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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第9話 旅立ち

プルがハイスライムへ進化してから。


五日が経った。


その五日間で。


ルークは一つ、はっきりと理解した。


進化の効果は。


想像していた以上に大きい。


「プル、左!」


「ぷる!」


森の中。


一匹のホーンラビットが地面を蹴った。


以前なら。


命懸けだった相手。


だが今は。


シュッ!


プルの身体が伸びる。


ホーンラビットが横へ跳ぶ。


その先へ。


二本目。


「ぷるっ!」


「キュッ!?」


脚へ巻きつく。


そのまま地面へ転がす。


「硬化!」


「ぷる!」


青い身体の先端が尖る。


一撃。


ホーンラビットは動かなくなった。


「よし」


ルークは周囲を確認する。


「次!」


「ぷる!」


それから一時間ほど。


討伐した魔物は四匹。


ホーンラビットが三匹。


フォレストラットが一匹。


五日前とは比べものにならない。


「本当に楽になったな……」


「ぷる!」


プルが得意げに跳ねる。


進化直後はLv1へ戻った。


しかし。


基礎能力そのものが大幅に上がっている。


そして。


【個体名:プル】


【種族:ハイスライム】


【Lv:3】


【スキル】


【吸収 Lv.2】


【変形 Lv.2】


【硬化 Lv.1】


すでにLv3まで戻っていた。


「この辺りじゃ、もうあんまり経験にならないか」


弱い魔物を倒しても。


レベルの上がり方が遅くなっている。


それだけではない。


ルークは進化情報を開いた。


【進化候補:8】


【キングスライム】


【条件:???】


【アーマースライム】


【条件:???】


【ポイズンスライム】


【条件:???】


そして。


【???】


【条件:???】


相変わらず。


ほとんど何も分からない。


「同じことを繰り返してても駄目ってことだよね」


「ぷる?」


「もっと色んな場所に行かないと」


森だけでは。


出会える魔物も。


手に入る素材も。


経験できることも限られている。


そして何より。


ルーク自身が。


見てみたくなっていた。


この森の外を。


前世では。


部屋の中で画面越しに世界を旅した。


雪山。


砂漠。


火山。


海。


遺跡。


そこに棲む無数の魔物を集め。


育て。


進化させた。


でも今は違う。


自分の足で行ける。


「プル」


「ぷる?」


「旅してみたい?」


「ぷる?」


プルには難しかったらしい。


「色んなところに行くんだ」


ルークは指差す。


「この森より、もっと遠く」


「ぷる」


「見たことない魔物もいる」


「ぷる!」


そこには反応した。


「僕と一緒に行く?」


「ぷる!」


即答。


ルークは笑った。


「じゃあ、決まりだね」


その日の夕食。


「僕、冒険者になりたい」


ガタン。


父の手から。


フォークが落ちた。


「…………」


母も止まった。


「…………」


沈黙。


「ぷる?」


テーブルの横にいたプルだけが。


いつも通り揺れている。


「ルーク」


父がゆっくり口を開いた。


「聞き間違いかもしれないから、もう一回言ってくれ」


「冒険者になりたい」


「聞き間違いじゃなかったか……」


父が頭を抱える。


「だから言ったでしょう」


母がため息をつく。


「この子、絶対に畑だけじゃ満足しないって」


「いや、でも魔物使いだぞ?」


「僕も魔物使いだけど」


「そういう意味じゃない」


父はプルを見る。


「まさかスライム一匹から、こんなことになるとは……」


「ぷる!」


「褒めてないぞ」


「ぷる?」


ルークは二人を見る。


「危険なのは分かってる」


「分かってない」


父が即答した。


「冒険者だった俺たちが言うんだから間違いない」


「…………」


「魔物に殺される奴もいる。盗賊に襲われる奴もいる。依頼先で事故に遭う奴だっている」


「うん」


「仲間が死ぬこともある」


父の声が低くなる。


「俺たちは運が良かっただけだ」


母も何も言わない。


二人とも。


実際に見てきたのだろう。


ルークの知らないものを。


「それでも行きたい」


ルークは答えた。


「強くなりたいから?」


「それもある」


でも。


それだけではない。


「僕は、もっと魔物を見たい」


「…………」


「先祖の本に書いてある魔物も。書いてない魔物も」


「…………」


「プルがどこまで進化できるのかも知りたい」


プルを見る。


「それに」


ルークは少し笑った。


「まだ出会ってない魔物が、世界中にいるんでしょ?」


その言葉に。


父が大きなため息をついた。


「……誰に似たんだ、本当に」


「あなたじゃない?」


母が言う。


「俺はここまでじゃない」


「若い頃、地図に載ってない洞窟を見つけたって三日帰ってこなかったでしょう」


「…………」


「崖から落ちたことも」


「それは言わなくていい」


「魔物の巣に入って逃げ回ったことも」


「エリナ」


「まだあるけど?」


「分かった。俺に似た」


父が認めた。


ルークは笑いを堪える。


やがて。


父が真剣な顔になる。


「条件がある」


「なに?」


「まず冒険者ギルドへ行け」


「うん」


「登録して、基本を覚えろ」


「うん」


「最初から遠くへ行くな。依頼を受けて経験を積め」


「分かった」


「それから」


父はルークを指差した。


「危ないと思ったら逃げろ」


「分かった」


「プルを置いて逃げるな」


「絶対にしない」


そこだけは。


迷わず答えた。


「ぷる!」


父はしばらくルークを見る。


そして。


「……なら、行ってこい」


ルークの目が大きくなる。


「いいの?」


「止めても行くだろ」


「たぶん」


「そこは否定しろ」


父が苦笑した。


母も。


少し寂しそうに笑っている。


「たまには帰ってきなさい」


「もちろん」


「それと」


「なに?」


「ちゃんと食べること」


「分かってる」


「怪我を隠さない」


「うん」


「知らない人についていかない」


「僕、十五歳だよ?」


「母さんにとっては関係ありません」


「…………はい」


翌朝。


ルークは荷物を背負っていた。


着替え。


水。


保存食。


薬草。


ロープ。


短剣。


父からもらった棒。


そして。


『魔物観察録』。


「全部持った?」


母が確認する。


「うん」


「お金は?」


「ある」


「薬草は?」


「入れた」


「着替えは?」


「入れた」


「本当に?」


「入れたって」


父が横から笑う。


「諦めろ。母親ってのはそういうもんだ」


「あなたも昨日、三回確認してたでしょう」


「…………」


父が目を逸らした。


「ぷる!」


足元では。


プルが元気に跳ねている。


「お前は気楽でいいな」


「ぷる?」


父がしゃがむ。


そして。


プルを軽く叩いた。


「ルークを頼むぞ」


「ぷる!」


プルが大きく跳ねた。


「逆じゃない?」


「お前より頑丈だろ」


「否定できない……」


ルークは家を見る。


十五年間。


暮らした家。


前世では。


外へ出ることすら怖かった時期があった。


人の視線が怖くて。


部屋に閉じこもって。


ゲームの中だけで冒険した。


でも。


今は。


隣にプルがいる。


帰る場所もある。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


「気をつけろよ」


ルークは歩き出した。


プルが横を跳ねる。


村の出口。


そこを越える。


たったそれだけ。


なのに。


世界が。


少し広くなった気がした。


目的地は。


村から半日ほどの場所にある町。


リーベル。


この辺りでは比較的大きな町で。


冒険者ギルドもある。


街道を歩く。


畑が減り。


森が遠ざかる。


商人の馬車とすれ違う。


旅人を見る。


ルークにとって。


どれも新鮮だった。


そして。


「見えてきた」


夕方前。


高い外壁。


大きな門。


その向こうには。


村とは比べものにならない数の建物。


「プル」


「ぷる?」


「町だよ」


「ぷる!」


リーベルへ入る。


人。


人。


人。


「すごいな……」


商店。


宿。


武器屋。


食堂。


そして。


人だけではない。


大きなトカゲを荷車につないでいる商人。


肩に鳥型の魔物を乗せた男。


犬に似た魔物を連れた女性。


「…………」


ルークの足が止まる。


「魔物使い……?」


村では。


ほとんど見ることがなかった。


「ぷる?」


「プル、見て」


「ぷる」


ルークの目が輝く。


「やっぱり外に出て正解だった」


冒険者ギルドは。


町の中央近くにあった。


大きな二階建て。


剣と盾を組み合わせた看板。


扉を開く。


ざわっ。


一気に音が押し寄せる。


鎧を着た男。


杖を持つ女。


大剣を背負った冒険者。


依頼書が貼られた大きな掲示板。


「…………」


ルークは立ち尽くした。


前世なら。


何度も見た光景。


ゲームの中で。


でも。


匂いがある。


音がある。


人がいる。


全部、本物だ。


「ぷる……」


プルがルークの足へ寄る。


人の多さが怖いのだろう。


「大丈夫」


ルークは小さく言った。


「僕も少し緊張してるから」


「ぷる」


一緒なら大丈夫。


そう思い。


受付へ向かう。


「すみません」


受付にいた女性が顔を上げる。


「はい。冒険者ギルドへようこそ」


笑顔。


そして。


ルークの足元を見る。


「そちらは従魔ですか?」


「はい。プルです」


「ぷる!」


受付嬢が少し笑った。


「可愛いですね」


「ハイスライムです」


「え?」


受付嬢がもう一度見る。


「……ハイスライム?」


「はい」


「ぷる!」


周囲にいた何人かも振り返る。


「ハイスライムって、もっと大きくなかったか?」


「色も少し違うような……」


「いや、個体差だろ」


小さな声。


ルークは首を傾げる。


やはり。


普通のハイスライムとは少し違うらしい。


受付嬢はすぐ仕事の顔へ戻った。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「冒険者登録をしたいです」


「かしこまりました」


受付嬢が一枚の用紙を取り出す。


「では、お名前と年齢。それから職業をお願いします」


「ルーク・フェルナー。十五歳です」


ペンを持つ。


そして。


「職業は【魔物使い】です」


受付嬢の手が。


一瞬止まった。


「……魔物使い?」


「はい」


「冒険者として登録されるんですか?」


「そのつもりです」


少し驚いた顔。


だが。


「分かりました」


すぐに用紙へ記入していく。


「それでは簡単な説明の後、登録を行います」


「お願いします」


こうして。


十五歳の魔物使いルークと。


最弱のスライムから進化したプルは。


初めて。


冒険者ギルドの門を叩いた。


そして。


この町で。


ルークは間もなく。


プルに続く二匹目の魔物と出会うことになる。


人間を。


決して信じようとしない。


一匹の傷ついた狼と。


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