第六章 絆はお金で買えますか?
「お兄ちゃん、鍛冶師やろ?」
「そうだが、何故わかる?」
「ハハハ! あんさん、おもろいこと聞くなぁ」
「鍛冶師くらい、手見りゃわかるやろ?」
このマコトとか言うエルフ、相当の目利きだ。俺と話しながら、ヴァルドや【心剣リオン】を見てる。つまりは、コイツらの特殊性を少なからず見抜いていると言うことだ。
「それで、何が言いたい?」
「ハハハ!! 初対面の人間にその口調かあな!!」
「気になるようだったらやめる」
「いや、ええよ。ワシも丁寧な物言いっちゅうのは堅苦しくて嫌いや」
「本題に入ろう。お前は何が言いたいんだ?」
ムルコス商会。物流、人身取引、建設など、様々な所に進出しており、この国では知らない人がいないくらい有名な商会だ。そんな商会の会長様が、新人冒険者なんぞに目をつける理由なんて、一つしかない。いや、二つかも。
「その腰の剣、自分で作らはったん?」
シンプルだが、的確な質問だ。自分で作ったなんて言ったら、作れだとかどうやって作ったのかなど聞かれかねない。この剣、【心剣リオン】にはまだ謎な点が多い。製法はおろか、素材すら分かっていないんだから。だが、確かにこの剣は、名作だ。有名な鍛冶師が人生を掛けて作った至高の逸品にも匹敵する。だからこそ安易にこの質問に答えるのは良くない。だが、答えないのも良くない。ここは、
「これは」
嘘を付く必要はない。人は、情報の開示不足や理解のすれ違いで勘違いを起こすことがある。それは、言葉の難しさがなす物。つまり、一つの言葉で複数の意味を持たせれば、相手の勘違いを仰ぐことができる。
「俺が打った剣ではない」
「ほーん」
「俺の友達のだ」
嘘はついていない。この剣を打ったのは俺ではないし、これは、俺の友達の(剣になった姿)だ。何も間違ったことは言っていない。
「ほうか」
納得したように見えるマコトはまだ、俺の腰にぶら下がっている【心剣リオン】をまるで値踏みでもするかのように見ている。
「なぁ、あんさん」
「まだ何か?」
「その剣、ワシに売ってくれん?」
何を言い出すのかと思えば。もちろん答えはNOだ。友達を金で売るほど、俺は人として、そして友人として終わってない。
「悪いが、これは大切な物なんだ」
「金貨百枚」
「これでどうや?」
金貨百枚。本当にあれば、向こう二十年ぐらいは遊んで暮らせるが、友情と金を天秤にかけることはできない。
「無理だ」
「五百枚!」
「断る」
「更に欲しくなってきたわ!」
「千!!」
「売らない!」
「三千!!」
「無理だ!!」
「ぐぬぅー!! 五千!!!」
「無理だって!」
「じゃあ、一万枚でどうや!!!?」
「無理だと言っているだろ!? だいたい何故、新人冒険者が持っている剣にそこまで金を出そうとする!?」
マコトはほんの一瞬、右上に視線をやった後、ニヤリと笑う。
「あんた、なかなか折れてくんないなぁ? 金貨一万枚なんかあったら女の子にモッテモテ。飯だって一生毎日三食高級料理が食えるんよ?」
「興味ない」
「一等地にデッカイ御屋敷だって建て放題。工房だって、全ての道具を一級品で揃えられるんやで?」
――ここまで、この剣に固執するのにはきっと理由があるはずだ。
「ほう。それは鍛冶師には魅力的な話だな」
「せやろ?」
「三万……。」
「ほ?」
「仮に、この剣をお前に売るとしたら、お前は即時金貨三万枚出せるのか?」
「やっとその気になってくれたか。出せる。ワシの商会にはそんぐらいの力がある」
マコトがパチンと指を鳴らすと、スーツの男たちが箱を持ってきた。
スーツの男たちが開いた箱の中には、金貨を持っていることを証明する紙幣が確かに入っていた。
「三万枚の金貨を即時に支払えるのは確かなようだな」
俺がそういった時。流石にトラが止めてくる。
「おいヒョウ! 流石にホントに売ったりしねーよな?」
そんなトラとは対照的に、マコトは剣を売ることを催促してくる。
「さぁ!! 売るんや!! その剣を!」
瞬間。トラ、俺、マコト。そして腰で黙ってこの会話を聞きながら若干身震いしている【心剣リオン】に緊張が走る。
「――だが断る」
俺が答く。そして、数刻。俺以外全員の時が止まる。だがすぐにそれは解ける。
「は?」
「『は?』も何も俺は売るなんて一言も言っていない」
「お前は俺が売る気になったと『勘違い』したようだがな。最初から言っている。売る気はないと」
「ワシにここまでさせといて、売らないやと?」
マコトの表情が変わる。その顔からは、ひしひしと冷たい怒りが伝わってくる。
「もう一度聞く。売らないんやな?」
「ああ。売らない」
「だったら、なんで、三万出せるか聞いたん?」
「お前がなぜそこまでこの剣に固執するかが気になった。まさか、国家予算レベルの金を出せるほど欲しいなんてな」
「ハハハ!! カッチーン来てもうたわ!!」
「あんさん。ほんまにおもろいのぅ」
マコトがデコをくっつけながら言う。
「こーなったら、強行手段使うで? 舐められたら、商売終わりやねん」
遂にはマコトの口は耳元にくる。
「あんさんの相方はん。うまーく隠してるようやけど、モンスターかそれに近しい姿しとるやろ?」
「……!」
「ワシの目はごまかされへんよ?」
「何が言いたい?」
「いやー。街に入り込んだモンスターを騎士団に突き出したら、まーた表彰されてまうなーと」
この女……! 気付いてたのか。まずいな、この剣の情報を引き出すために煽ったのが裏目に出た。
「要は、何をしてほしい?」
「う〜ん。ほうやな。ただ剣を売れって言うのは後味悪いやろ? 脅してるみたいで」
いや、実際脅してるだろ。
「やから、チャンスをやる」
「決闘や」
「明日、街近くの草原で決闘や」
ギルドにいる周りの冒険者たち、そして受付嬢までもが、『あーあ。やっちまったな』見たいな視線を飛ばしている。
「決闘。俺と、お前でか?」
「一対一。世界一フェアなバトルや。文句は言わさへんで?」
「ワシが買ったら、その剣を売れ。おまんさんが買ったら、あんたらにとっていいもんをやる。それでどうや?」
「俺達にとっていいものとは何だ?」
「それは勝ってからのお・た・の・し・み。やで?」
「そうか」
このままでは、旅はおろか、トラが処刑される可能性が出てきた。だが、決闘を受けて負けたら、リオが取られてしまう。この状況で決闘を仕掛けてくるということは、コイツは絶対に勝つ気でいるはず。どうするべきか、
床を見たその時、よく磨かれた綺麗な床に反射して、自分の顔が見えた。それは床に写っているからなのか元々がそうなのかは分からない。だが、ひどく歪んでいた。
弱気になった自分の顔。マコトはさっきまでこれを見て、俺を脅していたのかと。そう考えると、逆に頭が冷えた。
それを見た俺の考えはスッと晴れ、一つの結論に至った。
いや、負けた後の事は負けた後に考えるべきか。
「決闘。うける」
「ハハハ! そう言うと信じとったぞ? あんちゃん!」
「まあ、そうやな、一言言うとすれば? 毎度あり!」
――最初から勝った気でいやがるな。ならば、なおさら負けられない。友達を売らせはしない。




