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第八章 作戦三。

作戦二は失敗。だが正直、これまでの作戦が失敗するのは想定内だ。と言うより、成功するほうがおかしい。


本命は、作戦三だ。


今の段階で、開示されているマコトの技は、【風恋突】のみ。それに加え、埋めようのない、圧倒的な実力差がある。この状況でアイツを倒すのは不可能に近い。ヴァルドを纏えれば話は別だが、周囲に人がいる以上、あんな禍々しい鎧を装着するわけには行かない。


だから、ここはとりあえず、ひたすら足掻く。ひたすら足掻いて、マコトに【風恋突】だけでは俺を倒せないと思わせる。そして、次の手札を切らせる。作戦三のためには、マコトの攻撃パターンを知る必要がある。


剣を構える。そして、俺は、何もない空間に向かって剣を振り上げる。


「な、なにしてるん?」


マコトが怪訝そうな顔をする。


「位瞬」


景色が霞む。


次の瞬時、俺はマコトの背後に立っていた。


さっきの反撃で、移動してから攻撃を開始しても間に合わない事が分かった。


――ならば、瞬間移動する前に、攻撃の準備を終わらせておけばいいのでは?


すでに、攻撃の構えは出来ている。あとは、振り下ろすだけだ。


――俺の丹田から刀身にかけて、一瞬にして熱を帯びた強い力が駆け巡る。


「【発破】!!」


この一瞬。剣と腕の間から、マコトの顔が見える。若干の驚きと焦りが入り混じっている。


――そして、その顔は、確かに笑っていた。


「カァーンッ!」


歯切れの良い鋭い音が響く。砂ぼこりが舞う。剣を押し返す力を感じる。


「ワシに技を使わせるなんて。おもろいやないの」


煙が晴れるとそこには、


――誰も居なかった。


一瞬認識が遅れる。気付いたときにはもうすでに、マコトは俺の背後に来ていた。


「ほれほれほれほれ!!」


マコトは剣を乱雑に振るう。いや、この表現は正しくない。乱雑に振るっているかのように見える剣の全てが確実に急所を狙っている。


「くっ!!」


遅覚を使い剣を避けながら一歩、また一歩と後退する。


「位瞬」


二メートル後ろに後退し、距離を取る。


――さっきのはいったい?


避けたのなら手応えはないはず。なのに確かに受けた感触があった。それなのにアイツは俺の後ろに……。【位瞬】と同じ空間転移? いや、違う。使った際の独特の空間の歪みがなかった。じゃあ高速移動? いや、それも違う。高速移動ならば、少なからず地面や空間に魔力の痕跡が残る筈。だがそれがなかった。それなら……。


「風恋突」


マコトが地面を踏み込み、せっかく取った距離を縮める。


遅覚の再使用までにはまだ時間がかかる。位瞬も使ったばかり。三つ目の技は、この状況とは少々相性が悪い。もっと先まで取っておきたかったが……、やむを得ない。


「縮小解除」


小指サイズに縮小させて、地面にあらかじめ置いておいた防具立てを元の大きさに戻す。


そして、身代わりにする!!


「スパパパパッ!」


マコトの剣は、俺ではなく、俺の前の防具立てを突く。


防具立ては、その攻撃で跡形も残らないくらい木っ端微塵になった。


明らかにさっきまでの風恋突とは一線を画した威力。


――おいおい……。マコトのやつ。あんな技、人様にぶつけてたのか?


風恋突の威力とマコトの殺意に若干顔が引き攣る。


そして、マコトの顔も若干引き攣っている。


「防具立て……。マジでどっから取り出したん? そんなの絵物語とかじゃないと通用しーひんで?」

「……」


今の入れ替わりに対応せずに、防具立てを破壊した。つまりは認識が強化されている訳でもない。コイツのさっきの技は、もしかして……。


「おら、次行くで」


マコトが剣を振るう。縦、横、斜め、突き。多様なパターンの攻撃の連続。それが凄まじい速さで振るわれている。これが魔法による強化でも何でもなく、本人の素の剣技だというのが一番おかしい。


「カンカンカンカン!!」


お互いの剣のスピードがどんどん上がっていく。ただ、片方の剣は上がるスピード追いつけず、どんどんその動きはぎこちなく、そして乱雑になっていく。それはもちろん俺が持っている方の剣。そして、それが耐えきれなくなった時。それが『位瞬』を使う時。


さっきのように、二メートル後方へ下がる。


そして、マコトが地面を踏み込む。そして【風恋突】を放つ。


さっきと全く同じ。だが、その行動の違和感に、俺はやっと疑問を持ち始めた。


――まてよ? 何故さっきの風恋突だけ、あんなに威力が高かったんだ?


遅覚でマコトの攻撃を回避しつつ、思考を巡らせる。


裂けた服の一部、身体の傷が目にはいる。


――そういうことか。


理解した。風恋突の発動条件も、名も知らぬ技の正体も、そして、マコトに勝つための方法も。


「わかった」

「何が分かったん?」

「お前の能力の秘密だ」


マコトは余裕のある表情をしている。


「へー。それはすごいなぁ」

「じゃあ? ワシの【風恋突】も、回避できるんかえ?」


マコトはきっと、俺が嘘をついていると思っているだろう。


「いや、それは不可能だ。少なくとも、俺にはな」


マコトは眉を顰める。マコトの余裕そうな顔が明らかに不思議そうな顔をしている。


「どういうことや」


マコトの声色が変わる。


「少し言い方が悪かったな。避ける必要がないんだ」


俺は位瞬で、マコトの眼前に移動する。


「な、なんのつもりや?」

「お前の【風恋突】は一度距離を取ってから踏み込まないと発動できない」

「そうだろう?」


マコトの表現から余裕が消える。


「それがわかったからって、どないするん?」

「まだだ。それだけじゃない」

「お前のさっき使った技。あれの正体。それもわかっている」


マコトの目は見開かれる。


「最初は高速移動かとも思った。だが違う。お前のスピードは速い。それも、とてつもなくな」

「だがそれは、自前のもので、能力によるものではない」


マコトは図星を突かれ、黙っている。


「お前の能力それは、分身……だな」


俺は確かに、あの時、マコトに攻撃し、それを受けた。なのにアイツは俺の背後に居た。それは、つまり、俺が攻撃を与えた者がそもそも本体ではなかった。


「それもただの分身ではない。残像を分身にする能力だ。」


これで風恋突の残像が全て本物のように見えたのにも、説明が付いた。


そして、俺を突く時と防具たてを突く時で威力が全く違っていた。それだけじゃない。身体には傷がついていないのに、服には傷がついている。そんな部分が何箇所もある。攻撃が服を掠めただけだと思っていたが、これにもようやっと説明が付く。


「その分身は、生物に接触することができない」

「これで、あっているか?」


マコトは、笑みを浮かべる。


「正解や。正解。大正解。プラス1億点あげちゃうわ」

「なんで分かったん?」


笑っている筈のマコトの目はなぜか笑っていないように見える。


「それは、」

「いや、やっぱええよ」

「あんちゃんが普通じゃないのやって、最初っからわかっとったんやから」

「そうか」


マコトはバックステップで距離を取る。


「ワシの秘密わかったところで、距離取ったったらええねん」

「……」


マコトはきっと、気付いている。俺の位瞬で移動できる距離が二メートルだということを。


きっと俺が近づく限り、アイツは距離を取ってくる。そして、近づかなければ風恋突がとんでくる。とどのつまりアイツは俺の位瞬で届かない距離で、尚且つ風恋突を放てる距離、だいたい三〜四メートルをキープしてくるだろう。


今まで使わなかった。いや、使えなかった能力。マコトはまだ気付いていない。自ら負け筋を作っていることに。


俺はゆっくりと右手の拳を握る。


――作戦三、開始だ。

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