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魔物使いの進化論 ~最弱スライムから始める神話級魔物育成~  作者: 庵


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第10話 傷ついた狼

「職業は【魔物使い】です」


ルークがそう告げると。


受付嬢は少し驚いた顔をした。


「魔物使いの方が冒険者登録をされるのは、珍しいですね」


「やっぱりそうなんですか?」


「ええ。登録できないわけではありませんが、戦闘にはあまり向かない職業ですから」


予想通りの反応だった。


魔物使いは。


魔物と契約し、使役する職業。


荷運び。


農作業。


牧畜。


警備。


そういった仕事では重宝される。


だが冒険者となると話は別だ。


契約できる魔物は、最初は弱い。


魔物を育てるには時間も金もかかる。


本人の戦闘能力も高くない。


わざわざ冒険者になる者は少ない。


「それでも登録しますか?」


「はい」


ルークは即答した。


受付嬢が少し笑う。


「分かりました」


登録そのものは簡単だった。


名前。


年齢。


職業。


出身地。


いくつかの項目を記入する。


最後に。


小さな金属製の札を渡された。


「こちらが冒険者証です」


ルークは受け取った。


【ルーク・フェルナー】


【冒険者ランク:F】


【職業:魔物使い】


「Fランク……」


「登録したばかりの方は全員Fランクからです」


依頼を達成する。


実績を積む。


それによってランクが上がる。


高ランクになれば。


より危険で。


報酬の高い依頼を受けられる。


「最初は採取や、町の近くにいる弱い魔物の討伐をおすすめします」


「分かりました」


「無理はしないでくださいね」


「はい」


受付嬢の視線がプルへ向く。


「特に、その子を危険な目に遭わせないように」


「ぷる!」


プルが元気に跳ねる。


ルークは苦笑した。


「たぶん僕より強いです」


「え?」


「なんでもないです」


ルークは依頼掲示板の前へ向かった。


「いっぱいあるな……」


薬草採取。


荷物運び。


畑を荒らす魔物の討伐。


町周辺の巡回。


その中で。


一枚の依頼書が目に入った。


【薬草採取】


【依頼内容:治療用薬草十束】


【採取場所:リーベル東部森林】


【推奨ランク:F】


「これにしよう」


「ぷる?」


「森なら慣れてるからね」


採取だけなら危険も少ない。


それに。


村の周辺とは違う森なら。


見たことのない魔物や素材に出会えるかもしれない。


「お願いします」


依頼書を受付へ持っていく。


手続きを済ませる。


こうして。


ルークの冒険者として最初の依頼が決まった。


リーベルを出て。


東へ一時間ほど。


目的の森へ到着した。


「同じ森でも、結構違うな」


「ぷる」


木々の種類。


生えている草。


地面の湿り気。


村の森とは微妙に違う。


ルークは『魔物観察録』を思い出しながら進む。


「薬草は……」


すぐに見つかった。


「これだ」


葉の形。


匂い。


間違いない。


必要なのは十束。


「採取だけなら簡単そうだね」


「ぷる!」


ルークが薬草を摘む。


プルはその横で跳ねている。


一束。


二束。


三束。


順調だった。


その途中。


ガサッ。


「ぷる!」


プルが反応した。


「魔物?」


ルークが棒を構える。


茂みから現れたのは。


ホーンラビット。


「また君か」


以前なら恐ろしかった相手。


今は。


「プル」


「ぷる!」


ホーンラビットが突進する。


「右!」


プルが避ける。


身体を伸ばす。


脚を絡め取る。


転倒。


そして。


「硬化!」


尖った身体。


一撃。


ホーンラビットは動かなくなった。


「…………」


本当に。


あっという間だった。


数日前。


あれほど苦戦した相手なのに。


「強くなったなあ」


「ぷる!」


プルが得意げに跳ねる。


「でも油断は駄目だからね」


「ぷる」


「もっと強い魔物もいるんだから」


「ぷる!」


本当に分かっているのかは怪しい。


その後も。


薬草を探しながら森を進んだ。


五束。


七束。


九束。


「あと一つ」


思っていたより早い。


これなら昼過ぎには町へ戻れる。


そう考えていた時。


「…………ん?」


ルークが止まった。


地面。


何かが落ちている。


「これ……」


矢だった。


折れている。


拾い上げる。


「誰かが戦った?」


周囲を見る。


草が踏み荒らされている。


木の幹には。


刃物でついたような傷。


そして。


少し先。


赤いものが見えた。


「血……?」


「ぷる……」


プルの様子が変わる。


身体を低くする。


警戒している。


「行ってみよう」


「ぷる」


血の跡を追う。


一滴。


二滴。


奥へ続いている。


「人の血かな……」


分からない。


しばらく進む。


やがて。


木々の向こうから声が聞こえた。


「くそっ!」


「逃がしたか?」


「深追いするな!」


「子供の方は?」


「見失った!」


ルークは足を止めた。


「人……?」


三人ほど。


冒険者らしい男たちが。


少し離れた場所にいる。


剣。


弓。


槍。


「親は仕留めたんだ。十分だろ」


「素材は?」


「後で回収する」


「子供も売れば多少にはなったんだがな」


「森の奥へ逃げたなら放っとけ。そのうち死ぬ」


笑い声。


ルークの表情が変わった。


「…………」


男たちは。


こちらには気づかず去っていく。


「ぷる……」


プルが小さく震えていた。


人間の冒険者。


その存在が。


過去の記憶を刺激したのかもしれない。


プルも。


冒険者に傷つけられ。


捨てられた。


「大丈夫」


ルークはしゃがむ。


「僕はここにいるよ」


「ぷる……」


少し待つ。


やがて。


プルの震えが収まった。


「今の話……」


親。


子供。


逃げた。


地面の血。


嫌な予感がする。


「行こう」


ルークは血の跡を追った。


森の奥へ進むほど。


血の量は減っていった。


「こっちに逃げたはず……」


ガサッ。


「!」


茂みが揺れる。


ルークが止まる。


「誰かいる?」


返事はない。


「…………」


一歩。


近づく。


「大丈夫。何もしないよ」


低い唸り声。


グルルルル……。


「魔物……」


プルがルークの前へ出る。


「ぷる……!」


「待って、プル」


ルークはゆっくり茂みを覗いた。


そこに。


一匹の狼がいた。


まだ小さい。


成体ではない。


若い狼型の魔物。


灰色の毛。


身体は血で汚れている。


後ろ脚には。


折れた矢が刺さっていた。


「…………」


ルークは息を呑んだ。


「この子……」


先ほどの冒険者たちが言っていた。


子供。


逃げた。


「君だったんだね」


グルルルル!


「っ!」


狼が牙を剥く。


傷ついている。


まともに立つことすらできない。


それでも。


目だけは死んでいなかった。


明確な敵意。


人間への。


強い憎しみ。


「ぷる!」


プルが前へ出る。


狼も反応する。


「グルル……」


「プル、攻撃しないで」


「ぷる?」


「この子は僕たちと戦いたいわけじゃない」


怖いのだ。


人間が。


当たり前だ。


目の前で。


親を殺されたのなら。


ルークは棒を地面へ置いた。


短剣も外す。


「ほら」


両手を見せる。


「何もしない」


グルルルル……。


警戒は解けない。


ルークが一歩近づく。


「グルァッ!」


狼が噛みつこうとする。


だが。


脚に力が入らない。


ドサッ。


地面へ倒れた。


「…………」


それでも。


ルークを睨んでいる。


近づけば。


間違いなく噛まれる。


「どうしよう……」


無理に治療することはできるかもしれない。


プルに押さえてもらう。


その間に矢を抜く。


でも。


それでは。


この狼にとって。


冒険者たちと何も変わらない。


人間が。


力で押さえつける。


「…………」


ルークは少し考えた。


そして。


その場へ座った。


「ぷる?」


「ここで待とう」


「ぷる?」


ルークは鞄を開く。


保存食。


干し肉を取り出す。


狼から少し離れた場所へ置いた。


「食べていいよ」


反応しない。


睨んでいる。


「僕は取らないから」


ルークはそれ以上近づかなかった。


「プル。こっち」


「ぷる」


プルもルークの横へ戻る。


時間が流れる。


十分。


二十分。


狼は動かない。


「…………」


三十分ほど経った頃。


狼の鼻が。


わずかに動いた。


干し肉の匂い。


だが。


ルークを見る。


警戒。


「食べていいよ」


ルークは目を逸らした。


さらに待つ。


やがて。


狼が。


ほんの少し身体を動かした。


ズルッ。


傷ついた脚を引きずる。


一歩。


また一歩。


干し肉へ。


「…………」


ルークは動かない。


狼が干し肉へ辿り着く。


匂いを嗅ぐ。


そして。


一口。


食べた。


「…………よし」


小さく呟く。


狼の耳が動く。


ルークは慌てて黙った。


「ぷる」


「プルも静かに」


「ぷる……」


狼は干し肉を食べ終えた。


それでも。


ルークへ近づいてはこない。


当然だ。


信頼なんて。


そんな簡単に得られるものではない。


「今日はこれでいい」


ルークは立ち上がった。


狼が警戒する。


「近づかないよ」


もう一つ。


干し肉を置く。


それから。


薬草。


包帯。


狼から少し離れた場所へ置いた。


使えるはずはない。


分かっている。


それでも。


何もせずにはいられなかった。


「明日また来る」


グルル……。


「嫌でも来るから」


「ぷる!」


「プル、それは言わなくていい」


ルークは苦笑する。


そして。


背を向けた。


数歩。


歩く。


振り返る。


狼は。


まだこちらを見ていた。


強い警戒。


憎しみ。


恐怖。


その奥に。


ほんの少しだけ。


迷いがあるように見えた。


町へ戻る途中。


「プル」


「ぷる?」


「明日も行こう」


「ぷる」


「あの子を助けたい」


「ぷる!」


プルが元気よく跳ねる。


もしかすると。


プルには分かるのかもしれない。


人間が怖い気持ちが。


自分も。


同じだったから。


ルークは知らない。


あの狼が。


やがて。


誰より冷静に戦場を見渡し。


数多の魔物を率いる存在になることを。


そして。


プルと並び。


ルークを最も長く支える一匹になることを。


この時はまだ。


誰も知らなかった。


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