第三章 支度を旅立つ前に
太陽は東から出たばかり。まともに建っている家はほとんどなく、そこら中にモンスターの死骸。死臭漂うこの村は、ついこの間までは、傭兵があくびをして酒を飲んでいるほど平和な田舎町だった。
生き残りの村人達はせっせこと資材や建材、食料を運び、他の街から来た新聞屋は村長が現在宿としているテントに集まっている。そんな光景を俺は窓越しに眺める。
「おーいヒョウ!! 俺の荷物はまとめ終えたぞー!!!」
「わかった」
トラは旅支度を済ませたようだ。
もしかしたら変な物を持って行こうとしている可能性もある。一度様子を見に行くか。
俺は店のある一階に降りる。
トラには、俺が夜なべして作った今の体に合わせた装備を身に着けさせた。蜥蜴人の姿を見られて騒ぎにならないようにするためのローブ、尻尾を守るための鎧、鉤爪、等の装備。これを用意するのは大変だった。
「どうよ? イカしてんだろ!」
「これを作ったのは俺なんだが、何故お前が自慢げなんだ?」
「こまけぇことは気にしねぇでいい!!」
まあいい。俺の我が子とも言える装備をこんなにも気に入っているんだ。職人としては本望だ。
「おいトラ」
「あー?」
「これも一応持っていっとけ」
飾ってある大剣を一振り、トラに手渡す。
「お! くれんのか?」
「ああ」
頑丈な鋼で作った大剣だ。蜥蜴人のパワーで振るってもそう簡単には折れないだろう。
「試しに振ったりしていいか?」
「ああ。庭でやれよ?」
「あと、奥さんへの挨拶も済ませておけ。長い旅になるかもしれない」
「おうよ!!」
トラは、店の扉を勢いよく閉め、裏庭へ走り出していった。トラを見送った後、俺はあるものを取り出し、工房へ向かう。
「細かい分析はまだしていなかったな」
「我を調べるのか?」
「嫌か?」
「別に良い。好きにしろ」
【黒骸・ヴァルド】、俺の魔蝕の進行を止めた鎧。頬にひびさえ残っているが、俺はまだトラのようにモンスター化はしていない。この鎧が普通の鎧ではないことは分かっている。部品と部品の継ぎ目や鍛錬した時に出来た傷もない。だからこそ、どんな金属を使っているのか、どうやって作られたのか、調べたいことは山ほどある。
まず、道具ケースから槌を取り出し、構える。そして、ヴァルドを見つめる。
「お、おい、貴様……。まさか、その槌、振り下ろしたりはしないだろうな?」
「お、おい! 返事をしろ!! おい!」
「仮にも、俺は!! お前を救ってやった立場だぞ!? おい!! なんとか言え!」
「はい。なんとか」
「そう言うことではな――」
俺は無言で、鎚を振り下ろす。
「カァーーーン!!」
通りのいい音がなった。
「あ、あれ?」
もちろん。俺が完成された防具を好き好んで破壊するわけがない。俺が打ったのはヴァルドの隣に用意しておいた、折れた短剣だ。
「ぷっ! はははっ!!!!」
「な、何を笑っている!!」
「いや……、何でもな――っプフ!」
「貴様!! 性格が悪いぞ!!」
これまで機械的だったコイツの意外な一面が見れて良かった。これなら仲良くなれそうだ。
「さてと。俺も旅支度をするか」
「む? 我を調べるのはもう良いのか?」
「いいもの見れたし、お前を調べるのはまたの機会だ」
「そうか……」
表情がないはずのヴァルドは少し不服そうに見えた。
カバンの中には服を四着、道具セット、そして回復のポーションと少しの金を入れた。余計な物を持っていくとかえって邪魔になる。このくらいが丁度いい。
最後に腰にこれをつけていこう。【心剣リオン】を装備しておくための、鞘を作った。もちろんベルトに引っ掛けることもできる。
「着心地はどうだ?」
「わー!! すっごい快適!」
「ヒョウありがとー!!」
お気に召したようで何よりだ。これで、あらかたの旅支度は済んだ。だが、最後の問題は、
「おい。もう少し丁重に扱え! カバンに突っ込もうとするな! やめろ」
コイツだ。こんな禍々しい鎧、ずっと着てるわけにもいかないし、無駄にデカいから持ち運びもしづらい。どうしたものか。
「我は魔法が使える。身を縮める程度、造作もないわ!」
「マジ?」
「真剣!」
ヴァルドの身体が一瞬紫色に発光したと思えば、俺の右手の中指には、黒い指輪が装着されていた。
「なんだよこの便利能力。お前以外も縮められるのか?」
「生物でなければ何でも縮めることができる」
「マジ?」
「真剣」
俺の荷物はほぼ全て、手のひらサイズに縮め、小さめのポーチの中に突っ込んだ。こんな便利な能力があるなら最初から言ってほしかった。
旅支度をしている間に、太陽はとっくに真上に昇っている。そろそろ村を出る時間だ。
――俺、トラ、リオ。そしてヴァルド。この四人の奇妙な旅は今始まった。




