第一章 この女は剣と成り申した。
「――は?」
剣が喋った。だが、驚いているのはそこじゃない。体を通り越して、魂そのものに響くようなその声は、確かに『リオ』のものだった。
「リオ……なのか?」
震える右手を押さえるように左手で手首をつかむ。普通だったら剣が人間、ましてや幼馴染のリオだなんて思うはずがない。しかし、先刻、人がモンスターになるのをこの目で見た。それに、俺のこの鍛冶師の目が間違いなくこの剣を、【心剣リオン】を幼馴染のリオだと言っている。いや、鍛冶師の目がなくとも、俺の魂の直感が、そうだとわかっている。
「ヒョウ! 私だよ!! リオだよ!!」
剣が震え、かかっていた水滴が落ちる。
「わかってる。お前がリオで俺がヒョウだ」
落ち着きを取り戻したように剣の震えが止む。
「で、お前は大丈夫なのか?」
「一応、生きてはいるんだよな?」
「うん。意識ははっきりしてるし、喋れるよ!」
「分かった」
状態としては健康なようだ。生物としての健康なのか剣としての健康なのかは置いといて、まずはリオの無事を喜ぼう。
とは言っても、あまりすぐに落ち着けるわけではない。深呼吸だ。落ち着け俺。
雨粒がやけに大きく見える。
「ガチャ」
纏っている鎧、【黒骸・ヴァルド】が少し動く。
「おい」
「何だ?」
「てかお前は何なんだよ。さっきの魔蝕? と言うのは止まったみたいだが」
「待て」
「何者かが……、近づいてくる」
「説明は後だ」
「またそれかよ」
情報の整理に時間を割きすぎて、忘れていたが、村の中には現在、多くのモンスターがいるのだった。
「えちょ、ヒョウ? どういう事? て言うかこの人だれ? ていうか人なの!? 鎧が喋ってる!?」
「悪い。説明は後らしい」
お前も喋る剣だろということは置いといて、木影を歩いてくる何者かを警戒する。
蜥蜴人だろうか? 人間から二回りほど大きな影を睨みながら、背中に装備していた大剣を構える。
「お前、ヒョウかよ?」
意外。そのモンスターから放たれた言葉は俺の名前だった。
俺が見ているのは確かに見知らぬ蜥蜴人だ。だがその喋り方は、雰囲気は、幼馴染のトラのものだった。
「トラ……?」
「そうだ!! 俺は、トラ!! お前の一番の親友だぜ!!!」
「その姿はどうしたんだ……?」
そう尋ねると、トラは何のことか分かっていない様子で、自分の眼前に手のひらをやる。そして手のひらを戻す。戻した後すぐにまた手のひらを目の前に持ってくる。
「なんじゃこりぁぁぁあ!!!?」
見事な二度見だ。
「これはたまげた。魔蝕に侵されて尚、元の人格を保っていられるとは……」
「何冷静に分析してんだよ、説明しろ鎧。なんでトラがこんなトカゲになっているんだ。どうしてリオは剣なんだ! 魔蝕ってのはなんだ!!」
鎧の冷静さと、状況の異常性に、少し腹が立った。
「お、おお落ち着けってヒョウ!!」
「あ、ああ」
「つか、なんでお前一人で喋ってんだよ!? お前ちょっと怖えぞ?」
「一人? じゃあお前にはこれが聞こえていないのか?」
「ああ。さっきからお前が一人で喋って一人でキレてるとこしか見てねーよ。つか、リオが剣とかって何の話だよ」
鎧やリオの声は、どうやらトラには聞こえないらしい。
「その話も含めて、色々話がしたい」
「お、おう!!」
「一回、落ち着きたい。俺の店に来てくれ」
謎が多すぎる。リオが剣で、トラが蜥蜴人? どういう事だよ。この鎧も喋るし。
――一体何なんだよ……。




