2/歩き始めた日
「決められし運命に導かれし餓鬼どもよ…。汝等は我の餌に過ぎないがせいぜい楽しませてくれ…」
心の奥底にまで響く人間では出せないような低い声。
その声は僕の心の奥底にある闇を引き出されるようなものだった。
運命。その単語が脳裏にこびりついて取れない。危険に晒される、運命には逆らえない。
必死に振り払おうとするが考えが止まらない。
危険。命に関わること。そして…死。
「や……め、ろ。や、めろ、やめろ!」
真っ黒な世界の中で叫ぶ。
体が染まっていく。無という毒に。
「ここから出たい。出たい!出させろ。出せ!」
体に力を込める。
ビキリと右肩に嫌な音が響く。激痛が走る。徐々に体から力が抜けていく。
「うるせぇ。黙りやがれ。僕は…。これしきのことで…」
倒れるわけにはいかないんだ!
「僕を!ここからだせッ!」
叫ぶ。その動作には何の効力もなかったが、体に喝が入った。
失いかけた意識をつなぎとめる。その動作から始まり、必死で闇を泳ぐ。
無意味だとわかっていても、出来ない事だとわかっていても。
このままじっとしているよりかは何倍も楽だった。
体が。腕が。足が軽い。
どこへだって行けるような気がした。
そして。今までとは比べられないほどの大きな闇に包まれていった…。
抵抗なんてことは出来ない。できるレベルではない。
何もかもが無意味、無価値である闇に抵抗できるはずがなく。
体に喝を入れただけでは意識を繋ぎとめて置くことさえ出来ない。
当然のように目が重くなり、腕の機能が停止し、足の機能が停止し、意、しき、が…。
「痛い。痛い痛い痛い痛い………」
体中の激しい痛みで目が覚めた。
ソラは相変わらず灰色のまま。
自分が寝転がっている場所も、以前と変わらず所々草の生えた土の上。
ただ一つ。決定的に違う事が一つだけあった。
それは。
「りょ、う。どうしたそんなに擦り傷だらけで…」
隣で一真が復活する。そして、言葉を飲んだ。
一真の目の前にあるもの、そして。
僕の前にあるもの。
それは。
石で作られた建物。石と言ってもコンクリートのような人工物ではない。
天然の石。いや、岩でつくられている。
それと。見たこともない文字。その事実だけで再び意識を失いそうになった。
「何だこれ。どうなっているんだ。俺達、お前んちの道場に居たんだよな。それで」
「変な鎧姿の集団に襲われた。で」
「黒ずくめの男に何かをされた」
「あーさっぱり状況がつかめない。とんでもない出来事が起こりすぎている」
「猟。落ち着け。とりあえず、できることをしよう。このままじっとしているわけにも行かないだろ」
「そうだな。お前の言うとおりだ。とりあえず動こう。この道の真ん中で寝転んでいるのも居心地が悪い」
目的地をと辺りを見渡す。さっき認識したものと同じく彫刻のような建物が目立つ中、ひときわ目を引かれる建物があった。
僕達がいる道。つまり、大通りの先にある建物。
一見すると宮殿のようなつくりだが、距離があるせいかはっきりとは目視できない。
良し、あそこにいってみよう。
「一真。見えるかあの宮殿。あそこに行く。怪我はないか?見た所外傷はないようだが…」
「大丈夫だ。何とか動ける。あの闇の中もがきすぎたぜ。おかげで体中痛みやがる」
「やっぱりお前も正体不明の闇に包まれていたのか。なんだったんだろう。あれは」
一体ここはどこなのだろうか。こんな町、こんな建物が存在するなんて知らない。
それに夢に出てきたあの女。どこかで見覚えがある。さっきの真っ黒な世界。以前の真っ白な世界にどこか似ているものがあったな。
僕達はしばらく無言のまま黙々と足を動かす。
周囲に民家らしきものはあるが、誰一人として家から出ようとしなかった。そればかりか、カーテンを閉められ、ドアを閉められ、窓を閉められるといったことがどの家も例外なく行われた。
どうやらこの町の住人には僕達のような流れ者は歓迎されないということか。
数分後。僕達はさっきまで見ていた宮殿の城門前に到着していた。
見た目ほど遠くはなかったが、ここで手詰まりだ。
「まさか、入り口が閉まっているとは思わなかったな」
「まったくだ。これでは入ることもできないし、今の状況を説明してくれるやつには出会えないだろうな」
「甘いぞ一真。今の僕達を歓迎してくれるかもわからないのに、そんなこと言っちゃダメだ」
「うるせぇ。だからお前は子供に懐かれないんだ。物事を冷静に分析するのはいいけどな。希望を捨てると何も生まれないぞって、お前何。どこ行くんだよ」
「物事を冷静に分析した結果だ。この門から入れる確率はゼロに近い。それなのにここでじっとして開くのを待つのは馬鹿で阿呆がする愚かな行為だ」
「誰が馬鹿で阿呆だと!」
「別にお前に言ったわけじゃないさ。とりあえずついて来い。どこかに違う入り口があるはずだ」
「何でそんなことがわかる。お前はさっき門の周りをウロウロしていただけじゃないか」
「ウロウロしていただけとは失敬な。僕はその門の周りにこすった後が少ないことに気付いて、調べていたんだぞ」
「擦った後だと?そんなものこの大きな門を下ろしたらできるに決まっているじゃないか」
「だからお前は馬鹿なんだ。よく考えてみろ。下ろしたら擦った後ができるのは当たり前。じゃあそれが少ないとなると。考えられることは一つ。この門はあまり使われていない。毎日使っているのであれば、いちいちあげたり下ろしたりしないだろうし、仮にこまめに掃除してこまめに上げ下ろしをしていたとしても、こんな真っ昼間にあげたりはしない。ということは、だ」
「ということは?」
「この宮殿には誰も住んでいない」
「住んでいない?じゃあ何で俺達はここまで来たんだよ!」
「お前な、人の話は最後まで聞け。誰も住んでいないか、他に入り口があるかだ。大方門とは反対側の所に」
「頼む。あってくれ」
宮殿の角を曲がる。そこには…。
回りがきれいに岩石で作られているのに対して、そこにあったものは木で作られている小さな扉だった。
その扉には一切、飾りはなく鉄でできているドアノブがあるだけである。
「本当にあったな。助かったぜ。内心なかったらどうしようか悩んでいたところだ」
「まったくだ。まぁ無ければよじ登って入るつもりだったんだがな」
無論冗談であるがそこの唐変木は信じきって、マジかよと驚いているのだが。
それはさておき、11月の寒空の中じっとしているわけにはいかない。僕は低い気温によって冷たくなっている、鉄のドアノブに手をかける。その時初めてドアノブに何かが彫ってあることに気が付いた。覗きこんでみようとしても、扉が邪魔で目では視認できない。仕方なく手の感覚だけで判別する。
「これは、何かの文字か。それもこの文字何処かで・・・」
「何やってんだよ。鍵でもかかっているのか?」
集中して識別していたときにこの阿呆が話しかけてきて・・・。
ガチャリ、ギィィという音をたてて扉が開いてしまった。
「何だ。鍵も何もないじゃねぇか。寒いんだから早く入ろうぜ」
ううう、寒ィと白い息を吐きながら中に入っていく。
「相変わらずの馬鹿だな、お前は!人が調べ物をしているときに何の用心もせずに入っていきやがって」
「何の調べ物だよ。調べることなんてないだろ、それにまだ調べられるじゃないか」
「僕はその不用心さに怒っているんだ。もういい。さっさと僕たちの話をこの町の一番偉い人に聞いてもらおう」
「一番偉い人がここにいるっていつ知ったんだ?まだ誰とも会話をしていないのに」
「偉くないひとがこんな立派な宮殿に住むか?普通」
住まないよなとしどろもどろに一真が答える。
「もういいか?いい加減この状況を打開したいんだが」
早くここが何処であるのかを知りたい。その事で頭が一杯である。どうやらこの扉は裏口のようで、階段の裏側に出た。
グルッと一周回って一階に人の気配がないことを確認し、階段を上がっていく。
見事なまでに切り崩してある階段だなと思いながら、二階を目指す。
さっき見たときは三階が存在していたのを知っていた僕は二階を通り過ぎ三階に足を運ぶ。三階には二階とはうって変わって正面に頑丈そうな大きな扉があるだけだった。
近くによって扉に触る。冷たい。何かの金属でできているのか。今の僕にはそれが何であるかは調べる道具がない。
ドアノブ等は見当たらない。あるのはぽっかりと空いた拳大の大きさの穴だけだ。
たしかヨーロッパの何処かに穴に手をいれて抜けなくなるって話があったな。そういうことを踏まえて、いじるのは避けた方がいいか。
「ならぬ。お前達はこの宮殿を守護するための、兵であろう。いくら宮殿守護隊長のお前が発言したところで、軍は動かせない」
見知らぬ声。一真でもなくましてや僕でもない。では誰だ?考えられる要因はただ一つ。
「一真。静かにしていてくれよ」
木偶の坊に釘を打ちながら、金属の壁に近寄っていく。この壁の向こうに誰かがいるということだけだ。
壁に耳を密着させ、聞き耳をたてる。するとさっきの低い声が聞こえてきた。
「ですが陛下。あのシドが理由もなくいなくなるわけありません。恐らく以前目撃情報があった場所に行っているに違いありません」
「シドがそこまで怠け狐だとはわしも思っておらん。しかしだ。あそこに行くには相当の腕の持ち
主でないと即座に絶命する異境であるのだ。例えお前が強いと言っても一人では行かせん」
「だから兵を・・・」
「どうした?」
「陛下。少々お待ちを」
カツカツ、カツ。まずいな、気付かれた。咄嗟に壁から離れる。それと同時に壁が青く、光り文字が浮かび上がる。
ズズンと大きな音をたてて壁が横にスライドしていく。シャリンと刃物を剥き出しにする。
向こうにいる人物はこちらに殺気を飛ばしてきているのを、いち早く体が反応したのである。いつ飛び掛かられてもいいように、身構える。その直後。
ヒュッという音をたてて、なにかが通り過ぎた。キィン、ガキィンと背後で鉄がぶつかり合う音が耳に入ってくる。
恐る恐る振り返る。そこには、青い軍服を着た長身の青年と、一真が剣で打ち合っていた。
その剣さばきは見事なもので、残像のみしか視認できない。一撃でもはいれば命にかかわるような斬撃。僕はそれをただ、ジッと見つめることしか出来なかった。飛び散る火花、ギリッと歯軋りする音。
片方が押されているわけではない。拮抗しているのである。
双方が思う。なぜ斬り倒せないと。戦う意思はあるのに、あの中に入れば間違いなく怪我をする、いや怪我ですむのであれば幸運であろう。
ふと気になって、戦場から目を背ける。脳裏によぎるのは、あの青年が誰かと話していたことだ。
固い壁で隠されていた部屋の中には、見るからに偉そうな服を着た、おじさんがいた。
服の色はやはり、青。この町のイメージカラーは、青だと勝手に決めつけて、背後を気にせず壁の向こう側に足を、進める。
恐らくあいつがあの青年が話していた相手。陛下なのだろう。陛下はこちらに気付いたのか、僕の顔をジッと見つめる。
いやはや、女から見られるならまだしも、男から見られるとはここまで気持ちの悪いものか。
そんなことを考えながら着々と距離を詰めていく。背後では死闘。だが僕の役目は別だ。必要とあれば剣を抜くがこの場では必要ない。後ろで戦っている二人を、もっとも効率よく止めること、それがこの場で必要なことだ。そして目の前に話が分かりそうな人物がいる。
「話が分かる方だと思い、僕たちの話を聞いてもらえますか?決して怪しいものではありません」
「話を聞こう。それでは向こうの二人を呼ぼう。あの少年も、君の連れなのだろう?」
「おっしゃる通りです。では金髪の青年に戦いを停止するように言っていただけますか」
「承諾した。ダレン!もうよい」
見掛けによらぬ大声を発した陛下は、深く椅子に座り直した。
戦いは中断され、こちらとしても、一番いい結果で終わった。
「一真、大丈夫かって、その肩の傷、まさかお前斬られたのか?」
「不甲斐ない。だけどあのダレンってやつ、相当強いぜ」
一真の右肩には、明らかに剣で切られた傷があった。
幸いなことに、傷はそんなに深くない。
安心した。これから何が起こるかわからない今の状況、怪我をして動けなくなるのは、大幅な時間のロスになる。
この現状、何となく察しはついているものの、あくまで推測。とりあえず話を聞こう。
横で、ダレンと呼ばれている青年と、一真が怪我の手当てをしているのを尻目に目の前にいる、陛下に声をかけた。
「ではこちらの話をしますね。自宅で正体不明の黒い鎧に襲われて、何かの魔方陣のようなものが僕たちの足元に現れ、意識を失ったのです。そして、気が付いたらこの町のメインストリートに倒れていて、この宮殿に足を運んだのです」
「黒い鎧、魔方陣。ダレン、もしやこの方たちが眼を持つものか」
「ありえますね。君たち。この町の、いやこの国の名前はなんだ?」
変なことをブツブツ言うおかしな二人だな。この国の名前なんて・・・。
「日本じゃないのですか?ていうかそれ以外にどこがあるのですか」
「やはり。いいか、君たち。落ち着いて聞きたまえ。ここは、日本などと言う国ではない。君たち側から言うと、ここは異世界だ。名を『アーガルメイル』という、魔術と錬金術で経済が成り立っている国だ。つまり君たちは何者かによって、空間を移動させられたのだ。にわかには信じがたい話ではあるが、事実だ。前例もあるし、間違いないだろう。更にもう一つ。いまだに異世界を渡る術を持つものはいない。いや正確には、まだ発見されていない。絶望的な状況だが望みがないわけではないぞ」と青年は話す。
衝撃的な事実を口にされたことにより、体がというより、口が動かない。異世界だと?そんなものは存在しない筈。
そんなもの、空想だ。僕たちは異世界なんて知らない。聞いたことなければ、見たこともない。そんなもの、どうやって信じろと言うのか。
頭のなかがグチャグチャになるのがわかる。
状況を整理するどころか、余計ややこしくなってしまっている。
異世界の話は置いておくとして、取りあえずはこれからのことだ。
目的を考えないと、分かることも分からない。
「どうすればいいんですか僕達は。何をすべきで、どうあるべきなのかを教えて貰えないでしょうか」一真も同意見であるらしく、首を縦に振る。ダレン青年と陛下は少し口ごもってからその答えを口にした。
「自分達が何をすべきか分からないのであれば、自分達で探せばいい」と陛下。
「君たちがこの、アーガルメイルに来たのはなにか意味があってのことだろう。しかし決められたことなどない。ならば君達は自分が思うことをすればいい。その結果が悪くなろうとも、君達にはソレを跳ね返すことができるだろう。行く道は困難なものだ。私も及ばずながら、手を貸そう」とダレン。
「おい、おっさん。勝手気ままに行動するのは俺の主義じゃねえ。当分の目標が必要だと思うんだ。だからよ、とりあえず、どこかに行って何をするのか決めようぜ。こっちとしては、情報が欲しい。元の世界に戻る方法もそうだが、俺たちをここに連れてきた奴に関してのことも、だ」
「確かに筋は通っている。だが一つだけいっておこう。私はおっさんではない。フライス・ローレライだ。フライスと呼んでくれ。それとこの男が」
「クラムJダレンと申します。暫くあなた達と行動を共にしますので、よろしくお願いします」
「覇蛾猟です。宜しく。であっちのデカイのが、砕萩一真です」
一通り紹介を終えてから、クラムさんの私室に案内された。普段はどこかに出掛けていることが多く、あまり使わないそうだ。今日もたまたま、お使いから帰ってきたらしい。以外にその部屋は大きく、三人が寝るには充分すぎる広さだった。
中央にある丸いテーブルの回りに三人が座る。
さっきまで立ちっぱなしだったので、足が痛い。数分の沈黙のあと、クラムさんが。
「何か食べるか?軽いものなら用意できるけど」
唐突に何の前触れもなくそう、言った。
確かにおなかは空いているが、耐えきれないというものではない。
僕はもとからあまりものを食べない、嫌いではないがそんなことをしている暇があれば、他のことに時間を使っていたからだ。
「頂くぜ、実は俺腹ペコで死にそうなんだ」
「おい、少しは空気を読め。今からは大切な話をするんだろ、なのに飯か?」
「腹が減っては何とやら。まず飯だ!」
ドンとテーブルを叩き、立ち上がる一真。
いがみ合うような形で口論する僕たちを。
「おいこの馬鹿野郎。いいか、僕たちは今から大切な話をだな…」
割り込んできたクラムさんに制止された。
「ま、二人とも落ち着いて。片手間で食べれるものだから」
といって僕たちをいすに座らせ、出て行ってしまった。
残された僕たちは無言で部屋を見渡した。
「きれいな部屋だな」
ぼそりと一真が言葉を漏らした。
独り言のようだったが、何となくそれを僕が拾った。
「男の人の部屋なのに、か?」
「そうだ、普通ならモノが散乱して、足の踏み場もないくらいに散らかっていてもおかしくないのに、ここはそれがない。あのダレンってやつ几帳面なのか?」
「さぁ?ま、少なからずこの部屋を掃除しているのはクラムさんじゃないぞ」
僕はあえて遠回りな、言い方をして一真を困らせた。
「?猟、それどういう意味だ」
「阿呆な君には理解できないこと、さ」
「腹立つなー。ま、俺には関係ないことだった」
あっさりと手を引く一真に驚きながら、椅子に深く座りなおした。
それと同時に飲食物を手に持ったクラムさんが、部屋に入ってきた。
「コナーフというんだ。コナの木から採れる粉末で作った、この国の主食だ。ま、食べてみ」
白い四角の塊、コナーフを手に取る。モフモフしていて、パンに近い。
はむ、と一口サイズにちぎって口に放り込む。
甘い。砂糖の甘さとは違い、その物の甘さがあった。普通においしい。
隣ではまるで肉を食べるように、がっつく一真。それを尻目に飲み物に手を伸ばす。
「クラムさん。このままでいいですから本題の方を」
「本題か。君たちがなぜここにいるってことかな。ハッキリ言っておくが分からない。なぜ君たちが、このアーガルメイルに連れて来られたのも、目的も分からない。まぁ連れてこさした者については、多少の情報はあるのだが、な」
知らないのも無理はないか。恐らく僕達を連れてきた人物は『組織』だろう。一人単独であんな目立つことはしないだろうし、何より個人的な目的で何かをするということは有り得ない。
「情報って何だ? お前、そいつのこと知ってるのか?黒いマントの男のことを」
「一真、落ち着け。冷静になってこそ物事の奥底が見える。とりあえず聞きましょう。クラムさん話してください。あなたが持つ、その男に関する情報とやらを」
一真も興味津々だ。勉強ができない彼でも、こういった話には惹かれるらしい。
クラムさんは一息ついて話し始めた。
「今から十七年前のちょうどこの時期に大きな戦争があったんだ。その名を『黒龍討伐戦』。今思えばそれが発端だろう。その戦争の目的はある動物を倒すことだった」
「動物、とは蛇か何かですかね」
「それじゃあ黒龍っていう名に合わないだろ。猟こういう時に頭を使えよ」
「うるせぇ。世界に『龍』何かいるもんか。大方大きな蛇か何か、だったんだろう。そうですよね、クラムさん」
「そうか、君たちの世界に『龍』という生物はいなかったのか。さっきも言ったがこの国は魔術と呼ばれるものと錬金術という造形術によって栄えているといったよな。この二つは二大学問と呼ばれ選択制で学ぶことができる。この辺は難しい話になるから詳しくは、話してもしょうがないだろうから掻い摘んで話すぞ。魔術とは何か非物質的なものを操るもの。錬金術とは現実にある物質に働きかけて、変化させるもの。二つとも動力となる力が要るんだ。それが『魔力』。魔術の場合は魔力そのものを使って、錬金術では魔力を使い、物質を分解し、再構築する学問だ」
クラムさんの説明はわかりやすいのだが、話の主旨を離れるのが問題だな。
「で、それがどうやったら流の話につながるんですか?」
「それはだな、魔術というものは結構何でもありなんだ。何も無いところから水を出したり、火を吹かせたり。もっととんでもないことを言うと別次元の生き物と契約することも可能なんだ。
「契約、ですか。となると別次元には龍が存在すると」
「かも知れん。だから言っただろう。魔術は何でもアリだと。故に解明されていないものの方が多いんだ。この国で目撃されたというか、公になった龍は一匹だけだ。これで話が元に戻った。その龍の名は…」
「ガァァァ―――」
隣から大いびきが聞こえてきた。僕もクラムさんも起きている。寝ているのは…。
「すいませんね。結構前から寝てたみたいで」
「ああ、正確には話し始めてから約二分後には寝ていたな。私だからいいが忠誠を誓った相手にそんな行動をとってみろ。間違いなく打ち首だな」
「疲れていたみたいですし。もう夜でしょう。僕も疲れました。できれば休ませてもらえませんかね」
「そうだな。別に時間がないわけではあるまい。話の続きは明日ということでいいな。私はこれから勤務があるから寝るんだったらそこのベットとソファーを使ってくれ。じゃ、お休み。良い夢を…」
それだけを言い残してクラムさんは去って行った。
「一真。起こしたくはないが起きてくれ、そしてそのままあのベットまでいって寝てくれ」
肩をゆすって起こすと案外簡単に目を覚ましてくれて、全く意味のない会話をしてベットに横になった。
「僕も寝よう。もう体が疲れ切ってる。このまま目をつむれば、簡単に…」
ブツブツと独り言を呟きながら僕の意識は夢の奥底へと落ちていく。
真っ黒、真っ白。
その狭間に僕は立っている。いや、立っているというより浮かんでいる。
最近見た夢が合成されたような物の中で僕は一つの光を見つけた。
光の中であるにもかかわらず、点々と光り続けるそれは、何か魅力的なものを感じた。
僕の体は勝手にその光の塊の方へといざなわれていく。
そして光の中でさらに光る物体の中に入った。
中は暖かくてなんだか元気になる。
その中で僕は見た。一人の人間を。
真っ白いローブを着ていて、さらに顔はフードをかぶっていた。
おかげで顔までは見ることはできなかった。何か今回のことに関係しているのだろうか。事あるたびに僕の前に現れるが、何が目的なんだろうか。それは今の僕にはわからない。
ろくに自分の周りのことも認識できない奴が、どうやってこれからのことを考えれるというのだ。
ろくに人の話を聞かなくて、周りと摩擦を起こすことしかできない奴がどうやって状況を打開できるというのだ。
そういう風に自分の頭の中で、自分が自分を痛めつける。そんなのおかしい。
なぜ自分の体の中で争わなければいけないのか。なにが理由でそんなに自分を傷つけるのか。
それさえも、そんな単純なことでさえ。
僕は理解することができなかった。




