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第五章 冒険者の名に憧れて

馬車で約三時間。俺達はようやっと我が国の首都に着いた。街の入り口には門があり、街の外周は高い石壁で覆われている。門の周辺に集まっている人の人数だって、村の祭りよりよっぽど多い。警備をする騎士の姿も見える。流石は都会。警備も厳重だ。


「そこの馬車ぁ止まれぇい!」


騎士が俺達の乗っている馬車を門前で止める。近辺では最近、密輸品や無許可での人身売買などが流行っているらしく、その対策の為の検問だそうだ。


「荷物を確認させてもらう。少しの間だが、君たち少し降りてはいただけないか?」

「おうよ!!」

「ご協力感謝する」


ヴァルドとリオを持って、馬車の外に出る。検問を待つ間、先に門の通行料を払っておこう。係の人間の前へ行く。


「通行料はいくらだ?」

「一人銀貨五枚です」

「え、少々高くないか?」

「色々高騰している時代ですから」

「わかった。二人分頼む」

「はいよ〜」


幸い、リオとヴァルドは此処では物扱いだ。二人分節約できる。


――しかし通行料だけで銀貨十枚……。これはかなりの痛手だ。俺が持ってきた路銀が大体金貨一枚と銀貨六枚。門を通るだけで宿に三日泊まれる料金を取られるだなんて。こんな調子では、すぐに底をついてしまう。何か策を探さないとな。


「荷物の確認が終わった。通ってよいぞ」

「おう! 騎士様!! あんがとな!」


外開きの大きな門が開く。高さは大体13メートルほどで、石造りになっている。


トラがいくらローブを身につけていたとしても、あんなに人間離れした体格だと流石に人外だとバレてしまう。だが大丈夫。あのローブには幻影の魔法を編み込んであるのだ。一般人の目には普通の人間に見えるはず。いや、待て……。一般人の目には普通の人間に見えるようにしたんだよな? じゃあなぜ俺の目にはコイツは蜥蜴人に見えているんだ? その真相を探るように右手の中指に手を当てる。指輪の形になったヴァルドは、ニヤリと笑ったように震える。


コイツが何か秘密を握っているのは確定だ。だが、ここで聞くのはよろしくない。ここは大勢の人間が出入りする場。当然人目に付く。俺達が不審者だと思われて、トラがローブを剥がされでもしたら終わりだ。そんなことになったら俺達は黙って牢屋行き。だからこそ、怪しい行動は慎もう。


門を抜けた先、広がっていたのは沢山の石造りの高い建物。北には大聖堂、西には城。そして南にはこの国の物流を支える港。国の重要施設が集まっている。


「うおー!! すげーな!」

「少し空気が悪いな。洗浄しておこう」

「私は、村のほうが好きかな?」


トラははしゃぎ、ヴァルドは観察に夢中で、リオは珍しく静かだった。それはそうだろう。勇者との10年間の旅の中で、都市で過ごした時間も長かったのだから。そんなことは聞くまでもない。それに、今はやるべきことをやろう。


「トラ。今から冒険者ギルドへ行くぞ」


冒険者に登録すれば路銀が尽きた時や、危険地帯を通る時、情報の入手にも融通がきくようになる。だから、『冒険者』というのは、旅をするためには必要不可欠な名だ。


「おうよ!!!」


トラは、『冒険者』と言う言葉の響きにテンションが上がったようで、『さあ、行くぞ!』と言わんばかりに歩みを進める。


冒険者ギルドの中には、併設されている酒場があり、扉から見て正面のほうには、すぐ受付があった。俺とトラは迷わず向かう。


「『冒険者ギルド・聖剣の森』へようこそ。本日はどのようなご要件でございましょうか?」


受付嬢は、笑顔が似合う『ザ・都会の女』と言うような美人の女だった。隣にいるトラは、既婚者だと言うのに、頬を赤らめている。


腰の心剣が少し熱を帯びているような気がする。


「要件だったな。冒険者の登録だ」

「冒険者ギルドへの登録ですね? こちらの書類で手続きをお願いいたします。手をかざすだけで完了しますよ」

「助かる」


受付横の机の上に用意された白紙のカードに手をかざすと、次々に俺の情報が登録されて行く。


「ええっと、ヒョウさんですね。あ、鍛冶師の方で、えっと冒険者はランクはCですね〜」


受付嬢の反応から、俺の冒険者ランクCと言うのは大したことないというのが伺える。


「はい! 無事に手続きが成功したので、これをどうぞ!!」


手渡されたカードには大きくCと書いてあり、その横には俺の顔写真、そして名前。職業まで乗っている。ギルドの技術はすごい。


「さて、次はあなたですね。どうぞ」

「おう!!」


トラがカードに手をかざす。


ここで俺はとある事に気付いてしまった。この顔写真が勝手に登録される機能。俺のものには確かに右頬のひび割れがついていた。つまり、今現在の姿が反映されるものだとわかる。だか、蜥蜴人なったトラが、登録してしまうと顔写真が蜥蜴人になってしまうのではないのか?


「トラ、ちょっと待っ――」


時すでに遅し、俺が見たのは、トラのカードを見て口元を抑え、困惑している受付嬢の姿だった。


「ええっと、トラさん。でえっとランクはBすごいですねで、ええっ!? 顔写真が、あれ?」


受付嬢はローブから見えるトラの顔とカードを交互に見る。受付嬢からは確かにトラの顔は人間に見えるはずだ。ここはもう、誤魔化そう。


「あれ? バグ……、かな?」

「すみません。コイツ、ゲテモノ好きで、この前蜥蜴人(リザードマン)を100匹ほど食べたので、そのせいかと?」


自分でも驚くくらい酷い誤魔化し方だ。


トラは『お前マジか……』見たいな顔でこっちを見つめてくる。咄嗟にこれしか出なかったんだ。しょうがないだろう。


「そ、そうですね!! 顔写真以外は問題ないみたいなので!! 後日、写真を撮るということで、このままお渡しします!」

「ありがとうございます」

「チョロ」

「何かおっしゃいましたか?」

「いいえ?」

「そうですか。すみません」

「では、冒険者様の旅に、健闘あらんことを〜」


何とか丸く収まったな。大事にならなくて本当に良かった。有名な冒険者とかに目をつけられると本当に面倒だからな。


ギルドをあとにしようとすると、何者かが肩を叩く。なんだと思い振り向くとそこには、金髪ボブヘアの高そうなスーツをきたエルフの女がいた。


周りは、『アイツ、終わったな』みたい感じで静観している。


「えっと、あの? なにか?」


俺とそのエルフの間に緊張が走る。トラはボケっとしている。


「お兄ちゃん。偉い立派な(つるぎ)ぶら下げとんなぁ?」

「は、はあ」

「わしは、ムルコス商会の会長、マコトっちゅうもんや」


――また、面倒くさそうなやつに絡まれてしまった。

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