第二章 雨漏りの尋ね物
「そうだったのか、リオが剣に……」
「理解し難いだろうが、飲み込んでくれ」
「おうよ!」
トラは笑顔で応える。昔っから何にも変わっていない。
俺は、今日あったこと、リオが剣になったことをトラに話した。
「さて、次はお前から話を聞くぞ!!」
「えと、ヒョウの話じゃあ、ヴァルドつったよな?」
俺の身体に纏い付いている鎧がまるで人が首を縦に振るかのように動く。
「それは肯定と取っていいんだな?」
「ああ」
この鎧、ヴァルドの声は俺にしか聞こえないらしい。鎧の体を動かすことでなんとか俺以外との意思疎通はとれるかもしれないが、これ以上は難しいだろう。
「トラ。質問は俺がする」
「お、おう! だが、大丈夫か?」
「とっくに俺は落ち着いてる。大丈夫だ」
「そっか! 心配は、要らなかったな!!」
俺は鎧に質問をしようとする。だが鎧は俺が身につけてるのであって、どこを向いて話したらいいのか分からない。しょうがないから上を向いて話しかける。
天井は、少し雨漏りしている気がした。
トラはこの会話が聞こえない。なんなら既に置いてけぼりになっている。と言うより、眠っている。仕方がないので俺はメモに会話の内容を書き記すことにした。
「まず、魔蝕というのは何なんだ?」
「魔蝕。それは、主に人間の魔力を暴走させ、全く別の存在、例えるとモンスターなどに変異させてしまう現象の事だ」
【心剣リオン】が震える。
「じゃあさ! 何でその魔蝕は起きたのー? 私が剣になったのもそのせい?」
薄々気づきはあったが。リオにはヴァルドの声が聞こえているらしい。
「先ほど貴様が破壊したオブジェクト。あれが魔蝕を発生させる装置か何かだったのだろうな」
あれは、勇者が持ってきた物だと聞いている。あまり疑いたくもないが、勇者がこの剣に関わっている可能性は高い。リオにも聞いてみるか。
「そして、お主が剣となった理由だが、それは我にもわからぬとしか言いようがない」
この鎧。あんなに焦らしておいて、分からないとか。
少し腹が立つ。
「じゃあ少し傾向を変えて、お前は何者だ?」
「我は黒骸。魔蝕を止めるための力を持った鎧だ」
そんなの誰が作ったんだ? それに、魔蝕を止めるためって、過去にもあったのか? わからん。実にわからん。
「そうか。なら、お前はどこから来た何なんだ? 何故喋る?」
そうだ。よくよく考えたら喋る鎧なんて怪しさの塊でしかない。ていうか、なんで俺は軽率にそんなのと契約したんだ……。
「何処から来たか……か。強いて言えば溶鉱炉だな。何故喋るかは、そういう物だからとしか言いようがない」
「我も、我自身のことで分かってないことが多い」
こいつ、わからないことが地味に多いな。
「わかった。とりあえずはそれで納得しておく」
魔蝕のことはある程度わかればいい。それにこいつ自身のことはきっとこれから嫌でも知ることになるだろう。
天井から落ちた水滴が肩にぶつかる。それが俺の心を冷ます。
「一応、最後の質問だ」
「何を聞きたい?」
「魔蝕で変異した人間は、元に戻るのか?」
俺とヴァルドの間に一瞬だけ沈黙が走る。
「治らない。とは言えぬ。しかし、我は魔蝕により変異した人間が元に戻ったという例は知らない」
「……わかった」
聞きたいことは聞いた。リオやトラが元に戻るかも分からないが、何とかしたいと思っている。その為には、俺の変異を止めたこの鎧の力が必要だ。そして、勇者がこの件に何らかの関わりがあることは確定している。つまり、次にやるべきことは決まっている。
今の状況は正直言って異常だ。何で起きてるのかも、何が理由なのかも分からない。だからこそ、それを調べなければならない。
「おい、トラ」
「あん?」
「旅に出るぞ」
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時は夜更け、雨上がりの空には星が見えた。星明かりに照らされる中、俺は【心剣リオン】を大切に抱えていた。
「リオ」
「んー? どうしたのー?」
「剣になる前の記憶や、自分が剣になった時のことはどう覚えているんだ?」
「んー……。それがあんまし覚えてなくてさ」
「勇者様と話してて、そこから気がついたらヒョウの声が聞こえて、みたいな?」
「そうか」
やっぱり、今回の件、勇者が怪しい。魔蝕の原因だとか言う装飾品を持ち込んだのだって勇者だ。
「リオ。俺達は明日から旅に出る。もちろんお前もだ」
「うん」
「魔蝕や今のお前たちについてもわからないことだらけだ。それに、周辺の街がどうなっているのかも気になる」
「何が言いたいかわかった!」
「そうか。言ってみろ」
「つまり、私と一緒にご飯が食べれなくて寂しいんだね?」
「お前は一体何がわかったんだ?」
「あれれ?」
【心剣リオン】の白い刀身に映る星空は、より一層美しく思えた。
――少し心の疲労が回復した気がする。剣になっても元気なヤツだ。




