止める。


俺には銀の矢が目視で発見することはできても、音だけで探すことはできない。

万が一、藪の中に矢が隠れていた場合、無駄に手間がかかるだけ。


あの矢は俺たちにとって、厄介なアイテムである。

だが、魔熊に向けた時には怯えた姿を見せた。


そんな矢を持っていたからリオンはこの森を平然と歩いていたのかもしれない。

牙に当てただけで、魔熊は悶絶していた。

不快な音なのはわかる。

だが、もしかしたらそれ以上に…獣に対して特攻がある可能性もあるのではないかという予感もする。


もしそんな矢が、心臓にまで届いたら…倒せるのではないのか?


だから、マットは触ろうとしなかった。

カニスにも犬の部分があるから、あの矢を触りたがらないのかもしれない。


なぜ俺とマコトだけが触れるのかは今はいい。


それよりも。


「あの矢の音って聞こえる?」

マコトは俺たちの中で一番音や匂いに敏感だ。

その敏感さで矢を探してもらうしかない。


「待って…」

マコトは目を瞑り、音に集中する。

三角形の耳は後ろ向きに倒れたり、ピクピクと反応したりと、忙しなく動いている。


「ある…けど…ちょっと遠いし…あるのはあっち」


マコトが指差したのは、最悪なことに魔熊が吠えた方向から少しだけズレた位置。

今、マコトを全力で向かわせたら鉢合わせる可能性がある。


ならば俺が行くしかないか?

方向だけ分かれば、あとは勘で…いや、それはこの賭けをより不確定にするだけ…。

どうすれば…。


「マコ、ならおとうと一緒に行くか〜?」


この緊迫した中、場違いなほど間延びした声。


「マット〜?オイラが扇動すればバレずにたどり着けるよね〜?」


そう言ってマコトの後ろに立っていたのは、マコトの父親。

名前はマロさん。


普段はあんまり会話に入ってこない。

いつものほほんとしている人が、こんな緊急時に名乗り出るなんて思わなかった。


「そうだね。どうやらあの気持ち悪い矢が、今回俺たちを救う鍵かもしれないから。任せてもいい?マロ、マコト」


マロさんが扇動すれば魔熊にバレずにたどり着けるというのか?

なぜ?どうやって?


そのあと、マロさんとマコトの動きをみて、俺は柴犬が柴犬と呼ばれる所以を初めて知る。

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